『暁の戦隊』(3rdシーズン)

目次

第1話「アフタヌーンコーヒー」

後藤真希離反の報せを受けて、ダークネスの緊急幹部会が召集された。
出席したメンバーが目を疑ったのは、静養中のはずだった安倍なつみが姿を見せていたことだ。
本来中澤が座る席につき、議事を進めようとする安倍に藤本美貴が毒づいた。

「中澤のババアの言うことには従うけど、あんたなんかの指図は受けねえ」

自分は自分の意志で動くと退出していった藤本美貴を制止することもなく安倍は言った。
生前の飯田圭織が安倍に言い残していったいくつかの事柄。
今の後藤真希は自分たちの知っている後藤真希よりも遙かに強大で、単独で世界を滅ぼすチカラを持つ。
今現在で後藤を止めなければ、世界が夜明けを迎えることはない。

「まさか飯田さんは自分に訪れる運命も判っていた?」

ドクターマルシェの疑問に安倍は頷いた。

「因果律の中に後藤を封じ込めるためには、未来と現在を繋ぐことが出来る自分が犠牲になるしかないと言っていた」
「わけ判んねえよ」

矢口真里が今は亡き盟友に対して悲嘆の声を上げる。
「俺」が持ち帰った中澤裕子の指輪は中澤のプライベートロッカーの鍵になっていた。
中に入っていた小型のアタッシュケースを安倍なつみが開封する。

「これはっ」

次回、暁の戦隊3シーズン第1話「アフタヌーンコーヒー」

それは中澤や安倍、飯田。 M創設時のメンバーが掲げていた旗。
その旗に込められた邪悪なるものを打ち砕くという誓いからは遠く離れた場所に今の彼女たちはいた。
泥で汚れ、血に染まった旗に染め抜かれた暁の明星・【モーニング・スター】は、天に向けて突き上げられた拳のように映った。

「…これは中澤裕子の意志であり、飯田圭織の遺志でもある。 私たちダークネスは世界の脅威、後藤真希を討つ…」


第2話「あっぱれ回転ずし!」

「さあさあ、遠慮せんと食べてな」

リゾナントの定休日。
光井愛佳は譜久村聖と鞘師里保を徒もない、とある回転寿司屋にやってきていた。

♪のんびりなんかはやってられない 父ちゃん準備急いでよ

家族連れで賑わう店内には陽気な音楽が流れている。

愛の意識が戻ったのだ。
リゾナントが本来の姿を取り戻す日も近い。
その前祝いもかねて、店を手伝ってくれる二人の労をねぎらうのが今日の目的だ。

♪お寿司が何故好きか大人にわかるかい? 座りゃすぐ食べられてすぐに満腹

屋敷に出張してくる銀座の寿司職人の握った寿司しか食べたことがないという聖は、様々な寿司の載った皿が流れてくる様子に目を丸くしている。


もう一人、里保はというと流れてくる皿を前に固まっている。
リゾナント潜入の任務に就いた最初の頃は拒絶していた愛佳の好意。
それを今では当たり前のように受け止めている自分が許せない。

-香音ちゃんはこんな所に来たことがない-

能力の発現が認められない鈴木香音は、里保の反抗を封じる目的の為だけで、組織に囚われている。
そこで出される食事は栄養学的には理想的だが、食する者への愛情など微塵も感じられない。

「今お腹一杯やったら、お持ち帰り頼んでくれてもええねんで」

♪デザートはほらあれこれ 母ちゃんもまたごきげん

愛佳の言葉を聞いた里保はデザートの皿からプリン二つ手にすると、挨拶もそこそこに出て行った。
そのただならぬ様子を見咎めた聖は里保の座っていた席に手を伸ばす。
【接触感応】で里保の意識や記憶を探るためだ。

「聖ちゃん、それはあかんよ。 今は腹に収めとって。な」

次回、暁の戦隊第2話「あっぱれ回転ずし!」

1時間後、鈴木香音が囚われている黒崎記念病院の特別病棟の通用口に鞘師里保の姿があった。

「頼む。香音ちゃんに渡して欲しいものがあるんじゃ…」


第3話「元気+」

「次はカマキリやりま~す。シャー!!」

看護士とは名ばかりの監視役の命令で、香音は持ちネタを披露させられていた。
香音の逃亡を防ぐため幾層も重ねられている防弾ガラスは音を通さない。
監視役とのやり取りはインターフォンを通してだ。

寺田という関西弁を喋る監視役は、酷薄な表情をサングラスで隠している。
香音の持ちネタを堪能した寺田はさも今思い出したという様子で何かを手にした。

「そういえばさっきかのんちゃんのお友だちのヤッシーがこんなもん持ってきたで」

寺田の掌にはプリンが載っていた。
香音の瞳が喜びで輝くのを見届けた寺田は、プリンをダストボックスに廃棄した。

「この病棟に居る子らにはちゃんと栄養士さんが考えてくれた食事を出してるんやから」

教育と称して寺田に殴られるのも、レクリエーションと称して延々と芸を披露させられるのも平気だ。
だが里保の好意を踏みにじられることは死ぬほどつらい。

-わたしが何もできないから里保ちゃんが-

ヒィィ。

インターフォンは切れているが、香音の鋭敏な耳が悲鳴を捉えた。
蒸しのように這いつくばっている寺田の姿がガラス越しに見えた。
全身は波打ち顔色は蒼白だ。まるでとても強い力で上から押さえつけられているように。
寺田の側には若い女が立っていた。
亜麻色の髪にくっきり通った目鼻立ち。
モデルといっても通用するような身体にパジャマを羽織っている。

