気がつけば、そこは最初に集まっていた大広間。
目が痛くなるような金色の世界じゃなく、見慣れた日常の場所。
「帰って…きた?」
目が覚めたばかりのようにすっきりしない頭の上で、どかんと何かが爆発する。
慌てて頭上を見上げると、そこには割れたくす玉と『祝!優勝!』の垂れ幕が掲げられていた。
「「「優勝、おめでとうー!!!」」」
あたしたちの周りからも、同じ祝福の声が湧き上がる。
そうか。あたしたち、無事にリバースから帰ってこれたんだ。
「はい!そこどいて!邪魔邪魔!!」
「こちら、でいりぃ・ふぃじる突撃報道班です!優勝された
リリアーナさん!今の心境を一言!」
「ぎゃっ!?」
突然走り込んできた報道関係の連中に突き飛ばされ、あたしは危うくすっころびそうになる。
見れば、リバースにいたみんなをかき分けてリリアーナにマイクを突きつける連中の中に、ユリの姿が。
後で覚えてろよユリ!
とはいえ、みんなの意識が鍵を持ってるリリアーナに集中してる間はこちらも動きやすい。
あたしはしばらくキョロキョロした後、ロックの所に近寄ってこっそり話しかけた。
「ロック。実はさっきさ…見ちゃったんだよね。……エルザの事」
なんと言っていいか分からないけど、たぶんこれだけでロックには意味が通じるだろう。
詳しい事情は分からないけど、エルザとロックは元は1人だった。
そして、今はエルザとロックは1人に戻った。
あるべきものが、あるべき場所に、あるべき様に帰った。
それは正常で、喜ぶ事であっても悲しむ事じゃないはず。
だからこれは聞いてはいけない事かもしれない。
でも、あたしは聞かずにはいられなかった。
「一つだけ聞かせて。1人になれた事、心の底から、迷い無く、嬉しいって言える?」
エルザも1人に戻る事を望んでいたなら、きっと肯定の返事が帰ってくるに違いない。
237 名前: ◆9DoC6dU6XQ [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 16:13:00 O
「うふふふ、リリアーナ、恥ずかしがらなくったっていいのよ?
分かっていてよ、分かっていてよ!
プレゼントは私がちゃあんと貰ってあげるから。うふ、うふふふ」
「ちょっと何してくれちゃってるのさ!今は優勝者インタビューの真っ最中なのにぃ!」
リリアーナに変な悲鳴をださせたテツコに、ユリが抗議の声を上げた。
周囲もそうだそうだと賛同するが、媚薬効果に考えを支配されているテツコは聞く耳を持たない。
「・・・・あら?あなた確かユリとか言ったかしら?私のリリアーナに何かご用かしら?」
報道陣の事など眼中に無いようなテツコの言葉に、場の空気が凍り付く。
優勝者インタビューをできるのは、報道関係者の中でも選ばれたものだけであり。
選ばれたチームはリバースに入らずに、この時をじっと待っていたのだ。
その晴れ舞台を邪魔されて、はいそうですかと引き下がれるはずがない。
「むむむっ!!これは!知る権利に対する挑戦だね!」
緊張が走る中、ユリは素早く間合いを取り、テツコにファイティングポーズを取った。
「私は誰の挑戦でも受ける!かかってきなさい!」
「わーん!いい加減みんな正気に戻ってよ~!!」
リリアーナの願いも届かぬまま2人が激突しそうになった時、大広間に朝日が射し込んできた。
「く、詳しいお話についてはミルクを通すか、マオマオから聞いてくださーい!」
朝日が媚薬の被害者を止め、リリアーナの言葉が報道関係者を止める。
「ミルクはどこにいるの!?」
「マオを探せ!まだ近くにいるはずだ!」
目ざとい何人かがマオを見つけ、走り寄ってマイクを向けた。
「マオさん!トップクラスの成績のあなたが、今回リリアーナさんのサポートに回った理由をお聞かせください!」
238 名前: ミルク ◆9DoC6dU6XQ [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 16:15:11 O
232 >235
「その前に聞かせてくれ。俺は今でもお前の友達か?」
「…いきなり何を。それはもちろん友達だけど」
質問の意図がつかめないまま返事すると、ロックは心底嬉しそうに言った。
「だったら、俺は嬉しいって言えるぜ!」
「そっか…。うん。そうだよね」
エルザとは友達になれた。
ロックとも友達になれた。
その2人が1人に戻ったのに、何か不都合があるだろうか?
