おやどり気分。
<4>
僕たちは店を出て、再び街を歩く。
僕は日菜子ちゃんの歩くペースが若干遅くなっていることに気づいた。
さすがにおなかが重たくなってきたのかな?
さりげなく日菜子ちゃん……のおなかに視線を落とすと、日菜子ちゃんのおなかはバストの下から急にぐぐっと大きく膨らんで前へとせり出してきていた。
若干不自然なほど、おなか全体の膨らみがだいぶ目立っている。
そして、そのおなかをぴったりと水玉柄タンクトップが包んでいるというかんじだろうか…。
確か最初は体のラインが分からないくらいで、今のように体にフィットしてはいなかった。
それに、今の状態はウエストのくびれも分からない。きっとおなかの中で胃が広がっている分、全体的に出来る限りのスペースを求めているのだろう。
「おなかキツそうだけど、大丈夫?」
大丈夫そうにも見えないし、食べるよう勧めたのも僕なのだが…一応心配してみる僕に、日菜子ちゃんはほっぺを真っ赤にしながら、
「うん…おなかは大丈夫なんだけど…スカートが……」
スカートがどうしたのかと思ったら、日菜子ちゃんは立ち止まって、ウエストの左側が見えるようにパーカーをちらりとめくった。
「…あ……」
見せてくれたスカートのホック部分は、はちきれるように壊れてしまっていた。
やはりあれだけ食べたおなかにはこのスカートのウエストはキツすぎたようだった。
日菜子ちゃんがホックを外す前にその膨らみに耐えられなくなったのだろう……。
あぁ…そうか、先程一瞬動きが止まった時がウエストの限界だったのか。
もしかしたら日菜子ちゃんはスカートのウエストを気にしてたのかもしれない。
元々は食事をしても問題のないゆとりをもったウエストサイズだったのだろう――いつもどおりの食事どおりなら。
だが今日はいつもと違って量も回数も多く、普段のサイズを越えてしまうのは間違いない、というか当然の結果だ。
まぁ、かろうじてファスナーは無事なようだし、そんな壊滅的なウエスト部分はタンクトップと、裾の長いパーカーに隠れているから一見分からない。
それでもその膨らんだ大きなおなかは隠しきれない状態だし、いかにも窮屈そうだった。
いや何よりも、その様子を恥ずかしそうに…でも素直に見せてくれた日菜子ちゃんが僕には可愛くて仕方がなかったのだが。
――時間はそろそろ一般で言う夕飯時になっていた。
僕は目の前で日菜子ちゃんの食べっぷりをずっと見ていたのですでに食欲はないのだが、
「僕、和食っぽいのが食べたいんだけど……いいかな?」
と若干無理かと思いつつもお願いしてみると、日菜子ちゃんは、
「優くんが食べたいモノなんだから行こうよ。私もさっぱりしたのが食べたい気もするし……」
とまだ食べる意欲をみせ、同意してくれた。
さすがに今までのようにノリノリというわけではなかったが。
もう開き直ってしまったのかもしれない。
――僕が和食を選んだ理由は簡単だ。
最後はご飯モノで閉めようということに他ならない。
定食だろうが、丼だろうが何でもいい。
最後にがっつりと食べて満足してもらいたい、そう思ったからだった。
言い方を変えれば、次の店で勝負をかけたいということだ。
店は見つけ次第入ることにして少し歩くことにした。
歩いている間にも日菜子ちゃんはタンクトップの裾がずり上がってくるのを時折直している……僕に気づかれないようにさりげなく。
そして、そっと口元に手をあて、
「……けふぅ」
っと小さく吐息が漏れる。
もちろん、僕はそんな日菜子ちゃんに気づいていないふりをしていた。
日菜子ちゃんがいつも食べているの量を越えているのは確かだろう。
少なくとも満腹に近いだろうし、満足はしてもらえているはずだ。
もう僕の目的は果たされたはずだったのだが……行き先を変更する気はない。
聞けば、日菜子ちゃんは自分自身でもおなかいっぱい食べたことがないらしい。
それなりに満足できるが、それが満腹と言っていいのかが分からないと言うのだ。
ならば、もう食べられないところが満腹であり限界ということになる。せっかくだから、日菜子ちゃんにはそれを実感してもらおう。
