カミュ「シーシュポスの神話」










シーシュポスの神話

岩を山頂へ転がし、山頂へ達すると、自然と岩は地に落ち、再び岩を山頂へ転がす。
⇒無益で希望のない労働

  • 人間たちのうちでもっとも聡明で、もっとも慎重
  • 山賊をはたらこうという気になっていた
シーシュポスの罪
  • 神々に対する軽率な振る舞い。――点の怒りの雷電よりも、水の恵みを選んだこと
  • 死の神を鎖でつないだこと
  • この世の悦びを感じ、召喚命令や神々の怒り、警告を無視したこと
⇒不条理の英雄

神々にたいする侮蔑、死への憎悪、生への情熱が、全身全霊を打ち込んで、しかもなにものも成就されないという責め苦を招いた――地上への情熱のために支払わねばならぬ代償

(※ 169-170にかけての、シーシュポスの神話に関する叙述が、まことにカミュを小説家たらしめている描写力だと思う。ここからは、カミュの妄想によるシーシュポスの人格形成箪※)

麓へ戻る、休止のあいだのシーシュポス。
石とこれほど間近に取り組んで苦しんだ顔は、もはやそれ自体が石である!
(石を転がす、報われることのない労働の)不幸と同じく、確実に繰り返し舞い戻ってくるこの時間、これは意識の張りつめた時間。
⇒この休止こそ、自分の運命よりもたちまさっている瞬間の連続なのだ。かれを苦しめるあの岩よりも強い!
神話の悲劇性…意識に目覚めていること。自分の悲惨な在り方をすみずみまで知っている。
シーシュポス:労働者の対比、共通する無意味さ、しかし、意識する瞬間の差異
彼を苦しめたにちがいない明徹な視力が、同時に、かれの勝利を完璧なものたらしめる。侮蔑によって乗り越えられぬ運命はないのである。
(※ 無意味な労働に向かうしばしの休息、それは無意味な労働に向かわなければならない悲惨さ、不条理=完璧な勝利?? ※)


苦しみの日々、悦び
岩の勝利、岩そのもの――記憶、幸福の呼びかけにより喚起させられる悲哀

悲惨な境遇を担う――ゲッセマネの夜
★真理は認識されることによって滅びる

不条理な勝利(ソポークレスのオイディプス:ドストエフスキーのキリーロフの定式化)
(※絶望から幸福への≪不条理≫の掛け橋※)
「これほどおびただしい試練をうけようと、私の高齢と私の魂の偉大さは、私にこう判断させる。すべてよし、と。」
~〔不条理な精神にとっては〕畏敬すべき言葉――人間の残酷で有限な宇宙に響きわたる。すべてはくみつくされていないし、くみつくされたことがかつてないことを。
☆運命を解決すべきことがらへと変える
⇒運命はシーシュポスの手にある!――(下山の)沈黙の悦び
沈黙:感嘆の声と昼:夜→勝利につきまとう裏の部分

不条理を発見したものは、だれでも、なにか「幸福への手引き」といったものを書きたい気持になるものだ。「え、なんだって、そんなに狭い道を通ってだと……」だが、世界はひとつしかない。幸福と不条理とは同じひとつの大地から生まれたふたりの息子である。


■■シーシュポスの完璧な勝利!不条理の英雄■■
不条理な人間にとって、
ひとにはそれぞれの運命があるにしても、人間を超えた宿命などありはしない。人は死ぬという不可避で軽蔑すべき宿命以外は。
⇒自分こそが自分の日々を支配するものだ。

人間が自分の生へと振り向くこの微妙な瞬間に、シーシュポスは、自分の岩のほうへと戻りながら、あの相互につながりのない一連の行動が、かれ自身の運命となるのを、かれによって創りだされ、かれの記憶のまなざしのもとにひとつに結びつき、やがてはかれの死によって封印されるであろう運命と変るのを凝視しているのだ。こうして、人間のものはすべて、ひたすら人間を期限とすると確信し、盲目でありながら見ることを欲し、しかもこの夜には終りがないことをしっているこの男、かれはつねに歩みつづける。岩はまたもころがってゆく。

(※シーシュポスは、新しい“宇宙”と、意味を見出す※)
⇒すべてよし、と判断するであろうシーシュポスは、幸福であるに違いない。    □
≪不条理≫
absurde…なんとも筋道の通らない、意味をなさない、荒唐無稽な
この世界が理性では割り切れず、しかも人間の奥底には明晰を求める死に物狂いの願望が激しく鳴りひびいていて、この両者がともに相対峙したままである状態

ゲッセマネの夜
ユダの裏切り、弟子らの信仰心の無さを享受するキリスト。
(マタイによる福音書26章35~56)

ペトロは、「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」と言った。弟子たちも皆、同じように言った。
それから、イエスは弟子たちと一緒にゲツセマネという所に来て、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。ペトロおよびゼベダイの子二人を伴われたが、そのとき、悲しみもだえ始められた。そして、彼らに言われた。「わたしは死ぬばかりに悲しい。ここを離れず、わたしと共に目を覚ましていなさい。」少し進んで行って、うつ伏せになり、祈って言われた。「父よ、できることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願いどおりではなく、御心のままに。」それから、弟子たちのところへ戻って御覧になると、彼らは眠っていたので、ペトロに言われた。「あなたがたはこのように、わずか一時もわたしと共に目を覚ましていられなかったのか。誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」更に、二度目に向こうへ行って祈られた。「父よ、わたしが飲まないかぎりこの杯が過ぎ去らないのでしたら、あなたの御心が行われますように。」再び戻って御覧になると、弟子たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。そこで、彼らを離れ、また向こうへ行って、三度目も同じ言葉で祈られた。それから、弟子たちのところに戻って来て言われた。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた。人の子は罪人たちの手に引き渡される。立て、行こう。見よ、わたしを裏切る者が来た。」

