荒井 祓雄(あらい・はらお)教授
専門:精神身体運動学・筋肉儀礼論
松茸大学
スポーツ健康学部の象徴的人物。
「筋肉は裏切らない、ただし呪いには勝てない」の名言で知られる。
その言葉の重みを、学生たちは全身で受け止めている。
なぜなら、授業中に本当に祓われるからである。
◆幼少期と覚醒
荒井は幼いころから筋肉に敏感だった。
小学校のあだ名は「ちいさな上腕二頭筋」。
ランドセルよりも重い神輿を担いで通学していたという。
高校時代、部活で肩を脱臼したとき、保健室の先生に「痛みを信じろ」と言われて感動し、その瞬間に“筋肉と信仰”の関係性を悟る。
彼はのちにこの体験を“初祓い”と呼ぶようになる。
大学進学後は体育学を専攻するが、途中で宗教学に転向。
筋肉の繊維構造と神社の注連縄(しめなわ)に類似性を見出し、学内で発表した論文「筋肉は内なる注連縄説」で一躍注目を集めた。
◆講義 ― “筋肉は祈る”
荒井の講義は、スポーツというよりも儀式に近い。
教室の入り口でまず手を清め、全員で柏手を打つ。
そのあとでストレッチを始めるが、号令は「南無!」「祓え給え!」など。
トレーニングルームには鏡がなく、代わりに御神鏡が壁一面に設置されている。
学生は筋肉の形ではなく“霊的パンプ”を確認する。
教授は言う――
「己の肉体を信仰対象にできた者こそ、真のアスリートだ。」
講義後には「筋肉の祓い方基礎」という授業があり、最後に全員で腕立て伏せをしながら祓詞(はらえことば)を唱える。
なぜか終わるころには全員が涙を流しているが、理由を聞いても誰も説明できない。
教授は静かに頷いて「いい祓いだった」と言う。
◆ゼミの風景 ― “儀礼的プロテイン・コミュニオン”
荒井ゼミは週に一度、筋肉を通して精神の統一を図る。
正式名称は「筋肉礼拝実習」。
学生は白衣ではなくジャージで出席し、儀礼の前にプロテインを分け合う。
飲み干した後、全員で合掌。
教授の掛け声「タンパク質よ、われらを導き給え」に続いて、学生たちが一斉にスクワットを開始する。
発表会では研究成果として筋肉の“成長記録”を提出する。
数値データは添付不要。筋肉を見せることで採点が行われる。
壇上にはダンベルと榊が供えられ、観客席からは「お祓いしてるのか筋トレしてるのか分からん」とざわめきが起こる。
だが教授に言わせれば、それが学問の理想形だという。
「信仰も筋肉も、続けた者だけが変化に気づく。」
◆研究室 ― “祓いと代謝のはざまで”
荒井研究室では、ホワイトボードに謎の公式が書かれている。
「代謝=祓い÷迷い」。
学生の多くはこの式の意味が分からないが、筋トレ中にふと“悟る”瞬間があるという。
研究室の奥には「筋肉供養棚」があり、引退した学生のジャージや古いダンベルが奉納されている。
時折その棚がきしむ音を立てると、教授は合掌してこう言う。
「今日も誰かが限界を超えたようだ。」
◆人柄と逸話
荒井は筋肉の話以外をあまりしない。
だが学生が恋愛相談に来た際、「まず姿勢を正せ」とだけ言って相手の背中を整える。
その結果、失恋した学生の肩こりが治るという謎の実績がある。
飲み会では一切酒を飲まず、プロテインをシェイクして乾杯する。
一気飲みの代わりに“限界レップチャレンジ”が始まり、朝まで続く。
二日酔いの代わりに筋肉痛で倒れるのが定番だ。
◆卒業論文と信仰
卒業論文では、学生それぞれが一年間の筋肉の変化を“信仰の証”として発表する。
提出物は論文ではなくポーズ。
審査員が「ありがたい」と感じた筋肉はA評価となる。
教授は締めの言葉で必ずこう言う。
「筋肉は語らない。だからこそ、最も正直だ。」
「筋肉痛は、神からの既読通知である。」
最終更新:2025年11月03日 23:41