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ひなどり気分。


<5>

「…っよい…しょ」

すでに大きく膨らんだおなかを抱えるように立ち上がると、急にズシッと重さを感じるのと同時に重力のせいか下に向かっておなかの皮膚がひっぱられるような感じがした。
……おもしろいなぁ。
少し歩くとTシャツの裾が上がってきて、ロング丈のはずなのに普通のTシャツみたいになってしまうんだけど、まぁ、いいや。
ちょっと苦しいけど、私はおなかを優しく撫でさすりつつ若干ヨロヨロしながら台所へ。
冷蔵庫を開けると、1Lパックの牛乳と昨日自分で買ってきていたカスタードプリン1つとガトーショコラを1箱発見。
あと…なんかあるかなぁ??
キョロッと見回すと、キャラメルポップコーンが1袋あった。……そうだ、これも自分で買ってきてたんだった。
デートの前だから止めておいて、帰ってから食べようと思って。
間違ってないからいいや、これも今食べちゃおう。
私は牛乳とプリンとガトーショコラとポップコーンを手に部屋に戻る。

――さて、再開しようかな。
私は牛乳パックを開けて、コップではなくこのまま口をつけて飲むことにした。
パンには牛乳が合う。残りの菓子パン3つを牛乳といっしょに味わいながら食べていく。
限りなく満腹になっているはずでも美味しいものは美味しい。そのまま、牛乳とパンを同時に完食する。
なんだかパンもそうだけど、食べてきたモノが胃の中で水分を吸って膨らんでいるのか……ちょっとキツくなってきたかも?
でも食べることを止めずに、私は続けてプリンを食べきると、ポップコーンを2本目のお茶で水分補給をしつつも味わいながらもぐもぐ食べた。
意外と量も少なかったしそれ自体は軽かったが、一緒に飲んだお茶がまたおなかを膨らませる原因になっていた。
胃もそれを覆っているおなかもミシッと張りつめた感じで、服がというよりおなか自体がキツい。

「ん……ちょっと…げふっ…キツくなってきたなぁ…」

後ろに手を着き、片手でおなかをやさしくさするってちょっと休憩。
結構カチカチに固く張ってきていて、おなか全体が内側と外側で押し合いをしてるみたいに感じた。
……でも、頑張ればもう少し入るかな?
私はどれだけこのおなかに詰め込めるモノなのか試してみたくなっていたんだと思う。
楽しみに取っておいたロールケーキを少しずつ口に運びながら一口ずつ味わい、お茶をたまに飲みなが何とか食べ終えると、次はシュークリーム。
生クリームとカスタードが入った大きなシュークリームをやはりお茶と一緒に食べていく……最後はもう無理矢理詰め込んだ感じになってしまったが、シュークリーム2つもおなかに収まった。

……もう固形のものが入る自信はない。
せっかく好物のガトーショコラは万全の状態で食べたいのでここは我慢するか…というかもう入らないし。
お茶はまだ1Lくらい残ってるかな?
私は仕上げとばかりに、残りのお茶をコップではなくペットボトルからそのままゆっくり飲み始めた。

「くっ…んく……」

水分なのになかなか飲み込めないもんなんだなぁ…。
そんなことを考えつつも、ゆっくりわずかに残っているであろう胃の隙間にお茶を流し込んでいく。

「う…く……ふぅ…けぷッ……」

おなかをさすりながら……あと少し。
そして、用意した食料たち(ガトーショコラを除く)はすべて私のこのおなかに詰め込まれた――。

「はぁ…はぁ…っ…ん…ぷっ…げふぅぅ…はぁ…」

――それは予想以上だった。
おなかの中に食べ物を大量に詰め込まれてぱんっぱんになった胃がずっしりとその存在感をアピールしている。
例えるなら、バレーボールとかサッカーボールに空気を破裂寸前までめいっぱい入れた感じ?
息をすることすら苦しくて、当然普通に座っていることも出来ずに私は後ろのベットにもたれ掛かって、大きく膨らんだ破裂寸前のおなかを突き出すように……早くこの苦しさが和らぐようにさすっているしかできないでいた。
もちろん、立ち上がることも重くて出来ないし、おなかが苦しくて前にかがむことも無理。いや、動くことも出来ない。
それでも、のどのところにまで食べたものが詰まってるんじゃないかと思うような苦しさなのに、吐き気はまったくなかった。
とにかくこの苦しさを和らげたくて、私はロングだったはずのTシャツの裾を胸のあたりまでめくり上げ…ようとしたが、おなかの膨らみが引っ掛かって、めくるのにも一苦労だった。
キツいが少し我慢して裾をギシギシと持ち上げると、おなかの部分がやっと顔を出す……。