その女が能力で寺田を痛めつけていると確信した香音は分厚いガラスを両手で叩いた。
女には聞こえないのは承知で、やめてあげてと叫びながら。

「こいつはあきれた。お人好しにも程がある」

その強大なチカラからは想像できない優しい声が聞こえた。
こんなちんけな男なんか生かしておく価値がないと言いながらそれでもチカラを緩めたその人は香音の顔を見て首を傾げる。

「君はまだ卵のまんまだね」

-この人なら里保ちゃんのこと助けてくれるかも-

友だちを助けて欲しいと身振り手振りで訴える香音にその人は言った。

「君をここから出してあげるのは簡単なんだけど、助けてあげることは出来ない。 君を助けることが出来るのは結局君自身だからね」

次回、暁の戦隊 第3話「元気+」

すれ違う思いにもどかしさを覚えながら、里保以外の人間に初めて優しくしてもらったことは香音を少しだけ元気にした。
バイバイと手を振りながら去っていくその人の後ろ姿を見送りながら、鳥のように自由に空を泳ぐ自分の姿を想像した。

-私を助けるのは私自身-


第4話「銀色の永遠」

ゆらよらと漂うように地上に着地した。
黒崎記念病院の八階の窓から降り立ったのは“最強のG”後藤真希。
その眠たげな目の先には、漆黒のドレスを着た氷の魔女、藤本美貴が傲然と立っていた。

「ふ~ん、一人で来るとは私も軽く見られたもんだね」
「天使様に永遠殺し。 組織の二つ名持ちが総出でお前を討ちに来る」

ダークネスで二つ名を持つ能力者の総動員というその世界の人間が聞けば逃げ出したくなるような事態にも関わらず、後藤は喜んだ。

「やっと本気のなっちと戦えるんだ。 体調は万全じゃないだろうけど、その辺は他のみんなでカバーするだろうし」

藤本が何故その情報を自分に報せたのかをいぶかしむ後藤。

「まさか、私の仲間になりたいとか?」
「気に喰わねえんだよ、何もかも!」

空中から、地中から無数に黒色の槍が無数に出現した。
その切っ先は後藤の心臓のある場所あたりに向けられている。

「氷の魔女ってのは芸名みたいなもんさ。 アタシの本当の能力は凍結ではなくて固めること」

藤本は大気中の窒素、地中の炭素を凝縮、凝固して創り出した無数の槍で後藤を貫いたことを確信した。

「この秘密を知った人間は誰一人生かしておかな…」

槍の切っ先と切っ先が重なった辺りに、後藤が羽織っていたパジャマが滅多刺しになっている。
だがそれを羽織っていた後藤はいない。

「じゃあ私が魔女の秘密を知って生き延びた初めての人間になるんだね。 光栄に思うよ」

背後から聞こえてきた後藤の声には緊張が感じられない。

「お前、そのチカラは? ヒッ!!」

藤本の周囲の地面が陥没した。
藤本の立っている場所を中心に描かれた半径数メートルの円。

「ミキティ、知ってる。 重力が強くなると時間の進むのが遅くなるって」

-そんなことは知っている。 だがそんな事態が起きるのは宇宙空間で発生するブラックホールの近辺でのことだ。 お前は一体?-

「これまで何度やっても上手くいかなかったけど、ミキティの本気の攻撃のおかげで私の本気度もアップしたみたい」

感謝の思いを込めて、藤本のことは潰さないと言った。
気をつけて帰るようにと心配までしてくれた。

次回、暁の戦隊 第4話「銀色の永遠」

数メートルの深さまで陥没した地盤の中で藤本の立っている場所だけが無事だった。
まるで小島のようなその場所で藤本美貴は額ずいた。
後藤真希と自分との間の永遠に縮まることのない距離に心折れた藤本の咽び泣きが聞こえた。


第5話「やめてよ! シンドバッド」

“ディフェンダーズ・オブ・ザ・フラッグ”

都内の治安を守るため、知事である黒崎が発足させた自警団。
青色で統一された制服に赤いベレー帽を身につけた彼らが町をパトロールするようになって、都内の犯罪発生率は激減した。
そんな彼らの実態は、これも黒崎が成立に力を注いだ暴力団規制条例によって廃業を余儀なくされた暴力団員達の受け皿だ。
自分たちの飼い主の名前さえ知らず、獲物を狩る猟犬達。
その猟犬達に光井愛佳は追われていた。
相談して欲しいことがあると鞘師里保に呼び出され、駅前に向かっている所を拘束されかかったのだ。
雑居ビルの立ち並ぶ界隈、取り壊しのため足場を組まれた廃ビルに身を隠していた。
人通りの多い場所を避けたのは、男達が無関係な人間に怪我をさせることをためらわない物腰をしていたからだ。

