7:地下広間~城

ミシェルは生徒達と別れ、メイドが逃げていった道を走る。が、チンタラ走っていては追いつかない。
所詮、人と人外には決定的な差異がある。それを埋めるには―――
ミシェルの背から二枚六対の羽根が生える。正確には百科全書から天使の羽を背中に喚んだのだが、その羽根で一気に道を駆け抜ける。
コウモリの言っていた通り、外の光が見えてきた――

メイト「はわわ~っ!誰か来ちゃいました~っ!!」
一方ミシェルが向かった通路は登り坂になっていて、進めば進むほど天井が高くなっている。
通路の一番奥で、銀の玉を眼にはめ込まれた竜の彫刻入りの扉が少し開いていた。
扉の向こうからは外の光が差し込んでいるが、ゆっくり開いているのでまだメイドは外に出ていない。
メイト「私はこれ以上遅刻するわけにはいかないんです~!ごめんなさ~いっ!!」
メイドが扉にしっかり捕まると、ミシェルの近くで罠が発動した。
まず重力が逆転し、地上にいる者は天井に向かって『落ちる』事になる。
その天井には巨大な刃が出現して扇風機のように回転し始め、飛んでいる犠牲者を吸い込みはじめた。
吸い込まれた者はミンチにされてしまうだろう。

ミシェ「うわっ」
ミシェルが光の近くまで行ったところで、何か罠が発動する。
天地がひっくり返ってそのまま天井に落とそうという罠だ。
普通なら真っ逆様でミンチになってしまうだろう。普通なら。が、ミシェルはお世辞にも普通とは言えないのである。
何しろ今は羽根が生えている。そんなトラップは痛くも痒くもない。
そのお陰で随分冷静な彼は扉の方をじっくりと見れた。扉にへばりついたメイドに人の一人も通れそうにない扉。
扉はゆっくり開いているから、通れるだけのスペースが開いたら全力で滑り込めばいい。
しかし今、重力のベクトルは逆転している。と言うことは、ミシェルから見て扉の上方に向かって飛べば
地面と激突する恐れがある。
(なら真上に飛んで扉の斜め下に突っ込めば扉から出れば上にいるって事だ)
扉はゆっくり、確実にスペースを広げつつある。ミシェルはここだというタイミングで上昇して扉の下方(普通に見たら上方)へと飛び込んだ。
ターロンに行き当たれば、ビンゴ。逃がすなり潰すなりして生徒に危害を及ばせないようにできる。
或いはメイドがターロンと無関係ならば急いで生徒達の元へ戻る必要がある。
離れていた隙に危険人物と遭遇するというのは、いかにも有りがちな話だ。

メイド「ふええ~っ!?な、なんでトラップが効かないんですか~っ!?」
罠をものともせずに突っ込んでくるミシェルに、メイドはとても驚いた。
地上にいても飛んでいても関係なく、侵入者を引き寄せミンチにしてきた罠があっさりこえられたのだ。
ミシェルの強さを見抜けなかったのがメイドの敗因と言えよう。
メイドは、飛んで扉の外に出ようとするミシェルの邪魔をしようとした。
しかし、手を離せば自分が天井に落ちてミンチになる状況ではうまく行かない。
結局ミシェルは扉の外に出て行ってしまった。
ミシェルが出て行くとすぐに、重力は元に戻り天井の回転刃も引っ込んでいく。

メイド「ふええ……」
ずりずりと扉から降りてきたメイドは、地面にぺたりと座り込んだ。
その目にはみるみる涙が貯まり始める。
メイド「呼び出しに遅刻した上に侵入者まで撃退できないなんて…これじゃ私、もの凄くポンコツですぅ!
 うわああぁぁぁあん!!」
メイドはわんわんと大声で鳴き始めた。
自分の横に、扉にはめられていた銀玉がゴトリと落ちたのも気づいていないようだ。

一方ミシェルが外に出ると、そこは鈍く金色に輝く大きな城の裏側だった。
だが城は、何者かの攻撃を受けたかのようにあちこち壊れている。
地面には、何体かの猫型や地下通路にいたメイドに似たゴーレムが大破して転がっている。
ターロンは近くにいないようだが、城の上方には強力な結界が張られているのがわかるかもしれない。
城の中に入りたいなら、一階の壁に開いた穴から入るしかないだろう。

