【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 2-2】

「【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 2-2】」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 2-2】 - (2009/07/27 (月) 18:28:05) の編集履歴(バックアップ)


真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 二節


2-2 学園防衛戦(夜)


――午後9時15分。
「ラルヴァがおおよそ100体!?そんなの、何処かで合流してるじゃねぇか!!何でその前に手を打てないんだ!!」
「出来なかったんだ!!おおよその感知は出来たが、これだけの数を市街地でやり合おうって思ってるのか!?」
「お前市街地での挟撃がどんだけ恐ろしいか分ってるだろ!!」
武器庫で武器を漁っていた私の近くで教員や高等部の生徒が喧々囂々と話す姿を垣間見る。状況がどれだけ混沌としていたかは見当が付いた。

ブレザー着込み、簡単な防具を身につけてガーターベルトを着用し、仕込み鉄扇を持って如月千鶴とテレポートで武器庫に飛ぶ。
仕込み鉄扇とはその名の通り刃を仕込んだ鉄の扇なのだけれど、これは表向きは洒落でキザな格好付けの装飾品である。中学校の頃から姉に持たされた。
自分で言うのも何だけど、姉は私を飾るのが好きらしい。だからと言ってこんなに物騒なのも如何なものかと思うが。
武器庫に向かいスターライトスコープにグレネードを幾つか、M29S&W.44マグナムリヴォルバーを手に持った。私にとって気休めでしか最早無いが、無いよりはマシである。
しかも加えてコンパクトに装備するのに苦労する。ソロの場合は武器すら用意しないこともあったからだ。
「真琴さんに如月、早いですね……俺も武器を選ばないと……」
三浦は多分疾走してきたのだろう。この男、見かけのスタイルからは想像できないほど俊敏だ。
で、この男は銃火器に目もくれずに近接戦闘用の武器を見繕い、見た目でかなりエグそうな『鉄の爪』と竿状武器の竿の先端にボーリングの弾のようなのに痛々しいトゲが付いている『モール』を手にしていた。
「何か嬉しそうだな、三浦」
「ああ、何たって『星崎真琴チーム』がこんなにも早く結成されるなんて思っても見なかったからな」
千鶴が言うと、どことなく嬉しそうに三浦が答える。だが、最初に会った時を比べると生き生きして清々しい。端からどうしてこういう態度に出れないんだ。
「三浦、今回の騒動の何か聞いてる?」
「ここに来る時にある程度聞いてきたが、『ラルヴァ』が100体程確認されて此処に北東・北西から急速接近している模様だ」
「ひゃ…100体……?多すぎだろ」
千鶴が何時になく驚く表情を見せる。先ほどの喧々囂々な会話を聞いている私だって驚いているのだ。
「まぁ……気にしても仕方ないね。初等部除けばそれなりの実力者が中高合わしても100なんて凌駕するほどのメンツだしさ」
千鶴は刀剣とショットガンにその実弾を手に持ちながら言う。その顔はやっぱり手練れな様子だった。
因みにこの千鶴は氷を扱う異能力者で、目標を凍結させることは勿論、即席の盾の役目を果たす氷の壁を瞬時に作ったり、武器に氷の力を宿らせるなど、氷に纏わる事なら何でも出来る。
勿論食用の氷だって出来、男子に大人気……いかんいかん、これ以上は脱線するな……。
「真琴ちゃん、あの扇子持ってきたんだ。ただの装飾品かと思ったよ」
私が武器の装備に戸惑っている時、既に準備完了の千鶴が私のポケットに入っている鉄扇をみて一言こういう。
「これは美沙姉に持ってろって渡された仕込み鉄扇だよ。持ってると格好も良くなるからだってさ」
「おおっ踊りながら切り裂くのね」
正直そんな芸当は持ち合わしてはいないが、扇子を開いて舞ながら敵の喉元を切り裂く物騒極まりない武器である。格闘戦に無力の私には無用の長物かも知れないが。
「私は格闘戦不得手よ?」
「はははは……知ってるよ。真琴ちゃんが格闘戦しはじめる状況は私たちの負けだね。そうならないように、三浦と私は闘うから」
千鶴は私の肩をぽんぽんと叩きながら、静かに言い置いた。
「真琴ちゃんは、私たちを後ろから掩護してくれればいい。旗印だし、真琴ちゃんのテレポートの強さはそこにあるから」
とびきりにこっと微笑みながら千鶴は私に言う。多分、緊張しているのを見抜かれているのだ。
「真琴さん、如月、そろそろ集合場所に行こう。そろそろ配置につかないと」
三浦は真剣な表情で私と千鶴に言い置いた。最初に会った時と比べると180°雰囲気が違う、闘う男の表情だった。