-アンテナが立っとらん-

電波障害は偶然のことなのか、それとも…。
強く呼べば高橋愛が駆けつけてきてくれるかもしれないが、意識を取り戻したばかりで退院もしていない愛に負担はかけたくない。
無抵抗の人間を痛めつけることに慣れている男達よりも、実戦の経験は踏んでいる。
自力で苦境を脱出することを決意した愛佳の耳が聞き慣れた声を捉えた。

「光井さん、何処ですか」
「里保ちゃん、危ないで」

注意を促そうと小声で囁きかけた愛佳の腕が取られ、その場に捻じ伏せられた。

「東京のヤクザはこんな女一人ようつかまえられんのか」

駆けつけた猟犬達を叱咤した里保は、自分は能力者でありリゾナントをスパイしていた事実を愛佳に告げた。

「能ある鷹は爪を隠すと昔からよく言う」

そして、愛佳は始末されるという。
里保に命令を下している者が、未来を視れる予知能力者のことを恐れているらしい。

「しかし、あんたもこうなることが判らんかったんか」
「未来のことなんか誰にも判らんよ。 私に視えるのは未来に起こりうる出来事の可能性に過ぎないんやから」

たとえ里保が裏切っている可能性が視えたとしても、助けを求めている可能性が少しでもある限り来ないわけにはいかなかった。
真情を明かす愛佳から目を背けて里保は言った。

「あんたの良い人ぶったところは嫌いだったけど、あんたの作った料理は美味かった」

苦しまないようにしてやれと男たちに言い残し、その場を去ろうとする里保に愛佳は呼びかけた。

次回、暁の戦隊 第5話「やめてよ! シンドバッド」

「里保ちゃん、未来は自分の力で変えれるんやで」
「やめてくれっ。 ああっ、わしは香音ちゃんが笑える未来を作るために、あんたを売ってあんたのことを助けに来る仲間を倒す」


第6話「バラライカ」


“ディフェンダー・オブ・ザ・フラッグ”

街の守護者の仮面を被ったならず者たちが昂ぶっていた。
自分たちよりも遥かに年下の鞘師里保に顎で使われたからだ。
光井愛佳を救いに来るかもしれないリゾナンターたちを迎撃する為に、里保が廃ビルから出て行くとその憤懣の矛先は愛佳に向けられた。

「お前がさっさと捕まらねえのがいけねえんだよ!!」

愛佳の所持品を砂埃が積もったビルの床にぶちまける。

「ほぅ、お前ついこの間まで整形外科に通ってたのか」

完治した脚が踏みにじられる。
苦痛の叫び声を上げようとした愛佳の口が塞がれる。

「俺たちディフェンダーが出張ってきてる以上、部外者が入り込むことはないが、もし間抜けな奴が来て巻き添えになったらどうするんだ」

自分たちの優位を確信した男は下卑た笑みを浮かべた。

「間抜けな予言者さんよ。 俺たちの未来を視てくれないか」
「…3分後、あんたら全員この床に倒れてるで」

それを愛佳の負け惜しみと思った男たちの哄笑が響く。 そして…。

「私の仲間と遊んでくれていたみたいね、ありがとう。 今度は私と遊びましょう。 ダンスなんてどうかしら?」

次回、暁の戦隊 第6話「バラライカ」

バラライカ バララライカ バラ ライラ カイカイ

怒りで髪の毛を逆立てた久住小春の放つ雷撃が男たちの足元を襲う。
恐怖のコサックダンスで息を切らし、足下が乱れた男たちが次々と床に倒れ伏していった。


第7話「チャンス!」

光井愛佳を襲撃した男たちを雷撃で一蹴した小春は戦闘態勢を解かずにいた。
男たちを倒した無敵の勢いをそのままに、強気で告げる。

「まだ薄汚いドブネズミが一匹残ってるわね。 鞘師里保、いるんでしょう」

小春の呼びかけに呼応して廃ビルの両隣のビルの壁面の湯沸かし器に繋がっている水道管が弾けた。
取り壊しの始まっている廃ビルの内部に水が振り注ぐ中、鞘師里保が現れた。
倒れている愛佳を挟んで小春と対峙する形だ。

「はじめまして、月島きらりちゃん。 いや、久住小春の方が良かった?」

不敵な態度を貫きながら、愛佳に歩み寄る里保に小春の人差し指が突きつけられた。

「おっと、この状態で私だけにピンポイントで雷撃を当てられるとでも」

水に濡れた愛佳と里保の距離が近すぎる。 このまま雷撃を放てば愛佳まで巻き添えにしてしまいかねない。
一瞬、唇を噛んだ小春は愛佳に微笑みかける。

「愛佳、私のことを信じてくれる?」
「もちろんです、久住さん」

次の瞬間、小春の掌で何かが弾ける音がした。
里保の顔のすぐそこを何かが超高速で通過していく。

「ビルの解体中に出た金具か何かを電磁気で弾いたのか」
「そうよ、今のでコツは掴めたわ」

愛佳から離れるように命じる小春を里保は鼻で笑った。

「今の一発を何故わしに撃ち込まなかった。そんな脅しでわしが降参するとでも?」

出来ることなら里保のことを傷つけたくないという思いが裏目に出たことを悟った小春はそれでも弱気を見せない。

「今度はあんたの左腕を撃つ」
「やってみいや」

掌の上のねじ釘のねじ釘の尖った先端を鞘師に向けた。
錐揉み回転をイメージしながら発動したチカラで発生させた電磁気でネジを飛ばす。

「そんな」

ねじ釘は狙いから大きく逸れ、廃ビルの柱に食い込んだ。
鞘師里保が【アクアキネシス】を発動させ、自分の前方に漂っている水の分子を高速振動させることで、ねじ釘の軌道を変えたのだ。