「ロック。エルザ。これからもよろしく。あたしたちはずっと友達だよ」
「ロック!ねえロックったら!」
人混みをかき分けて、リリアーナがこちらに駆け寄ってきた。
何か大事な用事があるのか、急いでいる上に表情が堅い。
「ねえロック、あなたエルザの体を見かけなかった?」
「見たぜ。」
ロックはすぐに答えたけど、あたしにはリリアーナがなぜ急いでいるのか分からない。
ロックと合体した時に体も1つになったんじゃなかったのか?
「リリアーナ、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
ロックはそう言って、例の巾着袋を開けて、中をあたしとリリアーナに見せてくれる。
「どれどれ、何が入ってるのかな?……うわっ!可愛い!」
それは、10cm程のエルザ人形だった。
元々人形のような顔立ちだったので、こうしてみると最初から人形だったように見える。
「たぶん、ヘレンがした事だろうな。ヘレン!おい、ヘレン!」
ロックは呼びかけるけど、答えるものはいない。
しばらく会わないような事を言ってたから、旅にでも出たんだろうか。
「アンジェリーナもどこかへ行ってしまったな。」
「アンジェリーナ先生か…。ひどい対応しちゃったし、悪かったかな。
でも、先生ももう少しあたしたちを信頼して接してくれたら、冗談を聞く余裕もあったのに」
とそこまで言って、あたしは大事な事に思い至った。
せっかく愛する2人が一緒にいるのに、あたしってものすごくお邪魔虫じゃないか!?
「あ、そうだ!あたしユリからチョコ事件の報酬もらわなきゃいけないんだ!
じゃそういう事だから、あたしはもう行くね!また後で!」
少し芝居がかってはいたけど、適当な口実を見つけてあたしは2人と別れた。
(しっかりがんばってね)とリリアーナの耳元でささやいてから。
…何をがんばるのかは、言ったあたしにも分からなかったけど。
「あ!ミルク発見!今回のリリアーナの優勝について、一言コメントをどうぞ!」
探してたユリは、自分からやって来た。
あたしは差し出されたマイクを無視し、ユリの手をひっ掴んで引っ張っていく。
「ええっ!?ち、ちょっとミルク!コメントくれないの!?」
「うっさい!今回はあんたのせいで本当に大変だったんだからな!
コメントが欲しけりゃ先に金払ってからにしろ!
危険手当は倍額請求できるし、ガセ情報だったからその線でもふんだくれるよな!
あー!全部でいくらになるのか楽しみ楽しみ!!」
「はいー!?なんだそれ!ありえなぁい!」
もう何度目か分からなくなったやり取りを交わしながら、あたしとユリは自室に戻っていった。
250 名前: ミルク ◆9DoC6dU6XQ [sage] 投稿日: 2008/10/19(日) 17:40:48 O
「塩?塩って、あの料理なんかに使う塩?」
「そう。海水から取れるしょっぱい塩。
厳密に言うとちょっと違うけど」
リバースでのイベントが終わった次の日。
あたしは自室でシーリから、巾着袋に入っていた謎の物体の鑑定結果を聞いていた。
いつもシーリと一緒の相棒アイは、この部屋には来ていない。
応援しているスポーツチームが歴史的大敗で優勝できなかったショックで、閉じこもってるんだとか。
ユリもアルナワーズからお茶会に誘われて、嬉々として出かけていったので、今この部屋にいるのは2人だけだ。
「いろいろ調べたんだけど、成分的には、それはかなり塩に近い物質だわ。
ただし、負のエネルギー…強力なアンデッドの類が持つ力を放っているの。
リバースの優勝商品は、当人の希望に近い物が多く出てるみたいだけど、心当たりはない?」
「心当たりねえ…あるような、ないような」
強力なアンデッドと言われても、地下図書館で戦った死王様しか浮かびません。
でもあたし、死王様とお近づきになりたい、なんて思ったことないんだけどなぁ。
