【召屋正行の壊れた日常】

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キャラを使わせてもらいました。
召屋さんの親御さんに多謝。
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 商店街の一角のとある喫茶店。周りの店から異彩を放つドロドロした雰囲気のその店はいつも閑散としている。
 しかし唯一の客である召屋正行は、そんな事を全く気にせずに今日もナポリタンを食べていた。
 あの有葉千乃との任務が終って数日。
 あれ以来特に学園から何かを言い渡されることも無く、召屋は平穏無事に過ごしていた。
 荒事に向いている能力を持たない召屋としては、こんな日常がずっと続けばいいと思う。
 しかし、現実はそう上手くはできていないようだ。

「たのもー!」
 店のドアが勢い良く開かれる。
「メッシーはいるか」
 闖入者は告げる。
「あら、あなたにお客さんみたいよ」
 ウェイトレスは、にこやかな対応でその人物を召屋の前に案内した。
「あの、あなたは?」
 記憶を引っ張り出す必要も無いくらい、この人物とは絶対に初対面だ。妙に長いもみ上げが特徴的な髪型、極太の眉に彫りの深い顔立ち、そして何よりその特徴的な胴着姿、ちょっとでも面識があったら絶対に忘れないだろう。
「俺は高等部三年D組の二階堂志郎、正道館系正統派空手部・部長だ」
「はあ」
 ちなみにこの巨大な双葉学園では人数が多いので、空手や柔道といった武道系の部活は、流派毎に部が分かれている。更に異能を全く使わない正統派と、異能の使用も織り込んだ異能派に分かれているので、一般の生徒にはとてもわかりづらい。
 召屋もとりあえず空手の人という事は理解したが、後は聞き流した。
「っていうか何で俺のこと知ってるんですか? それと俺に一体何の用ですか?」
「おお、すまなかったな。俺は、空手の他に千乃たんファンクラブもやっていてな。君の事はブログで見せてもらった」
 二階堂さんは、生徒手帳で開いたそのブログとやらを見せてきた。
 アイツ、ファンクラブなんて持ってたのか。
 そこにはバッチリと呼び出したドラゴンを頭に乗せた俺が写った写真とともに、『事件を解決したあいぼう、ドラ吉とメッシー』と書かれていた。
 ドラ吉よりあとかよ! とか俺の肖像権はスルーかよ! とか細かい事はこの際どうでもいい、いつ撮ったんだこんな写真。
「はあ、俺のことを知ったきっかけは理解しました。で用件は?」
 まさかいつぞやの猫娘みたいに決闘を申し込むとか言わないだろうな。冗談じゃないぞ、普通の体力勝負でだってこんな空手バカ一代を地で行くような人に勝てるわけ無いじゃないか。
 召屋がとっさに逃げるために手段を二つほど考えたところで、二階堂はガシっと召屋の肩を掴む。
 そして、顔を近づけて力強くこう言った。
「君には、俺のパートナーになってもらいたい」
 キラリと奥歯が光る。
「な、何言ってるんですか?」
 召屋は離れようとするが、ガッチリと肩を掴まれて動きそうも無い。
 召屋の背中にイヤな汗が伝う。
「何でもいい。昆虫を呼んでみてくれないか?」
「昆虫?」
 何を言ってるんだ、というかそんなことなら別に顔近づけなくていいですよね。
「わ、わかりました」
 とにかく離れたい一心で、召屋は昆虫を召喚した。少しでも心証を良くしようと、サービスでヘラクレスオオカブトにしておいた。
「おお、これが噂の召喚能力か。大した物だな」
 どうやら二階堂はサービスを気に入ってくれたようで、召屋を話して。ヘラクレスオオカブトを手に取った。
「あの、それで昆虫を召喚して一体何をするんですか?」
 何とかこの大男の濃い顔からは逃れられたものの、いつまでも召喚したままではいられない。召屋の能力は一匹ずつしか呼びさせないのだ。
「ああ、言ってなかったか。俺の能力は昆虫と合体することなんだ」
 ああ。言ってなかったとも。というか話の順番がさっきからおかしいぞアンタ。
 よっぽど叫んでやろうと思った言葉を召屋はなんとか飲み込んだ。
 とにかく今はこの変人になるべく丁重に帰ってもらう事が肝心だ。
「よし、御礼に披露しようじゃないか」
 二階堂は手に持ったヘラクレスオオカブトを天に掲げた。
「合体変身!」
 そのままカブトを額に当てる。
 一瞬辺りを光が包み、それがおさまるとそこにいたのは、子供の頃特撮のテレビで見たような、変身ヒーローを思わせる何かだった。ヘラクレスオオカブトの意匠を残しつつ、イイ感じにヒーローしている。何だかバイクに乗っていそうな感じだ。
 そして無理な体形の変化も無いため、胴着も破れることなくそこに存在している。
「どうだ。なかなかイカスだろう」
 バシッとポーズを決める二階堂さん。
「アハハ、そうですね」
 パチパチと手を叩く。
 さて、どう帰ってもらおうか。
「で、あの、能力はわかりましたから。ええと、昆虫は自分で捕まえて、持ち運んでくれませんか?」
「ハッハッハッ、何言ってるんだ。昆虫は買うと高いし、世話に手間が掛かるんだぞ」
 二階堂はまた召屋の肩に手を伸ばす。
 っていうか全部自分の都合かよ!
「まあ、ここでは何だな。どれ、場所を移そう。チーム結成の報告をしないとな」
 またしても召屋の背中にイヤな汗が伝う。
 しかし今の状態では抵抗する術も無い。
「あの、俺、有葉とチーム組んでますから」
「何を言ってるんだ。アレは単位が足りなかったから臨時で組んだだけなんだろ。ちゃんとブログに書いてあったぞ。
 ああもう何なんだアイツ。ホントに余計な事しかしやがらねえ。
 心の中で思い切り有葉に毒づく。
 このままこの変人とチームを組まされるしかないのか。
 だがその悪夢は、店を出た瞬間あっけなく過ぎ去った。

