罪と罰(前編)◆tt2ShxkcFQ
私は、男の人が怖い。
男の人に近づかれるだけで殴りつけてしまう癖は、昔から変わらず、今も治らない。
きっかけは私が幼い頃、お父さんに「男は皆オオカミだ」と脅された事だ。
男の人が悪役のビデオやDVDばかりを見せられ続け、一時期は本当に男の人は私の事を食べるものだと思っていた。
昔はそのせいで男の子からは怖がられ、女の子からは変な目で見られて、友達も少なかった気がする。
きっかけは私が幼い頃、お父さんに「男は皆オオカミだ」と脅された事だ。
男の人が悪役のビデオやDVDばかりを見せられ続け、一時期は本当に男の人は私の事を食べるものだと思っていた。
昔はそのせいで男の子からは怖がられ、女の子からは変な目で見られて、友達も少なかった気がする。
けれど、そんな私も高校生になって。
ワグナリアでアルバイトをするようになって。
小鳥遊君と出会って。
彼が男性恐怖症を治す事に、協力してくれるようになって。
ワグナリアでアルバイトをするようになって。
小鳥遊君と出会って。
彼が男性恐怖症を治す事に、協力してくれるようになって。
彼のことを、好きになって。
私は本当に、男性恐怖症を治したいと思った。
そうすれば、きっと今以上に小鳥遊君と仲良くなれる。
いつか読んだ恋愛小説みたいに、恋をする事が出来る。
……そう、思ってたんだ。
そうすれば、きっと今以上に小鳥遊君と仲良くなれる。
いつか読んだ恋愛小説みたいに、恋をする事が出来る。
……そう、思ってたんだ。
だけど、やっぱり思った通りには行かないんだね。
いきナり知らなイ場所に連れてこらレテ。
いきナり知らなイ場所に連れてこらレテ。
*し合イをしろと言われテ。
彼が*サレそうになっテ。
彼を*そうトシテイたのハ、やっパリ男ノ人で……。
男の人ハ怖カッタケド、それ以上ニ憎クナッてシマッタ。
……その時、アノ声が聞こエタんダ。
……その時、アノ声が聞こエタんダ。
『力が欲しいか?』
私ハ藁をも掴ム思いで、そノ問いに答エタ。
『力が欲しいならば』
そノ後の事ハ、よク覚えていナイ。
『くれてやる』
……タダ、大切ナ何カヲ、失ッテシマッタ気ガシタ。
『力の契約は成された。
我はジャバウォック、我の邪魔をするものは何人たろうと許さん。
全てを潰し、壊し、殺し、滅してやろう』
我はジャバウォック、我の邪魔をするものは何人たろうと許さん。
全てを潰し、壊し、殺し、滅してやろう』
◇ ◇ ◇
太陽は西へと沈み、夕日が空を赤く染めていた。
あらゆる場所に取り付けられているスピーカーは、低い男の声で空気を震わせ、辺りに響かせている。
時刻は午後六時、第三回目の放送は滞りなく進行していた。
あらゆる場所に取り付けられているスピーカーは、低い男の声で空気を震わせ、辺りに響かせている。
時刻は午後六時、第三回目の放送は滞りなく進行していた。
しかし、その放送内容に反応する余裕もなく、ゾロ、ヴァッシュの両名は伊波と睨みあっている。
伊波のその姿は数分前とは違う……。
右腕は禍々しく変形し、目元には放射状の線が広がり、口元は裂けて笑みを作っている。
そしてその目に宿るのは、身を射すような殺意。
伊波のその姿は数分前とは違う……。
右腕は禍々しく変形し、目元には放射状の線が広がり、口元は裂けて笑みを作っている。
そしてその目に宿るのは、身を射すような殺意。
「来るぞ!」
「マヒル……!」
「マヒル……!」
二人がそう叫んだのを合図にするかのように、先に仕掛けたのは伊波。
ゾロが構え、ヴァッシュが悔しそうに歯を軋ませるとほぼ同時。
地を蹴り、真っ直ぐにゾロとの距離を詰める。
そして伊波の巨大な腕は、ゾロの喉を引き裂くべく突き出された。
ゾロはそれに対し、刀の刃を逆向きにして右腕を強打する。
辺りに金属音が響き、ゾロはその腕の軌道を逸らしてかわした。
そして大きく地面を蹴って、後ろへと飛びのく。
ゾロが構え、ヴァッシュが悔しそうに歯を軋ませるとほぼ同時。
地を蹴り、真っ直ぐにゾロとの距離を詰める。
そして伊波の巨大な腕は、ゾロの喉を引き裂くべく突き出された。
ゾロはそれに対し、刀の刃を逆向きにして右腕を強打する。
辺りに金属音が響き、ゾロはその腕の軌道を逸らしてかわした。
そして大きく地面を蹴って、後ろへと飛びのく。
「ふぅ」
大きく息を吐き、ゾロは伊波の姿を見つめる。
伊波が身にまとっている紺色のブレザー、その右半身部分は血にまみれで、赤黒く染まっていた。
あれは本人の血なのだろうか、それともあの潰された仮面男の血なのだろうか?
そして何よりも目立つのが、その右腕。
本人に不釣合いなほど大きく、禍々しいその右腕は、少し前までは持っていなかったものだ。
これは伊波が隠し持っていた能力の1つなのか……。
それが以前チョッパーが暴走してしまった時と同様に?
分からない……分からない事だらけだ。
しかし、こんな所で殺されるわけには行かない。
こちらに敵意を向けるのならば、それに答えるしかないだろう。
伊波が身にまとっている紺色のブレザー、その右半身部分は血にまみれで、赤黒く染まっていた。
あれは本人の血なのだろうか、それともあの潰された仮面男の血なのだろうか?
そして何よりも目立つのが、その右腕。
本人に不釣合いなほど大きく、禍々しいその右腕は、少し前までは持っていなかったものだ。
これは伊波が隠し持っていた能力の1つなのか……。
それが以前チョッパーが暴走してしまった時と同様に?
分からない……分からない事だらけだ。
しかし、こんな所で殺されるわけには行かない。
こちらに敵意を向けるのならば、それに答えるしかないだろう。
ゾロは眼光を鋭くして、刀を構えなおした。
「だ、駄目だっ!」
ヴァッシュの叫び声が耳に入る。
「安心しろ、殺しはしねぇよ」
「でもっ」
「お前もやる気がねぇなら下がってろ、邪魔だ」
「でもっ」
「お前もやる気がねぇなら下がってろ、邪魔だ」
伊波から視線を外さずに、ゾロはそう答える。
ヴァッシュは苦虫を噛み潰したような顔をして、伊波へと向き直る。
ヴァッシュは苦虫を噛み潰したような顔をして、伊波へと向き直る。
「マヒルっ!お願いだからやめてくれ!
