不思議の森
<1>
そして、応接室のような部屋に通すとルーゼは一旦席を外し、代わりに執事がリリにお茶を出してくれた。
しばらくすると、
「さぁ、おもてなしの準備ができたよ」
と、ルーゼが現れ、広い食堂へリリをエスコートするように入る。
そこには大きくて長いテーブルに白いテーブルクロス、豪華でたくさんの料理が所狭しと並んでリリを待っていた。
「すごーい!」
眼をキラキラさせて素直に喜ぶリリ。
ルーゼはそれを笑顔でみつめつつ、リリに席を勧め…自分は長いテーブルの向こうの上座に座る。
「リリちゃんのために用意したんだから遠慮せずに召し上がれ」
「わーい! いただきまぁす!!」
残念ながら、リリは豪華な食事なんて見たことも食べたこともなかった。
それも、こんなにたくさん…自分のために用意してもらえるとは思ってもみない幸せだ。
元々、リリは食べることが大好きだった。
人間は元より、仲間よりも量も回数も自然と多くなっていた。
単に食い意地がはっていて、尚かつ量も食べられる…ということなのだが。
空腹も最高潮。
もちろん、遠慮する気なんてハナからない。
一瞬テーブル全体の料理を見渡したが、空腹で最強となった食欲が押さえきれないリリは、とりあえず手前から手をつけることにした。
まずは、ジュウジュウと音を立てて焼けている分厚いステーキから。
大きさは三百グラムくらいはあるのではないだろうか…?
だが、そんな量なんてリリにとっては前菜にすらならない。
一口大に切り、ぱくんっとその口へ。
もぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、ついでに山のようなピラフにも手を伸ばし、ステーキと一緒に食べ進めていく。
その表情はとろけそうな柔らかいステーキ肉同様に、幸せいっぱいの笑顔だ。
「くすっ…本当に美味しそうに食べるんだね」
リリの食べっぷりに満足そうなルーゼ。
その言葉に、リリは口の中のモノを飲み込んで、
「うん、だってすごく美味しいんだもの」
そう言って最後の一口を口に放り込むと、次の料理へ。
次は丸々一羽を使ったローストチキン。
器用に取り分けて、もも肉にかぶりつく。
「全て君のための料理だ…慌てなくていいからね」
くすくすと小さく笑いながら、ルーゼはグラスに残っていたワインを飲み干し…すかさず執事がそこへ赤ワインを注ぐ。
ルーゼの言葉が聞こえているのかいないのか…リリは相変わらず口いっぱいに頬張ってもごもごしている。
そして、三合はあっただろうピラフの最後の一口の飲み込んで、手元のジュースをこくっと飲んで再びチキンに取りかかった。
肉料理の脂っこさも量もモノともせず食べ進めていくリリ。
チキンもあっという間に食べ終わり、山盛りサラダ、野菜とソーセージをふんだんに使ったポトフと焼きたてパンを食べ始める。
ふと、リリの手が止まった。
「ん? どうしたんだい?」
「あ…ちょっと…」
恥ずかしそうにリリはそのウエストに食い込み始めていた帯を少し緩めた。
その様子に、
「…あぁ、ウエスト…苦しかったのか」
笑いをこらえるようなルーゼの呟きに、リリは頬を染めて小さくうなずいた。
元からふっくらとしたリリのおなかは、ここまでの食事でその膨らみを増していた。
だが、満腹になったわけではない。
小さく息を吐き、緩めた帯が丁度良い位のおなかを優しくさすれば…食事再開だ。
最終更新:2011年09月13日 22:03