この2人の様子を見て、これから戦いが始まるんだなと改めて実感した。

後方掩護専門だった私が、初めて『パーティ』を組んで闘う。慣れていた筈なのに、緊張で余りハッキリと喋れない。
しかも、学園を直接襲撃に加えてその数が100体と言う、本当の相手の戦力が分っていないというのも、不安を掻き立てる。
髪を弄り、髪を弄り、緊張を抑えようとしても止まらない。しかし撃退しないと明日はない。
身体中が熱くなり汗ばむ感覚に襲われる。戦いの直前の『死ぬかも知れない』と言う感覚は、かくも恐ろしいものだなと。

そしてそれが過ぎると、自分でも制御できないテンションの暴走が始まる。『開き直り』という名のトランスを。

「……あ…あのさ、その前に三浦君にお願いがあるんだ、あと千鶴にも」
私が少し声を震わせながら2人にこう言い置くと、表情を崩して私の方に向いた。


――午後9時29分。
「真琴さん、こんなに大量のグレネードを使うんですか?」
「…始めは…」
先ほどより落ち着いたが、まだ緊張している私は上手く喋れない。私は思うところあって最初数個に留めておいたグレネードを、グレネードボックスごとおおよそ25個、三浦に持たせている。
「始めは?」
「……始めは『引っぱたき』が重要でしょ?ならば、何をするべきかを考えた結果よ……」
「??」
三浦はあまり理解できていないようだが、彼自身は余り気にしてはいない。
「で、如月には何をお願いしたのです?」
「千鶴には、最初と言うことと、こういった防衛戦の為に何人か共同戦線張れる人をちょっとの間だけ探してもらいに行ったの」
こう言うと三浦はちょっと表情を変える。こう何と言うか……すねた感じに。
「うぉ……俺と如月を信用できませんか?」
「初めて組んで、行き成り実戦よ?しかも実際の相手の兵力は分っていない。ならば共同戦線張った方が確実だからね」
私たちの置かれている状況を説明すると、三浦は意外と素直に納得する。
そうこうする内に2-Cの教室にたどり着く。
「教室毎に集合するのだけれど、三浦君はC組に来て良いの?」
「チーム組んでいる場合は、リーダーと一緒に行動する。常識でしょう」
お前が常識を語るなよぅ……C組に2人で入ってくると、室内はどよめきに包まれる。『ドスケベ』と呼ばれ広まっている男を、私が引き連れて入ってきたのだから。
だが私は反応しない、反応している余裕はない。これから私たちは生死を賭した戦いに行くのだから。
三浦も何も反応せず、表情も殆ど変えていなかった。
「お待たせ真琴ちゃん!!」
そして続く陽気な声。千鶴の声だがそれと共にぞろぞろと数人が後に次いで入ってきた。