次回、暁の戦隊 第7話「チャンス!」

「わしを倒す唯一にして最大のチャンスを逃したあんたに勝ち目はない」

淡々と話しながら水の動きを操った。

「このチカラを使っての戦い方を教えてくれた人が言っておった。 洗面器一杯の水で人間は溺死すると」

これまで機会は無かったが、今日それが本当か試させてもらおうと小春の鼻や口から水を浸入させる。
苦悶する小春の人差し指から放たれた雷撃が空しく天へ昇った。

「ふん、悪あがきか。 それとも…」


第8話「怪傑ポジティブA」

…あんた、生田衣梨奈っていうの。 衣梨奈は身体能力も高いし、体技の飲み込みも早いそうだね

-まさか、きらりちゃんも衣梨奈と同じ能力者でしかも正義のヒーローやなんて思わなかったと-

…亀井さんや新垣さんに鍛えてもらったら、今に私なんか敵わないぐらい衣梨奈は強くなる

-お世辞でもきらりちゃんにあんなこと言ってもらえるなんて、夢のようやけん-

…でも今は一人で戦おうと思っちゃだめだよ、なぜなら衣梨奈はまだ自分のチカラを使いこなせていない

だから今夜の捜索で光井愛佳の居場所を見つけても一人で助けようとか思ってはいけないと久住小春は言った。
人手が足りないから衣梨奈にも一人で愛佳の捜索をしてもらうが、少しでも危ないと思ったら絶対に他の誰かに連絡するように衣梨奈に言った小春は堂々としていた。
衣梨奈もそう思っていた。
もし連絡を取れなくなった愛佳を見つけても、他の先輩に連絡しようと思っていた。だが…。

連絡を取ろうと手にした携帯の画面にはアンテナが立っていない。
それはかつて衣梨奈が黒崎の追っ手から逃れようとした時にも起きた現象だ。

-あいつら、また出てきとう-

衣梨奈はほんのついさっき見た稲妻を思い浮かべる。
空は晴れている。
こんな状況でビルとビルが立ち並んだこの辺りで稲妻が自然発生するだろうか。
取り壊し中のビルの上の方からスパークした火花はとても弱々しく、もしそれを放ったのが能力者だったとしたら、その人はかなり危険な状況に陥っているということは衣梨奈にもわかった。
胸騒ぎがする。
自分に自重を促した小春だが、光井愛佳を救おうという気持ちが他の誰よりも高まっていることは衣梨奈の眼にも明らかだった。

-早く誰かに知らせんと-

しかし電波が封鎖されている状況でどうやって他の仲間に連絡を取ればいいのか。
精神感応の能力を持つ高橋愛が退院していればいいのに…。

-翔太郎君はフィリップ君が消えて一人になっても、仮面ライダージョーカーとして風都を守ったっちゃ-
-侑斗はカードが無くなってゼロノスに変身できなくなっても、拳一つでイマジンの群れに立ち向かったっちゃ-
-あの人たちは自分たちのリーダーに大怪我をさせた私のことをボロボロになりながら助けてくれたっちゃ-
-だったら、私は、私は、私は-

自分がやることも決まっていると衣梨奈は思った。
弱さや未熟さを理由に逃げていては、永久にヒーローにはなれない。

-出て来い、私の中の勇気そして出て行け私の中の弱気-

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

次回、暁の戦隊 第8話「怪傑ポジティブA」

心の中に残る怯えを咆哮と共に吐き出した衣梨奈は、廃ビルに足を踏み入れる。
その足取りはかなり頼りないが、その目は戦士のそれだった。


第9話「悲しき恋のメロディ」

うぉぉぉぉぉ!
久住小春をあと一歩のところまで追いつめた鞘師里保の耳に飛び込んできた大きな叫び声。
何かに躓きながら廃ビル内の階段を駆け上ってそいつはやってきた。
生田衣梨奈。 組織が身柄を確保しようと躍起になっていた能力者。
里保の口から投降を促す言葉が発せられたが、それには一切反応せず、意味のない側転に大振りの回し蹴り。
不規則な動きを繰り返す衣梨奈に里保はかなり手を焼いていた。

衣梨奈を仕留めるのは容易いが、大怪我を負わせて再起不能にしては組織の不興を買ってしまう。
そしてその責めは、里保本人でなく鈴木香音が負わされてしまうことになる。
それだけは避けたい里保は、自分の動きに制動をかけていた。
衣梨奈の奔放極まりない攻撃に反応して、致命傷を与えるような反撃を繰り出さないように。

