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ひなどり気分。


<2>

私は周囲を気にしつつ、最初に目に入った洋食エリアで料理を選ぶことにした。
目の前で盛り付けてくれたローストビーフをゲットしてから…パスタとピラフ、エビとアボカドのサラダ、オニオングラタンスープ、白身魚のムニエル、あとは適当に唐揚げとかウインナーとかポテト。
それらを全体的に一人前と思われる量でお皿に盛りつけて、いったんテーブルに置きに行ってからアイスティーを取りに行って戻る。
……デザートを後で取りに行くのは許されるよね。

「もっといろいろ持ってくればよかったのに。持ってこようか? 先に食べてて?」

優くんは私が一度にプレートへ乗る量だけを持ってきたと思ったようで、追加分を取りに行こうとするのを私はさりげなく止めた。

「大丈夫だよ、まずはいっしょに食べよ?」

私の言葉に優くんは、まだ時間もあるしと納得してくれたみたい。
というか、私が早く食べたいみたいに思ったかもしれない…。まぁ、間違いじゃないけど。

自分が持ってきた分と優くんが持ってきた分を見比べて、同じくらいの量くらいになってる? これで一人前でいいのかな??
正直に言えば、どれも一皿ずつ持ってきたいし、まだ他の料理で気になるのがたくさんある。
洋食だけじゃもったいないし、和食も中華も食べてみたい。それに、デザートに至っては全種類制覇したい…。
でも…とにかくここは我慢しておかないとね。
買ってもらったワンピースも胸下からウエストあたりまでリボンで編まれて縛ってあるわけだし、元々のサイズがぴったりなので本当に食べ放題しちゃったらダメなことも分かってる。

……だけど。

「本当に美味しいねっ」

「日菜子ちゃんは本当に美味しそう…ていうか幸せそうに食べるよね」

「だって美味しいし、幸せな気持ちになるんだもん♪」

……そう、確かに美味しい。何を食べても美味しいのだ。
さすが、テレビで紹介されてただけある…!!
口に入れた瞬間から、ほわわ~っと広がるこの幸せな気持ちに自然と笑顔になる。

「それじゃぁ、少ないでしょ? 何かもってくるよ」

私のお皿から料理が早くもなくなりそうになった様子を見て、優くんは自分の分がまだ残っているのに料理を補充しに席を立った。
料理に夢中で今度は止める暇もなかった。
……あんまり美味しかったから食べるスピード早くなってたのか、優くんのお皿を見るとあんまり減ってない。
なんとなく気まずい気分でアイスティーを飲みながら素直に優くんを待つことにした。

正直、持ってきた料理を食べ終わっても空腹感は全く消えてはいない。
むしろ、予想通り余計に強い空腹感に変わってきてる。
これであとデザートを数種類食べたところでこの空腹感が落ち着いてくれるとは到底思えない。
それに、ワンピースってことはいつもみたいにウエストの制限がないということに今更気づいた。
この縛り上げるリボンが頼り……いや、このリボンがキツく感じる前に止めなきゃ!

私はそっと自分のおなかに手をあてて、確かめるように撫でる。
……うん、ワンピースのリボン部分…ウエストにはまだ影響はまったくない。
とりあえず、リボンをもう少しキツめに締めておくことにした。一応、念のため。
ちなみに胃の動きが活発になってる感覚もよく伝わってきた。
受け入れる準備を整えて、食べ物が入ってくるのを今か今かと待っているみたいに……。
これを理性で抑え込むことが今日のテーマであり、試練だ。
私はおなかを撫でながら、空腹の訴えをなだめていた……と、そのタイミングで、

「はい、どうぞ」

優くんは笑顔で料理をたくさん…でもきれいに盛りつけたお皿をテーブルへと並べていく。
しかも持ってきてくれたのはビーフステーキが3枚とチキンソテーが2枚、カレーを2種類、お寿司1皿、ライスをお皿に大盛りで2皿。そして、リンゴジュースとアイスウーロン茶のグラスを1杯ずつ。
すべて私のために優くんは持ってきてくれた。

「またすぐもってくるから、食べたいのあったら言ってね」

一回で持ってこられる分の限界に挑戦したのかと思える量だった。
でも私は…食べる量的には問題ないと思うんだけど、これを食べきれば確実にウエストが変わる……。
ふと、優くんを見るとにっこり笑顔だし、私が食べることを期待しているのが分かった。
――実際、空腹をなだめてはいても目の前にこんなに美味しそうな料理を置かれては……我慢なんてできない。
なにより、優くんがせっかく持ってきてくれたし、私が食べることを期待してる瞳で見てるんだから、食べないわけにもいかない雰囲気だ。
“ちょっとだけ…そう、全部食べなくても、少しずつ食べればいいんだよ!”
そう自分に言い聞かせて食べることにした。

いざ、一口料理を食べてみると……その美味しさに幸せ笑顔になる。やっぱりここの料理って本当に美味しいんだなぁ。
少しだけのつもりが、あと一口…に変わっていくのに時間はかからなかった。
そして――…持ってきてもらった料理が半分ほどに減った頃、私はウエストのあたりがキツくなってきていることに気が付いた。
そうだ、さっきキツめに締め直したんだった。
……なら、元の緩さまでなら緩めてもいいよね?
私は優くんに気づかれないように元の状態までリボンを少し緩めた。
ここで緩めすぎては意味がない。あくまでも、最初のキツさにしておかないとね。
でも、すぐ本来のウエストの縛り具合がキツくなることは分かっていた。
だって。
目の前にある料理が、自分の空腹感がここで止めるのを許してくれるとは思えなかったから。
この後、いくら理性で抑えようとしても食欲が本能の一つであることを私は改めて再確認することになる――。



最終更新:2011年10月13日 20:30