このリレー小説、需要あると思うか?
ミーハー男でどうも悪かったねぇ!?
いや、ちょっと待て、俺誰に切れてんだ?
あれだ、一回あったべ。リレー小説の話。
このリレー小説は、赤雪のメンバーと、赤雪の小説の登場人物しか出せません。
さらに舞台は赤雪。結構みんなミステリー系書けるので、それで。
俺の空回りで終わりそうな気がしてならない件。
「わりぃな。乗せてもらっちまって」
助手席に座っていた又津が、煙草の煙をふぅっと吹き出した。
「ん? ああ、気にするな。俺もそこに寄るのはついでだったし、それに…」
リュウサトウは、前の道がまっすぐであるのを確認してから。後部座席をちらっと見た。
「これは、私も礼を言わなければならない様子ですね。本当に助かりました」
「夜達も、そこに用事があったのだ。余り気にせずとも良い」
ブレイクダークの後部座席には、男女の侍――――稲垣重影と夜智冬瑠が座っていた。
「彼らもお前と同じ状況だ。付録だったと思えばなんともない」
又津の用は、自分でも珍妙だと思うほどのマイナーな事。だがら、同じ目的の人間が簡単に三人も見つかった事に、驚きを隠せなかった。
しかし…
「また、随分と濃い連中だな。え?」
「まあ、この展開は、意図しないところだった」
ブレイクダークは、もう市街地の道から抜け出し、かなり深い森の中を突っ切って進んで行っている。
果たして、こんな辺鄙な所に、自分達が探している建物なんてあるのだろうか。
「かなり奥地に進んでいきますね」
又津が考えていた事は、どうやら重影にも共通したようだ。
「ああ。俺もまさかとは思ったが、F-FIREパイロットのダチがくれた地図によれば、この道であってる」
「不思議なものだな」
リュウがブレイクダークのアクセルをぐっと踏み込んだのが、又津にには分かった。
「だが、不思議といえば、例の所に行くきっかけが全員同じ、というのも不思議だな。あんな寂れた場所に行く理由など、そう簡単に複数あってはたまらない。」
「へっ、あんなマイナーな小説、呼んでる奴を探すほうがきつい」
吹かし終わった煙草を、携帯灰皿の中にねじ込む。
「ふらりと立ち寄った古書店で購入した小説であったのに、その舞台に立ち寄ってみよう、と思い立った人間がここに四人も集まる、というのは、何故か運命を感じますね」
「だが、あの小説は、そこまでさせる程興味を惹かれるものだった――――おっと」
道がU字のカーブだったのか、激しくハンドルを切るリュウ。
なんとか崖下に落ちずに済んだ。
「素晴らしい運転技術だ。惚れ惚れするな」
「そりゃ、どう――――もっと!」
さらにU字のカーブに差し掛かった。
「U字カーブの連続、外側は落ちたら即死の崖……マジで話通りだな」
本当に驚愕せざるを得ない。又津は、ブレイクダークがカーブを曲がる度に機体にしがみつかざるを得ない。
「ここまで話に忠実なら、果たしてこの曲がり角で亡くなった人とかも小説通りにいるのでしょうか?」
「俺達と同じ考えを持っている人間が居て、なおかつここに来た連中は、その大部分は墜落死していそうだな」
「おっそろしい話だぜ…」
又津が道の脇を覗けば、その下は本当に何も見えない。遥か下方に川が見えるだけだ。
「ま、F-FIRE年間最優秀選手の俺のドラテクにかかれば、こんなん――――楽勝だぜっ!」
小説通りならこれが最後であるはずのU字路を曲がり切り、今度は本格的な山道をブレイクダークは登って行った。
「凄いな…曲がった回数すら、夜が読んだ通りだ」
「なら、もうそろそろだな」
小説では、曲がり終わった後、すぐにその建物の姿が見えた、と記述されていた。
周りには松の木がずらりと並んで立っている。その間隔の統一性は、もはや神秘性すらも感じられる。
又津は、手に持っていた小説をなにげなく開いた。
そこには、舞台とされている建物の名前が記載されていた。
「そろそろか…楽しみですね」
窓の外の杉林を眺めていた重影が、そうぽつりと漏らした。
「ああ、そうだな」
手に持つハンドルを人差し指でこつこつ叩いていたリュウも、重影の言葉に相槌を打った。