「あんたぁ、全然大したことないっちゃね」

グズグズしていては、戦闘不能に陥っている久住小春が復活してきてしまう。
それなりの場数は踏んでいる光井愛佳に、的確な指示を出されるのも望ましくない。
衣梨奈を仲間から引き離すために、里保は背中を見せて逃走した。
逃げる里保の姿に勢いづいた衣梨奈は、愛佳や小春をその場に残し、追ってくる。

開けた場所から、廃ビル解体の為に組まれている足場に足を踏み出した里保の手には、開栓されたサイダーのペットボトルが握られていた。
久住小春に対した時のように、アクアキネシスで操った水を呼吸器に侵入させて戦闘不能にさせるのが目的だ。

-お前なんかにくれてやるのは勿体ないけどな-

組織の為に働かされるようになる前、香音と1本のペットボトルを分け合って飲んだ時のことが頭に浮かんだ。
隙を突き一気にサイダーを飲み干そうとした香音。
里保監視の目が光っているにも関わらず、大慌てで香音からペットボトルを奪い取った。
記憶の中の二人は笑顔が続く…。

「もう逃げる場所はないとよ」 

足場の上を衣梨奈が近づいてくる。

-ああ、これで終わらせる-

狭い足場の下は地面まで20メートルぐらいの高さ。
避けようのない状況で繰り出した水の槍は、何故か大きく狙いを外した。
うぉぉぉと唸り声を上げながら突進してくる衣梨奈を捌きながら、攻撃が不発に終わった原因と対応策を考える。

-こいつは周囲にいる人間の精神の働きを不調にさせるのか-

思案は決まった。 アクアキネシスが使えないならば、何としてでも体術で捻じ伏せるしかない。
身体を入れ替えながら、隙を窺う里保を衣梨奈の大振りなパンチが襲う。
冷静に見切って無防備な衣梨奈に反撃しようとした里保は自分の体が宙を舞っていることに気付く。

-こいつ、気体を操作できる。 私が液体を動かせるように-

衣梨奈の周囲に居た人間の様子がおかしくなったのは、急激な気圧の変化で潜水病のような症状が出たのだろう。
アクアキネシスで放った水の槍が外れたのは、衣梨奈が周囲の空気を屈折させて、里保の視覚を狂わせたのだろう。
そして、今里保の体が宙を舞っているのは…。

-小さな竜巻を起こしやがった。 それも無意識のうちに能力を暴走させて-

廃ビルに設置された足場から数十メートル上方に吹き飛ばされた里保の目に、悲鳴を上げながら宙を舞っている衣梨奈の姿が映った。
衣梨奈の身体はクルクルと回転しながら廃ビルの隣の雑居ビルのテナントの看板に激突して地上に落ちた。

-ははっ、いい気味じゃ-

衣梨奈は気を失ったのだろう。 里保の身体を宙に浮かせていた空気の奔流も消えた。
急激に落下した里保も廃ビルの足場を掠めて地上に激突した。
次回、暁の戦隊 第9話「悲しき恋のメロディ」

-かのんちゃん、プリンたべて・く・・れ・・・た・・・か-

暗闇の中、薄れ行く意識。 里保をEndless blueが包む。


第10話「好きだな君が」

生田衣梨奈と鞘師里保が激闘を繰り広げた廃ビルに譜久村聖が到着した時、捜索に出ていた他のリゾナンターはみんな顔を揃えていた。
能力で遠隔攻撃が可能な亀井絵里や久住小春、銭琳が防衛線を張り、重傷を負った衣梨奈を動かせるようにするため、道重さゆみが応急の治癒を施しているという。
李純が自分の身体を盾のようにして守る中、道重さゆみが発動させているチカラの煌めきが見えた。
里保の消息を尋ねた聖は苦々しい表情の李純に、ビルの一角に連れて行かれた。

そこには大怪我をした里保がシートにくるまれていた。
傷の応急処置はされているが、呼吸は虫の息で、今にも命の火が消えそうだ。

-確かに里保ちゃんはスパイをしていて、光井さんのことを誘き出したけど、こんな風に放っておくなんて-

自分が甘いことは承知の上で里保にも治癒を施してくれるよう、さゆみに頼もうとした聖の前に李純が立ちはだかった。

「譜久村サンの気持ち判らないでもないけど、道重サンにこれ以上チカラを使わせるわけにはいかないダ」

李純によればさゆみの治癒は、さゆみ自身の生命力を費やして、対象の自然治癒力を昂進させる能力だという。
生田衣梨奈を能力の暴走から救うために高橋愛が負傷して以降、治癒能力をフル稼働してきたさゆみはかなり体力を消耗しているという。

「こんな小さな子がスパイをするなんてきっと事情があるんだろう。だがこの子は光井サンや久住サンの命を奪おうとした。生田さんに大怪我をさせたのもこの子ダ」

電波の封鎖が解けたら、里保のために救急車を呼ぶという李純の言葉に聖は返す言葉もない。

-私がもっと注意深く里保ちゃんのことを視ていたら-
-里保ちゃん、光井さんの好意を頑なに拒んでいた君はとてもかわいくなかったよ-
-でも何かの拍子に君が見せるはにかんだ仕草はとてもかわいくて。 そんな君のことがとても好きだったよ-
-あれも全部嘘だったの-

