【とある彼女のささやかな願い】

「【とある彼女のささやかな願い】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

【とある彼女のささやかな願い】 - (2010/08/10 (火) 15:52:13) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

[[ラノで読む>http://rano.jp/953]] とある彼女のささやかなな願い  私は泣いていた。  私の周りには多くの子供達が集まり、私を様々な言葉で苦しめていた。 「お前、気持ち悪いんだよ」 「うわぁー、それって人間じゃねーよ」 「わたし、絶対に触りたくない」 「何、その毛むくじゃら!!」 「ホント、死ねばいいのにね」  私のどこがいけないのだろう? ただ、人と少しだけ違うだけなのに。  少しだけ、ほんの少しだけ、気持ちが高ぶると、自分が自分でなくなる。私は、それは自分のせいではないと思っている。何故なら、そこに自分はいないから……。  でも、それは、父や母から、きつく戒められていたことであり、自分の中でも決して踏み越えてはいけないこと。  母は何度も言った。 『あなたは、決して怒ってはいけません。いいですね』  父は重ねて言った。 『お前は、何故そんな力を持って生まれたのだ?』  私は幾度も自問した。 「どうして、神様は、私にこんな力を与えたの?」  そんな質問に答えてくれる人など一人もいない。いるわけもない。  私は孤独だった。私は唯一だった。私に《・》味方など、ひとりもいなかった。  七月七日。七夕。  やはり、私は孤独だった。ただ、周りの子は、七夕の飾りつけに忙しく、私の相手をしてくれないのがせめてもの救いだった。  皆、楽しそうにこの夏のイベントを楽しんでいる。 「うーん、短冊にどんな願いをかこうかな?」 「ねえ、何書いたの? 教えて」 「やだ、見ないでよー、恥ずかしいし!」  会話の輪に私が入ることはできない。いや、私は入ってはいけない。 「どうしたの? みんなと一緒に短冊に願い事を書きましょう?」  孤立している私に気を使ったのだろう、先生が私をみんなの輪に溶け込ませようとする。  大きなお世話だ。 「みんなー、仲良くしないとダメよ」 『はーい!!』  皆が返事をする。でも、その“みんな”に私は存在しない。いてはいけない。その証拠に誰も私に寄り付かないじゃないか。 「どうしたの? ねえ、向こうにいって、みんなと一緒にお願い書こうよ」  突然、ひとりの子が私に声をかける。見たことのない子だった。私は首を精一杯横に振る。  強烈な否定にその子は、大きな目を輝かせ、不思議そうに私の顔を覗き込む。私とは真逆の純粋で、温厚な瞳だった。  私はもう一度、首を横に振る。さっきよりも強く。 「そう、へんなの……」  残念そうに、その子は皆が集まる輪へと去っていく。それでいい。私と仲良くなってはいけないのだ。あの子まで、私と同じことになってしまう。こちらへきてはいけない。  私はひとりで良いのだ。私はひとりで、さややかな願いを短冊に書くことにした。その願いは、誰にも気づかれないように、そっと笹に結ぶつもりだった。 「おい、見ろよ、こいつ、こんなこと書いてるぜ!」  いつの間にか、後ろに立っていた男の子が、私の書きあがったばかりの短冊を取り上げる。 「やめて! 読まないで!!」  私は精一杯懇願する。これだけは決して見られたくない。ほんの少しの、ささやかな願いだけれど、誰かに見られるだけで、現実ではない、心なかのそれさえも霧のように消えてしまいそうだったから。 「なんだよ、お前、こんなこと書いてたのかよ。きもちわりー。みんなー見ろよー、こいつさぁ……」  その男の子は、私から奪った短冊を皆に見せびらかす。  私という存在を拒否する声がそこかしこから聞こえてくる。 「えー、本気で思ってるの?」 「なにこれー」 「あはは、おもしろーい!」  私は我慢する。私が耐えればいいことだ。これは私だけの問題だ。誰のせいでもない。  でも……。捨てられた短冊を拾い、強く抱きしめる。 「バケモノのくせに生意気なんだよな、アイツ」  私はバケモノじゃない。人間だ。 「あんな奴、どっかいっちゃえばいいんだ」  私はここにいる。どこにもいけない。居場所などないのだから。 「みんな、そうやっていじめるのはやめなさい! 彼女はみんなと同じなのよ」  一緒じゃない。 「えー、違うよ、俺たちと同じなわけないじゃん。