「なんで……こんな事になってるのだろうな……」
招集時間には私の席の周りには、『星崎真琴チーム』を自称する面々が囲むように立っていた。
私の左には机に腰を軽く落とした千鶴に、その左斜めにD組の『坂上 撫子』、右斜めに三浦、右にはA組の『菅 誠司』が佇んでいる。
どうにもこうにもド目立ちで、私の席が真ん中の列最後尾なのでさながら授業参観のような光景だ。
おそらく彼女達は、千鶴に誘われてきたのだろう。千鶴は三浦との会話でも分るように誰とでも気さくで、とても顔が広い。
「ちょっ……お前等、全員クラス違うだろ!!」
「いえ先生、我々は『星崎真琴チーム』でござい」
チーム組んでいる面々は好き勝手に教室を離れている。統率的には問題なのだろうが、この方が士気が上がるようなので容認しているのだという。
……待てよ、坂上は確かチーム組んでいなかったっけかな……あ、菅 誠司って言っても女の子だからね。
この面々が、一斉に先生にメンチを切るように見つめているのだから堪らない。先生はちょっと溜息を漏らしつつ本題に入った。

 先生が簡単な状況を説明する。不穏な動きを見せる『ラルヴァ』達を発見、選抜隊の出撃準備を考えた刹那にこの群れが竹芝、浜松、台場、海浜公園等から集結、徐々に数を増しつつ学園目指して行動をはじめた。
 各個撃破も考えたが、ラルヴァ関連の機密性や、特に浜松での居住区への被害を鑑みれば迎え討つのが正攻法であると上層部が判断。
 幸いこの群集の行軍速度は遅く、試算ではおおよそ10時15分頃に双葉地区に上陸を開始すると思われている(ラルヴァに問わず、双葉地区を中心に監視カメラが数多く設置されていること、公共機関と連動したリスニングポストが監視の目を緩めていないため、こういった動きは見逃さない)。
 この為、与えられた時間内で準備し、防衛体制に入るのがセオリーであると判断された。
 尚、ラルヴァは確認できた数で100、追加の報告があれば増減するだろう……と。

「防衛戦とは言え、我々には守らなくてはいけないものが多い。よって、今回我々は学園外郭で連中の侵攻を食い止め、駆逐する事にある。二年は《北西部》の専守防衛が作戦目標である」
先生は言葉を言い終えると、最後にこう言い置いた。
「武運を祈る。全員、無事に帰還せよ」
締め括りの言葉と共に全員が起立し陸軍式の敬礼をすると、全員そのまま行動を開始した。

「三浦君はグレネードボックスを持ったままで良い、背中と箱を触るから。千鶴にみんな、私の体に触れて」
千鶴は言われたまま私の肩に手を置くが、他の二人は怪訝な表情を浮かべている。勿論三浦も。
「なんで?」
素直に菅が聞き返す。
「私の能力はテレポートだけど、同時に一纏めに送れる程器用じゃない。同時に送る場合は私の体に触れている必要があるのよ。でも、触っていなくても服は脱げないから心配しないで」
そう私が説明すると、坂上と菅は私の体に触れる……が。
「……何で、オッパイなのかな」
この二人、掌でピタッと撫でるように私の胸に触れた。
「星崎の胸は大きいなぁ……私よりも大きいかも」
「私は、星崎さんのこの胸に興味がある」
「……真琴ちゃんのオッパイは、大きいことで有名だしね……」
半ば苦笑いでこう言う千鶴。最早、誇って良いのか恥ずかしいのか分らないな……。