そして、僕たちは本日食べ歩き最後となる店に入った。
そこは小綺麗な和食屋で、メインはやはり定食や丼もののようだ。ちなみにご飯と味噌汁はおかわり自由だそうなので好都合だ。
早速適当に座ったテーブル席で、僕たちはメニューを見ながら注文を考える。
時間的に夕飯時なので、僕は普通に肉野菜炒め定食に決めた。
そして、日菜子ちゃんは……というと、ちょっと悩んでいる様子。
まぁ、現時点で日菜子ちゃんはほとんど満腹状態なのに店のメニューはご飯モノがメイン。数少ないデザートのページを行ったり来たりしている。
そうなるのも仕方ないかもしれない…さっぱりしたものが良いとも言ってたし。
だがここでデザートだけ頼まれては意味がない。
僕は日菜子ちゃんの食欲を再度かき立てる作戦にでた。
「日菜子ちゃん、ほら、この丼とか定食とかどう? 好きでしょ?」
メニューの写真は見るからに食欲をそそられるようなモノだった。そこで、僕は日菜子ちゃんが好きそうなものを次々に指さして誘ってみることにしたのだ。
それは親子丼とカツ丼としょうが焼き定食とチキン南蛮定食、ミックスフライ定食……などなど。
もちろん、定食は単品で頼んでもご飯がおかわり自由なわけだし、支障はない。
さすがに全部頼むというのは無理かもしれないが、デザートメニューしか見ていなかったこともあって、僕が指さしたメインメニューを改めて見た日菜子ちゃんの瞳は急にキラキラして見えた気がした…食べる気になったのかな?
別に時間はまだあるわけだし、慌てることもない。
ゆっくりでも美味しく食べてもらえればいい。
食べきれなくても無理しなくていいから。
そう付け加えて、僕は日菜子ちゃんが選ぶのを待った。
そして日菜子ちゃんが選んだのは、親子丼とチキン南蛮定食、それから単品でミックスフライとクリーム白玉あんみつだった。
……これでラストオーダーになるかは日菜子ちゃん次第だが、とりあえず僕の肉野菜炒め定食と一緒に注文した。
そして、テーブルに注文した品々が並べられた。
さすがに一度に並ぶと四人掛けのテーブルがいっぱいになる。
改めて見ると確かに美味しそうなのだが、量はかなりのものになっていた。
……これはさすがに最後にして無理があっただろうか?
僕の注文した定食は男性が食べるのに調度良いと思われる量だ。もちろん、日菜子ちゃんが頼んだ料理も同様。
一つ一つがしっかり一人前…より少し多いくらいに見える。
とりあえず、二人でいただきますをして食べ始めることにした。
日菜子ちゃんはまず親子丼から食べ始めた。
とろとろ卵の親子丼に嬉しそうな日菜子ちゃん。
笑顔で食べる日菜子ちゃんからは、先程の若干苦しそうな様子を忘れさせるものがあった。
親子丼は食べやすかったのかそれほど時間もかからずに間食して、次にとりかかる。
サクッと良い音をたてながらフライを一口……ほわっと幸せ笑顔だ。
ミックスフライとチキン南蛮をおかずにご飯と味噌汁を食べていく。ペースはそれほど早くもないが、テンポは良い。
持っていたお茶碗のご飯がなくなりそうになるタイミングで、僕が代わりにご飯のおかわりを注文した。
日菜子ちゃんは若干申し訳なさそうにそのご飯……今度は大盛りを受け取る。
僕は自分の食事を忘れそうになるくらいに、その食べっぷりに魅入っていた。
やはり好きなモノを食べていることもあって日菜子ちゃんは幸せそうだから余計に可愛く見える。
まぁ、いくら好きなモノであろうとご飯モノは結構胃にはくるようで……途中で箸を休め、おなかをさするようなことも多くなってきていた。
確実に日菜子ちゃんのおなかの膨らみは増している――。
座っていることもあって、胸の下のその膨らみをじっくり見ることはできないが、少しイスを引いて座り直した時に見えたのは服の上からでも明らかな、大きく膨らんで張りつめた感のあるおなかだった。
もうここまできたら、日菜子ちゃんにはしっかり食べてもらいたい。
食べられる限り、食べて欲しい……そう思った。
僕は明らかに限界に達しつつある日菜子ちゃんの胃袋を心配しつつも、興味があったんだ――。
最終更新:2011年09月26日 11:49