封印されし覇皇
目の前に突如として現れた巨大な岩盤 《禁断〜封印されし覇皇龍〜》を前にしてアカシアは困惑していた。
しかし直感でその存在がいかにして恐ろしいものであるかは分かっていた。アークノアは意識があるうちに可能ならば倒せ、無理なら逃げろと言っていたが、彼が今どちらの状態なのかは分からなかった。
だがこのとき、突如としてその岩盤から大量のクリーチャーが出てきたのだ。奴らはアーク・イニシャルズと呼ばれる禁断の力に目覚めたアーク軍であった。
中には見知った顔であるアークロードの禁断化した姿、 《禁断の覇皇騎士 アークロード・オーバーロード》もそこにいた。
「...倒すしかないのか!」
仲間であるはずのアークノアとアーク軍。彼らを倒すのはアカシアにとっても辛いことであった。しかし彼らが理性を失い、ただただ破壊に導く存在であるならば倒さない手はなかった。
この世界を救った英雄を、穢してはいけないと彼は思ったからだ。
だがアカシアたった1人に禁断の力で強化されたアーク軍に立ち向かうのは無理があった。数の暴力で攻められればいくら彼が強かろうと倒し切るのは無理である。
そのままどんどん押されていく中、突如として空から攻撃から降り注いだ。
アカシアは上を見ると、そこには更に見知った顔がいたのだ。
「アカシアさん!あそこにアカシアさんがいるっピ!」
「じゃ、じゃあ本当にここが帝国だったんだっピか!?」
「ピッピ!コッコ!?なぜ君たちが!!」
「ロード、ここはお前に任せてもいいか」
「あぁ、任せろ。私のECOの力を見せるときだ!」
「アカシア様!」
「!!あなた達は!!」
「我々は貴方にお供します。何やら、尋常じゃない事態が起こっているのですね!」
ブリトア王国の騎華武龍達までここに駆けつけていたのだ。
彼らはアークノアとダークノアが合体したときの衝撃に勘付き、ここまでやってきたのだ。
場所が帝国の方向にあると分かると、そこにはアークノア達やかつて共に戦った仲間がいると知っていたからだ。
そうした想いが交差し、彼らはここに集まってきたのだ。
禁断の乱戦
駆けつけたのは、かつてアークノア達が出会ってきた仲間であった。それに加えて騎華武龍も現れ、アカシアはピンチを脱した。
しかし全員が今目の前の敵に絶句していた。今立ち向かおうとしている相手は彼ら全員が知る存在であり、その存在の影響で世界が滅びの道を辿ろうとしていたからだ。
「.....なにがあったアカシア」
「......アークノアさんが5つの文明の力、そしてもう1人の存在であるダークノアを取り込み一つになったんです」
「5つの文明を!?」
「それじゃあカリバーン様やジーク様は!?」
「...........」
知らぬ間に仲間が散っていた事実に彼ら...特にロードや騎華武龍の騎士達は深く悲しみに暮れていた。
しかしだからと言って立ち止まるわけにはいかなかった。今や彼らはこの世界にとって危険な存在なのだ。
「....お前達、覚悟を決めろ。かつての仲間であろうと、我々は戦わなければならない。何より友のためだ。彼の手でこの世界を滅ぼすことは絶対に防ぐのだ!」
アスタフ=グラフのその声で、全員が覚悟を決めた。そしてそれぞれの武器を握りしめ、禁断の力に目覚めたアーク軍に立ち向かう。
アーク軍はもはや彼らのことを覚えてはおらず、攻めてくるアカシア達に容赦なく攻撃を浴びせた。
禁断の力は膨張し、そして収縮する。それを繰り返すことであり得ないほどの力を発揮していた。全文明の力がまるで暴走するかのように脈動し、あらゆる存在を消し去ろうとしていた。
だがアカシア達も負けてはいなかった。彼らもまたあらゆる危機を乗り越えここに立っている。かつての冒険や戦いの日々が彼らをまた強くしていたのだ。
アークノア、ジーク、セイヴァー、カリバーン....。彼らにとっての大切な仲間が、今戦う強き意志を与えたと言っても過言ではない。
....だがそれは同時に大きな足枷ともなることであった。
仲間が駆けつけて優位に戦いを進めるアカシア達であったが、突如として禁断の岩盤が5つの光を放ったのだ。全員が身構え、攻撃に備える。
しかしその光は彼らではなく、彼らの目の前に降り注いだ。
そしてそこに現れたのは、アークノアの分身体....そうジーク、カリバーン、イヴァン、セイヴァー、アナザーであった。
彼らは禁断の力と覇皇の意思により、再び蘇ったのだ。
意思なき兵士との激突
禁断の力で蘇ったかつての仲間と敵。しかしそれらは全てアーク・イニシャルズの意思によって操られた 禁断の傀儡であった。