――午後9時46分。
自分でも便利だと思うテレポーテーションで、誰よりも早く持ち場に到着する。
私達の配置された場所は学園や研究施設を中心としての北西外郭寄り入り口と、緩衝用の建物群のある外郭地区である。元々ここは基地で言うところのゲートにあたり、非常時にはトーチカになる。
警備用とは最早口実の、惑う事無き防御施設である。場合によってはここに据え置き式の兵器やタレット(自動敵認識装置兼自動攻撃機器)が配置される。
また、外郭を囲む壁は比較的高く設置されているので、空を飛んでくるような敵でもない限り門を突破してくるからだ。
私達は門とその周囲を見渡せる建物に陣取り、配置完了までの10分間に私達は軽く打ち合わせをする。
「……そう言えば、真琴さん以外全員前衛だよなぁ」
ぽつんと三浦が呟く。言われてみればそうだが、
「私が中衛を担うので、前衛が多い方が闘いやすいし、真琴ちゃんの能力を発揮するには前衛が多い方が良いからね」
千鶴は一言言い置いて三浦に解説する。こういう風に真摯な態度なら、外見がプロレスラーの蝶野正洋に似てるのだから格好良いのだが……。
「今回は正面切ってまともにぶつからないよ、敵が多すぎる。後衛の真琴ちゃんの視界に入る位置で前線を維持する。真琴ちゃんは建物二階に陣取って、私達をフォローして」
「如月はどう動く?」
「私は門に罠と兼用の防御壁を敷いて、その後は各々のフォローに入る。直接攻撃は三浦や坂上、せいちゃんにはかなわないから」
坂上も菅も黙って話を聞き入る。そして、三浦は私の前に少し出てこう言い置いた。
「三浦は……ほら、真琴ちゃんに一言言っておかなくて良いの?」
解説が終わり、千鶴は三浦にこんな事を言う。それに答えて頷くと、三浦は改まった表情で私にこう言い置いた。

「そうだった……真琴さん、貴女は私達が……私が全力でフォローします。真琴さんは無理をしないで、大船に乗ったつもりで頑張りましょう」

真面目で真剣な表情で言う三浦に、私は何も言えなかった。下衆(ゲス)い事は抜きにして。
「ふふ……私は今の内に門に罠を仕掛けに行くから、間に合わないなら私を回収してね、真琴ちゃん」
「何だかんだ言って、エロガキまともな事言うじゃないか」
「……キザ」
私の心中を察知されていたのか、言葉の奥底の意味を読み取ったのかは知らないが、含み笑いを合わせて好きなことを言っている。
なんかすっごく、恥ずかしいんですけど……嬉しいけど。
「緊張解れたな、星崎」
うるさいよ……。


――午後10時。
《『ラルヴァ』と思しき群集の双葉地北西・北東区画より上陸を確認、総員第一級戦闘配置!》
ラルヴァが双葉地区の北西・北東の岸壁より上陸を確認するアナウンスが、各々が持ち合わす腕輪型の超小型通信機器から流れる。

 ――遂に始まる、初めて行うパーティ戦。それも私がリーダーの。

「真琴ちゃん、ここからスターライトスコープで見える?」
事前工作を終わらした千鶴は素早く私の横に戻り、現在の様子を尋ねてくる。
私はアナウンスが流れた直後から望遠能力を持ち合わすスターライトスコープを用いて前面を哨戒しているが、現在の所は異変は見えない。
「いや、ここからではまだ動きは見えない……ん?見えた!『ラルヴァ』発見!!その距離おおよそ700メートル!!」
「どんな様子?」
ラルヴァの姿は見えた。だが私は少々息を呑んだ。私は後方支援ながらも何度か交戦したこともあるし、資料でも習ったこともある。
だがそこに見えた『ラルヴァ』は初めて見るものだった。人間型で少々小型かも知れないが、特筆すべきは綺麗に陣形を組んで前進している様だ。
武器などを持っている様子はないが、やはり数の多さは700メートル離れていてもプレッシャーとなって圧力を掛けている。
「……幾何学模様で行軍している……しかも初めて見る『ラルヴァ』だ!!」
「特徴はわかる?」
「人型と言うことと、シンメトリーのように陣形を組んでいること以外の特徴はないけど、数がやたらと多いわ」
分る内容を千鶴に話すと私はスターライトスコープを外して彼女に預け、三浦に持って来させたグレネードボックスを急いで取りに行き、箱を開ける。
「ま…真琴ちゃん?」
「物事は《引っぱたき》が重要でしょ千鶴。だからここは、私が 抜 け 駆 け をする!」

 ズドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ……!!!!!