里保の体の傍らには見覚えのある携帯電話が置かれていた。
転落の衝撃の所為か破損している携帯を、聖は思わず手にとってしまった。


!!
見覚えのない少女の顔が流れ込んでくる。
まんまるなで愛らしい顔をした少女が笑い転げている。
厳しい実験の所為で泣いている彼女。
突然作動するスプリンクラー。 混乱の中を逃げ出す子供たち。
下水道の中を逃げる二人の子供。
お金も、頼るあてもい彼女たちが頼ったのは交番のお巡りさんだった。
優しく対応する警官。 出されたジュースを飲んで眠りにつく彼女。
連れ戻されて、檻の中に閉じ込められて、ひどい懲罰を受けて。
そんな彼女を助ける為に…。

-里保ちゃんは大切な友だちをたった一人で守るためにあんなことを…-
-言わなきゃ。 ジュンジュンさんや道重さんにこのことを言わなきゃ。 里保ちゃんをこのまま死なせちゃいけない-

意を決した聖は李純に詰め寄った。
李純はわかっているという風に首を振った。 顔をかなしみに染めていた李純に声をかけた者がいた。

「ジュンジュン、お願いがあるの」

足下の覚束ない様子で道重さゆみが立っていた。

「道重さん、ジュンジュンは…」
「わかってる。 ありがとうジュンジュン」

自分のことを気遣ってくれた李純に礼を言ったさゆみは、里保を衣梨奈を寝かせている場所まで連れてくるように頼んだ。
二人同時に治癒を施すと。

「そんなことをしたら、道重さんの体が…」

次回、暁の戦隊 第10話「好きだな君が」

「敵も味方も関係ない。 こんなかわいい子がこの年で死んでいい筈がない」

第11話「寒いから冬だもん!~どうもこうもないっすよミキティ~」


ダークネスの幹部会議に反旗を翻し、単独で後藤真希に戦いを挑んだものの、圧倒的な力の前に敗れ去った魔女藤本美貴は紺野あさ美の管轄下にあるラボに身を寄せていた。
部屋の主である紺野あさ美は、外出の用意をしながら美貴に話しかけてくる。

「そのグラフは重力場の歪みを時系列にならべたものなんだけど、いくつか突出した部分があるよね。 その一番新しいところは美貴ちゃんが後藤さんに捻られた時間と一致する」

紺野あさ美によれば、後藤真希は能力によって重力を増大させた座標の時間を停止させているという。

「おい、それってまるで…」
「美貴ちゃんの見立て通りブラックホールそのものだね。 いくら後藤さんが最強の能力者だといっても人間の域を超えている」

時間が停止した座標が地球の自転運動から乖離したことは、地盤にパイルを打ち込んだ形になった。
後藤真希の意図にかかわらず、重力操作を応用した時間停止を連発すれば、地球が崩壊してしまいかねないという推測を淡々と明かす。
だから後藤真希を止めることが、その能力開発に関与した人間としての責務だという紺野あさ美の言葉には微塵の迷いもない。
深化した後藤の能力が世界の深刻な脅威を与えるという事実は、和解の可能性を探っていた保田圭を対後藤戦に踏み切らせる結果になった。

幹部クラスの能力者で編成されたヒットマンチームの派遣とジェットストライカーの編隊による空爆計画が同時進行で進められている。
後藤と幹部チームとの戦いの趨勢を見極めて、空爆のゴーサインを出す役目を紺野あさ美が担ったという。

「動向から推測するに後藤さんはジェノサイダーになるつもりもないらしい。 それを逆手を取る…たくさんの人を巻き添えで死なせてしまいたくないから、みんなに勝って欲しいけど…」

後藤真希とダークネス幹部チーム。 強大な闇のチカラを持った者同士の戦いは一瞬で決まる。
先手を取るために瞬間移動能力者は戦いに加えたいところだが…。

「うちにもテレポーターはいるけど、あの子に後藤さんのプレッシャーを前にして戦えっていうのも酷だしねえ…?」

リゾナンターと共同戦線を張り、高橋愛の力を借りることも考えたが、入院中の病院から姿を消してしまっていて叶わない。
そこで空間裂開能力者である中澤裕子に作戦に参加してもらうという。

「しかし、中澤のオバハンは後藤にこっぴどくやられた上に、捕まってるんじゃなかったのか?」
「だからこれから中澤さんを改造…じゃなくて治療して戦線復帰してもらうために敵地に潜入するんだけどね」

筋肉や靭帯が損傷していることを想定してのハードテーピング、断裂した神経の代替となるナノマシン等を用意した紺野あさ美がラボを出て行く間際に美貴に言った。

「今の後藤さんに単独で勝てる能力者なんていない。 万全の状態の安倍さんや、暴走状態の愛ちゃんでさえ差し違えられるかどうか」

美貴が後藤に敗れたことを卑下することはないと言い残して、紺野あさ美は出て行った。
美貴がこれ以上暗くなるといけないからとCDプレーヤーを作動させて。

♪「寒いから出たくない・・・」 どうもこうもないっすよミキティ

-悪に身を寄せても、科学は人間の幸福のために存在するという信念を貫いていたアイツが、科学の力で多くの人間の命を奪う作戦に参加する-

♪「未来には愛する人と世界旅行ね」とかなんか言ってみたい

-そんなアイツを一人で行かせるとはアタシもとことん腑抜けちまったもんだ-

自分は誰よりも弱い。 その弱さにつけ込まれないように張ってきた虚勢が、後藤真希の圧倒的な存在感の前に吹き飛んでしまった。
体からすっかり力が抜けてしまった。

♪お天気なんだよ出掛けましょ
  いい事ありそうよ

脳天気な歌かけやがって。 CDプレーヤーを止めようとした美貴の目に止まったのは、ジェットストライカーによる空爆の計画書だった。
第一波の気化爆弾を都庁、警視庁と黒崎記念病院を結ぶトライアングルに投下。第二波のクラスター弾がトライアングルを中心とする半径二十キロの範囲に投下。
そして気化爆弾の爆発による建造物の破壊によって変化する気流を想定して炭疽菌の散布。