門を突き抜けた先には雄大な城。というよりは城跡があった。
確かに華美かつ雄大なのだが所々傷んでおり、その姿は戦かクーデターの後を思わせる。
(ターロンってのは居なさそうだな………)
目当ての奴がいない場所には興味はない。が、それは中を見ないことには確信出来ない。
ゴーレムの残骸が散らばる地上に降り立ち、手頃な入口を見繕ってそこから侵入する。
(こういうトコだと玉座が定番か)
恐ろしい程に人気のない城をターロン目掛けてズイズイ走破していく。
かってを知らない城だから多少もたついているが、ミシェルは確実にフロアを見て行っている。
一通り見てターロンがいないのなら急いで戻る事にしよう。

城内を走るミシェルの行く手を、額に白い御札をつけたアイアンゴーレムが塞いだ。
そしてゴーレムの前に、瞬間移動したように、白いローブに白フード、白い杖を持ったターロンが現れる。
「始めましてミシェル先生、私はターロンと申します。今後ともよろしく」
そう言ってターロンは、深々とミシェルに一礼した。
「失礼ながら先生の活躍は、遠見の水晶玉で拝見させていただきました。
 ドラゴンを倒したあの魔法の威力、実に素晴らしいものでしたね。
 さて、本題をお話しましょう。
 魔法学園を騒がせた罪は幾重にもお詫びいたします。
 私は今後、2度と魔法学園に足を向けないことを約束しましょう。
 ムウ大陸の宝も全てミシェル先生にお譲りいたします」
深々と被ったフードの為に、話すターロンの顔を見ることは出来ない。
「ですから、私の罪を許して欲しいのです。
 生徒の皆さんが納得できないようなら、代わりとなる悪役を用意しましょう。
 悪役退治と宝探しの両方をすれば、きっと生徒の皆さんも満足すると思います。
 私と皆さんがお互い戦っても、双方何の益もありません。
 賢明な先生には、是非とも大人の対応をお願いいたします」
ミシェルはそれから、割とあちこち走りまわっている。体力もけっこう戻ってきたらしい。
と、そこで巨大なゴーレムが現れた。その額には―――
「始めましてミシェル先生、私はターロンと申します。今後ともよろしく」
と、そのゴーレムと共に自称今回のラスボスが現れた。もし本物であるならば、まさにノコノコというのが相応しいくらいだ。
ミシ「ああ、どうも。生徒から少しは話を訊いていますよ」
あくまで友好的にミシェルは話をするようだ。にこやかな表情で、柔らかい物腰で話ている。
ミシ「失礼ながら先生の活躍は、遠見の水晶玉で拝見させていただきました。
ドラゴンを倒したあの魔法の威力、実に素晴らしいものでしたね。
さて、本題をお話しましょう。
魔法学園を騒がせた罪は幾重にもお詫びいたします。
私は今後、2度と魔法学園に足を向けないことを約束しましょう。 ムウ大陸の宝も全てミシェル先生にお譲りいたします」
ミシェルは参ったな。といった顔で笑った。
やはり、宗教屋さんなんかそんなイメージなのか。というのが彼の頭によぎる。
ミシ「いやぁ、賢い。そこまで下手に出られたら責められないではないですか。」
そんな心中とは関係無しにミシェルは笑ったまま、ケロッとそう言ってのける。
ミシ「ですから、私の罪を許して欲しいのです。
生徒の皆さんが納得できないようなら、代わりとなる悪役を用意しましょう。
悪役退治と宝探しの両方をすれば、きっと生徒の皆さんも満足すると思います。
私と皆さんがお互い戦っても、双方何の益もありません。
賢明な先生には、是非とも大人の対応をお願いいたします」