「何だ!?何が起こった!!」
防衛線に集結した者達は誰も予期していなかった。おおよそ500メートルより先がまるで絨毯爆撃でもしたかのように一斉に爆発した。
「……真琴さんの《引っぱたき》って……この事だったのか……」
場数を踏んでいる者達ですら、アングリするような光景だった。要は私がグレネードの安全ピンを外しつつテレポートで送るという、あまりにも外道極まりない爆撃である。
その実は単なる威力偵察の一環だったのだが、吹っ飛ばされたラルヴァも確認できた。
「こんな発想できるのは、真琴ちゃんくらいだよね……」
「どれだけ効果があるかは未知数だけど、何もしないよりはマシだからね」
これが有効打になるとは思っていない。ラルヴァによっては現代兵器が効きづらかったり、効かなかったりする為だ。
「……星崎ってかなり、過激だったんだな……」
坂上は爆発した方向を見ながら呟く。眉唾物としか思っていなかった威力・効果だが、閃光から見えるラルヴァの断末魔は確かに手応えを感じた。
「だが、閃光で見えたがかなり吹っ飛ばされたところを見ると、現代兵器は余裕で効くようだ」
三浦は持ってきた『鉄の爪』を手に嵌めて『モール』を手に持ち、臨戦態勢に入る。
私の『抜け駆けで』場が一時混沌としたものの、直ぐに落ち着き戦闘モードに突入した。

私の先制攻撃の直後、外郭施設から投光器が一斉に門より200メートル先を照らし出す。私のグレネードが功を十分に奏している光景が浮き彫りとなっていた。爆心を中心としてピクリとも動かなくなったラルヴァが無数地面に転がっているのが分る。
映されたラルヴァ側もかなり動揺してあたふたとしている連中が居る一方で、怒りに震えた人型とほぼ大きさが同じの連中が門を目指して全力疾走、殺到をはじめる。
二足歩行だが容姿は人間とは似ても似つかない――所謂極めて化物的な――有り得ない緑色の皮膚と、ごつごつした表皮を纏っている。そして特筆すべきは彼らの顔である。
表皮同様緑の顔にクチバシ、見開いた瞳孔のない目である一目で分る人間のものではない顔が大多数だが、中には均整の崩れた人間の顔に無理矢理表皮やクチバシの付いている奇妙な連中まで居た。
やはりこのラルヴァは見た事がない。やけに人間に近づいている分気持ち悪い感覚に襲われる一方で、先程の幾何学模様の陣形や、地味に統率の取れている様子は末恐ろしい。

私が色々と思考が重なっている間にも、戦端は切って落とされている。
「よし、馬鹿みたいに近づいて来い」
千鶴が一言言い置く。見れば既に門前にまでたどり着いた五体ほどのラルヴァが門を通過しようとしている。
「gyuaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
声にならない悲鳴と共に門があった場所に、外壁よりも高い氷の壁が一瞬で築かれた。通過しようとしたラルヴァ達は漏れることなく氷の中に閉じ込められ、氷漬けにされた。
一瞬の出来事だが、水色に輝く氷はその淡い光が場の情景とはミスマッチで恐怖を覚える。
千鶴の能力は既に勝手知ったるものだが、ここまで大規模なものは初めて見た。
「これは罠の能力と防御を合わせた応用技だねぇ。連中はあれを破壊しようとするけど、触ると氷結効果で反撃されるのよ」
得意気に言う千鶴。自己顕示欲が有るわけではないが、コトが上手く行くと嬉しそうに喋るのは昔からだ。何時もはこんな事は無いのだろうけど、多分私が居るからなのだろう。
確かにこれは強力な防御壁だ。殴り怖そうとすれば容赦なく体力を削られていく。
「如月、俺たちの出番奪うなよ~」
方々から聞こえてくる冗談交じりの前衛の面々の言葉。壁を越えて来るラルヴァを狙撃して撃ち落とせばいいのだから、出番が無くなる。
私も千鶴もこの時は余裕でちょっと笑みまで出ていた。だが……