僕は君と戦いたくなんかないっ!」
僕は君と戦いたくなんかないっ!」
悲痛な叫びが辺りへと響く。
しかし伊波は、微塵も反応を見せることは無い。
敵意を向けてきたゾロに対し、ジリジリとにじり寄ってきている。
そして次の瞬間、獣のような叫び声が辺りを包み、再び伊波は地面を蹴った。
駆ける伊波、それを見据えて、ゾロは刀を握る掌に力を入れた。
ゾロの頭を狙った、豪腕の薙ぎ払い。
それをゾロはギリギリまでそれを引き付け、身を屈めてかわす。
そして屈んだ足をそのままバネにし、前方へと地面を蹴った。
伊波とゾロは交錯し、鈍い打撃音が辺りに響く。
しかし伊波は、微塵も反応を見せることは無い。
敵意を向けてきたゾロに対し、ジリジリとにじり寄ってきている。
そして次の瞬間、獣のような叫び声が辺りを包み、再び伊波は地面を蹴った。
駆ける伊波、それを見据えて、ゾロは刀を握る掌に力を入れた。
ゾロの頭を狙った、豪腕の薙ぎ払い。
それをゾロはギリギリまでそれを引き付け、身を屈めてかわす。
そして屈んだ足をそのままバネにし、前方へと地面を蹴った。
伊波とゾロは交錯し、鈍い打撃音が辺りに響く。
次の瞬間、伊波は音も無く崩れ落ちた。
ゾロはすれ違いざまに、刀の峰で頭を一閃したのだ。
ゾロはすれ違いざまに、刀の峰で頭を一閃したのだ。
いくらARMSの力を使用しているとはいえ、伊波は一介の女子高生だ。
普通……とは言いがたい力を持っているとはいえ、戦闘経験も無い。
完全体となり、全身をナノマシンが侵食しているのならばともかく、
脅威なのはその右腕のみ、他は生身の体なのだ。
それに加えて出力の制限、戦闘面の学習の初期化。
力のみでいえばゾロを凌駕するだろうが、その他の面では百戦錬磨のゾロには敵わなかった。
……いや、ゾロだけではない。
戦闘術に精通している人間ならば、今の伊波はさほど驚異的な存在とは言えないだろう。
普通……とは言いがたい力を持っているとはいえ、戦闘経験も無い。
完全体となり、全身をナノマシンが侵食しているのならばともかく、
脅威なのはその右腕のみ、他は生身の体なのだ。
それに加えて出力の制限、戦闘面の学習の初期化。
力のみでいえばゾロを凌駕するだろうが、その他の面では百戦錬磨のゾロには敵わなかった。
……いや、ゾロだけではない。
戦闘術に精通している人間ならば、今の伊波はさほど驚異的な存在とは言えないだろう。
「マ、マヒルっ!」
ヴァッシュは叫び、血相を変えて伊波の下へと駆け寄る。
「言っただろ、殺しはしねぇって。峰打ちだ」
「だからって、頭を強打する事はないだろ!鬼!悪魔!」
「あのなぁ……じゃあ、他にいい案があったか?」
「だからって、頭を強打する事はないだろ!鬼!悪魔!」
「あのなぁ……じゃあ、他にいい案があったか?」
先程の真剣な表情とはうってかわり、コミカルな表情でまくし立てるヴァッシュに、ゾロは顔を顰めながら答える。
「でも……よかった、マヒルを殺さずにすんで」
「まだ解決はしてねぇだろ、目を覚ましてもイナミは正気に戻ってないかも知れねぇ」
「それでも……きっと何か方法があるよ」
「……だといいがな」
「まだ解決はしてねぇだろ、目を覚ましてもイナミは正気に戻ってないかも知れねぇ」
「それでも……きっと何か方法があるよ」
「……だといいがな」
そう言って、ゾロは刀を納める。
「相当強く打ったからな、当分目をさまさねぇぞ」
そうしてゾロは仮面の男へと足を向けた。
もう息絶えている事は分かっているが……
何者なのか、何か道具を持っていないか、調べる必要があると考えたからだ。
もう息絶えている事は分かっているが……
何者なのか、何か道具を持っていないか、調べる必要があると考えたからだ。
……確かに、正面からぶつかれば第一形態のARMSではゾロには敵わないだろう。
だがしかし、ゾロは知らなかった。
ARMSのナノマシンが全身を回り、身体能力及び再生能力を著しく向上させていることを。
そしてナノマシン集合体である右腕にとって、定まった形等無いということを。
だからこそ、ゾロはその攻撃に反応するのが遅れてしまった。
だがしかし、ゾロは知らなかった。
ARMSのナノマシンが全身を回り、身体能力及び再生能力を著しく向上させていることを。
そしてナノマシン集合体である右腕にとって、定まった形等無いということを。
だからこそ、ゾロはその攻撃に反応するのが遅れてしまった。
伊波は突如飛び起き、地面を蹴ってゾロへと猛進する。
そして振りぬいた右腕はまるでゴム人間の様に伸び、音も無くゾロへと迫った。
そして振りぬいた右腕はまるでゴム人間の様に伸び、音も無くゾロへと迫った。
それに一番最初に気が付いたのはヴァッシュ。
「あ……」
危ない。
そう叫ぶ暇も無く、その右腕はゾロに届こうとしている。
突進力、それに加えて腕が伸びるという予想外の出来事。
その二つの推進力は合わさり、まるで弾丸のような加速を思わせた。
それでもゾロは、その腕が自らに届く前に気が付いたようだ。
異様な気配に咄嗟に反応したゾロだが、出来た事は異変の方向へと体を向けることのみ。
その禍禍しい爪を防御する手立ては、間に合いそうにない。
次の瞬間、ゾロへと忍び寄る死の影に、いくつもの鉛の塊が当たった。
辺りに響くのは火薬の爆ぜる音。
神速の早撃ち……ヴァッシュの手に持った愛銃の銃口からは、一筋の煙が空へと登っていた。
しかしその右腕は止まらない、胸を狙った一撃必殺の爪は
銃撃によって推進力を削がれ、狙いもブレたものの、ゾロの腹へと深々と突き刺さった。
そう叫ぶ暇も無く、その右腕はゾロに届こうとしている。
突進力、それに加えて腕が伸びるという予想外の出来事。
その二つの推進力は合わさり、まるで弾丸のような加速を思わせた。
それでもゾロは、その腕が自らに届く前に気が付いたようだ。
異様な気配に咄嗟に反応したゾロだが、出来た事は異変の方向へと体を向けることのみ。
その禍禍しい爪を防御する手立ては、間に合いそうにない。
次の瞬間、ゾロへと忍び寄る死の影に、いくつもの鉛の塊が当たった。
辺りに響くのは火薬の爆ぜる音。
神速の早撃ち……ヴァッシュの手に持った愛銃の銃口からは、一筋の煙が空へと登っていた。
しかしその右腕は止まらない、胸を狙った一撃必殺の爪は
銃撃によって推進力を削がれ、狙いもブレたものの、ゾロの腹へと深々と突き刺さった。
「ぐぁっ……!!」
ゾロの体はくの字へと折曲がり、ミシミシと体を軋ませる。
そしてそのまま居館の方へと吹き飛ばされた。
ゾロを殴り飛ばした伊波は、右腕に付いた赤い血糊をみて禍禍しく笑い、次にヴァッシュへと視線を移した。
そしてそのまま居館の方へと吹き飛ばされた。
ゾロを殴り飛ばした伊波は、右腕に付いた赤い血糊をみて禍禍しく笑い、次にヴァッシュへと視線を移した。
次はお前だ。
伊波の目が、それを物語っている。
頭から一筋の血を流しながら、伊波はヴァッシュへと敵意を向けた。
