人がごった返す廊下を、大きなトレイを持った少女が歩いていた。
通りすがりの生徒が彼女の後ろ姿を見てギョッとした後、笑いをかみ殺すかくすくす笑っている。
というのも彼女の背中には、
「美味しい紅茶とケーキの店、猫耳メイド喫茶は薬草学科2階にて絶賛営業中!!」
という文字が躍っていたからだ。
周りの反応に気づき、少女は居心地悪そうな顔で自分の姿を見下ろした。
彼女は濃紺のワンピースに、フリルのついた白いエプロンドレスをつけている。
同じく白いフリルの付いたカチューシャからは、黒い猫耳が生えていた。
(やっぱり似合ってないのかなあ?)
だったらこの姿を、『彼』に見られなくて良かったかもしれない。
大きなトレイを抱えた少女は、ずり落ちそうな腕章をなおすと一つため息をついた。
この猫耳メイドは、名を
リリアーナという。
通りすがりの友達に何をしているのかと聞かれ
「今からターナー先生のところにティーカップを下げに行くの。」と答えた。
「もしも暇なら一緒に行かない?」
リリアーナは悪戯っぽく微笑むと、軽く相手に手招きをした。
10
「おい、そこの案内役。」
「はい?」
反射的に振り返ったリリアーナは、相手の人物を見て思わず絶句した。
絶句したのは、何も彼女が異国の服や長い槍を持っているからではない。
彼女が転入生か新入生だと示すリボンが・・・その・・・股間に付けられているからだ。
「俺の名前を言ってみろ。」
「えと・・・・・・あの・・・・・・」
確か中つ国からの転入生だった筈だ。
だが焦っているためか、夢の中で聞いた名前を咄嗟に思い出すことが出来ない。
リリアーナは仕方なく、名前を確認するため相手の股間を凝視しなければならなかった。
「れ・・・れべっか・うぉん―――― レベッカ・ウォンさんね?」
リリアーナは姿勢を元に戻すと、恥ずかしさを誤魔化すようにレベッカに右手を差し出した。
「初めまして、私はリリアーナです。今回転入生のエスコート役をおおせつかっています。
レベッカさん、どこか行ってみたい場所はありますか?」
そう言って握手を求めた後、リリアーナは少し逡巡した後小声でこう付け加える。
「あの・・・中つ国ではそういう場所にリボンをつける習慣があるの?
こっちでは普通胸につけるんだけど・・・その・・・座った時とかに外れて刺さったら危なくない?」
最終更新:2008年10月28日 10:16