イエスがまだ話しておられると、十二人の一人であるユダがやって来た。祭司長たちや民の長老たちの遣わした大勢の群衆も、剣や棒を持って一緒に来た。イエスを裏切ろうとしていたユダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。ユダはすぐイエスに近寄り、「先生、こんばんは」と言って接吻した。イエスは、「友よ、しようとしていることをするがよい」と言われた。すると人々は進み寄り、イエスに手をかけて捕らえた。そのとき、イエスと一緒にいた者の一人が、手を伸ばして剣を抜き、大祭司の手下に打ちかかって、片方の耳を切り落とした。そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。わたしが父にお願いできないとでも思うのか。お願いすれば、父は十二軍団以上の天使を今すぐ送ってくださるであろう。しかしそれでは、必ずこうなると書かれている聖書の言葉がどうして実現されよう。」またそのとき、群衆に言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って捕らえに来たのか。わたしは毎日、神殿の境内に座って教えていたのに、あなたたちはわたしを捕らえなかった。このすべてのことが起こったのは、預言者たちの書いたことが実現するためである。」このとき、弟子たちは皆、イエスを見捨てて逃げてしまった。

オイディプス王のあらすじ

 1. そもそもは、
  オイディプスの父王ライオスが、おのれの情欲に負け、再三にわたるアポロンの神託を無視して、
 妻イオカステとの間に一子を設けたことに始まる。
    この結婚には、生まれた子供が父を殺す、という呪いがかけられていた。
    呪いは、ライオスが若い頃、放浪の身を寄せた王家の美少年に邪恋し、ついにこれをさらって
    殺してしまった罪による。
 2. 王ライオスは、生まれた男児についての呪われた神託を恐れ、
 生まれるとすぐ、嬰児の両かかとをピンで刺し貫いた上で、山奥に捨てさせた。
  しかし嬰児は、じつは捨てられず、子の無いコリントス王家の手に渡って、
 コリントスの王子として育てられ、見事に成人する。
    この王子の名、オイディプスとは、貰われた時のかかとの腫れゆえにここでつけられた
   「腫れ足」という意味の名前である。
 3. みずからの出生を知らぬまま成長したオイディプスは、
 自分がコリントス王の実子にあらずとの噂に悩み、アポロンの神託に答えを求めデルポイに赴く。
  しかし、そこで得た神託は求める答えではなく、
   「もし故郷に帰れば、汝は父王を殺し、母と褥(しとね)を共にすることになるであろう」
 という予言であった。
 4. コリントスをみずからの故郷と、まだ固く信じるオイディプスは、この神託を恐れ、
 コリントスには戻らずにそのまま旅の途につくが、
  旅の途中、狭い三叉路で、二頭立て馬車に乗る老人と従者の一行と出会い、
 押しのけ合いから争いとなって、これらを殺してしまう。
    やがて、テバイの都にまで辿りついたところ、都は大混乱の真っ最中だった。
    ただ一人逃げ帰った従者の話では、王の一行が山賊に出会い、皆殺しにされたと言う。
    オイディプスはまだ知らないが、彼が殺した老人こそ、彼の実父、ライオスであった。
 5. しかもその上、テバイ郊外の丘には怪物スフィンクスが現れて、人々を悩ませていた。
    下を通る者に、誰にも分からない謎をかけ、解き得ないと捕って食う。
    神託は、この謎を解けば、スフィンクスの災いはおのずから除かれるであろう、という。
 6. 王を失ったテバイでは、妃イオカステの弟クレオーンが摂政に立ち、
  スフィンクスの謎を解いてこれを退治した者を、イオカステの夫としテバイの王とする、
 と、ふれを出していた。
 7. スフィンクスが出す謎とは、
  「一つの声を持ち、二つ足にして四つ足にして三つ足なるものが、地上にいる。~~~」
   「それが最も多くの足に支えられて歩くとき、その肢体の力は最も弱く、その速さは最も遅い。」
 というもの。
 8. オイディプスは、スフィンクス退治の役を買って出て、その謎の答えを「人間」と解く。
 謎を解かれたスフィンクスは谷に身を投じて死に、
  オイディプスは約束どおり王位について、イオカステを妻とした。
 こうして、予言は全て成就した。
 9. オイディプス王は、イオカステによって二男二女を設けるが、
 やがて、テバイには凶作が続くようになり、さらに悪疫が流行し、国運が傾き始める。
10. これの原因をたずねて得た神託は、こうであった。
    「この国には、一つの穢れが巣くっている。されば、これを国土より追いはらい、
    決してこのままその穢れを培って不治の病根としてしまってはならぬ。
                        (ソポクレス オイディプス王 藤沢令夫訳)
     ~~その穢れの因、国内にいるライオス殺しの犯人を突き止め、これを追放せよ。
    もしくは殺して罰せよ。」
11. 王オイディプスは、熱心に探索をはじめるが、
 やがて、まさにみずからが、その恐ろしくも忌まわしい穢れの元であることを知る。
12. 真相を知った母イオカステは、みずから首を吊って死に、
   高潔なオイディプス王は、激しい心の苦しみの果てに、みずから両目を突きつぶして、
  放浪の旅に出る。
    アイスキュロスの作品では、この後にまだ、父を軽んじたオイディプスの王子達の悲劇があるのだが、
    ソポクレスの作品は、これで物語を終えている。

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最終更新:2008年12月01日 01:19
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