どうやら話は終わりらしい。ならばとミシェルが今度は口を開く。
ミシ「で、アナタの本当の目的は何なんですか?まさか魔法学校にちょっかい出してビビるような人じゃないでしょうに
まさか噂に聞くように魔法使いによる帝国を築こうと?」
そして相手の反応を待たず、ダラダラとした喋りにはいる。
ミシ「そうであったとしても私は特に反対はしませんよ。今までに多くの魔法使いの国は滅んできましが
アナタの築こう国までもそうなるとは言えません。アナタが築こう国が上手く魔法使い達を治められるかもしれない。その事はいいのです。
ただ、ムー大陸についてアナタが異様にあっさりしているのが気にかかる。まさか私如きに臆するハズなどないでしょう
ならば、アナタがムー大陸での目的を果たした。と考えるのは予想としては悪くないでしょう?
ムーは滅んだ原因がよく解らない所だ。ですが、ここの惨状を見る限りでは魔法が関与した可能性が非常に高い
つまり私が言いたいのは、超強力な魔法具を手に入れたのでは?ということです」
強力な魔法具はその存在自体が幻と言われている。
錬金術の至宝賢者の石、不老不死の元たる聖杯。この二つが魔法具の頂点とされているが
それ、もしくはそれ以上の価値ある魔法具―ミシェルが当たりをつける限りでは武器の類―を手にれたのでは?
という疑問を抱いた訳だ。

魔法帝国の建設に反対しないと言ったミシェルの言葉に、ターロンは少し驚いたようだった。
だが驚きの色はすぐに消えて、後はミシェルの話を黙って聞き終える。

ター「随分と私の事を高く評価して下さっているようで光栄です。
 ですが、私も皆さんより先んじてはいますがムウの守りは堅く、まだ目的を達せてはいません。
 強力な魔道具の一部が地下墓地に存在する事は突き止めましたが、手に入れるなどとてもとても」
静かにかぶりを振ったターロンは、ミシェルの方を見る。
ター「ですがやはり先生は聡明な方だ。確かに私はムウ大陸自体にはあまり執着していません。
 …いいでしょう、ミシェル先生には特別にお伝えしましょう。
 私が手に入れたいもの、それはムウ大陸ではなくムウ大陸を『滅ぼしたもの』なのです。
 ムウ大陸を滅ぼした力をコントロールできれば、魔法帝国を築くのになんの障害も無くなることでしょう。
 ミシェル先生、あなたがいつまでも片田舎で教師をしているなど、魔法界の大きな損失です。
 魔法帝国の礎を築くために、ぜひ先生の力をお貸し下さい。
 無事魔法帝国を築けたときには、先生には最大の功労者として最高の見返りを約束いたしましょう」
ミシ「遠慮しておきましょう。私には過ぎた役だ」
続けてミシェルはこれで話は終わりとばかりにこう言った。
ミシ「互いに敵意がないならこれ以上話す事はないでしょうし、失礼しましょうかね」
さすがに、価値観の違いだけで人を責めるような青い時期をとうに越しているミシェルは、ターロンを敵と思わずここで別れる。
ター「ミシェル先生の大人の対応に感謝いたします。
 …どうやら、学園生徒のみなさんも地下通路を抜けてこられたようですね。
 生徒のみなさんにも、私に敵意がないことを伝えていただければ幸いです。
 では、私はこれで失礼いたします」
そう言うとターロンの姿はすぐに霧のように揺らぎ始め、やがて完全に消えてしまった。
従っていたアイアンゴーレムも通路の端に動き、彫像のように動かなくなる。

ターロンの目的は判った。しかしそれを止める義務はミシェルにない。
戦争を悪とは責められないし、今の国が全て正しいとも言い切れない。それに国や歴史に今のミシェルは価値観を見いだせないのだ。
血気盛んであった若き日の彼ならば、あるいは己が情熱と才気をそれに傾けていたのかもしれないが。
しかし、魔法は違う。それほどの強力な魔導具ならば見てみたい気もかなりしている。
ムーを滅ぼした魔導具。というのは伝承でも表現がマチマチでよく解らない存在だからだ。
神の雷が落ちてきた、大津波に洗われた、地面から灼熱の炎が吹き出した。憶えているだけでこれだけ記述に差があるのだ。
ミシ「…………地下墓地」
と感慨深そうに呟いてみたが、それってどこだ?
ただただ佇むばかりのミシェル
呟くミシェルの耳に、どこからともなくターロンの声が聞こえてきた。
ター「先生たちが来られた通路の先、巨大な縦穴の底が地下墓地に通じています。
 ですが盗掘を防ぐために何十もの仕掛けや魔物が配置されており、目的地にたどり着くのは至難の業でしょう。
 ミシェル先生が、無事魔道具を手にすることが出来る事をお祈りしておりますよ」
ターロンの声は、聞こえてきた時と同じように急に聞こえなくなった。




(20で〆)







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最終更新:2009年08月04日 23:24
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