うちの座敷わらし
<2>
茉莉華は6号のホール、チョコレートケーキの3/4個目を美味しそうに味わっていた。
だが、やはり苦しいのか……おなかをさすってみたり、ミルクに口をつける回数が増えている。
「……別に今全部食べなくても、あとで食べればいいんじゃない?」
「ううん! 今、食べるのっ、食べたいのっ!」
高貴の言葉に、茉莉華は今食べると言って聞かない。
……結構、頑固。
というか、単に食い意地が張っているだけなような気もするが。
そのままゆっくりではあるが皿のケーキを食べ終え、次の一切れ…つまりホールケーキを完食すべく、最後のケーキに取りかかる――。
「はぁ…ふぅ……」
「無理するなよ、茉莉華」
苦しそうな茉莉華に声をかけるが、フォークを止める気はないようだ。
ホールケーキの6号サイズ自体、普通に考えれば一人で一気に食べるものではない。
それをおやつ、夕食を完食した上で…幼児の姿の茉莉華が完食しようとしている。
そう考えただけで、もう人間業ではない――いや、人間ではないが。
それでも、茉莉華は息を整え…最後の一口を無理矢理口に押し込むように入れ、ミルクでそれを流し込んだ。
「…はぁ……ご…っぅぷ…ごちそう…さ…までした…っ」
なんとかごちそうさまを言って…フォークをテーブルに置き、そのまま後ろに手をついた状態で動けなくなった茉莉華に、高貴は苦笑をうかべる。
「……さすがに食べ過ぎだぞ? 茉莉華」
一応釘を刺すように言うが、苦しそうにしている茉莉華に聞こえているかどうかはあやしい……。
どうやらあまりの満腹に、呼吸すらしづらいようだ。
当然、突き出されたおなかは…というと、平らな胸の下からぽっこりと……いや、ドーンといった感じでその膨らみを主張している。
おなか全体がまん丸に、まさに破裂寸前のボールのようで小さな体に不釣り合いな大きさに膨れ上がり、ぱんぱんに張っているのがキツそうなワンピースの上からでもよく分かった。
雪だるまに手足をつけたように見える……と高貴はいつも思っているのは、内緒だが。
「こ…こーきぃ…抱っこしてぇ」
どうやら腕で支えるのもつらいのか、高貴に助けを求める視線をおくる…。
はっきりいって、こんなのが妖怪っていわれてもピンとこない。
「はいはい……」
仕方なさそうに高貴は茉莉華をそっと持ち上げて、そのまま横抱きに膝に乗せる。
……最近、食後の定番になりつつあるのだが、残念ながら甘いムードはない。
苦しそうにしている茉莉華のおなかを優しくさすってやりながら、お小言タイムだからだ。
「…だから、最近食べ過ぎだぞ? 茉莉華」
「……だ…だって…食べたいんだもん…っ」
「いくら食欲の秋だからって、こんなになるまで食べなくてもいいだろ」
いや、季節関係ないな…これは。
そう思ったが、とりあえず秋だからというのも間違いなく含まれているだろう。
食べ物の美味しい季節なのは、高貴より茉莉華の方がよく分かっている。
元々年中食欲に支配されてるのだから、そのピークが秋から冬になるのは……まぁ仕方がないかもしれない。
だが、茉莉華の体が幼児なので、大量に食べるにしても限界がある。
その限界に毎回挑戦するような食べ方をする茉莉華に、高貴も最近は呆れて…いや、諦めが入っていた。
一応、茉莉華の能力のおかげなのか、食費も問題ないし料理も嫌いではない。
茉莉華の食べ方もきれいだし、幸せそうなので高貴にしてみれば……まぁ、楽しい日常の一コマになりつつあるのだが。
このまん丸なおなかも可愛くて…それに、
ふにっ
「にゃ…にゃに???」
思わず茉莉華のほっぺを摘んでみた。
びっくりしている茉莉華に、
「あ……いや、なんか柔らかそうだったから」
と言って一応手を離したが、そのままツンツンつついて遊ぶ高貴に、
「いやぁぁん…」
くすぐったそうにする茉莉華。
ここだけ見ればいちゃついているように見えるだろうか…?
茉莉華は本気で嫌がっているのだが、身動きがとりづらいのでそう見えないだけだ。
もちろん、高貴も茉莉華が嫌がっているのは承知の上。
「……なんか前より、ほっぺ丸くなったな…茉莉華」
ほっぺだけじゃない、高貴と住み始めた頃から比べれば全体的に丸くなった気がする。
まぁ、それでもいわゆる幼児らしい丸みの範囲内だが。
うっすらとついた脂肪のおかげで、より子どもらしい可愛さが加わっていくようにも思えた。
当然、その原因は分かりきっている。
「やっぱり、少しおやつとご飯減らすか?」
と高貴が呟いたのとほぼ同時に、
「いや!!! 絶対いやっ!!」
茉莉華の絶対的な拒絶の答えが重なった。
「……はいはい」
こんなに大きなおなかで動けない状態にもかかわらず、茉莉華の食い意地の強さは絶対的だった……。
最終更新:2011年12月19日 22:08