ママが言ってたよ、あいつは化物《ラルヴア》だって」  違う、ちがう、チガウ! 私は人間だ。断じて化物ではない。……いや? 違わない。私は化物なのだ。そう、みんなが怖がる異形のもの。常夜の狭間を渡り歩き、深淵に潜むもの。  自分の心に何か異質なものが生まれる。それは、様々なものを開放してくれた。私の悩みも、私の存在価値も、私の力も……。 「……さん、大丈夫?」  先生が私に声をかける。でも、もう無理だ。私にはどうすることもできない。感情が、理性が、情動に押しつぶされる。私の身体もそれとともに変化する。嗚呼! 「……さん? どうしたの!? ……っ! みんな、彼女から離れなさい!!」  先生はそういうと、生徒を庇おうと、生徒と私の間に立ち塞がる。なんてやさしい先生なんだろう。私は思う。 「さあ、わ、私が相手ですよ!」  ガタガタと振るえながら、生徒の前に立っていた。  相手か……。結局、この人も私を人とは見なしてくれないのだ。  もういい、全部無くなってしまえばいい。  だが――――。 「うわー、かっこいいー。ねえ、それってどうやってるの? やっぱり強いの?」  ツカツカ とこちらに物怖じせず近づいてくる子がいた。先ほどの子だ。この子は私が怖くないのだろうか? その気になれば、この牙で喉元を噛み切り、この爪で、腹部を切り裂くことができるというのに。 「すごいねー、わたしもなれるかなー?」 「!?」  この子はなんなのだろう。私を、この姿を怖がるでもなく、嬉しそうに近寄ってくる。 「ねえ、名前はなんていうの? あ、そうだね、私から名乗らないと失礼だよね。私は有葉《あるは》、有葉千乃《あるはちの》!」  その大きな瞳は真正面に私に向いていた。私は戸惑う。 「うーん、どうしたの? 突然声をかけたからビックリしちゃったかな? 怖かった?」  あなたが怖い? 何故? どうして? 「………は、はるべ、りい」 「そっかー、うーん、……じゃあ、はるちゃんだね! ねえ、向こうへ行って、一緒に願い事を書こう。はるちゃん!!」   私は、その言葉に抗うことが何故か出来なかった。 「う、うん……」  その子に促されるまま、一緒に短冊に願い事を書く。先ほどのものとは別の願いを。何故なら、その願い事は今、この瞬間に叶ったからだ。 “ともだちができますように”  そう書かれた短冊を破り捨てて、私は、別のお願いを書くことにした。 “あるはちのちゃんをいっしょうまもっていけますように”      
[[ラノで読む>http://rano.jp/953]] とある彼女のささやかなな願い  私は泣いていた。  私の周りには多くの子供達が集まり、私を様々な言葉で苦しめていた。 「お前、気持ち悪いんだよ」 「うわぁー、それって人間じゃねーよ」 「わたし、絶対に触りたくない」 「何、その毛むくじゃら!!」 「ホント、死ねばいいのにね」  私のどこがいけないのだろう? ただ、人と少しだけ違うだけなのに。  少しだけ、ほんの少しだけ、気持ちが高ぶると、自分が自分でなくなる。私は、それは自分のせいではないと思っている。何故なら、そこに自分はいないから……。  でも、それは、父や母から、きつく戒められていたことであり、自分の中でも決して踏み越えてはいけないこと。  母は何度も言った。 『あなたは、決して怒ってはいけません。いいですね』  父は重ねて言った。 『お前は、何故そんな力を持って生まれたのだ?』  私は幾度も自問した。 「どうして、神様は、私にこんな力を与えたの?」  そんな質問に答えてくれる人など一人もいない。いるわけもない。  私は孤独だった。私は唯一だった。私に《・》味方など、ひとりもいなかった。  七月七日。七夕。  やはり、私は孤独だった。ただ、周りの子は、七夕の飾りつけに忙しく、私の相手をしてくれないのがせめてもの救いだった。  皆、楽しそうにこの夏のイベントを楽しんでいる。 「うーん、短冊にどんな願いをかこうかな?」 「ねえ、何書いたの? 教えて」 「やだ、見ないでよー、恥ずかしいし!」  会話の輪に私が入ることはできない。いや、私は入ってはいけない。 「どうしたの? みんなと一緒に短冊に願い事を書きましょう?」  孤立している私に気を使ったのだろう、先生が私をみんなの輪に溶け込ませようとする。  大きなお世話だ。 「みんなー、仲良くしないとダメよ」 『はーい!!』  皆が返事をする。でも、その“みんな”に私は存在しない。いてはいけない。その証拠に誰も私に寄り付かないじゃないか。 「どうしたの? ねえ、向こうにいって、みんなと一緒にお願い書こうよ」  突然、ひとりの子が私に声をかける。