榊原 麦造(さかきばら・むぎぞう)教授

専門:発酵薬理学・菌糸情報伝達

松茸大学薬学部教授。
学生たちのあいだでは「菌の通訳者」「発酵界のドクター・ドリトル」などと呼ばれている。
彼の研究室には、大小さまざまな発酵槽が並び、どれも“相談中”の状態。
榊原は泡の立ち方や香りを見て「うん、今日は機嫌がいいな」などと話しかける。
助手が「どの菌の話ですか?」と聞くと、「たぶん全部」と答えるのが定番だ。

◆生い立ちと研究のはじまり

幼いころから匂いに敏感で、給食当番のときは“牛乳の気持ち”を感じ取っていたという。
高校時代、理科室で偶然カビたパンを発見し、「君は生きることを諦めないんだね」と話しかけたのが発酵との出会い。
それ以降、彼は常に瓶を持ち歩き、母親から「あなた、ペットボトル育ててるの?」と心配された。

大学では香気化学を専攻し、卒論テーマは「怒りと発酵臭の相関関係」。
実験中に教授が怒鳴るたび、発酵速度が上がったというデータを取り、論文の結論にこう書いた。

「発酵とは、叱られながら成長する現象である。」

◆研究スタイルと名言集

榊原は実験よりも“菌との会話”を重視する。
発酵はデータより呼吸、数値より雑談。
学生がレポートを持ってくると、まず「菌たちは何て言ってた?」と聞く。
答えに詰まると、「そっか、まだ発酵中なんだね」とうなずく。

口癖は、「菌は沈黙で返事をする」。
または「寝かせれば大体うまくいく」。
彼にとって人生も論文も、常温発酵である。

◆ゼミの風景 ― “静かなるカオス”

榊原ゼミは、松茸大学の中でも特に**「ゆるく狂っている」**ことで有名だ。
出欠は“香り”で取る。学生は各自の培地を提出し、教授が瓶の蓋を開けて「うん、来てるね」と言えば出席扱い。

毎週行われる「官能評価実習」は、目隠しをして香りだけで発酵段階を当てるという内容だが、毎回なぜか一人は泣く。理由は不明。
教授はそれを「香りが心を脱色した」と評する。

昼休みにはゼミ生全員で「嗅覚瞑想」という活動を行う。
目を閉じて鼻呼吸だけで会話し、発酵の“気配”を感じ取る訓練だ。
隣のゼミから「部屋がパンの匂いしかしない」と苦情が出たこともある。

◆人柄と逸話 ― “事件簿的まとめ”

  • 学会で「菌に意見を聞いてから結論を出します」と発言し、審査員全員が黙った。
  • キャンパス内のカフェで「発酵コーヒー」を自作した結果、店員が三日酔いになった。
  • 学内の誰よりも嗅覚が鋭く、「誰かカビた恋をしてる」と言って学生を赤面させた。
  • 忘年会では乾杯の音頭が「この一年、よく発酵したね」。

それでも学生たちからの信頼は厚い。
理由は単純で、「怒られない上に、話を聞いてくれる」。
ただし相談内容が発酵して別の話題になるため、解決率は低い。

◆最近の研究テーマと課題

榊原研究室では現在、“香りのデータ化”を目指す「嗅覚記録装置」プロジェクトを進行中。
だが、機械が香りを記録するたびに酔っ払って電源が落ちるため、まだ試作段階。
教授は記録装置をなでながらこう言った。

「いい酔い方をしてる。これは成功の香りだね。」

また、発酵経済学部との共同研究では、「株価の変動を発酵過程に例えられるか」という実験を実施。
結果、データは出なかったが、教授は満足げに「暴落も熟成だからね」と語った。

◆教育方針と卒業生

卒業論文の採点方法は毎年の名物。
成績は発表資料の香りで決まる。
教授がサンプルを嗅ぎ、「誠実な匂いがする」と言えばA評価。
「焦げてる」と言われたら追試である。

卒業生は製薬会社、発酵食品メーカー、なぜか香水ブランドなど多岐にわたる。
中には“瓶の声が聞こえる”という理由で宗教系の道に進んだ者もいる。
教授は「発酵は信仰の入口」とだけコメントした。

◆現在の榊原研究室 ― “瓶の楽園”

榊原研究室のドアを開けると、まず温度と湿度でメガネが曇る。
机の上には整然と並ぶ無数の瓶。
それぞれに学生の名前と「テーマ」が書かれている。
「希望の発酵」「未読の感情」「彼氏の実験」など、意味不明なものも多い。

教授は毎朝、それらの瓶に挨拶して回る。
「おはよう、今日はいい菌日和だね。」
学生も自然と真似し、瓶に向かって“菌語”で話しかける。

冷蔵庫の中にはなぜかコーヒーと菌糸が共存しており、誤って取り出した助手が一週間ほど妙にポジティブになった。
教授は「発酵はメンタルケアにも効く」と真顔で記録した。

午後三時になると、研究室は「菌のおやつタイム」。
教授が持ってくる手作りヨーグルトをみんなで食べるが、一度「これは実験中のだ」と聞いて全員が静止したことがある。
結局、その回だけは“空気を味わう会”として成立した。

「瓶の中が静かな日は、学生たちも静かになる。つまり今日も、いい一日だ。」
最終更新:2025年11月03日 22:18