しゃにむにGO あと語り
今回取り上げた作品は羅川真里茂先生の「しゃにむにGO」、
高校の硬式テニス部を舞台に、インターハイ優勝を目指していく物語でした。
羅川真里茂作品は2012年9月に取り上げた「ニューヨーク・ニューヨーク」以来の2作品目。
「ニューヨーク〜」の時にも感じましたが、羅川真里茂作品は物語の転がし方がとても秀逸で、
メインキャラ二人のドラマを付かず離れずの距離感で展開させつつ、
脇キャラのエピソードを巧みに絡めて来るそのコントロールされた手腕には舌を巻きました。
中学時代は陸上のスター選手であったにも関わらず、
高校入学と同時に一目惚れした女の子を追いかけて陸上からテニスに乗り換え、
テニス初心者にも関わらず、持ち前の体力と運動センスと恋の力(?)で
メキメキと上達していく天真爛漫な男「伊出」
海外でプロとして活躍していたフランス人の母のDNAを受け継ぎ、
生まれながらの天才的なテニスセンスを持ちながら、
メンタル面での弱点をなかなか克服する事が出来ずに苦しみ続ける「滝田」
二人の主人公はテニスというスポーツの光と影を表しているようでした。
読者はテニス初心者の「伊出」の目を通してテニスという競技のルールや知識を身につけながら、
徐々にテニスの魅力に取りつかれていく感覚を追体験し、
テニスの事がわかってくる程に「滝田」の苦しみに共感していく。
そして、「伊出」の後押しによって「滝田」は自ら苦しみを乗り越え、
二人の主人公は徐々に目標へ向かって上り詰めていきます。
そんな「才能」や「センス」にあふれた主人公二人が、
より高みを目指すために苦悩し、
それに打ち勝って喜びに酔いしれる描写は実にドラマチックで魅力的でした。
しかし、その回りにいるある意味「凡庸な人たち」もまた、
それぞれが自身の限界を越えようと足掻き、
その結果何かを手にする様もしっかりと魅力的に描かれています。
今作では、才能を持たない者にも、
あるいは才能や可能性を不幸な運命によって奪われてしまった者にも、
等しく光を当て、
それぞれの頑張りが何かしらの形で報われていく救いもしっかりと提示されています。
羅川真里茂先生のキャラへの愛、作品への愛がひしひしと伝わってくる作品でした。
2014/11/6 by utarou
最終更新:2014年11月07日 22:57