白い自分のおなかはびっくりするほど大きく今にもはちきれそうな膨らみで、触ってもいつものふよっとした脂肪すらもあまり感じないくらい固かった。
服から解放されたおなかは膨らめるだけ膨らんで、それでも私が呼吸をするたびに上下している…。

「うわぁぁ…けっこうすごいなぁ……ん…けぷ…っ」

こんな風にまじまじと観察したのは自分でも初めてだ。
まぁ、あれだけ食べればこのくらいにはなるのかな。
我ながら良く食べたと思う。
あんなに空腹を感じたのに、今は苦しい圧迫感といっしょに満腹感……そして、限界まで食べたという達成感だった。

「ん~…でも満足っ♪ おなかいっぱぁい」

全身で幸せを感じる。
今まで知らなかった満腹の喜びと幸福感の前に、苦しさなんてどうでもよかった。
……私は確実に大食いに目覚めてしまったかもしれない。
でも、今はこの幸せな気持ちで恥ずかしさも不安もかき消されていた。
こんなに気分がいいのならもっと早くこうしていれば良かったのだが、今まで加減して食べてたのに最近満腹になるまで…もしくは限界まで食べると体重が確実に増えてしまうことも分かった。
そう、今まで人より多く食べていても体重の変化はあまりなかった。
体重的に言えば、私にとって満腹まで食べるということは、食べ過ぎだということなのだろう。
――普通に考えても食べ過ぎなのだから、間違ってはないのかもしれないけど…私には悲しい事実だ。
最近知った満腹という幸せが、そのまま体重増加とダイエットに直結するだなんて。
私だって女の子、たとえ1Kg増えただけでも気になる。

「……まぁ…いいや……明日からダイエットすれば…」

明日からまたいつもどおりの食事に戻せばいい…いや、もう少し控えめにすればいいはず。
私は明日からのダイエットを決意しつつ、なんとか重たい体でベットへ移ってそのままドサッと横になる。
おなか丸だしの状態のままだが…私は苦しさと幸せを同時に感じながらやさしく、横になっても大きく膨らんでいるおなかを撫でる。

「…こんなところ、優くんには絶対見せられないな……」

思わず苦笑した瞬間、ケータイが鳴った。
完全に油断していたので驚いたが、ちょっと苦労しながら腕を伸ばして放置してたケータイを取ると……相手は優くんだった。
私は息を整えてから電話にでる。

「今日は帰っちゃったけど、大丈夫?」

心配そうな様子で電話をくれた優くん。
あんな帰り方したら心配にもなっちゃうよね…。

「う…うん、もう大丈夫だよ…ごめんね、ありがとう」

私は優くんに申し訳ない気持ちと、心配してくれる優しさに改めてお詫びとお礼を伝えた。

「大丈夫なら良かった……実は日菜子ちゃんの家の近くまで来てるんだけど…せめてお見舞いというかおみやげというか…持ってきたものだけでも渡せるかな?」

「えっ!??」

どうしよう!?
心配して来てくれたのは嬉しいけど……今の私はとても優くんに会えるような状態ではない…!
焦っても優くんはもうすぐウチに着いちゃう!!?
私は慌てて断ったが、結局優くんに顔を見て渡すだけだと押し切られ、電話は切れた……。

と…とにかく、私はなんとか体を起こすと、大きく重たいおなかを抱えるように立ち上がって、丸だしだったおなかをTシャツの裾を今度は無理矢理ひっぱり下ろそうと試みた。
ひっぱり上げるのも大変だったのに、元に戻すのはもっと大変で……もう、脱いだ方が早い!
私はTシャツを脱ぎ捨てて、何を着るか考える…。
部屋着を見せるのはちょっと恥ずかしいが、下着よりはマシだ!!
キャミやタンクトップではおなかが目立つし、その下の短パンにしてもおなかを隠すこともそこまで引き上げるのも無理そう……。
さっきコンビニに行ったワンピース…も難しいかもしれない。

私は苦しさも忘れるくらい慌てて、別のワンピースを引っ張りだした。
裾も長めだし、胸のすぐ下がゴムで絞られているだけの楽なスタイル。
これなら……なんとかなるかな!?
…とりあえず頭からかぶって裾を下ろす…と、胸の下のゴムが若干キツいがおなかは隠れた。
ただ、おなか自体は絞られている部分からぐっと前へ…全体的に大きく膨らんでいるので、ちょっと見では臨月の妊婦さん…より大きい感じたけど、もう他のを選んでる時間も着替える時間もない。
そして、家の前に着いたのを知らせるメールの着信音が鳴った――。



最終更新:2011年10月20日 20:33