もはや意思なき兵士と化した彼らは、容赦なくアカシア達に襲いかかる。禁断の力で禍々しい見た目になりつつも、どこか面影を残す彼らを相手にアカシア達は、うまく戦えずにいた。意思をなくしているというのに、その戦い方までもがそっくりであった。
敵であったアナザーやイヴァン相手でも、彼らの元々の力が禁断によって魔改造され、さらに完全に連携の取れた攻撃を仕掛けてくることから決して楽な相手などではなかった。
そうこうしているうちに、禁断の力がどんどん世界に広まりつつあった。大地のエネルギーを吸い上げ、鼓動を鳴らし、完全なる復活を待っていた。
かつての思い出や絆、約束が彼らの最後の一手を遅らせ、鈍らせていた。助かるはずがない...そう分かっていたはずなのに、どうしても戦いを終わらせること...相手を殺すことができなかった。
絶望が渦巻く暗雲の中、仲間達が一人...また一人と倒れていく。どうしようもない気持ちが続く中、突如それは訪れた。
声が...聞こえたのだ。どこからか聞こえる声、耳を澄ますとその声はあろうことか禁断の鼓動から直接聞こえてきた。
その声はアークノアのものであった。彼もまた禁断の力に呑み込まれ、意思を失いつつあった。
しかしその残された最後の意思に賭けて、彼は戦う意思を失いつつあったアカシア達に語りかけていたのだ。
(どうか....彼らを解放してやってほしい。私という檻から、その魂を救ってやってくれ)
その言葉がその場にいる全員に届いた。彼らを殺すのではなく救うという言葉をアークノアは使った。全ての魂と再び一つになったアークノアだからこそ、分かった彼らの心情なのだろうか。
答えは分からない。だがアカシア達はその言葉をきっかけに、ついに覚悟を決めた。
かつての仲間、盟友、上司、強敵、宿敵...それらを全て殺すのではなく救うのだと。
瞬間、彼らの姿が進化した。それは覚悟の現れだろうか、それぞれが最も適する姿に変わることで、アカシア達は 新たな力を手に入れたのだ。
彼らの救済の戦いはこれからである。
その魂を救い出せ
ついに本格的に5体の禁断皇龍との戦いが始まった。彼らは生前持っていた能力と似た力を有している。故にアカシア達はそれぞれが因縁の深い相手と戦い、ピッピやコッコ、そして残った一部の兵士達はイヴァンとアナザーを相手にした。他にも禁断化したアーク軍もいるため、まさに総力戦といったものであった。
アスタフ=グラフは目の前にいるセイヴァーを前に、ただならぬ悲しみと怒りを覚えていた。
セイヴァーは生前、誰よりも優しく平和を信じ戦い続けるクリーチャーであった。そんな彼女が禁断の力によるものとはいえ、無理矢理蘇った挙句、彼女の意思に反した行動を続けさせられることに、彼は我慢ならなかった。
アスタフは星剣クロスギアを駆使して、セイヴァーと戦った。彼女の力は守りを生成しつつ破壊してその衝撃を周囲に当たり散らすという、生前とは似ても似つかない暴力的で破滅的なものになっていた。
しかし存外その力が強く彼も苦戦させられた。だが、それでもあの時から何もしなかったわけではない。彼はなんと自身をクロスギア化させたのだ。そして完全に制御可能となった 《覚星剣龍王アスタレッド=グラフノヴァ》に自身を装備させ、完全なる力を身につけた。その力はセイヴァーの力を完全に抑えることができるほど強くなっていた。
「.....お前がいたおかげで、私達の都市と仲間を守ることができた。....本当にありがとう」
そう言うと、アスタレッド=グラフノヴァはセイヴァーを斬り伏せ、打ち倒した。
ロードはかつての盟友、ジークと対峙する。より強化された 《ボルメテウス・エンペラー・クルーガー》と共に、苛烈な戦いを繰り広げていた。
しかし禁断の力で強化された上、意思なき戦闘の機械となった彼にもはや容赦などなかった。周囲を顧みない炎の剣を振り回し、ロードを追い詰めていく。
それでも彼は諦めない。彼の心と火文明を救った英雄を、このまま放置などできなかったからだ。
そのとき、彼はある秘策を繰り出した。なんと、彼自身がE・C・Dを繰り出したのだ。超次元を操る力をついに完璧に身につけた彼によって、エンペラー・クルーガーはついに100%の力を発揮するようになったのだ。
ジークの猛烈な炎に対抗するほどの局地的な氷の力は、ついに拮抗を破りジークに覆い被さった。
「....本当ならば、君の意思が残っている時にこれを見せたかった。さらばだ英雄、安らかに眠れ」
ロードとクルーガーは全ての力をその剣に込める。そしてそれを解き放ち、溢れ出した氷と炎の力で、ついにジークを打ち破った。
因縁の終着
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