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風を切る感覚 - (2008/08/10 (日) 17:37:58) のソース

**風を切る感覚 ◆1qmjaShGfE


タバサが走り、服部平次がその後を追う。 
そんな図式はほんの一分程で、すぐに平次がタバサを追い抜く。 
身長というか、コンパスの差であろう。 
出来れば二手に分かれて追いかけたい平次であったが、まさかタバサのような少女を一人にする事も出来ない。 
そんなこんなで二人で走り続けて十分程度。 
二人は荒くなった息を、並んで座って整えていた。 
「まいったな、案外逃げ足速いであの女」 
デイバックの中から取り出したペットボトルのお茶を飲みながら、平次はそうぼやく。 
タバサは平次のペースに合わせて走っていたせいか、流石にまだ呼吸が整わない。 
平次はそんなタバサにペットボトルを差し出す。 
「飲むか?」 
タバサは首を横に振る。 
平次は肩をすくめるとタバサの呼吸が整うのを待った。 
既に女を見失ってからかなりの時間が経っている。平次は彼女を追いかけるのはとうに諦めていた。 
地図を取り出して今後の方針を考える。 
そして隣に座るタバサの呼吸が落ち着く頃には、とりあえずの行動指針のようなものは立っていた。 
「タバサ、俺らの今後の行動なんやけどな。自分、何か考えとかあるか?」 
「……キュルケを捜す」 
「なんや知り合いおるんか?」 
コクンと頷く。 
「さよか、俺にも知り合いおってな。江戸川コナン、灰原哀、毛利小五郎の三人や。無条件に信用出来る連中やからなるたけ早めに合流したい所やな」 
タバサは少し考えた後、付け加える。 
「サイト、ルイズの二人も……信用出来ると、思う」 
「8/60か、残りの52人がどないな連中か次第やな。なあタバサ、俺なりに現状を整理してみたんやけど聞いてくれるか?」 
タバサが頷くと、平次は言葉を選びながら話し始めた。 
「まずや、あの爺さんの話やと、俺達は殺し合いをする為にここに集められたって事らしいけど、実はそこに大した強制力はあらへん」 
無表情のタバサ、驚きのリアクションを期待していた平次は少しアテが外れたが、話を続ける。 
「首輪のせいで俺ら逃げられへんようになってる、多分この地図の外に出たらアカンって事やろうけど、それ以外やとあの爺さんの意思次第で爆発するってだけや。そこに殺し合いをしなければならない必然性は少ない」 
やはり無表情のタバサ。平次は彼女が既にそれを考えていたのか、それとも単にそういう性質なのか判断しかねた。 
「もし本気で殺し合いさせる気やったら、俺なら時間制限付ける。更に会場をこないに広くとったりせえへんわ」 
相変わらず無表情だが、平次の話には興味を持ってくれたのか、平次の方を見て話しに聞き入っているタバサ。 
「そこで問題になるのが、爺さんが何処まで本気で俺らに殺し合いをさせる気なのか? そもそも爺さんの目的は何なのかや。タバサはどう思う?」 
既にその事は考えてあったのか、タバサはすぐに答えた。 
「殺し合いさせる事を目的とした場合、何かの試験的な意味合いがあるか、もしくはあの老人の判断基準による刑罰か、闘技場に類する娯楽の一種か。ただ……」 
「ただ?」 
「ヘイジも言っていたみたいに、私達をここへと連れてきたやり方とその能力から考えるに、本気で殺し合いをさせるには私達をここに放り出してからのやり方が稚拙すぎる」 
平次はタバサの発言を愉快そうに聞いている。 
「だから、あの老人は私達に殺し合いをさせるつもりというよりは、ここに閉じ込める事が目的である。と考える方が妥当」 
そこでタバサは平次の様子を見る為、言葉を止める。 
平次はとても楽しそうにタバサを見ていた。 
「うん、よう考えてるな。70点って所や。残り30点埋めてみるか?」 
人によっては癇に障る言い方かもしれないのだが、タバサは素直に頷いた。 
「閉じ込める事が目的で、陽動の意味で殺し合いと口にしたのなら、陽動が必要な程度には私達がここを脱出する可能性が残っているという事。だけど、陽動をするのに『殺し合いをしろ』というのは不自然」 
出会った当初はただひたすらに無口なだけと思っていたのだが、どうやらタバサは必要があればきちっと言う事は言ってくれるらしい。 
それが少し新鮮で、平次は促すような口調を続けた。 
「だとしたら?」 
「推測の域を出ないけど、あの老人の目的はやはり殺し合いをさせる事で、何か別の殺し合いをさせる手段を持っているか、もしくは参加者の中に人殺し自体を目的としている人間を入れているのかもしれない」 
平次は考え深げに頬に手をやる。 
「その辺を踏まえた上で、今俺らがやるべき事は情報収集と殺意を持った人間から逃れる手段の確保やと思う」 
小さく頷くタバサ。 
「で、や。俺さっき走ってる時おもろいもん見つけたんやけど、一緒に行かへんか?」 
平次はガラクタを山と積み上げ、油まみれになりながら作業をしている。 
その横で『ネクロノミコン』に読みふけるタバサ。現在65ページ目である。 
「タバサ、そこのレンチ取ってくれへん?」 
本を開いたままレンチを手に取り平次に渡す。 
どうやら道具の名前は予め説明してあり、要求した物をすぐに手渡す役目をタバサは仰せつかっているらしい。 
「タバサ、一番大きいドライバーや」 
やはり無言でドライバーを渡すタバサ。良く見ると本は右手のみで持っており、左手が汚れても本が読めるようにしている。 
「タバサ、左手を開いて肩の高さまで上げてや」 
本を読みながら指示通りにすると、平次はその手を軽く叩く。 
びっくりしたタバサが本から目を離すと、平次は満面の笑みであった。 
「完成や! CB1000平次スペシャルやで!」 