気づいていないだけで、実は心の奥底にそんな願望があったんだろうか。
例えば借金の取り立てを手伝って欲しかったとか。
「それより肝心な話を聞いてないんだけど。これは高く売れるの?売れないの?」
「出る所に出れば高く売れるでしょうね。
塩は錬金術の素材になるし、こんな特殊な効果を出す塩なら欲しい人はいると思う。
本音を言えば私が実験用に欲しいくらいなんだから」
「じゃあ買う?」
「どうせ友達特価でも買えないような品物だし、諦めてる」
「ふーん。こんな塩がねぇ…」
巾着袋の中で、死王の塩はあたしの手の動きに合わせて、さらさらと形を変える。
こうして見ると、本当に塩というより砂みたいだ。
「もっと食いついてくると思ってたのに、反応が薄いわね。
一応忠告しておくけど、負のエネルギーを持つアイテムは、闇の魔法に使用することが多いわ。
後味の悪い思いをしたくなかったら、売る相手には十分気をつける事ね」
話は終わったという感じで、シーリは立ち上がってドアに歩いていく。
251 名前: ミルク ◆9DoC6dU6XQ [sage] 投稿日: 2008/10/19(日) 17:41:59 O
「ちょっと待ってよシーリ。鑑定のお礼にハンバーガーでもおごるよ。
さっき教頭先生に貸してた金を取り立ててきたから、利子が入ったんだ」
「呆れた。教頭先生から利子を取ってきたの?
ミルクは魔法使いより金貸しの方が向いてるんじゃない?
きっと五年もあれば、メガロシティの一等地に豪邸が建てられるわよ」
そう言ってシーリは、少し考える仕草を見せる。
「いいわ。実験の続きも気になるけど、ミルクにおごってもらう機会なんて二度と無いかもしれないからね。
ハンバーガーでも許してあげる」
「それはどうも。…あ。もう1つお礼に渡せそうな物があったっけ」
あたしはそう言って、リバースから持ち帰れたもう1つの物を取り出した。
「これ、ベアトリーチェチョコのなれの果て。
本当はもっと大きかったけど、机の上に置いといたらユリに半分食べられちゃって……」
「ベアトリーチェチョコ!?持ち帰れたの!?」
思っていたより壮絶な食いつきを見せて、シーリはあたしの手からチョコを奪い取った。
「ユリが食べたって言ってたわね!ユリの体に変化は無かった!?
舌が蛇に変化して噛みつきに来たとか!!」
「いや。そうなってたら、お茶会じゃなくて保健室に行かせてたけど…」
「こうしちゃいられないわ!すぐに帰って成分変化を調べないと!
それから前に集めたデータと照らし合わせて……!!」
凄いスピードでシーリが部屋を取びだしていったので、続きはきちんと聞き取れなかった。
…とりあえず、ハンバーガーはおごらずに済んだから良しとしておくか。
静かになった所で、あたしはもう一度死王の塩に目を落とした。
ある程度当人の願う物が入っていた巾着袋。
あたしは。本当は何を願っていたんだろうか。
一週間後、あたしの机の上には砂時計ならぬ塩時計が飾られていた。
造った先生が、出来映えを自慢するほどの一品に仕上がったらしいけど、さすがはマジックアイテム。
アイテム効果と一緒に請求書の値段も予想を一桁越えていた。
おかげでユリからもらった報酬にまだ上乗せして払う羽目になったけど、自分で頼んだんだからしょうがない。
魔力を込めなきゃただの砂時計なので、普段は即席麺が出来上がる時間を計るのに重宝している。
それでも、これはあたしにとって大事な死王様の塩時計。
これを見る時はいつも、リバースでの出来事や仲間の顔を思い出せるから。
フィジル島から旅立っていった、大事な友達の事と一緒に。
【追記】
時計を三分ぴったりにすると塩が少し余ったので、残りは欲しがっていたユリにあげた。
お腹が空いていたらしく、早速オニギリを作って美味しい美味しいと食べていた。
どうやら死王の塩は高級食材になるらしい。
最終更新:2008年10月24日 22:25