頭から一筋の血を流しながら、伊波はヴァッシュへと敵意を向けた。
「そんな……マヒル、どうしてっ」
銃を持つ手に力を入れて、ヴァッシュは背筋に悪寒が走るのを感じた。
「レム……僕は、どうすれば……」
◇ ◇ ◇
「はぁ……はぁ……」
耳に入ってくるのは、自分の走る足音、そして乱れる呼吸音。
「小鳥遊くーん!!」
大声で叫ぶが、まだ返事は返ってきていない。
新庄は今、居館の一階部分を駆け回り、小鳥遊の姿を探している。
乱れた呼吸を整えるように、新庄は手を膝について足を止めた。
新庄は今、居館の一階部分を駆け回り、小鳥遊の姿を探している。
乱れた呼吸を整えるように、新庄は手を膝について足を止めた。
佐山は言っていた。
小鳥遊こそが伊波さんを救う鍵になると。
立ち止まり、呼吸を整えながら新庄は思い返す。
小鳥遊こそが伊波さんを救う鍵になると。
立ち止まり、呼吸を整えながら新庄は思い返す。
……今でも信じることが出来ない。
伊波さんはこの会場に連れて来られてから、今に至るまでずっと行動を共にしていた仲間だ。
多少変わった所もあったし、何度も何度も殴られてきたけれど。
あんな事を望む子じゃない、あんな笑い方をする子でもない。
伊波さんはこの会場に連れて来られてから、今に至るまでずっと行動を共にしていた仲間だ。
多少変わった所もあったし、何度も何度も殴られてきたけれど。
あんな事を望む子じゃない、あんな笑い方をする子でもない。
「きっと……苦しんでるよ」
そう呟くと、新庄は顔を上げて再び走り始める。
一階部分は一通り見て回った、残るはここより上のフロア。
新庄は階段を見つけると、逸る気持ちに身を任せて駆け上がった。
そして階段を登りきったとき、異様な臭いが鼻腔を突く。
一階部分は一通り見て回った、残るはここより上のフロア。
新庄は階段を見つけると、逸る気持ちに身を任せて駆け上がった。
そして階段を登りきったとき、異様な臭いが鼻腔を突く。
「血の……臭い、まさかっ!」
新庄はデイバックからリボルバーの拳銃を取り出し、グリップを強く握り締める。
出来れば使いたくはない……。
自分の欠点、戦場において相手の命を奪う事に躊躇いを感じてしまい、力を行使できない。
ここぞという場面で、その欠点が前面に出てしまったら……。
大事な友人を、それだけではない多くの人を失ってしまうかもしれない。
自分の欠点、戦場において相手の命を奪う事に躊躇いを感じてしまい、力を行使できない。
ここぞという場面で、その欠点が前面に出てしまったら……。
大事な友人を、それだけではない多くの人を失ってしまうかもしれない。
静かに音をたてず、廊下へと足を踏み出した新庄は、目を見開いた。
廊下の向こうに同年代の男の子が一人、呆然として砕けた窓から外を見つめている。
そしてそのすぐ側には、虚ろな瞳で壁に寄りかかっている水銀燈の姿が見えた。
この現状はどういうことなのだろうか。
把握できないが、脅威は脅威、水銀燈への警戒を怠らずに新庄は駆け出した。
廊下の向こうに同年代の男の子が一人、呆然として砕けた窓から外を見つめている。
そしてそのすぐ側には、虚ろな瞳で壁に寄りかかっている水銀燈の姿が見えた。
この現状はどういうことなのだろうか。
把握できないが、脅威は脅威、水銀燈への警戒を怠らずに新庄は駆け出した。
「動かないでっ」
水銀燈の手前数メートルで足を止め、銃を構えながら新庄は叫んだ。
その叫び声に反応し、小鳥遊と水銀燈の視線がその銃へと集中する。
水銀燈が動きを見せない事を確認、小鳥遊へと視線を移して新庄は口を開いた。
その叫び声に反応し、小鳥遊と水銀燈の視線がその銃へと集中する。
水銀燈が動きを見せない事を確認、小鳥遊へと視線を移して新庄は口を開いた。
「君は小鳥遊君だ━━」
「やめろぉぉ!」
「やめろぉぉ!」
本人の確認をしよう声を出した新庄の声を遮るように、小鳥遊は叫んだ。
そして銃と水銀燈の間に割り込み、水銀燈を抱きしめるように庇う。
そして銃と水銀燈の間に割り込み、水銀燈を抱きしめるように庇う。
「何でだよ!何でみんなそんな簡単に命を奪おうとするんだ!」
「ちょっ、違うよボクは」
「だったらその銃は何だよ!もうこの子は何にも出来ないって事くらい見れば分かるだろ!」
「でも、そいつは!」
「いいから銃を降ろせよっ」
「ちょっ、違うよボクは」
「だったらその銃は何だよ!もうこの子は何にも出来ないって事くらい見れば分かるだろ!」
「でも、そいつは!」
「いいから銃を降ろせよっ」
そういって振り向いた小鳥遊の顔には、恐怖、怒り、悲しみ、混乱……。
数多くの感情が渦巻いていて、平静を伺うことは出来なかった。
その間水銀燈は、虚ろな瞳で小鳥遊の顔を見つめているだけ……幸いにも何かを起こす気配はない。
数多くの感情が渦巻いていて、平静を伺うことは出来なかった。
その間水銀燈は、虚ろな瞳で小鳥遊の顔を見つめているだけ……幸いにも何かを起こす気配はない。
「分かった、分かったから落ち着いてよ」
そう言って、デイバックへと自分の銃を放り込むと、新庄は両手を上げた。
勿論有事に即対応するため、ファスナーは開いたままだ。
勿論有事に即対応するため、ファスナーは開いたままだ。
「落ち着いて質問に答えて。君は小鳥遊君だよね?」
息を切らし、疑惑の瞳でこちらを見つめている相手に新庄は問いかける。
その名前を言った瞬間、新庄は小鳥遊の瞳に生気が戻るのを感じた。
「佐山君からの伝言、伝えるよ。
伊波さんを助けるには君の力が必要だ、すぐに居館入り口まで来るように」
「えっ……」
「伊波さんだよっ、助けたくないの?」
「伊波さん……やっぱりアレは、伊波さんなのか?」
伊波さんを助けるには君の力が必要だ、すぐに居館入り口まで来るように」
「えっ……」
「伊波さんだよっ、助けたくないの?」
「伊波さん……やっぱりアレは、伊波さんなのか?」
小鳥遊の問いに、新庄は頷いて答える。
「そんな……じゃあ伊波さんは、人を殺し……」
「違うよっ!」
「違うよっ!」
小鳥遊の言葉を遮るように、新庄は叫んだ。
「アレは伊波さんだけど……でも、今は伊波さんじゃない!」
「……え?」
「伊波さんはあんな事しない、あんな笑い方するもんかっ!
それは小鳥遊君、君が一番分かってるはずだろっ」
「君は……」
「僕はここに来てから、ずっと伊波さんと一緒に居たんだ……。
伊波さんはずっと、君の事を心配してたんだよ」
「……え?」
「伊波さんはあんな事しない、あんな笑い方するもんかっ!
それは小鳥遊君、君が一番分かってるはずだろっ」
「君は……」
「僕はここに来てから、ずっと伊波さんと一緒に居たんだ……。
伊波さんはずっと、君の事を心配してたんだよ」
新庄の言葉を聞き、ふと視線を窓の外の伊波へと向ける。
今は黒いコートを着た男と、目にも留まらぬ攻防を繰り広げていた。
今は黒いコートを着た男と、目にも留まらぬ攻防を繰り広げていた。
「伊波さんは何かに操られてるだけなんだ!