又津は、手に持っていた小説を、パタンと閉じた。
着実に近づいているのは間違いない。そして、近づけば近づくほど大きくなる疑問があった。
「見えてくる気配は、まったくねぇけどな」
もう到着していてもおかしくない時間。しかし、周りは杉の木だらけ。らしい建物はどこにも見当たらない。
「まあ、ミステリー小説の舞台なんて、そんなもんだろ」
「閉鎖空間が生み出す、奇妙な空間、というのは定番であり欠かせない状況だ。そう気を急くな」
「へいへい」
そして、ミステリー小説の定番よろしく、その姿は唐突に現した。
「おお…」
「ふむ…」
「へぇ…」
「なるほど…」
四人で四種の反応を漏らす。
その建物は、確かにその空間には奇妙なぐらいに溶け込んでいた。
ブレイクダークから降り、改めてその建物を見上げた。
「ここが…赤雪山旅館…」
そここそが、真のミステリー小説の舞台。この物語の場所。
不可解な、旅館。
発案者のくせに起承転結の起すら仕事をしない男、それが俺。
因みに、又津が吸ってるのはマリ○ァナじゃないから
七瀬彰は一階エントランスホールを歩いている。
時折響く、
『きはは きはは』
という声は誰のものか、などと云うことは考える必要がない。
「”赤い雪山の旅館では奇が当たり前である”。現代の怪異とは、これのことかな」
害などというものを微塵も感じさせぬ眼に、すっきりしたスーツの一張羅を着ている七瀬という青年は独りごちる。
締めている赤いネクタイは見事に似合っていない。
ふぅ、と息をつきながら片手の小説を頁をはらりとめくっている。
此処は旅館の中でも ”別館”にあたる建物である。
片手の紙束の一節によれば、住民棟として使っているらしい。
五階と屋上を備えるその建物は古い和を思わせる黒門に囲まれており、褪せた閂をみてみると、
「わぁ、あかい花。ハイビスカスだっけぇ?」
吸血鬼も感心するほどの装飾が施されていた。
門の周りに立ち並ぶ林は雪は被っており、赤と白の奇妙なコントラストである。
門をくぐり眺めた先にあるものもまた、白く敷き詰められた雪の絨毯。
小悪魔めいた小さな吸血鬼などは思わずはしゃいでしまったほどである。
『きはは きはは』
『こつ こつ』
二つの音が対比して鳴る。靴音と笑う声。
「ん。そうだ、君」
どこを視るわけでもなく、ないものに問いかけるかのように七瀬彰は口を開いた。
高い高い天井の下を革の靴鳴らしながら、七瀬はなにとなしに歩いている。
「住んでいる人とか、いるのかな」
――。
「へぇ。いるんだ。それは……とても物好きな人たちなんだね、きっと」
うん、と独りうなずき、大理石の床の上に鎮座するソファに腰を下ろす。
埃をかぶっている癖して、それは驚くほどに座り心地がいい。
隣に十字架を掲げた神像なんかが在るのがこれまた、
「いや、これは趣がある」
エントランスホールは円形である。
大きめの廊下が続く東が七瀬彰が入ってきた方。入り口に繋がっている。
他に、東以外の、
『いち、に、さん……』
と三つの径(みち)がある。
西の径が東とおなじくらいに幅が広い廊下で、残りの北と南は狭い一本道。
それらはおしなべて、異界にでも続いているのではないかと錯覚するほどにくらく暗く、その径を歩くモノの精神をどうしようもなくおかしくしてくれる。時間の流れは分らない。
「あぁ、そういえば聞いてなかったな。君の名前は?」
――。
「フラミリア。はは、どこかのお人形みたいな名前だな」
――。
「すまない。喩えが悪いか。じゃあ……人心惑わせる愉快な愉快な吸血鬼みたいだ」
――・・・。
(あれ、どこにいったかな)
気配が消えてしまった。飽きたのだろうか。
七瀬彰は子供好きなのであるが、なぜだか当の子供からは好かれない。
(いつものことさ)
仕方なくそう結論付ける。
どうせならばもう少し応戦して、子供から好かれるように努力すべきなのであろうが、困ったことに此処には睡魔がいる。このどうしようもなく心を落とそうとするソファのせいであろう。
そうして、七瀬彰はゆっくりと眠りに落ちていった。どこからか鉄の香りがしている。くゆり。
七瀬は気付いてはいないが。
