■ ディープハグ -新垣里沙X亀井絵里- ■



■ ディープハグ -新垣里沙X亀井絵里- ■

叫びは、声となったかどうか。

崩れ落ちる。
立っていられない。
出血が、止まらない。

【リゾネイター】亀井絵里。

かつて、共に戦った、かけがえのない仲間が、そこに。
だらりとさげたナイフ、健康的な肌、ふともも。

そう、みちがえるほどに、健康的な。

それは、いつもの彼女だ。
だがそれは、彼女の知る彼女ではない。

病、入院、心臓…

いったい、何が?
彼女に、何が?

ぼやける視界でもわかる、屈託のない、いつもの笑顔。
いつもの笑顔が、ありえぬ言葉を紡ぐ。


「さあ!ガキさん!もっと戦おう!」

ざくり

再び自らの腕にナイフを突き立てる。
亀井と新垣、等しく同じに傷が開き、
等しく同じに、血が噴き出す。

新垣に、なすすべはない。
そう、亀井には、勝てないのだ。

【精神干渉(マインドコントロール;mind control)】

不可能だ。

新垣は知っている。
目の前の彼女の、桁外れの『強さ』を。
『強い』そう『強い』のだ。

彼女は、『気』力も、『体』力も、常人ならざる『強さ』を持っていた。
人類として、ヒトという『種』として、『えげつない』ほどの『強さ』を。

だが、皮肉なことに、いや、それゆえにこそ、耐え切れなかった。
彼女の『心臓』は、彼女の『強さ』に、耐え切れなかった。

『心臓』のみが、ただ『心臓』それのみが…

彼女の精神は『強い』。
新垣の【精神干渉】は、彼女の『強さ』を凌駕出来ない。


もし、凌駕しえる手段あるとするならば、それは直接亀井の精神に…
すなわち【潜行(ダイブ)】と呼ばれる、その手段のみ。

が、それも、今となっては手遅れ。
もはや一歩も動けぬ新垣に、直接の接触が絶対条件たる【潜行】など、絶対に。

どさり

倒れ伏す。
動けない。

「ガキさん?もう寝ちゃうの?これで、おしまいなの?」

プラプラとナイフをもてあそび、ゆっくりと近づく。

「そっかぁ、じゃあこれで」

くるり、逆手にナイフを持ち替え振りかぶる。

「えりの、勝っ」

ナイフ、逆手、振りかぶった、その手首。

「まだ、早いよ、カメ」

新垣が、手首を。

突然、跳ね起きた新垣が、手首をつかむ。
そのまま身体を、ぴたりと寄せる。
刹那に、押し倒す。


―――右を小外に巻き込み、左を小内に刈り―――
浴びせ倒す。

全身は血まみれ。

だが、傷一つない、その身体。

「がきさん、傷は?」

生気に満ちた、その眼。

「さゆの、おかげだよ」

右手をひらく。

「それと」

ちいさな白い紙、単語カード。

「譜久村の」

【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】

道重の【治癒】の力をカードに。

「ああ、『ふくちゃん』だっけ?さゆ『も』言ってたよ」

完全に組み伏せられた、その姿勢から、ゆっくりと背を丸める。

「でも…」


首が起き、肩が浮き、ほぼ背骨の力だけ、しなやかに上体が起き上がる。
新垣の、全体重を掛けても、抑えきれない。

「やっぱり、えりの勝ちだよ?ガキさん」

が、新垣に、焦りは、ない。

「カメ、ごめんよ」

謝った。

その心に直接触れることを。
その心に直接潜ることを。

やさしく、抱きしめる。
包むように、柔らかく、やわら…かく…

二人は抱き合い、そのまま深く…どこまでも、深く…


                              【index】






投稿日:2014/11/23(日) 01:36:14.06 0
























最終更新:2014年11月24日 11:19