アル「あらぁん、丁度いいわぁん。あそこに行きましょう?」
暫くミルクに押されていたが、校舎隅に立つ建物を見てアルナワーズは率先して歩き出した。
ミル「え?あそこ?」
(向かう先は学園附属博物館。)
(古今東西の歴史、史料が収められている図書館と並ぶ智の宝庫。 )
(ゲリライベントでも開かれてない限り、博物館でのイベント予定は無しだ。)
その先にあるのは学園付属博物館。
博物館に入ると中は明るく整理されているのだが、気のせいか温度が1.2度低く感じる。
空間操作されている為、外見とはまったく別の広大な展示室が広がっている。
(思った通り、博物館の中はほとんど無人だった。 )
(展示物は相変わらずの玉石混淆のカオスっぷり。 )
(強力な魔道具と、その辺で掘り出してきたような土器が一緒に展示されてるのは、いつ見ても理解できない。 )
アル「流石は博物館、いい品が揃っているわぁん。
ねえ、ミルク・アロマーピロー?
私、乗騎を持っていないから空を飛べないのよねぇん。
なにか私に相応しいものはないかしらぁん?」
ミル「あたしの名前はミルク・パウダーシュガーだっての…
最初ちゃんと言えてたんだから、それくらい覚えておいてよ…」
(だいたい乗騎ってなんだ乗騎って。そんなのあたしだって持ってないぞ。 )
ミル「あ。ふさわしい乗騎といえば、アルナワーズにぴったりのものがあったっけ。
ほら、案内したげるからついてきてよ」
ミル「…あったあった。これなんかいいんじゃない?」
アル「あ~れ~!こ、これは~!!」
(それは、金色に輝く馬の像に引かれた金色の車。
車は別にケースに入れられているわけでもなく、誰もが乗って触れるように公開されている。
この車は金ではなく、オリハルコンだかヒヒイロカネだかの魔法金属で出来ている。)
ミル「この世界のどこかに昔ムウ大陸って所があってね。
この車は、その国の王様が使って空を飛んでた車。
どうも車自体が意志を持ってるみたいで、車に認められた者が乗らなきゃ1ミリも動かないんだってさ」
(この博物館に車を持ち込んだのは学園長だ。
それも動かすというより空間移動で直接持ち込んだようで、現状見せ物以外には漬け物石にも使えない役立たず。
今回来たのは単に、乗れなくて悔しがる自称王様を見たいだけだけどね。 )
ミル「ま、でもいくらアルナワーズでも、さすがに王様の資格なんて無理だよねぇ。
あっちに魔導工学科の生徒が作った飛行アイテムが展示されてるから、それを借りていこう。
あれならだれでも乗れてそこそこ快適だから」
アル「まってぇん。町娘のアルナワーズじゃ無理だと思うけどぉん、物は試しじゃない?」
ミル「そりゃ試すだけなら無料だからねぇ。時間もたっぷりある事だし、一度試してみようか」
(魔道工学科展示室にいくふりをしたミルクの手首をがっしりと掴み、そのまま黄金の戦車に乗り込んだ。
手綱を手に取り引いてみるがびくとも動かない。)
アル「・・・・?」
アル「・・・仕方がないわねぇん。ミルク、驚かないでぇん。」
ミル「いっ!?ちょっといきなり何を!?」
覚悟を決したように偽アルナワーズは自分のあごに手を当て、己の顔を剥いでいった。
そして完全に顔を剥ぎ終わった時、アルナワーズの姿は消え、代わりにスクナが現われた。
(以降アル→スクナ)
スク「ふははは!驚かして済まぬな。アルナワーズとは世を欺く仮の姿!
余はスクナ・ヒダノゴウ!砂漠の王である!」
スク「やはり偽りの姿ではイカンな。
王の真なる雄姿を間近で見られることを光栄に思うがいい!