「メッシーを離してもらおうか!」
 またしても声とともに胴着の男が現れる。
「に、二階堂さん!?」
 そこに立っていたのは、今変身したままの姿でガッチリと自分の肩を掴んでいるハズの二階堂だった。
 ただ違うのは、いたるところにある引っかき傷と、今も腕の中で暴れる猫を抱えているところだ。
「俺は高等部三年E組の二階堂悟郎、講道館正統派柔道部・部長。そして千乃たんファンクラブの会員だ」
「フン、遅かったじゃないか、悟郎」
 昆虫二階堂――確か志郎だったか?――が身構える。
「飲食店に猫を持ち込むのは気が引けたからな」
 猫二階堂――悟郎さん――が応える。
 こっちはまだ常識があるのか。
「メッシーには俺とチームを組んでもらう!」
「あの、ひょっとしてあなたも……」
 合体する何かを呼び出せって事なんだろうか?
「如何にも。俺の能力は、哺乳類との合体! しかし俺は犬好きなせいかやたらと猫に嫌われてな」
 ああ、それでさっきからあんなに猫が暴れてるのか。
「なのにこの学園には猫くらいしか野生の哺乳類がいない。だからメッシーには俺のパートナーになって猫以外の哺乳類を召喚してもらう」
「お互い、引くに引けない事情があるか」
 いやいや、悟郎さんの方はちょっとかわいそうだとも思うが、志郎、アンタのはただのワガママだろうが。
「良いだろう。だったら、メッシーを賭けて勝負だ!」
 悟郎が猫を天に掲げる。
「望むところだ。合体変身!」
 光に包まれ、エジプトの神話に出てくるような獣の頭を持ったシルエットが現れる。もっともこちらは胴着を着た猫人間だが。
 両者の間に緊張が走る。
 自分を取り合って今正に激突しようとする両者に向かって、召屋が言える事はただ一つ。
「あの、俺帰ってもいいですか?」
 カブト男と猫男は互いにすり足で移動しながら、相手の隙をうかがい合う。
「あのー、返事が無いみたいなんで帰りますね」
 気取られないよう、徐々に位置をずらす召屋。
「んじゃ、さようなら」
 角を曲がった所で召屋はダッシュで家に帰った。
「ふぅ、全く酷い目にあった。あ、そうだ」
 能力を解除していない事に気が付いた召屋は、召喚したヘラクレスオオカブトを還した。
「うわぁぁぁ」
 断末魔のような声が聞こえたような気がしたが、それには触れないでおこう。
「それにしても、二階堂志郎に悟郎か……や、待てよ」
 シロウにゴロウだと!?
 召屋は今後、二階堂やイチロウ、ジロウ、サブロウ、あるいは、千乃たんファンクラブ、魚類・鳥類・爬虫類を出せという人物には近づかないでおこうと心に決めた。

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