お願い、伊波さんを助けてあげてよっ」
お願い、伊波さんを助けてあげてよっ」
必死にかわし、逃げる外套の男へとその右腕を振るう伊波の顔は、狂喜に歪んでいる。
まるで破壊を楽しんでいるかのような友人の姿に、小鳥遊は思わず目を逸らした。
そして心に、ささくれのようなモノを感じる。
……それは焦燥感と、僅かばかりの罪悪感。
まるで破壊を楽しんでいるかのような友人の姿に、小鳥遊は思わず目を逸らした。
そして心に、ささくれのようなモノを感じる。
……それは焦燥感と、僅かばかりの罪悪感。
そして考える。
小鳥遊は伊波の男嫌いを治そうと、それなりに手伝ってきた。
一番近くに居る分、伊波に殴られてきた回数ならばきっとどんな男にだって負けないだろう。
意味の分からないタイミングや、事故で近づきすぎて殴られた事もある。
しかし、どんな時だって彼女は笑いながら人を殴った事なんてない。
泣き、怯え、時に照れ、赤面しながら男を殴る伊波だが、
そんな彼女に対して悪意や恐怖等を感じることは無かった。
震える足に力を入れて、小鳥遊は新庄を見つめた。
小鳥遊は伊波の男嫌いを治そうと、それなりに手伝ってきた。
一番近くに居る分、伊波に殴られてきた回数ならばきっとどんな男にだって負けないだろう。
意味の分からないタイミングや、事故で近づきすぎて殴られた事もある。
しかし、どんな時だって彼女は笑いながら人を殴った事なんてない。
泣き、怯え、時に照れ、赤面しながら男を殴る伊波だが、
そんな彼女に対して悪意や恐怖等を感じることは無かった。
震える足に力を入れて、小鳥遊は新庄を見つめた。
「助ける事が、出来る……?」
確かめるように、小鳥遊は呟いた。
「佐山君は出来るって、そう言っていたよ」
新庄がそう答えた後、数秒の沈黙がその場を包む。
そして小鳥遊がしゃがみ、水銀燈を正面に見据えると口を開いた。
そして小鳥遊がしゃがみ、水銀燈を正面に見据えると口を開いた。
「俺は君に、謝らないといけない事がある」
水銀燈は何も答えない。
「君は……ローゼンメイデンだろ?」
水銀燈は視線を動かし、小鳥遊の顔を見つめた。
「俺は……蒼星石ちゃんを守る事が出来なかった」
その言葉を聞いて、水銀燈の瞳に驚きが走る。
「一緒に居たのに、最後を看取ってあげることも出来なかったんだ……」
「……ローザミスティカは?」
「えっ?」
「ローザミスティカを持っているのなら、出しなさいっ!」
「……ローザミスティカは?」
「えっ?」
「ローザミスティカを持っているのなら、出しなさいっ!」
そう叫ぶと、水銀燈は残った左腕で小鳥遊の胸倉を掴んだ。
「手を離せッ!」
新庄は間髪を居れず叫ぶと、デイバックへから銃を取り出して水銀燈へと照準を合わせた。
しかし小鳥遊は、それを遮るように新庄へと手を向けて拒絶の意を表わす。
しかし小鳥遊は、それを遮るように新庄へと手を向けて拒絶の意を表わす。
「ローザミスティカってものが何なのかは分からないけど、俺はそれを持っていないよ」
「あの子が死んだのなら、その体からローザミスティカが飛び出したはずよっ!」
「……ごめん、襲われて離れ離れになってしまったから。蒼星石ちゃんの遺体を見たわけじゃないんだ」
「あの子が死んだのなら、その体からローザミスティカが飛び出したはずよっ!」
「……ごめん、襲われて離れ離れになってしまったから。蒼星石ちゃんの遺体を見たわけじゃないんだ」
その言葉を聞いて、水銀燈の腕は力尽きるように小鳥遊から離れた。
「もう……あんな思いはしたくないんだ。
だから、だから!君の事は僕が守って見せるから。もうこれ以上人を殺さないでくれないか」
だから、だから!君の事は僕が守って見せるから。もうこれ以上人を殺さないでくれないか」
声を震わせながら、小鳥遊は水銀燈を見据える。
「守る……あなたが?私を?馬鹿にしないで頂戴」
水銀燈はあざけ笑いながら口を開く。
「あなたの様な人間に守ってもらうほど、私は弱くなんてないわ。
……それにもういいのよ、私はジャンクになってしまった、もうアリスになんてなれない。
もうお父様にも会えない、この殺し合いにだって勝ち残れない。
それに……」
……それにもういいのよ、私はジャンクになってしまった、もうアリスになんてなれない。
もうお父様にも会えない、この殺し合いにだって勝ち残れない。
それに……」
脳裏に浮かぶのは1つの詩、一人の少女。
もうあの壊れた媒介にだって、会う事は叶わないだろう。
気付けば、水銀燈の頬には一筋の涙が流れていた。
もうあの壊れた媒介にだって、会う事は叶わないだろう。
気付けば、水銀燈の頬には一筋の涙が流れていた。
「君は壊れないっ!」
水銀燈の言葉を遮るように、小鳥遊は叫んで水銀燈の両肩を掴む。
「だって、まだ君は生きているじゃないか。
考えることも出来るし、現に傷ついて涙を流しているじゃないか!
確かに俺には力は無いけど、それでもっ……。
もう嫌なんだ。
蒼星石ちゃんや、吉良さんが死んでしまったって分かったときのあの無力感も。
罪悪感も、怒りも、悲しみも。
もう俺は、あんなの耐えられないよ……」
考えることも出来るし、現に傷ついて涙を流しているじゃないか!
確かに俺には力は無いけど、それでもっ……。
もう嫌なんだ。
蒼星石ちゃんや、吉良さんが死んでしまったって分かったときのあの無力感も。
罪悪感も、怒りも、悲しみも。
もう俺は、あんなの耐えられないよ……」
相手の真っ直ぐな瞳を見て、水銀燈は思わず視線を外す。
「小鳥遊君、早く行かないとっ」
固唾を呑んで見守っていた新庄は、焦りを声に乗せてそう言った。
「必ず、迎えに来るから……それまで君はここで待っててくれ」
そう言うと、小鳥遊は立ち上がって新庄へと向き直る。
そして頷くと、廊下をひた走り階段の方へと駆けていった。
そして頷くと、廊下をひた走り階段の方へと駆けていった。
その場に残ったのは、水銀燈と新庄の二人。
銃を片手に握った新庄に、水銀燈は口を開く。
銃を片手に握った新庄に、水銀燈は口を開く。
「……殺すなら殺しなさい。
私はこのゲームに乗っているし、降りるつもりはないわよ」
「ボクは、君を許す気は無いけど……でも、殺さないよ」
「はぁ?」
「君は、小鳥遊君に助けられたんだ」
「何ですって?」
「何も力を持たないって馬鹿にしてた彼に、助けられたんだよ」
「ち、違うわっ!」
「ボクは、小鳥遊君が何も力を持たないなんて思わない。
君が死を選ぶのも、この場から離れるのも、小鳥遊君を待つのも自由だから、好きにすればいい」
私はこのゲームに乗っているし、降りるつもりはないわよ」
「ボクは、君を許す気は無いけど……でも、殺さないよ」
「はぁ?」
「君は、小鳥遊君に助けられたんだ」
「何ですって?」
「何も力を持たないって馬鹿にしてた彼に、助けられたんだよ」
「ち、違うわっ!」
「ボクは、小鳥遊君が何も力を持たないなんて思わない。
君が死を選ぶのも、この場から離れるのも、小鳥遊君を待つのも自由だから、好きにすればいい」
水銀燈は、新庄を睨みつけながら体を震わせている。
「……ボクも、もう行くよ」
そう言って、水銀燈に背を向ける。
後ろへの警戒を解く事は無く、新庄も駆け出した。
後ろへの警戒を解く事は無く、新庄も駆け出した。
「これで良かったんだよね、佐山君……」
伊波の断末魔の叫び声が、頭にフラッシュバックする。
しかし、それを振り払うかのように新庄は首を振って、そう呟いた。
しかし、それを振り払うかのように新庄は首を振って、そう呟いた。
◇ ◇ ◇
「随分久々だねゾロ君、空を遊泳するほど元気が溢れているようで何よりだ。
折角の再会だ、ここは感動の涙を流したほうがいいかね?」
「あ”ぁ?テメェは」
折角の再会だ、ここは感動の涙を流したほうがいいかね?」
「あ”ぁ?テメェは」
居館の方角へと吹き飛ばされたゾロ、それを壁に突っ込む前に受け止めたのは、佐山だった。
その体に似合わない筋肉質な左腕でゾロを受け止めた佐山は、すぐさま乱暴にゾロを地面に捨てた。
ゾロは頭を地面に打ちつけ、声を荒げる。
その体に似合わない筋肉質な左腕でゾロを受け止めた佐山は、すぐさま乱暴にゾロを地面に捨てた。
ゾロは頭を地面に打ちつけ、声を荒げる。
「痛ぇ!テメェ佐山!受け止めたのならもう少し丁寧に━━」
「静かにしたまえ、放送を聞き逃してしまう」
「静かにしたまえ、放送を聞き逃してしまう」