-おいおい、この町は-

散布された炭疽菌が拡散するコースを示す矢印は、美貴のよく知っている町を掠めている。
そこは宿敵リゾナンターと何度も相対し、敗北を味合わされた場所。
そして魔女のささくれた心に、仄かな明かりを灯した者達が暮らす町。

~魔女さん、今年の夏はたくさんの氷をありがとう。 とても冷たくて気持ち良かったよ。
 来年の夏もぼくたち、わたしたちがんばって節電するからまた氷を作りに来てね。 おねがいします~

節電の夏に受け取った氷の贈り物への感謝状はどこかへやってしまった。

バカなガキどもだ。 流れ弾の氷槍ごときに大層な感謝状やメダルを贈るなんてよ。
あのガキどもは運が悪かったんだ。 たまたま、後藤真希と同じ時代に生まれ、たまたまあの町で暮らして、たまたま…。

次回、暁の戦隊 第11話「寒いから冬だもん!~どうもこうもないっすよミキティ~」

♪春を告げてる美しい花のように 太陽の恵み頂いて美人になるから そう 私 白いスノードロップ

-ふん、どうもこうもないぜ。 とんでもない死亡フラグを自分で立てちまった。 こんな薄汚れたアタシが誰かを助けるとか-

ラボの留守を預かっている「俺」を脅して車を出させた。
座席で自嘲の笑みを浮かべる美貴の手には子供たちの手製のメダルが握られていた。

第12話「友」


~やめろ、かのんちゃんから手を離せ。じゃないと
~じゃないと、何や。貴重な広域支配型の能力者やと思って下手に出てたらつけあがりやがってこのガキが
~私のことはいいから里保ちゃんだけでも逃げて
~そうかいくかい。 ええか、鞘師。 もしお前一人で逃げたりしたらそのとばっちりはお前の友達に行くんやで。

監視役の寺田は同僚の制止を振り切り、警棒を高々と振りかざした。

~これは生意気なお前への教育や。 かわすんやないで、もしかわしたら…

痛っ。
激痛に苛まれ目が覚めた鞘師里保の目の前に一人の女がいた。
まだ寝ていた方がいいと言うその女の顔には見覚えがあった。
高橋愛。二つの陣営に分かれ、闘争を繰り広げる旧世代の能力者たちの一方の雄。
身体の痛みにもかまわず、跳ね起きた里保は愛を床に押し倒し、その喉頸に手をかける。

このままでは指令をしくじった責めを、鈴木香音が負わされてしまう。
愛の首を取ればその失敗も帳消しになると考えた里保は手に力を入れる。

…いつまでこんなことを続けるつもりや

「香音ちゃんはわしのたった一人の友だちじゃけん。 わしが守ってやらな」

…そんなに大切な友だちだったら、なぜ囚われの身から救い出そうとしない?

「お前に何がわかる。 わしらみたいな子供が大人の目から逃れて生きていくことがどんなにむずかしいか」

病院とは名ばかりの監獄から、何度も香音を連れて逃げ出そうとした。
里保の力をもってすれば病棟から逃げ出すことは容易かった。
しかし着のみ着のままの孤児二人には身を隠す場所など無きに等しかった。

最初は善良そうな住民の住む人家に逃げ込んだ。
学校に駆け込んだこともある。
新聞社に全てを打ち明けて保護を求めたこともあった。
しかしいくら真実を訴えても誰も取り合ってはくれなかった。
警察や行政機関を意のままに動かせる黒崎のような男を敵に回す恐ろしさを愛は知らないのだ。

…ああ、それは知らんかったかもしれん

「だったら香音ちゃんの為に死んでくれ」

…黒崎みたいなつまらん男のことなんか知らんけど、もっと大切なことをわたしは知っている

「何!」
「かけがえのない大切な友の為なら、命を賭ける意味がある」
「きれいごとを言うなぁぁぁっ」

どす黒い衝動に身を任せ、愛の頸をへし折ろうとした里保は、その身体が思いの外小さなことに気づく。

-こいつはきれいごとでも絵空事でもなく、仲間の為に命を張ってきた。 こんな華奢な身体で-

次回、暁の戦隊 第12話「友」

「勝手な頼みかもしれん。 わしのことはどうなってもいいから香音ちゃんのことを助けてあげてやってくれ」

自分が能力者であることを自覚してから、大人に対しては自分を偽り続けてきた里保が素直な気持ちを愛に伝えた。

「今から始めよう。 あんたと香音ちゃんのこれからを」

          ◇          ◇          ◇

世間じゃ三連休かもしれなけどこっちは仕事だぜクソッSP「ザ☆ピ~ス!」


波濤逆巻く夜の海を進む高速船の船橋に一人の少女が駆け込んできた。
高橋愛 ― 特務機関Mの研修生である彼女は新たに編成される特殊部隊フィフスのアタッカー候補だ。

愛は今まさに行われている卒業試験を中止するよう、指導役の吉澤ひとみに訴えに来たのだ。
試験の内容は発達中の低気圧に向かって進む船のデッキに掲げられたMの隊旗を夜明けまで風雨から守りぬくこと。

