Jの総て あと語り

  今回取り上げた作品は中村明日美子先生の『Jの総て』
 1950年代のアメリカ、マリリンモンローに憧れる『少年J』、
 父親との初体験という衝撃的な第1話から始まり、
 彼がどのような生涯をおくっていくのか、
 を中村明日美子の繊細かつ淫らな筆致で描いた全3巻の作品。

  直球にエロい表現が多用される作品ではありますが、
 俗にいう「エロマンガ」とは違って、
 あくまでも描きたいのは「少年J」の人生模様なんです。
  そして、その過程を描くには「エロ表現」が必要になってくる。
 男性でありながら、女性の心を持った「トランスジェンダー」な「少年J」は
 自己の性に振り回されながらいろいろな男、そして、女と身体を重ねていきます。
  そこをぼやかすこと無く、直接的に表現しているので、
 性的な描写が作品の中においてかなりの存在感を持って現れてくる。

  ただ、この作品の「エロさ」は直接的な性表現だけではないんです。

  中村明日美子先生の描く「線」は、作品の世界全てを
 独特な「エロの世界」へと誘う魔法の「線」なのです。
 性描写の強いシーン以外におけるキャラの描かれ方もまた、
 間接的な性表現として読者の心をくすぐります。

  顔の輪郭、表情や目線、身体のライン、身体の部位…
 どれをとっても写実的な表現ではなく、
 マンガ的な誇張表現によって彼女独特の「エロの世界」の住人として描かれています。
 なので、彼女の描くキャラ達は日常素描の段階においてもとても妖艶です。

  直接的な性表現のシーンに負けないくらいに、
 今作のキャラ達のさりげない日常の仕草は妖艶で、
 その何気ない行為、動作の裏にあるエロスを感じずにはいられない。

  そんな雰囲気の作品でした。

  かつ、今作は一人の少年の数奇な人生を描いていく物語としても
 完成度の高い作品として仕上がっていると思いました。
  過去のトラウマから淫らな行為に取り憑かれ、
 自身の性的な魅力で周囲の人間を狂わせてしまう「少年J」。

  そして、主人公「少年J」の周りには、
 当時のアメリカという社会の中で生きる人々が
 とても活き活きと描かれています。
  ただ、あくまで物語の中心を「少年J」にしぼり、
 他のキャラのエピソードを上手く端折っていく事で、物語全体がすっきりと整理され、
 自身の性に振り回されながらも必死で自分の居場所を探し、
 幸せになろうとする「少年J」の生き様が、
 全3巻という短い中に上手く凝縮されている様に思います。


  今作はその絵が持っている淫らなルックと、
 内容として描こうとしている「トランスジェンダーの少年の人生譚」という
 強い物語によって、強烈な印象と、それでも最後には報われる
 「少年J」の幸せな物語としての幸福な読後感を持っています。

  見た目のエロさに惹かれるもよし、
 内容の濃さに唸るも良し、
 今回も面白い作品に出会うことが出来ました。


  当日の「本語り」では、
 今作のジャンル分けについての議論や、
 「エロい線」について実際に画像を引き合いに出しての解説など、
 ここでは語りきれなかった作品の魅力にも触れられています。
 是非、トゥギャッターのまとめも御覧ください。

                                                  2014/10/3 by utarou

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最終更新:2014年10月07日 11:14