佐山はゾロを無視して、放送内容をメモへと書き記していく。
そういえば放送が流れていたか、と今更ながらにゾロは空を見上げる。
そして相変わらずにマイペースな佐山、そんな佐山を見てゾロは口元を緩めた。
この会場に飛ばされて、初めて再会する参加者。
殺し合いという異常な状況、そしてウソップやルフィが死んだという事実。
そこから考えても、稀有な事だということはゾロにも分かった。
だがしかし、辺りを見て1つの事に気が付いた。
そういえば放送が流れていたか、と今更ながらにゾロは空を見上げる。
そして相変わらずにマイペースな佐山、そんな佐山を見てゾロは口元を緩めた。
この会場に飛ばされて、初めて再会する参加者。
殺し合いという異常な状況、そしてウソップやルフィが死んだという事実。
そこから考えても、稀有な事だということはゾロにも分かった。
だがしかし、辺りを見て1つの事に気が付いた。
「おい佐山……小鳥遊の奴はどうした」
「小鳥遊君なら、今は迷子になっている……困ったものだね。
恐らくはこの近くに居るよ」
「小鳥遊君なら、今は迷子になっている……困ったものだね。
恐らくはこの近くに居るよ」
その言葉を聞いて、ゾロは安堵のため息をつく。
佐山の変わっている左腕も気になったが、今は触れないことにした。
そして次に、腹部のケガの具合を確認する。
腹には一筋の荒い裂傷。
皮膚が歪な形で裂け、肉が見えるが、内臓までは達して居なかったようだ。
刀での防御は間に合わなかったとはいえ、攻撃には気が付く事は出来た。
意識の外の攻撃と、意識で確認してからの攻撃、それは同じ力でも、被害には雲泥の差が出る。
それに加えてヴァッシュの銃撃で威力が削がれた伊波の右腕は、ゾロの腹筋を貫く事は出来なかったのだ。
視線を伊波とヴァッシュへと移す。
必死に逃げ回る相手へ、伊波はその右腕を振るい続けている。
しかし、攻撃をかわしているヴァッシュには未だ余裕があるように見えた。
佐山の変わっている左腕も気になったが、今は触れないことにした。
そして次に、腹部のケガの具合を確認する。
腹には一筋の荒い裂傷。
皮膚が歪な形で裂け、肉が見えるが、内臓までは達して居なかったようだ。
刀での防御は間に合わなかったとはいえ、攻撃には気が付く事は出来た。
意識の外の攻撃と、意識で確認してからの攻撃、それは同じ力でも、被害には雲泥の差が出る。
それに加えてヴァッシュの銃撃で威力が削がれた伊波の右腕は、ゾロの腹筋を貫く事は出来なかったのだ。
視線を伊波とヴァッシュへと移す。
必死に逃げ回る相手へ、伊波はその右腕を振るい続けている。
しかし、攻撃をかわしているヴァッシュには未だ余裕があるように見えた。
カチ、と言う音が耳に届く、音の元へと視線を移すと、佐山はメモとペンを鞄の中に放り込んでる。
どうやら放送は終わったようだ。
どうやら放送は終わったようだ。
休んでいる訳には行かない、ヴァッシュへの加勢も必要だろう。
そう思い立ち上がろうとしたゾロの肩を、佐山は左腕で強く押し付ける。
そう思い立ち上がろうとしたゾロの肩を、佐山は左腕で強く押し付ける。
「やめたまえ、致命傷では無いようだが血が流れすぎている。
それに腹部以外のケガも重そうだ」
「その手をどけろ佐山、お前に指図させる筋合いはねぇ」
「ふむ、確かに一理あるね」
それに腹部以外のケガも重そうだ」
「その手をどけろ佐山、お前に指図させる筋合いはねぇ」
「ふむ、確かに一理あるね」
そう言って頷き、佐山はあっさりと手を離した。
「だがその前にゾロ君、伊波嬢について知っている情報を吐いて行ってくれたまえ」
再び伊波の元へと向かおうとしていたゾロへ、佐山は遮るように問いかける。
そしてゾロは、顔を顰めながら佐山へと視線を移す。
そしてゾロは、顔を顰めながら佐山へと視線を移す。
「一度しかいわねぇぞ。
……とはいえ、俺も分かっている事なんて殆どねぇぞ。
イナミはあの能力の暴走のせいなのか、自我が無い。
手当たり次第、目に入った奴を襲っている感じだ。
ついさっきまであんな右腕はもっていなかった……あれが原因かもしれねぇ」
「能力……意識が無い?」
「あぁ、ヴァッシュの呼びかけにも反応が無かったからな。
んであの腕を弾いたときは金属音がした、少なくとも普通の腕じゃない」
「金属音……」
「あぁ……それじゃあ俺は行くぞ」
……とはいえ、俺も分かっている事なんて殆どねぇぞ。
イナミはあの能力の暴走のせいなのか、自我が無い。
手当たり次第、目に入った奴を襲っている感じだ。
ついさっきまであんな右腕はもっていなかった……あれが原因かもしれねぇ」
「能力……意識が無い?」
「あぁ、ヴァッシュの呼びかけにも反応が無かったからな。
んであの腕を弾いたときは金属音がした、少なくとも普通の腕じゃない」
「金属音……」
「あぁ……それじゃあ俺は行くぞ」
そう言うと、ゾロはヨロヨロと覚束ない足取りでヴァッシュとイナミの元へ向かおうとする。
しかし次の瞬間、ゾロ耳には骨と骨がぶつかり合う鈍い音が響いた。
そしてゾロは意識を失って、前のめりに倒れこむ。
そこには筋肉質の左腕を伸ばしきり、綺麗にストレートを叩き込んだ佐山の姿があった。
しかし次の瞬間、ゾロ耳には骨と骨がぶつかり合う鈍い音が響いた。
そしてゾロは意識を失って、前のめりに倒れこむ。
そこには筋肉質の左腕を伸ばしきり、綺麗にストレートを叩き込んだ佐山の姿があった。
「情報ありがとう、ゾロ君。
いわゆるドクターストップという奴だよ、私は医者ではないがね。
何、礼には及ばんよ。
君が口で言っても聞かない事くらいは、最初に会った時に学ばせてもらっていた。
それに今の不意打ちが避けれない程弱っているようでは、死ににいくような物だと思わないかね?」
いわゆるドクターストップという奴だよ、私は医者ではないがね。
何、礼には及ばんよ。
君が口で言っても聞かない事くらいは、最初に会った時に学ばせてもらっていた。
それに今の不意打ちが避けれない程弱っているようでは、死ににいくような物だと思わないかね?」
佐山は気を失っている相手に、満足そうに話をする。
そして伊波へと視線を向けて、その右腕を睨んだ。
そして伊波へと視線を向けて、その右腕を睨んだ。
「大体の状況は理解できた……。
新庄君や小鳥遊君の話から考えれば、彼女はあのような力は持っていないはずだ。
難儀な事だね、人の心を蝕み暴走をさせる力……」
新庄君や小鳥遊君の話から考えれば、彼女はあのような力は持っていないはずだ。
難儀な事だね、人の心を蝕み暴走をさせる力……」
佐山の耳に足音が聞こえてくる。
その方角へと視線を向けると、小鳥遊のが駆けてくるのが見えた。
その方角へと視線を向けると、小鳥遊のが駆けてくるのが見えた。
「さぁ……吉と出るか凶と出るか。
我々に残された選択肢はさほど多くはない。
小鳥遊君、伊波嬢。
君たちに幸運が残っている事を切に願おう」
我々に残された選択肢はさほど多くはない。
小鳥遊君、伊波嬢。
君たちに幸運が残っている事を切に願おう」
そう呟くと、小鳥遊の方角へと足を向けて歩みだす。
◇ ◇ ◇
「マヒルっ、やめてくれ!」
伊波の右腕が、ヴァッシュの急所を狙う。
喉を狙った突き、心臓を狙った袈裟斬りのような一撃。
ヴァッシュはそれらを横に、後ろに、転がるように避け続ける。
喉を狙った突き、心臓を狙った袈裟斬りのような一撃。
ヴァッシュはそれらを横に、後ろに、転がるように避け続ける。
こう言っては何だが、ヴァッシュは逃げるだの避けるだのという事は慣れてしまっている。
制限が加わってるとはいえ、人間を遥かに超えるその身体能力。
それに加え、過去には600億$$(ダブドル)という多額の賞金を狙う輩から逃げ、
人命を見捨てないという信条によって数々のトラブルに巻き込まれる日々。
それらの経験は無駄にはならず、事実未だジャバウォックの攻撃は一度も当たっていない。
制限が加わってるとはいえ、人間を遥かに超えるその身体能力。
それに加え、過去には600億$$(ダブドル)という多額の賞金を狙う輩から逃げ、
人命を見捨てないという信条によって数々のトラブルに巻き込まれる日々。
それらの経験は無駄にはならず、事実未だジャバウォックの攻撃は一度も当たっていない。
だがしかし、徐々にその差は迫りつつあった。