「おいっ油断するな!上だ、上!!上から来やがるぞ!!」

この誰かの一言で空気が一転した。暗闇に目を凝らすと醜悪な容姿のラルヴァに禍々しい黒い蝙蝠の翼が生えている、空を飛んでいるラルヴァが急速接近してくるのが分る。
「空を飛ぶ奴まで居るのか!」
しかもこの飛行するラルヴァは攻撃することなく、歩行のラルヴァを抱えてまるで輸送ヘリコプターのように投下をはじめる。壁を越えられないと判断した連中は、人海作戦で侵攻を試みたのだ。
「奴ら知能高いのか……」
「馬鹿野郎!呑気なことを言ってないで倒すんだよ!!」
先程まで多少余裕があった面々は、暗転に少々混乱している。普通なら飛行体はそのまま地上を攻撃するのが常だったからである。
千鶴はガードをするように、私の前に立つ。

「考えている暇はないぜ!!オレだけ見てりゃいいんだ、オラ!!」

だがそんな混沌の中、一人が前に出る。三浦孝和その人だった。鉄の爪を着けたままモールを構え、投下されてくるラルヴァに突撃を掛ける。
「三浦君!」
三浦は惑うことなく突貫し、目の前にいるラルヴァに向かって持っているモールを軽々とフルスィングする。反応できないラルヴァは避けることもままならず、痛々しいトゲトゲを顔面に食い込ませ、体液と骨が飛び散りながらゴルフボールの様に吹っ飛ばされた。
「おいおい呆気ないな、気を纏わしてないんだぜ?……うおっ」
ラルヴァを一体葬った刹那、後ろから別のラルヴァの鋭い突きを浴びる。だが、制服を軽く傷つけるだけで彼自身にダメージは通っていなかった。
「話にならんな」
足裁きで後方に踏み出しながら左肘を後方に突き刺し、後方から仕掛けたラルヴァの顔面を捉えて怯んだところを振り下ろすように頭部から鉄の爪を振り切り、一直線に抉り切り裂く。
そして返す刀で片手でモールを前面に振り抜き、迫るラルヴァ2体を鉄球のトゲ部分脇腹から食い込ませ勢いよく抉り、纏めてなぎ払った。
「……強いっ!!」
思わず私は声を上げる。千鶴から強いとは聞いていたが、実際闘う姿を見たことの無かった私は驚きで目を見張った。肉体の隆々さと同時に俊敏に動ける機動力の高さは、驚くことばかりだった。
ほぼ一瞬で四体のラルヴァを蹴散らす事が出来るのは最早人間業ではない。
「見掛け倒しの烏合の衆だな!」
モールを軽々と扱えるのも凄まじいが、やはりそれに伴う破壊力が人間離れをしている。
坂上 撫子や菅 誠司も、その圧倒的な破壊力に一瞬目を奪われるが、目が覚めたのか三浦に続き次々と投下されるラルヴァ達を蹴散らしに前に出た。
「真琴ちゃん、三浦が戦線を固めてくれたから、私は最初言っていたとおり各々のフォローに入る」
千鶴はこう言い残すと眼下に窓から飛び降り、戦線に加わっていった。だが、三浦の破壊力がかなり目立つものの、このラルヴァ達の戦闘力は決して低くはない。
現に、目の前のこの四人を除けば苦戦が目立つ。開幕に私がグレネードで吹っ飛ばした事による乱れはあるものの、ラルヴァ達の統率は保たれてると言って良い。
ポコポコと投下されているラルヴァは飛行する一匹が一匹を運び入れる為、今のところは我々の数的優勢で戦いを繰り広げているが、空を飛ぶ不気味な蝙蝠の羽を持つラルヴァの動きはかなり素早く且つ手慣れたものだった。