ゆくぞ!はいやああ!」
(高らかに宣言した後、スクナは手綱を引き絞る! が・・・やはり黄金の戦車は動きはしない)
ミル(こいつ幻術を解いたのは、それで車が動くと思ったからだったのか…
アホの子だ。しかもただのアホじゃなくてユリ並みのアホの子だ。 )
スク「うぬううう!このジャジャ馬め!王たる余に応えい!!」
(うりゃ!そりゃ!と掛け声をかけながら格闘するスクナの懐から一冊の本が零れ落ちた。)
ミル「ねえ。何か落としたわよ」
(それは手垢にまみれ、随分と年季の入った絵本だった。 )
スク「ぜーぜー・・・ん?それは、余の王たるを証明する文献ぢゃ。
ほれ、それに出てくる瓶詰め砂漠がこれぢゃ。」
数分間手綱と格闘した後、荒い息をしながら本を落としたことに気付いたスクナがミルクに説明する。
スクナの故郷、ヒダノゴウに伝わる民間伝承。
それは単なる-
ヒダノゴウの御伽噺 だが、雪解け水と共に流れてきた瓶詰め砂漠を拾ったことからスクナは自分が王の末裔であると思い込むようになったのだ。
ミル「ふーんどれどれ。…うわ、すご……」
指差す瓶詰め砂漠は良く見るとただ砂が詰まっているだけでなく、小さな宮殿のようなものもあり、太陽もあった。
しかし、【王の資格が無いと動かない黄金の戦車】に乗ってピクリトも動かないのであれば、それはスクナが王で無いと証明することになる。
内心かなり焦っていたスクナだが、今の言葉に閃いた!
スク「さー、練習は終わりだ!そろそろ本気で行くぞおお!」
ミル「え?練習っていやあんた…」
(流石に最初から本気全開だっただろとも言えず口ごもっていると、スクナは砂漠入りの瓶に手をかける。)
(スクナはそっと腰の瓶詰め砂漠の蓋に手を当てた。途端に辺りに砂混じりの熱風が吹き荒れる)
瓶詰め砂漠には砂漠が一つ丸ごと入っている。
スクナはその蓋を僅かに緩める事により、砂漠の自然現象を利用できるのだ。
そう、つまりは、砂嵐を呼び出してその力で黄金の戦車を吹き飛ばし動かそうと言うのだった!
熱風はあたりに広がり渦を巻き吹き荒れる!
しかし、それでも黄金の戦車は動かない。
ミル「ぎゃーっ!!い、いきなりなにしてくれんのよあんたはーっ!?」
(床の上にもケースの上にも砂がたまっていく。
きちんと固定していなかったらしい壷や掛け軸が、空を飛んで壁に叩きつけられる。 )
スク「ぬああああ!う・ご・け・ええええええ!!!」
砂嵐となった熱風で視界が遮られる中、スクナの叫びが響く!
そしてそれは起こった。
砂嵐に吹き飛ばされたわけではない。
突如として黄金の馬が首を上げ、嘶きと共に力強く足を踏み出したのだ!
ミル「今度はいったい何をしたーっ!?」
黄金の馬は戦車を引き空中を駆け、博物館の中を縦横に駆け回る。
そして急上昇をして、屋根を打ち破って大空へと飛び出した!
ミル「う、うそ…本当に飛んでる…?」
スク「わはははは!見よ!ミルク!余の雄姿を!!」
大空で手綱を握りながら隣にいるミルクに笑いかけるスクナ。
古代魔法金属で出来ている馬や戦車は屋根を打ち破っても傷一つつかないが、戦車の上で仁王立ちしていたスクナはそうは行かない。
頭から血を噴出していたが、とても幸せそうだった。
学園祭を楽しむ人々が空を見れば気付くだろう。
陽光に煌く黄金の戦車が砂塵の上を翔る様に空を飛んでいる事に。
そう、スクナの引き起こした砂嵐を足場にして黄金の戦車は空を飛んでいるのだ。
(78で〆)
最終更新:2008年11月10日 12:24