伊波はヴァッシュが攻撃してこないという事を理解したのか、防御を捨てた捨て身の攻撃を繰り返す。
それに加え、ナノマシンであるジャバウォックは急速に戦闘を学習している。
次々に逃げの一手を潰されていくヴァッシュの内心には、焦りが生まれていた。
伊波はヴァッシュが攻撃してこないという事を理解したのか、防御を捨てた捨て身の攻撃を繰り返す。
それに加え、ナノマシンであるジャバウォックは急速に戦闘を学習している。
次々に逃げの一手を潰されていくヴァッシュの内心には、焦りが生まれていた。
「くそっ、どうすれば……どうすればいいんだ」
ゾロがやったように、気絶させるしか道は無い様に思える。
……だがしかし、ゾロの強力な一閃を用いても気絶しなかった伊波に対し、
どれほどの力を行使すればいいのか……ヴァッシュにはそれが分からない。
……だがしかし、ゾロの強力な一閃を用いても気絶しなかった伊波に対し、
どれほどの力を行使すればいいのか……ヴァッシュにはそれが分からない。
伊波は尚も地を蹴り、ヴァッシュとの距離を詰める。
頭を狙ったその右腕を、ヴァッシュは屈んでかわした。
そして持っている銃の銃口を、右腕の肘へと向ける。
頭を狙ったその右腕を、ヴァッシュは屈んでかわした。
そして持っている銃の銃口を、右腕の肘へと向ける。
ヴァッシュに残された道は1つ、急所以外を打ち抜き、戦闘力を奪う事。
病院が存在しないこの場所において、それはとても高いリスクを伴う。
足を撃てば移動が困難になり、手を撃てば自分の身を守る事もままならない。
太い血管を打ち抜けば、それだけで致命傷になりえるだろう。
だからこそ、狙うのは異形の右腕、そしてその間接部。
ゾロが刀を振るったとき、金属音が響いたのは覚えている。
何処まで有効なのかは分からない、だがしかし、有効な手段は他に思いつかなかった。
病院が存在しないこの場所において、それはとても高いリスクを伴う。
足を撃てば移動が困難になり、手を撃てば自分の身を守る事もままならない。
太い血管を打ち抜けば、それだけで致命傷になりえるだろう。
だからこそ、狙うのは異形の右腕、そしてその間接部。
ゾロが刀を振るったとき、金属音が響いたのは覚えている。
何処まで有効なのかは分からない、だがしかし、有効な手段は他に思いつかなかった。
しかし、伸びきった右腕、そこへヴァッシュが引き金を引こうとした瞬間。
ヴァッシュの脳裏には、眉間に穴が穿たれたベナウィの姿が映りこむ。
それは相手を無力化させようとした共通の行動が、フラッシュバックさせた記憶。
ベナウィは右肩を、伊波は右肘を。
頭では理解していても、心が叫んでいた。
銃口を引き絞ろうとした指が、動かない。
ヴァッシュの脳裏には、眉間に穴が穿たれたベナウィの姿が映りこむ。
それは相手を無力化させようとした共通の行動が、フラッシュバックさせた記憶。
ベナウィは右肩を、伊波は右肘を。
頭では理解していても、心が叫んでいた。
銃口を引き絞ろうとした指が、動かない。
「えっ……」
そして一瞬呆けたヴァッシュのその隙を、伊波は見逃さなかった。
屈んだヴァッシュへ、その右腕を振り下ろす。
拳を作り、上から叩き潰すかのように。
屈んだヴァッシュへ、その右腕を振り下ろす。
拳を作り、上から叩き潰すかのように。
「ぐあっ」
辺りに響くのは鈍い殴打音。
後頭部を殴りつけられたヴァッシュは、そのまま地面へと叩きつけられる。
辛うじて繋いだ意識で、ヴァッシュは全身に命令を送った。
立て、逃げろ、防御をしろ。
次の攻撃が恐らく自分の命を奪う。
それが分かっていても、ヴァッシュの体は動かない。
全身が痺れ、呼吸さえままならない。
後頭部を殴りつけられたヴァッシュは、そのまま地面へと叩きつけられる。
辛うじて繋いだ意識で、ヴァッシュは全身に命令を送った。
立て、逃げろ、防御をしろ。
次の攻撃が恐らく自分の命を奪う。
それが分かっていても、ヴァッシュの体は動かない。
全身が痺れ、呼吸さえままならない。
誰かの叫び声が聞こえた気がする。
新庄の叫び声か、ゾロの怒声か。
ヴァッシュには分からなかったが、もう最後が近いのだろうと悟ることは出来た。
新庄の叫び声か、ゾロの怒声か。
ヴァッシュには分からなかったが、もう最後が近いのだろうと悟ることは出来た。
……しかし、いつまで経っても次の一撃は訪れない。
ヴァッシュは未だ言う事を聞かない体を、それでも無理やり伊波の方を見上げる。
伊波は腕を振り上げたまま、何故かこちらを見ていない。
ヴァッシュは未だ言う事を聞かない体を、それでも無理やり伊波の方を見上げる。
伊波は腕を振り上げたまま、何故かこちらを見ていない。
そして伊波の視線の方角へと目を向けると、そこにはメガネをかけた青年が、一人たっていた。
◇ ◇ ◇
瞳を閉じる、脳裏に浮かぶのは真っ白な病室。
そこから聞こえる、美しい歌声。
そして心臓に持病を持ち、自分の死を待ち続け、自分の事をジャンクだといって憚らない少女。
水銀燈が唯一心を許した少女、柿崎めぐ━━水銀燈の螺子を巻いた人間。
そこから聞こえる、美しい歌声。
そして心臓に持病を持ち、自分の死を待ち続け、自分の事をジャンクだといって憚らない少女。
水銀燈が唯一心を許した少女、柿崎めぐ━━水銀燈の螺子を巻いた人間。
「死は余りにも甘美な誘惑とは……よく言ったものよね」
めぐが言った言葉を思い出し、自虐ぎみそう呟く。
あの子は今、何を思っているだろうか。
いきなり居なくなった自分を思い、歌ってくれているのだろうか。
それとも……気にする事も無く、一人で死を待ち続けているだろうか。
めぐは言っていた、自分の事を壊れた子だと。
実際に壊れた身になっても分からない。
どうしてあの子は、あんなにも平然と振舞っていたのだろう。
あの子は今、何を思っているだろうか。
いきなり居なくなった自分を思い、歌ってくれているのだろうか。
それとも……気にする事も無く、一人で死を待ち続けているだろうか。
めぐは言っていた、自分の事を壊れた子だと。
実際に壊れた身になっても分からない。
どうしてあの子は、あんなにも平然と振舞っていたのだろう。
水銀燈は右腕の切断面、そして折れた右の翼を左手で撫でた。
「私も、本当のジャンクになってしまった……。
もう、アリスになることも、お父様に会うことも叶わない」
もう、アリスになることも、お父様に会うことも叶わない」
居館二階、廊下の壁にもたれかかりながら、水銀燈は動かない。
何故、こうなってしまったのだろうか。
何故、こうなってしまったのだろうか。
いきなり、訳の分からない殺し合いに参加させられた。
それは今まで行ってきたアリスゲームとは似て非なるもので……。
人間達の参加者にまぎれて、姉妹たちも参加しているという事が分かった。
都合がいいと思った。なかなか決着が付かないアリスゲームを進めるいい機会だと思った。
普通の人間ならば負ける要素はない、人間を無駄に殺す事は余り好きではないが、
優勝をして帰るためならば、それも気にする程ではなかった。
それは今まで行ってきたアリスゲームとは似て非なるもので……。
人間達の参加者にまぎれて、姉妹たちも参加しているという事が分かった。
都合がいいと思った。なかなか決着が付かないアリスゲームを進めるいい機会だと思った。
普通の人間ならば負ける要素はない、人間を無駄に殺す事は余り好きではないが、
優勝をして帰るためならば、それも気にする程ではなかった。
しかし、現状はどうだろう……
同じローゼンメイデンである翠星石、蒼星石は既に死に、残っているのは真紅と自分だけ。
参加している人間達は一癖も二癖もある強者揃い。
ローザミスティカの行方も分からず、水銀燈は体を欠損してジャンクになってしまった。
同じローゼンメイデンである翠星石、蒼星石は既に死に、残っているのは真紅と自分だけ。
参加している人間達は一癖も二癖もある強者揃い。
ローザミスティカの行方も分からず、水銀燈は体を欠損してジャンクになってしまった。
今、冷静に考えると馬鹿げていると思う。
神聖なアリスゲームを穢された……。
アリスゲームに、人間の横槍を入れられてしまった。
ドールズが死ぬのは、あくまでアリスゲームの中で無ければならないはずだ。
悪意を持った人間がドールを殺し、そこから出たローザミスティカを手に入れたとして。
……それはアリスゲームを勝ち抜いた事になるだろうか?お父様は認めてくれるだろうか?