見たことのない子だった。私は首を精一杯横に振る。  強烈な否定にその子は、大きな目を輝かせ、不思議そうに私の顔を覗き込む。私とは真逆の純粋で、温厚な瞳だった。  私はもう一度、首を横に振る。さっきよりも強く。 「そう、へんなの……」  残念そうに、その子は皆が集まる輪へと去っていく。それでいい。私と仲良くなってはいけないのだ。あの子まで、私と同じことになってしまう。こちらへきてはいけない。  私はひとりで良いのだ。私はひとりで、さややかな願いを短冊に書くことにした。その願いは、誰にも気づかれないように、そっと笹に結ぶつもりだった。 「おい、見ろよ、こいつ、こんなこと書いてるぜ!」  いつの間にか、後ろに立っていた男の子が、私の書きあがったばかりの短冊を取り上げる。 「やめて! 読まないで!!」  私は精一杯懇願する。これだけは決して見られたくない。ほんの少しの、ささやかな願いだけれど、誰かに見られるだけで、現実ではない、心なかのそれさえも霧のように消えてしまいそうだったから。 「なんだよ、お前、こんなこと書いてたのかよ。きもちわりー。みんなー見ろよー、こいつさぁ……」  その男の子は、私から奪った短冊を皆に見せびらかす。  私という存在を拒否する声がそこかしこから聞こえてくる。 「えー、本気で思ってるの?」 「なにこれー」 「あはは、おもしろーい!」  私は我慢する。私が耐えればいいことだ。これは私だけの問題だ。誰のせいでもない。  でも……。捨てられた短冊を拾い、強く抱きしめる。 「バケモノのくせに生意気なんだよな、アイツ」  私はバケモノじゃない。人間だ。 「あんな奴、どっかいっちゃえばいいんだ」  私はここにいる。どこにもいけない。居場所などないのだから。 「みんな、そうやっていじめるのはやめなさい! 彼女はみんなと同じなのよ」  一緒じゃない。 「えー、違うよ、俺たちと同じなわけないじゃん。ママが言ってたよ、あいつは化物《ラルヴア》だって」  違う、ちがう、チガウ! 私は人間だ。断じて化物ではない。……いや? 違わない。私は化物なのだ。そう、みんなが怖がる異形のもの。常夜の狭間を渡り歩き、深淵に潜むもの。  自分の心に何か異質なものが生まれる。それは、様々なものを開放してくれた。私の悩みも、私の存在価値も、私の力も……。 「……さん、大丈夫?」  先生が私に声をかける。でも、もう無理だ。私にはどうすることもできない。感情が、理性が、情動に押しつぶされる。私の身体もそれとともに変化する。嗚呼! 「……さん? どうしたの!? ……っ! みんな、彼女から離れなさい!!」  先生はそういうと、生徒を庇おうと、生徒と私の間に立ち塞がる。なんてやさしい先生なんだろう。私は思う。 「さあ、わ、私が相手ですよ!」  ガタガタと振るえながら、生徒の前に立っていた。  相手か……。結局、この人も私を人とは見なしてくれないのだ。  もういい、全部無くなってしまえばいい。  だが――――。 「うわー、かっこいいー。ねえ、それってどうやってるの? やっぱり強いの?」  ツカツカ とこちらに物怖じせず近づいてくる子がいた。先ほどの子だ。この子は私が怖くないのだろうか? その気になれば、この牙で喉元を噛み切り、この爪で、腹部を切り裂くことができるというのに。 「すごいねー、わたしもなれるかなー?」 「!?」  この子はなんなのだろう。私を、この姿を怖がるでもなく、嬉しそうに近寄ってくる。 「ねえ、名前はなんていうの? あ、そうだね、私から名乗らないと失礼だよね。私は有葉《あるは》、有葉千乃《あるはちの》!」  その大きな瞳は真正面に私に向いていた。私は戸惑う。 「うーん、どうしたの? 突然声をかけたからビックリしちゃったかな? 怖かった?」  あなたが怖い? 何故? どうして? 「………は、はるべ、りい」 「そっかー、うーん、……じゃあ、はるちゃんだね! ねえ、向こうへ行って、一緒に願い事を書こう。はるちゃん!!」   私は、その言葉に抗うことが何故か出来なかった。 「う、うん……」  その子に促されるまま、一緒に短冊に願い事を書く。先ほどのものとは別の願いを。何故なら、その願い事は今、この瞬間に叶ったからだ。 “ともだちができますように”  そう書かれた短冊を破り捨てて、私は、別のお願いを書くことにした。 “あるはちのちゃんをいっしょうまもっていけますように”      

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。