「!!……真琴ちゃん!!そっちに飛んでる奴が行った!!」

刹那、飛行するラルヴァの進路が建物まで伸びていくのを千鶴が確認、私に向かって叫ぶ。
先程同様に歩行をするラルヴァを投下するのは相変わらずだが、壁を単に越す連中と、明らかに空挺団のように少し高度を上げて飛んで下ろすときに下げて降下させる奇襲部隊の二つに分かれていた。
こいつら、一気に此処にある建物群を制圧するつもりか……!
ガシャアアアァァァン……!!
「ちぃっ!!」
私の右横から空挺団のように降下したラルヴァがガラスを破って侵入してくる。私は咄嗟に後方にバックステップし、身構える。
「三浦!!後方に走って真琴ちゃんを掩護して!!」
「了解!」
ガラスを破って突入してきたラルヴァは、私を見つけ標的として認識する。ゆらりゆらりと動きだし、此方に近づいてくる。
恐怖心がない、と言っては嘘になる。汗が額から流れてくる感覚を覚えた。
しかし、私は腐っても異能力者だ。どうしてこんな奴一匹に臆さなくてはならない?こんな奴一匹よりも、私の過去は辛かった筈だ……乗り切れなくてどうする?
武器庫での緊張と開き直りの感覚を一瞬で覚え、軽く呼吸を整える。
「syaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
ラルヴァが腕を振り上げて私に向かって下ろしてくる刹那、
「『他者転移』、万有引力の刑だ……!!」
「!!」
低音の重苦しい音と共に目の前のラルヴァを消し去り、吹き飛ばしてやった。そして数秒後地響きが辺りを襲う。
つまり私はラルヴァをテレポートで門から離れた場所の建物の6階程の高さの場所に転移させてやり、地面に叩付けてやった。
「はあっ……はあっ……ざまあみろだ……」
整わない呼吸と共に、両足を広げて女の子としてはかなりはしたない格好をしていた。
だが一匹にかまけていた所為で他に侵入していたラルヴァに気がつかなかった。私の後ろにもう一匹ラルヴァが回り込んでおり、攻撃態勢に入っていたのだ。
「真琴さん!後ろだ!!」
私のカバーに入りに来た三浦は叫ぶ。だがこの時の私には冷静に能力を使うだけの間がなかった。
「……転移防御……!!」
一瞬で振り絞った集中に、転移が成功して打撃を浴びることは避けられた。だが、自分自身能力に多少の失敗を自認した。
「真琴さん……!!おのれええええええええええっ!!」
私自身は転移そのものには成功したので打撃を浴びることは避けられたが、転移したのが見えていない三浦は怒り心頭に一気に間合いを詰め、腕に装着していた鉄の爪で力任せにラルヴァを殴り捨てる。
だが、この一発でラルヴァの胸部に深々と鉄の爪が抉るように突き刺さったものの、根元から折れてしまっていた。
「畜生壊れやがったか……役にたたん……そうだ真琴さん!……真琴さ……あああああ!!!」
「三浦大丈夫か!!?」
「あああ……真琴さんが制服だけになってしまった……!!」
三浦は私の制服を手に持ち、声を震えながら千鶴にこんな事を言う。
「……久々に失敗したな」


「なんて事だ……こんな時にファンブルするとはな……」
現場に私の服が残されていた事でも分るように、私は『体一つ』だけを転移してしまった。つまり、私は裸で転移されてしまった。下着も残らず現場に置いてきてしまったのだ。
しかも私が使おうとした能力は、『テレポーテーション』の力を借りた『避け』である。
電気が消されてよく見えないが、ここは学園内の何処かであるが、ハッキリとは分らなかった。

取りあえず私の置かれた状況は戦場復帰よりも先に、状況認識とこの状況をどうするか、である……。


2-3に続く



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。