神聖なアリスゲームを穢された……。
アリスゲームに、人間の横槍を入れられてしまった。
ドールズが死ぬのは、あくまでアリスゲームの中で無ければならないはずだ。
悪意を持った人間がドールを殺し、そこから出たローザミスティカを手に入れたとして。
……それはアリスゲームを勝ち抜いた事になるだろうか?お父様は認めてくれるだろうか?
……分からない。
水銀燈は、目的のためならば手段は選ばない覚悟がある。
それがたとえ横取りだろうと、奪い取る形になろうと、ローザミスティカを手に入れるつもりで居た。
だがしかし、強大な力を目の前にして、水銀燈の心は確実に弱っていた。
水銀燈は、目的のためならば手段は選ばない覚悟がある。
それがたとえ横取りだろうと、奪い取る形になろうと、ローザミスティカを手に入れるつもりで居た。
だがしかし、強大な力を目の前にして、水銀燈の心は確実に弱っていた。
脳裏に蘇るのは、圧倒的な力を持って二人の男を蹂躙するゼロの姿。
一人の男はドアに叩きつけられ、
もう一人の男は首を締め上げられて、
まるで赤子の手をひねるように、二人の男を死へ至らしめた。
一人の男はドアに叩きつけられ、
もう一人の男は首を締め上げられて、
まるで赤子の手をひねるように、二人の男を死へ至らしめた。
自分の体が震えるのを、水銀燈は感じた。
恐怖━━今まで余り体感する事が無かったその感情。
水銀燈はその感情への対処が、余りに下手だったのだ。
ゼロを倒さない限り、優勝して帰ることは不可能。
もし帰ったとしても、アリスになる事は出来ない。
優勝して体を直すという手段もあるだろう。
だがしかし、お父様から頂いたこの体をギラーミンなどに弄らせる事を、
プライドが高い水銀燈が許すわけも無かった。
恐怖━━今まで余り体感する事が無かったその感情。
水銀燈はその感情への対処が、余りに下手だったのだ。
ゼロを倒さない限り、優勝して帰ることは不可能。
もし帰ったとしても、アリスになる事は出来ない。
優勝して体を直すという手段もあるだろう。
だがしかし、お父様から頂いたこの体をギラーミンなどに弄らせる事を、
プライドが高い水銀燈が許すわけも無かった。
「もう、仕方が無いじゃない」
そう言って、水銀燈は近くに落ちている大きなガラス片へと右手を伸ばす。
血の通っていない右手は血を流す事は無い。
だが確かに、手のひらに傷が付くのを感じた。
少しだけ顎を上げ、首元を晒す。
血の通っていない右手は血を流す事は無い。
だが確かに、手のひらに傷が付くのを感じた。
少しだけ顎を上げ、首元を晒す。
「さようなら。お父様……めぐ。
私の命なんて、最初から正しくなかった」
私の命なんて、最初から正しくなかった」
そう呟いた水銀燈は、また自分が媒介と同じ言葉を言った事に気が付き。
目を見開いた。
目を見開いた。
父親の事に無関心を装いながら。
冷たく突き放されたとき、めぐは泣き崩れながらそう言っていた。
自分の死を、父親の死を望むめぐ。
しかしそれ以上に、めぐは父親の愛情を欲していた。
その姿が、今の自分と重なる。
水銀燈には分かった、考えるまでも無かったのだ。
自分の事をジャンクだと知っていて、平然としていられる訳など無い。
めぐは今、水銀燈を求めている、探している。
水銀燈の事を天使と呼ぶその少女は、最後の拠り所であるその天使までもを失おうとしているのだ。
冷たく突き放されたとき、めぐは泣き崩れながらそう言っていた。
自分の死を、父親の死を望むめぐ。
しかしそれ以上に、めぐは父親の愛情を欲していた。
その姿が、今の自分と重なる。
水銀燈には分かった、考えるまでも無かったのだ。
自分の事をジャンクだと知っていて、平然としていられる訳など無い。
めぐは今、水銀燈を求めている、探している。
水銀燈の事を天使と呼ぶその少女は、最後の拠り所であるその天使までもを失おうとしているのだ。
カラン、と音をたてて、水銀燈の右手からガラス片が落ちた。
「……そしてそれは、今の私も同じよね」
頬に伝うのは、一筋の涙。
自分の世界に帰りたい、めぐの元へ戻りたいと、水銀燈は心の底からそう考える。
しかし、それでもどうしようもない現実が目の前にはある。
ゼロという最大の壁。
自分を敵視している人間の数々。
それに加え、自分は壊れかけている。
自分一人の力ではどうしようも無い事など、日を見るよりも明らかであった。
やはりダメなのかと、諦めかけたその時。
水銀燈の頭に声が囁く。
自分の世界に帰りたい、めぐの元へ戻りたいと、水銀燈は心の底からそう考える。
しかし、それでもどうしようもない現実が目の前にはある。
ゼロという最大の壁。
自分を敵視している人間の数々。
それに加え、自分は壊れかけている。
自分一人の力ではどうしようも無い事など、日を見るよりも明らかであった。
やはりダメなのかと、諦めかけたその時。
水銀燈の頭に声が囁く。
『止めて見せるさ……勿論、君も守ってね』
それは寂しそうな顔をし、全てを覚悟したようなヴァッシュ・ザ・スタンピードの言葉。
『君は壊れないっ!』
それは水銀燈よりも力が弱いはずで、親しい人間へ危害を加えたにも関わらず。
水銀燈を守り、助けたいと言った小鳥遊宗太の言葉。
水銀燈を守り、助けたいと言った小鳥遊宗太の言葉。
どんなに拒絶しようと、二人は事実水銀燈の散るはずだった命を救った。
今更助けて欲しいなんて言う資格は無いと言うことは水銀燈自身自覚している。
今更助けて欲しいなんて言う資格は無いと言うことは水銀燈自身自覚している。
だがしかし……もう一度、もう一度だけチャンスがもらえるならば……。
水銀燈は体に力を込めて、立ち上がる。
体の節々には鈍い痛みが走るが、行動に大きな支障が出るほどではなさそうだ。
体の節々には鈍い痛みが走るが、行動に大きな支障が出るほどではなさそうだ。
「守られるだけなんて御免だわ……
私は戻って見せる、めぐの元へ……どんな方法を使ってでも」
私は戻って見せる、めぐの元へ……どんな方法を使ってでも」
それはアリスという夢に敗れた水銀燈にとって、今までとは違う一歩。
自分の為だけではなく、近しい人間の為。
水銀燈は生き残るための一歩を、今踏み出した。
自分の為だけではなく、近しい人間の為。
水銀燈は生き残るための一歩を、今踏み出した。
◇ ◇ ◇
「伊波さんっ!駄目だっ!!」
辺りに怒声が響き渡る。
その声の主、小鳥遊は息を切らしながら伊波を真っ直ぐと見据えている。
ヴァッシュを殴り倒し、トドメを刺そうとしていた伊波は、突如聞こえてきた声に反応してその身を固めていた。
その声の主、小鳥遊は息を切らしながら伊波を真っ直ぐと見据えている。
ヴァッシュを殴り倒し、トドメを刺そうとしていた伊波は、突如聞こえてきた声に反応してその身を固めていた。
「俺ですよ伊波さん、小鳥遊です。分かりますか?」
小鳥遊ははっきりとした口調でそう言った。
体が震えるのを隠すように、両手の握る拳に力を入れる。
体が震えるのを隠すように、両手の握る拳に力を入れる。
「う……ぁ……」
小鳥遊の問いかけに反応したのか。
うめき声と共に、突如伊波は両腕で頭を抱えた。
伊波がこの場で見せる、初めての変化。
それを感じた小鳥遊は、まくし立てるように叫ぶ。
うめき声と共に、突如伊波は両腕で頭を抱えた。
伊波がこの場で見せる、初めての変化。
それを感じた小鳥遊は、まくし立てるように叫ぶ。
「伊波さん!正気に戻ってください!俺は……」
「うルサい!!!」
「うルサい!!!」
伊波の声とも、他の声とも付かない大声が、辺りに響く。
そして顔を上げた伊波の目に映るのは、明確な敵意。