  「麻琴は昨日から熱っぽいし、あさ美ちゃんは足を挫いてるし」
  「で、お前は一人だけこうして船の中で休憩か。 意外にちゃっかりしてるな、期待のホープさんは」

吉澤の毒舌に鼻白みながらも、今行っていることは能力犯罪者を取り締まる為に結成されたMの試験としては相応しくないことを訥々と訴える愛。
  「そりゃ、お前らが第一線に配備されたとして、雨風の中で旗を守りきるなんて任務は有り得ないわな」
  「だったら…」

少しばかり他人と違う能力を手にしたことだけで、神様気取りになって社会のルールを破る凶悪な能力犯罪者は、取り締まる者に対して情け容赦が無いという経験則を吉澤は告げた。
  「その一方で現場を知らないずっと上の奴は能力者のことを魔法使いやスーパーマンのように思ってるみたいだしな」

言ってみれば外憂内患なMの一員がここぞという場面で頼れる武器とは?
  「自分の力?」
  「違えよ、優等生。お前がどれだけ凄くたってお前一人で出来ることなんてたかが知れている」

この終了過程はそれを見つけ出すための場であることを告げた吉澤は愛に確認した。
  「いいのか? 今この瞬間も吹きっさらしのデッキの上で他の奴らは旗を守り続けてるんだろう。 いいのか、お前はそれで?」

弾かれたように船橋を飛びだしていく愛の背中を吉澤の声が追ってくる。

次回、暁の戦隊 世間じゃ三連休かもしれなけどこっちは仕事だぜクソッSP「ザ☆ピ~ス!」

  「隊訓斉唱!」
  「われらの拳は明けの明星。闇を照らし悪を打ち砕く。われらの拳は正義のてっち痛ぇ~」
  「HO~ほら行こうぜ そうだみんな行こうぜ」

それはまだ彼女たちがほんとうのかなしみを知らなかった頃の青春の1ページ。 あの日守り抜いた旗は今も心の中に翻って…。

          ◇          ◇          ◇

第13話「まごころの道」


黒崎記念病院に囚われている鈴木香音を救出すべく動き出したリゾナンター。
Mで潜入工作の経験がある愛と里沙、病院内部の構造を知っている里保の三人が救出に向かう。
深手の傷を負っている愛佳と衣梨奈、負傷者の治癒で力を使い切ったさゆみが残るリゾナントは絵里と小春が守る。
そして…比較的体力に余裕のあるれいな、ジュンジュン、リンリン、聖は愛たちの潜入を助けるため、病院から離れた場所で陽動作戦を行うことになった。

なかば黒崎の私兵と化した警察を混乱させるべく、重要拠点に設置されている防犯カメラ群をストップさせることにした四人は二手に分かれた。
れいなと聖の組はビルの壁面に半身を埋没させている女を見つけた。

女の名は三好絵梨香。 【不可視】能力者岡田唯と共に、石川梨華の直属武官として働く【瞬間移動】能力者だ。
魂が抜けたような絵梨香から何とか事情は聞き出した。
後藤真希との決戦に備えて、中澤裕子を奪還すべく警視庁内部に潜入した際に、空間を捻じ曲げる異様なチカラを感知した絵梨香は一人逃げ出してしまった。
パニックで座標計算を間違ってしまいめり込んでしまったビルから抜け出そうとしても、力は発動しないという。

 「大事な任務も大切な仲間も放って逃げた報いがこのザマさ」

絵梨香は自分のことを楽にしてくれるようれいなに頼んだ。
自分を恐怖させた能力者、後藤真希に見つかる前に。 裏切った仲間に粛清される前に。

頬を打たれた痛みが絵梨香の言葉を止めた。

次回、暁の戦隊 第13話「まごころの道」

 「あんたがこんなところで一人落ち込んでる間も、あんたの仲間はあんたが来ることを信じて戦っとるかもしれん」
 「私には無理さ。 あんたたちのリーダーみたくGのプレッシャーに耐えながら、何人もの仲間を引き連れて長距離を跳ぶなんて」

追い続けてきた高橋愛の背中との距離は全然縮まってない。 だけど自分は諦めず追い続けていくと告げたれいなは聖を伴って次の目的地に向かう。

 「今度リゾナントに来んね。 れいなの淹れたコーヒーおごっちゃるけん」

…ちくしょう、あんなチビでペチャパイのくせにすべてを知ってるみたいなこと言いやがって

まごころの道を歩いていくれいなの後ろ姿を見つめる絵梨香の目に強い光が…。



















最終更新:2012年07月15日 21:01