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理想の現実


<プロローグ>

女という生き物は外見…顔が良ければそれでいいのか?

そんな疑問を抱きつつも、瑞樹(ミズキ)は寄ってくる者を彼女にして…いつも何か違和感を感じては別れていた。
確かに瑞樹の外見はモデル並。顔も頭も運動神経も良い完璧な青年……一般的には。

だが瑞樹は、今まで抱いていた疑問も違和感も払拭する女の子…美和と出会った。
瑞樹が猛烈アタックののちに、めでたく美和との交際をスタートさせたことは言うまでもない。

美和はすべてが可愛らしい女の子だった。
瑞樹より年下で短大生の美和は小柄で、顔も仕草も服装も性格も可愛いというしかない。
そして何より、瑞樹が惹かれたのは……その食べっぷりだった。

「美和、次なに食べたい?」

「ん~…イタリアンかな?」

さらっと答える美和。
二人は今、昼食を食べ終わったところだ。

「じゃぁ…良い店知ってるし、行こうか」

「うんっ」

瑞樹も他人よりたくさん食べる――いわゆる、大食漢だ。
その瑞樹につき合って一緒に食べてくれる女の子は今までいなかった。
むしろ、小食だったりソレを装ったりしてる女子に瑞樹はガッカリを通り越して、嫌気がさすくらいだった。
まぁ、瑞樹の基準が人より外れているので仕方がないのだが、それでも美和は瑞樹と同じように…それ以上に食べてくれる。
それが、瑞樹が今までの彼女に感じていた不満を払拭してくれた最大の理由かもしれない。
一緒に食事が楽しめることに、瑞樹は心から喜びと幸せを感じていた。
また、美和にとっても瑞樹と出会い、自分が感じていた大食いというコンプレックスが気にならなくなった。
何よりも自分と一緒に最後まで楽しく食事が出来ることが嬉しかった。

二人とも外見でいえばかなり見栄えのするカップルだ。
当然周囲の羨望も嫉妬も集めているが、気にとめることはないくらいラブラブ…まさに理想のカップルといえた。

二人は昼食をとったファミレスから瑞樹オススメのイタリアンの店へと移動する。
瑞樹はもちろん、美和も3~4人前は食べているが二人にとってはそんな量なんて問題ない。
むしろ、二人で楽しく食事を出来ることの喜びの方が重要だ。
また、二人とも外見はもちろん、とても美味しそうに食べているために実際重ねる空の皿の枚数を改めて確認しない限りは驚くこともないだろう…。

「美和、これ美味しいよ、食べてみる?」

「うんっ」

あ~ん……ぱくっ

なんていつもの光景も可愛らしく、似合っている。
量を無視すれば、だが。
イタリアンの店で二人が注文したのは…ピザ3枚、リゾットやパスタやラザニアを3人前ずつ、サラダや前菜も忘れずに。
二人で食べるにしても量が多い。それ以前に二軒目なのだが…いつもに比べたら控えめかもしれない。

瑞樹は自分も食べることが好きだし、量を食べることも自覚している。
だが、美和の食べている姿や表情を見るのは自分が食べることよりも幸せに感じていた。
だから、瑞樹は自分はそこそこに…美和にはたくさん食べるように勧めることもしばしばだった。

「美和は本当に幸せそう…美味しそうに食べるね。はい、これも食べて良いよ」

「…瑞樹は食べないの?」

「ん、俺はとりあえずいいよ。食べな?」

「そう?」

美和も瑞樹に勧められてイヤな表情一つせず、そのまま料理を受け取って嬉しそうな笑顔を見せる。
もちろん、最後までキレイに…美味しそうに食べる美和を瑞樹は笑顔で見守るのだった。

結果、イタリアンの店での料理のほとんどは美和のおなかに収まった。もちろん、デザートも追加したが。
瑞樹としては自分が食べたりなくても、美和が食べてくれたならそれでいいと思えた。

「満足した?」

「うん、とりあえず。でも瑞樹あんまり食べてなかったけど…」

「俺は後で」

「後で…?」

小首を傾げる美和に瑞樹は微笑みだけ返す。
そして、

「まぁまぁ…とりあえず俺んち行くか。美和の好きなケーキ屋よってから」

その…ケーキ屋という言葉に満面の笑みで頷く美和。
とりあえず、と答えただけあって、彼女にとっては今食べてきたモノとそのケーキは別モノらしい。
もちろん、瑞樹はそんなこと分かりきっている。

二人はケーキ屋によって、美和の好きなケーキを買って瑞樹の部屋へ。
瑞樹は一人暮らしだが、自炊もするし料理も得意だ。
デートで外食することもあるが、手料理をふるまうこともある。
美和と付き合い始めてからは、その機会も増えて料理の腕も上達し、レパートリーも増えた。
それほど料理が得意なわけではない美和にとっては嬉しい限りである。

「すぐ食べるよね?」

「うん!」

美和の即答と同時に、テーブルにケーキの入った大きな箱を置いて、瑞樹は食器と紅茶の準備をする。
美和はワクワクとその大きな瞳をキラキラさせながらそれを待つ。
……まあ、いつもの光景だ。
いそいそとケーキを皿に移して、二人で紅茶と一緒に楽しむ――幸せも一緒に噛み締める。

「そういえば、今日美和が来ると思っていろいろ用意しておいたんだ」

「何を?」

3つ目のケーキを食べつつ、美和が訊ねると…瑞樹はにっこりと微笑んで、

「美和が好きな料理を作ろうと思って材料も買ってあるし、下準備してあるからすぐ出来るよ」

「え…それなら、もう少し抑え目に食べればよかった……かな」

瑞樹の手料理の美味しさとボリュームを知っているだけに、ちょっと後悔気味に…自分のおなかを確認するように手を当てる。

「ん? どれどれ…」

「きゃ…っ」

瑞樹が美和の後ろにすばやくまわって、後ろから抱くように美和のおなかを確認する。

「あぁ…ちょっとぽっこりしてるくらいじゃない、大丈夫大丈夫♪」

そう言って瑞樹は笑いながら料理の支度に取りかかるためキッチンへ向かって行った――。
その後ろ姿を、不意打ちとおなかを確認されたことの恥ずかしさで頬を赤くしながら美和は見送り、3つ目のケーキを食べ終えるとフォークを置いた。

確かに、その言葉どおり美和のおなか…胸の下の胃の場所とその大きさが分かるくらいに膨らんでいた。
むしろこのくらいで済んでいることの方が不思議で、程良い肉付きのキレイな体のラインには違和感のある膨らみではあるが。

「……まぁ、大丈夫…かな?」

もう一度確認するようにおなかを撫でて、美和は箱に残っていた最後のケーキ1つを食べて待つことにしたのだった――。



最終更新:2011年11月02日 23:15