あの電車内……ラズロから向けられたような威圧感が、こちらに向けられているのが分かる。
そして顔を上げた伊波の目に映るのは、明確な敵意。
あの電車内……ラズロから向けられたような威圧感が、こちらに向けられているのが分かる。
「い……伊波さん?」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら、伊波は地を蹴って小鳥遊へと突進してくる。
「そんなっ、如何して……!」
泣きそうな声を出しながら、小鳥遊は秘剣“電光丸”を抜いて構えた。
一縷の望みを絶たれたような、悲壮感を表情に乗せながら、小鳥遊は確認するように思い出す。
先程佐山と合流し、話し合った作戦は極簡単なもの。
1つ、伊波の意識が無い事を確認する。
1つ、小鳥遊ならば伊波の意識を呼び戻せる可能性があるはずだ。
問いかけ、揺さぶり、その可能性にかける。
先程佐山と合流し、話し合った作戦は極簡単なもの。
1つ、伊波の意識が無い事を確認する。
1つ、小鳥遊ならば伊波の意識を呼び戻せる可能性があるはずだ。
問いかけ、揺さぶり、その可能性にかける。
結論から言えば、伊波は問いかけに対しての反応はあった。
……だがしかし、伊波は未だ暴走をやめず、小鳥遊へと攻撃対象を移したようだ。
意思の疎通が出来なければ、交渉をする事も出来ない。
よって伊波が自分であの右腕を制御する事は、ほぼ不可能と見て間違いないだろう。
……だがしかし、伊波は未だ暴走をやめず、小鳥遊へと攻撃対象を移したようだ。
意思の疎通が出来なければ、交渉をする事も出来ない。
よって伊波が自分であの右腕を制御する事は、ほぼ不可能と見て間違いないだろう。
『……そして最後の1つ、
これは出来れば避けたい道がだが、恐らくはこの方法に頼る事になるだろう』
これは出来れば避けたい道がだが、恐らくはこの方法に頼る事になるだろう』
佐山が真剣な顔つきで言ったその言葉が、小鳥遊の脳裏に浮かび上がる。
それは、暴走の原因だと思われるあの右腕を排除する事。
幸運な事に、今現在小鳥遊達の所持品にはそれに適した支給品がある。
刀で切り落とせば出血多量で死んでしまうかもしれない。
それに加えて慎重に切り落とすのならば、伊波の体を押さえ込む必要も出てくるだろう。
しかし……『つけかえ手袋』さえ使用すれば、そんな心配も無くなる。
刀で切り落とせば出血多量で死んでしまうかもしれない。
それに加えて慎重に切り落とすのならば、伊波の体を押さえ込む必要も出てくるだろう。
しかし……『つけかえ手袋』さえ使用すれば、そんな心配も無くなる。
それは少しの力を加えるだけで、まるで最初から外れるパーツだったかのように、その部分を外す事が出来る。
出血する心配も、押さえつける必要も無い。
佐山は残り回数に限りがあるその道具を、この場で使う決断をした。
出血する心配も、押さえつける必要も無い。
佐山は残り回数に限りがあるその道具を、この場で使う決断をした。
だが、同時に佐山は言っていた。
腕を外せば伊波が戻るなどという保証は何処にも無い、と。
しかし、これが伊波を救える可能性がある唯一の手段だという事は、小鳥遊も理解していた。
腕を外せば伊波が戻るなどという保証は何処にも無い、と。
しかし、これが伊波を救える可能性がある唯一の手段だという事は、小鳥遊も理解していた。
ここでの小鳥遊の役割は、伊波を揺さぶり、動揺を誘い、隙を作る事。
そして佐山が死角より忍び寄り、その右腕を奪う。
そして佐山が死角より忍び寄り、その右腕を奪う。
地を蹴り、全力で此方へと向かってくる伊波を見つめ、小鳥遊は自らを落ち着かせるようにため息を吐いた。
そして持っている電光丸を闇雲に振り回す。
佐山の助言どおり、強く握り、決して取り落とす事が無いように。
次に小鳥遊は伊波を見つめて、右後方へ飛びのくことのみにに意識を集中した。
これも佐山の助言……脅威となるのが右腕のみならば、伊波にとって左側に逃げる事でその射程から逃れやすくなる。
そして持っている電光丸を闇雲に振り回す。
佐山の助言どおり、強く握り、決して取り落とす事が無いように。
次に小鳥遊は伊波を見つめて、右後方へ飛びのくことのみにに意識を集中した。
これも佐山の助言……脅威となるのが右腕のみならば、伊波にとって左側に逃げる事でその射程から逃れやすくなる。
伊波の顔からは先程の禍々しい笑みは消えている。
そしてその右腕を振るうべく、小鳥遊の目の前に足を踏み込んだ。
その瞬間、小鳥遊は右後方へと飛びのく。
それに構うことなく、伊波は凶暴な右腕を振りぬいた。
案の定、小鳥遊は射程の外に出る事などは叶わず、鋭い爪が命を奪おうと迫ってくる。
そしてその右腕を振るうべく、小鳥遊の目の前に足を踏み込んだ。
その瞬間、小鳥遊は右後方へと飛びのく。
それに構うことなく、伊波は凶暴な右腕を振りぬいた。
案の定、小鳥遊は射程の外に出る事などは叶わず、鋭い爪が命を奪おうと迫ってくる。
次の瞬間、辺りに響き渡るのは金属音、そして自分の体が何かに押し出される感覚。
攻撃に恐怖し、目を瞑っている小鳥遊の手に痺れるような衝撃が走った。
手に持っている電光丸が迫り来る腕を完璧なタイミング、角度で迎撃したのだ。
攻撃に恐怖し、目を瞑っている小鳥遊の手に痺れるような衝撃が走った。
手に持っている電光丸が迫り来る腕を完璧なタイミング、角度で迎撃したのだ。
恐る恐る瞳を開く。
そして自分の体を確認する……手が若干痺れるが、何処にも怪我は無い。
そして自分の体を確認する……手が若干痺れるが、何処にも怪我は無い。
たとえ目を瞑っていようと、内蔵レーダーで相手を感知し、振り回すだけで闘う事が出来る電光丸。
そしてその電光丸が行ったのは防御でも、受け流す事でもない。
いくら技術を機械で補えたとしても、力まで補えるわけではないのだ。
防御するには力が足りず、受け流すには体術も重要になってくる。
よって小手先しか使えない電光丸が選択したのは押し出す事。
そして押し出したのはジャバウォックではなく、使用者の小鳥遊の体だ。
迫り来る爪にめがけて、衝撃を殺すように両腕を用いて突いた。
後方へと飛びのいていた小鳥遊は、その力を借りて範囲外へと出る事になる。
そしてその電光丸が行ったのは防御でも、受け流す事でもない。
いくら技術を機械で補えたとしても、力まで補えるわけではないのだ。
防御するには力が足りず、受け流すには体術も重要になってくる。
よって小手先しか使えない電光丸が選択したのは押し出す事。
そして押し出したのはジャバウォックではなく、使用者の小鳥遊の体だ。
迫り来る爪にめがけて、衝撃を殺すように両腕を用いて突いた。
後方へと飛びのいていた小鳥遊は、その力を借りて範囲外へと出る事になる。
予想外の健闘に驚きながらも、小鳥遊は伊波を真っ直ぐに見据えた。
そして伊波の顔を見て少し驚く。
そして伊波の顔を見て少し驚く。
あぁ……そうだ、まだ希望を捨てるべきではない。
伊波さんはまだ、生きている。
必死にあのバケモノと、戦っているんだ。
伊波さんはまだ、生きている。
必死にあのバケモノと、戦っているんだ。
小鳥遊は再び電光丸を強く握り締める。
そして対峙している伊波へと視線を向けた。
未だ射すような殺意を小鳥遊へと向ける伊波の瞳からは、一筋の涙が流れていた。
そして対峙している伊波へと視線を向けた。
未だ射すような殺意を小鳥遊へと向ける伊波の瞳からは、一筋の涙が流れていた。
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