■ ティンカンドラム -石田亜佑美X石川梨華- ■
「別の【獣】を出してきたときは、ちょっとびっくりしちゃったけども…」
鎧が、軋む。
「結局、それも見かけ倒し…」
見えざる巨人の、見えざる鎧が、聞こえぬ音を立てて軋み、歪み、悲鳴を上げる。
成長している。進化している。
新垣の知る頃とは、比較にならぬ、その破壊力。
もはや、これまでか。
『カムバック!バルク!』
鎧がひしゃげるのと、号令が発せられるのとがほぼ同時。
【空間跳躍】
その身を上空に転じた石田を、見えざる触手が追う。
【跳躍】
捕えられぬ。
触手は石田を捕えられぬ。
次々と【跳躍】し触手を翻弄していく。
再び【跳躍】
距離を取り、石川と対峙する。
「おどろいた、今度は【テレポート】?まるで高橋もどきじゃん。」
「まだ、高橋さんには及びません。【読心術】も、ウチには無い、でも」
ざんと一歩前へ。
「ウチにはあなたの【獣】が見える。あなたのきもちわるい触手、一本一本はっきりと!」
「ハァ?いま、なんつったぁ?」
「ウチにはあなたの攻撃は通用しない。そういったんですよ!」
「アタシの…【獣】が、なんつったぁ?」
先端部ですら人の脚ほどの巨大な触手が群れをなして石田に襲い掛かる。
その尋常ならざる圧力を、軽やかにいなし、かわし、翻弄していく。
「無駄です、石川さん。私はまだ『もどき』かもしれない。
でも、あなたに対してならウチは高橋さんと一緒、あなたはウチらには勝てません。」
「へぇ?凄い自信だこと。」
うごめく触手その中央、石川が静かにこちらを睨む。
「そのわりにはアナタ、さっきから逃げ回ってばかりじゃなくて?」
「…」
「それってさぁ、直接アタシに触れる距離に【テレポート】してこれないってことじゃないの?」
「…」
「アタシの【獣】が見えるならわかるもんねぇ…、
アタシの周囲には、誰かが入れる隙間なんかないことが、ねぇ?
この子たちに守られている限り、アンタには、アタシを倒すだけの攻撃手段が、ないんじゃないのぉ?」
沈黙が指摘の正しさを裏付ける。
かつて、高橋は田中の【共鳴増幅】により、研ぎ澄まされた【読心術】で、
見えない【念動力】の動きを読み切り、【瞬間移動】によって、石川の周囲に一瞬生まれた隙間を捉え、これを打倒した。
だが、今の石川に、その隙はない。
石川の周囲には、もはや他者が存在できるスペースが、無い。
巨大な触手の群れ、その根元、石川は、その中心にいた。
「だったらさぁ、これって我慢比べってことよねぇ?
アタシって、これでも結構執念深いの。
どうぞ、いつまででも、逃げ回ったらいいんじゃない?
アタシは、いつまででも、追いかけ続けるだけだからさ、ねぇ?」
『結構』執念深い?いやいや、見たまんま執念深そうだっちゃ…
でも、そんなの何にも怖いことないね!
「逃げ回る?とんでもない、そんなお手間は取らせません、石川さん。」
腰に手を当て、仁王立ち。
「攻撃手段なら!あります!」
「へぇあるんだ?だったらさぁ、さっさと、みせてもらおうかなぁ!」
再び、おぞましい圧力がうねり、石田に向かって殺到した。
投稿日:2015/03/06(金) 01:43:15.03 0
最終更新:2015年03月06日 09:58