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ひなどり気分。


<プロローグ>

私は日菜子(ヒナコ)。
今日は彼氏の優司(ユウジ)くんとデートの予定なんだけど、詳しくどこに行くとかっていうのは、当日まで内緒だよって教えてくれなかった…。
とにかく、待ち合わせの時間に間に合うように準備しなきゃ…と思ったんだけど、ギリギリになりそう。
いつもデートのお洋服に迷うから、とりあえず昨日の夜のうちに準備しておいたのを着てみたけど…もしかして、太ったかも?
前に着た時は、もう少しスカートのウエストに余裕があったと思う。
まぁ…まだギリギリ手が入るくらいだから、これで行こう。決め直す時間もないし。

私はいつもお洋服…特にスカートとかズボンを買う時はウエストに余裕のあるものを買うようにするのがクセになっている。
理由は簡単、体のラインを強調せず、ご飯を食べても苦しくならないように。
それというのも、小さい頃は気にならなかったんだけど、私…周りの人より食べる量が多いみたいだから。
恥ずかしくなってみんなと同じくらいで食べるのやめたりとかする時もあるけど、結局後でおなか空いちゃって食べるからあんまり変わらない…。
優くんは私に、たくさん食べていいよって言ってくれるけど……やっぱり女の子的には恥ずかしかったりする。
だって…太めの女の子より細くて華奢な女の子、大食いな女の子より小食な女の子の方が可愛い気がするし。
私は細くて華奢なわけでも小食なわけでもないから、やっぱりそういう子に憧れちゃうし…自分もそうなりたいと思う。
なのに……気がつくと、男の子より食べてるんだよね。
この前のデートではスカートのホックが壊れるまで食べちゃったし……。
思い出すと恥ずかしくて未だに顔が真っ赤になって熱くなる。

結局、キャミソールにチュニック、ついでにストールを巻いて、予定通りのデニムのミニスカートで慌てて家を出た。
このチュニックなら体のラインも分からないが、何より、今日は絶対大食いしないって決めてた。
この前のデート以来、改めてそう誓ったんだ――大好きな優くんの前では可愛い女の子でいたいから。
家を出る前にしっかりご飯を食べてから行けば我慢できるはず!
そう思って朝ご飯はいつもより多めに食べておいた。
あ、だからウエストの余裕がなくなったのかな?
……うん、そう思うことにしよう。
にしても、待ち合わせ場所に行くまでにもやっぱりご飯屋さんとかケーキ屋さんに目がいっちゃうんだよね。
その度に自分が決めた誓いを思い出して、慌てて目をそらすことに。
素敵なお店を見つけると、悲しい気持ちになるけど…せめて今日は我慢!!

優くんはいつものようににこやかで優しい笑顔で待ち合わせ場所に私とほぼ同時に現れた。
優くんには高校の時に私がたくさん食べる子だって知られちゃったし、おつきあいし始めてデート…特にこの前ので決定的に『大食いの女の子』と認識されているはず。
というか、呆れられて嫌われるんじゃないかなってものすごく不安になる。
なのに…あのデートの時もその後も、優くんの表情も態度も以前と変わらない。むしろ、もっと優しくなった気がする…?

「日菜子ちゃん、今日も可愛いね」

優くんはそう言って笑顔で私の頭を撫でた。
……照れちゃってほっぺが熱い。
そんな私を優くんは「可愛い」って言って笑ってる。

「ゆ…優くんっ、今日はどこに行くの?」

恥ずかしくなって私は優くんに内緒にされてた今日のデートプランを聞く。

「うん、今日はね日菜子ちゃんが喜びそうな所に行こうと思ってるんだ」

「喜びそうな所…?」

「きっと喜んでくれると思うよ? あ、その前に…この前約束した新しい洋服を選びに行こうね」

そうにっこりと言う優くん。
この前約束したって……あのデートの時の!?
また思い出して顔が熱くなった。
そんな私をクスクス笑いながら、優くんは私がよく買うような洋服がおいてある店へと私の手を引いて入る。
可愛い洋服がたくさんある中で、優くんは私に気に入ったものを選ぶように言った。

「……でも、なんか悪いよ…」

いつもご飯おごってもらってるし、誕生日でもクリスマスでもないのに……しかも、約束ってアレが原因だし。
戸惑う私に、

「遠慮しないでいいから。約束って言ったけど、日菜子ちゃんと買い物をしたかったのもあるんだ」

優しくそう言って微笑む優くん。
そういうことなら…まぁ、私も新しいお洋服を選ぶのは好きだし、気に入ったのなら自分で買えるだけのお小遣いはある。

「…あ、これは日菜子ちゃん好きそうだね」

優くんは私好みの花柄ワンピースを指さした。

「うん! 可愛いっ」

思わず笑顔で答える。
ちょっとゴシック的でフリルが付いているのも可愛いし、胸の下からコルセットみたいにリボンで絞れるようになっているのもなんだか素敵…。

私がうっとりと見ているのを目ざとく店員さんがみつけて、ワンピースを手に試着を勧めてきた。
優くんの方をちらっと見ると、着てごらんといわんばかりの笑顔。
まぁ、着るだけならいいか。
私は手渡されたワンピースとともに試着ルームへ。

――確かに私好みで、サイズ的にもぴったりだった。
自分ルールでいうなら、もう少し緩いかんじのものがいいのだが、このMのワンサイズのみだという。
優くんは大絶賛してくれているし…なんだかもうコレを購入しないという雰囲気ではなかった。

「なんなら、このまま着ていく?」

「え…」

何気ない優くんの提案に店員さんもノリノリでそう勧めてきて……結局着たままご購入。
私ってこんなに押しに弱かったかな…?
特に優くんには弱い。あの笑顔と優しい声音に弱いから…かな。
そんなことを考えながら、ワンピースの上にストールを羽織って、着てきた服をもらった袋に入れてから試着ルームを出ると、優くんがさりげなく支払いを済ませた後だった――…。


最終更新:2011年10月10日 22:52