【めしやまさゆきのにちじょうその2】

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【めしやまさゆきのにちじょうその2】 - (2009/12/21 (月) 22:47:12) のソース

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「召屋正行! キミが世界の歪みだ!」
 ある日の放課後。晩御飯はナポリタンにするか、それともミートソースにするか悩みながら高等部の廊下を歩いていた召屋正行は、そんな言葉で後ろから呼び止められる。
「いやまあ、性格はそこそこ歪んでますけどね……」
 そう愚痴りながら振り返ると、そこにはケッタイな扮装をした少年が佇んでいた。
「えーと……」
「キミは世界の歪みだ! ボクはキミを殺す!!」
「はあぃ?」
 学園には不釣合いな格好の少年に、ビシッ! と指差されながら、召屋は思わず人生始って以来の間抜けな声を上げていた。
「えーと、まず、その論理が分からないんですけど……」
 自分が置かれた異常性にようやく気が付き、髪をくしゃくしゃを掻き毟る。
(そうだった、ここは魑魅魍魎が跋扈する双葉学園。そりゃあ、時にはこんなコスプレ変態も登場するってもんだ。噂じゃ、ナイスバディな女王様もいるって話だけど。できたら、そっちの方がよかったなあ……)
「おい、今、不遜なことを考えてなかったか?」
 高校という場所としてはあり得ない扮装の少年がいらつくように指摘する。
「めっそうもない」
 召屋はそれはそれは薄っぺらで説得力の欠片もない表情をしながら首を振ることで、否定することにした。
「ところで、あんたのこと、俺は何て呼べばいいんですかね?」
「ボクの名前か、ジョーカー……そう、ジョーカーだ!!」
 召屋は三十秒ほど地面につっぷしながら、声に鳴らない笑いを堪えることにした。その間、数十回も拳を地面に叩き付けることになったのだが。
「……で、あの、ぷっ、ジョーカーさんが……俺になんの、ぷっ…用……なんですか……」
「息を整えろっ!!」
 メイクで分かりづらいが、明らかにジョーカーの頬が真っ赤だ。
「だって、その格好でジョーカーとか……痛すぎるでしょ」
「う、うるさい、うるさい! 痛いとか言うな! と、とにかく、お前をだな……」
「俺をどうするんです?」
「お前の能力を消す」
 急にジョーカーはシリアスな雰囲気を醸し出し、その対象である召屋までもその空間に巻き込もうとする。手に持つ短剣が嫌が輝き方をする。その場の空気が緊張する。
 だが……。
「了解しました。でも、取りあえず、俺が世界の歪みだってのを説明してもらえます。それで納得できたら能力消してもいいですよ」
「え? いいのっ!?」
「実際、普通に憧れてるんで」
 ジョーカーは召屋のあまりの普通な態度に、思わず拍子抜けしてまう。
(やだ、こんなの初めて……)
「だから、歪みってなんです?」
「ちょ、ちょっと待ってね……」
 何故か、あさっての方向にいる存在と通信をし始めるジョーカー。
「いや、だから、分かってるって……。彼の……」
 そんな毒電波を受け取っているような光景を見ながら、召屋はこれ以上関わってはいけないような気がし始めていた。
 そして、召屋は懐にあった携帯電話を取り出し、電話することにする。
「あのー、スイマセン、付属病院ですか? 黒丹《くろに》先生いますか? ええ、黒丹譲治《くろにじょうじ》先生です……」
「何をしている」
 何者かと語らっていたジョーカーが我に返ったように、急に召屋に話しかける。
「あ、ゴメン、ちょっと待っててもらえますか? あ、どうも先生。そこの病院って精神疾患も扱ってますよね?」
「おい!」
 僅かに声がいらついている。それに対し、召屋は手をかざし、ちょっと忙しいから待ってというジェスチャーをする。
「ええ、そう黄色い方の……」
「あのさ、話聞いてる?」
「ええ、聞いてます。あ、いや、今のはこっちの話で――――はい、場所は高等部棟です。じゃあ……」
 携帯を切り、懐のポケットに戻すと、その目の前にいるおかしな格好をしている少年に向く。
「あ、スイマセン、それでどんな用でしたっけ?」
「ボクかい。ボクはジョーカー。世界の可能性、その弊害になるものと戦う存在。そう、ボクは世界を滅ぼそうとする人間たちにとっての鬼札《ジョーカー》だ」
 あり得ない回答に僅かにいらつく召屋を尻目に、ジョーカーは自分のことを自慢げに語る。だが、確実に召屋の目がこう語っていた。
(コイツ、うっっっぜぇぇぇ……)
「俺、帰っていいスか?」
「良いわけないだろ」
「でも、腹減ったし……」
「キミは世界の危機と空腹のどっちが大事なんだ!?」
「空腹」
「全く、やっぱりキミは世界の歪みだな」
「だから、その論理展開がわからねーっつーの!!」
 その時だった。
「めっしー!」
 召屋をこう呼ぶ人間は一人しかいない。有葉千乃《あるはちの》だった。幼女のような外見をもつ、まごうことなき男子高校生。そして、その横には猫目で猫毛の褐色の少女がいた。
「あんた、なにやってんの……その人って何? どこかのパフォーマー?」
 褐色肌の少女が召屋に声をかえる。
「やっほー! めっしーいたいたー! その人は誰~? もしかして、やっぱり変な人なの?」
「やっぱりじゃねえ! お前よりましだ」
 召屋は即座に否定する。
「なに言っているの!? どう見たって変態じゃない?」
「あー、もう、召屋くん、また厄介ごとに巻き込まれているの?」
「相変わらずですね、役立たず様」
「拍手くん、今の賭けに勝ったら晩御飯奢るって言ったじゃん!」
「そんなことしたら、俺のバイト代が全部飛ぶって!」
「召屋ー、こんどのテストの実験体になって欲しいんだけど……」
「なんだ? この変態は竹刀で殴ってもいいのか?」
「いいわけないでしょっ!!」
「お前ら、最初から見てただろっ!!」
 急激に召屋の周りの人数が増え、五月蠅くなる。
「お前たち、いい加減にしろよーっ!」
 ことの中心となっている謎のピエロが大声を上げる。あり得ない状況なのだろう。
 それはそうだ、これまで、多対一という状況になったことがなかったからだ。
『で!?』
 その場にいた全員がジョーカーに質問する。
 それに対し……。
「お、お前ら覚えておけよ~!」
 半泣きでその場を去っていく。
「結局、あの人って何?」
 当の本人である召屋が回りに揃った二年C組&その他の生徒たちに質問する。
「しらなーい!」
「知るわけないでしょ」
「で、あの人は誰なの召屋くん?」
「ねえ、誰なんですか!?」
「全く、役立たず様は馬鹿ですねえ」
「お腹すいたー!」
「だから、お前の食欲は……」
 そんなこんなで、彼らは某中華料理店で晩飯を済ませることにしたのであった。


『飛鳥、ゴメン、間違った』
「どういうことだい?」
 飛鳥は救急車のサイレンが鳴り響く中、現場から逃れようとしていた。
『同じ正行でも古川正行だった……』
「え!?」
『うん、ボクらが滅ぼすべきは、召屋正行じゃなくて、古川正行だったんだ』
「間違えるなや、ボケっっっ!!」
 双葉学園に豪快に自分で自分をぶん殴る音がこだました。
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