バイク屋を発見した平次は、移動用の足を確保しようと中に忍び込んだのだが、生憎完成品のバイクは全て撤去されていた。 
だが、メインフレームを含む幾つかのパーツは手付かずで置いてあったので、自力で組み上げにかかったのだ。 
元々ここはパーツショップであり、途中まで組んである物が放置されてあった事も幸いした。 
タバサは平次から説明を聞いていたものの、現物のバイクを見るのはもちろん初めてである。 
「そしたら、タバサにはコレや」 
ハーフメット型のヘルメットをタバサの頭に被せる平次。 
自分も同じくハーフメットを手に取り、実際に着けてみせると、タバサもそれに倣ってヘルメットを固定する。 
「バイク見た事無いいうんは意外やったけど、実際乗ってみればこれ使う利点も理解出来るで」 

平次がバイクに跨り、タバサは言われるままに後ろに座って平次の腰に手を回す。 
平次が何やら操作すると、バイクは信じられない轟音を撒き散らす。 
これでは無闇に敵を集めるだけではないのか? と考えたのも束の間、バイクに付いた二つのタイヤが自分で回り始め、それに乗っていた自分は大きく後ろに引っ張られる。 
言われた通り腰に手を回していなかったら、多分落っこちていただろう。 
バイクは少しづつ速度を上げて行き、タバサの横を通り過ぎる風もその強さを増していく。 
「どや? 恐ないか?」 
バイクを操作しながらなので平次は前を向いたままだ。 
タバサはこの轟音と風の中で言葉が伝わるかどうか不安だったが、とりあえず口に出してみた。 
「平気。何処行くの?」 
「あそこにあった分だけやと燃料が足りん。地図にあったガソリンスタンド行って給油してくるわ」 
幾つか良くわからない単語があったが、とりあえず平次に任せる事にした。 
バイクがこれだけの速度を出し得る物ならば、探索と敵からの逃亡の双方を効率的に行える。 
平次が自信満々であったのも頷けるというものだ。 
タバサはそんな事を考えていたが、平次は不安なのか、もう一度聞いてきた。 
「なあ、恐いんなら恐いて言うてもええで。速度落とすから」 
速度だけで言うのなら、使い魔のシルフィードに乗っている時の方が速度は出ていると思う。 
しかし、地上で早く移動するのは少し感覚が違う。 
馬を全速で走らせたらこんな感じに近いが、それともまた違った爽快感がある。 
「大丈夫。むしろ、この感じは心地良いから」 
「そっか、それなら飛ばすで!」 
そう答えた平次は少し嬉しそうであった。 
この風を切る感覚を好んで味わおうという人間は、そう多く無いと思う。 
速度は、危険と隣り合わせだから。 
だからこそ平次は二度も問い返してきたのだろう。 
そして、その感覚を好ましい物として共有出来る相手が居た事が嬉しいのだろう。 
タバサはまだ平次を完全に信用してはいない。何せ彼の事をほとんど何も知らないのだから。 
こうして一緒に行動してはいるが、二人の間には決してゼロにする事の出来ない距離が存在していると思う。 
でも、たった今少しだけその距離が縮まった気がしたのも事実である。 
それが良い事なのか、悪い事なのか、嬉しい事なのか、悲しむべき事なのかタバサには良くわからなかった。 


【C-7 路上/1日目/早朝】 

【服部平次@名探偵コナン】 
[状態]:健康 
[装備]:スーパー光線銃@スクライド、ハート様気絶用棍棒@北斗の拳  バイクCB1000(現地調達品) 
[道具]:「ざわ……ざわ……」とかかれた紙@アカギ(裏面をメモ代わりにしている)、支給品一式 
[思考・状況] 
基本:江戸川コナンよりも早く首輪のトリックを解除する。 
1:シェリスを発見し、真実を明らかにする 
2:江戸川コナンとの合流 
3:なし崩しだが、とりあえずタバサと行動を共にする 
備考] 
平次はシェリスの名前を知りません。 


【タバサ@ゼロの使い魔】 
[状態]:健康 
[装備]:無し 
[道具]:ネクロノミコン(67ページ読破)、液体窒素(一瓶、紙状態)、支給品一式 
[思考・状況] 
基本:元の世界に帰る。 
1:なし崩しだが、とりあえず平次と行動を共にする 
2:杖を入手する 
3:キュルケとの合流。ルイズ、才人については保留 
4:蒼髪ショートの女(シェリス)からマントとナイフを返してもらう 
[備考] 
杖をもっていないので、使える魔法はコモン・マジックのみです。攻撃魔法は使えません。 


|070:[[覚悟とルイズと大男]]|[[投下順>第051話~第100話]]|072:[[自分の選んだ道を行け!]]|
|070:[[覚悟とルイズと大男]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|072:[[自分の選んだ道を行け!]]|
|045:[[ひとりぼっちのエスケープ]]|服部平次|099:[[明日を生きる君に]]|
|045:[[ひとりぼっちのエスケープ]]|タバサ|099:[[明日を生きる君に]]|


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