旅館にはひとが萃まってきている。
もうひとつ気付いてはいないが。
七瀬彰の姿はソファより消えている。ソファの上には絹糸めいた鈍色の髪がひとつ。
最初の方なんでこんなもん。設定付け加えまくって終わり。
人が作ったキャラを動かせるのが今回のリレー小説の醍醐味だぜ。
しかし七瀬君はどうにもこういった変な建物に縁があるようで。
あ、最後の鈍色云々はもちろん鈴音さんです。
「赤雪山旅館に、行ってみない?」
そう、友人であるトーヤこと十夜理志に誘われたのが昨日。
赤雪山旅館ってのは、とある小説に出てくる建物なんだが、どうやら実在するものらしく、
さらに言えば、俺たちが住んでいる街に近いところにあるらしい。
ちなみにその小説は目の前にいるこいつに借りた。なかなか面白かった。
それで興味のあった俺はOKし、今日に至るわけなんだが―――
「……なあ、なんで徒歩なんだ?」
「じゃあ自転車で行く?あの小説通りなら山道を行くんだけど」
「OKマイブラザ。まずはそのメガネを叩き割ってやろう」
拳を振り上げるが、全く反応しない。本当に殴らないことはわかっているらしい。
「だってさ、タクシー拾うわけにもいかないしさ、歩いていくしか無いじゃん?」
少し呆れたような表情でそう言う。
確かに、そうだ。そこを見落としていた。行くことに夢中で過程を見落としていた。
「因みにトーヤの旦那、どのくらいかかります?」
「およそ2時間」
うわぁ。うわぁ。マジか。そんなに歩くのか。そしてそれを平然と提案するのかこのメガネは。
「で、行くの?行かないの?」
呆れたような表情のまま、そう問われる。
「ああわかったよ判ったよ歩けばいいんだろ歩けば!?」
諦めて歩くことにしました。
で、約二時間後
「あ、見えたよ、あれが赤雪山旅館……大丈夫?郷流」
「…………」
やめて、話しかけないで。答える気力残ってないから。
ってかお前歩くの早すぎるでしょう?修行僧か己は?
「よく……歩けるな……お前……」
とりあえず、そう口にするのが精一杯だった。
「ま、スタミナには自身あるからね。さて、ここまで来たなら中に突入だよ」
そう言い、俺の腕を掴んで引っ張っていく。
そしてそのまま、赤雪山旅館の中へと入っていくのだった。
「あいつら、こんなところで何やってるんだ?」
彼らを見つめる、和服の女侍が居たことに二人は気づかなかった。
ノリと勢いで書いたら初期夢幻果のノリに。まあいいか!
最後の人は紅桜さんです。ええ。
他の人のキャラを動かすのは難しいというか、なんというか……うん。
「しっかし不気味な所だな」
ブレイクダークから降りた又津ら四人は、赤雪山旅館のロビーに来ていた。
ロビーからは四本の通路がそれぞれ東西南北に伸びている。その各々は得体の知れない暗闇にその先を呑まれ、そこを通る人間の意気を削ぎ落とすには充分過ぎるほどであった。
「何か、異様な雰囲気さえ感じますね…」
重影のその一言が、そのロビーの空気を端的に語っていた。
しばらく、四人とも無言でロビーを歩いていると、
「ん? 何だこれは…」
不意に、冬瑠が何かを見つけたような発言をした。その視線は、ロビーの中央に無造作に置かれたソファの上に向けられている。
「どうした、冬瑠」
「これ…」
ソファの上から冬瑠が拾ったのは、純色の髪の毛だった。
「髪?」
それをまじまじと見つめるリュウ。
その純色の髪の毛は、縮れたり塵が付いている訳では無い。それは、この髪の持ち主がこれを落としてから、まだそう長く時間が経っていない事を示していた。
だが、そこに疑問点を感じないと言ったらそれは大嘘。
「こんな旅館に、人が居るってぇのか」
「いや、それならロビーに人ぐらいいるはずだ」
ロビーの受付の所を見てみれば、そこには人はいない。それどころか、そこはうっすらと埃を被っていた。
人がこの建物を捨てて、もうかなり時間が経っている証拠だ。
冬瑠が持っている髪の毛とは、激しく矛盾していた。
「おかしい…」
この矛盾をどう捉えるか、四人で頭を捻っていた時だった。
「ならば…」
ふと、重影が何かを思いついたような顔をした。
「ここは、寂れた場所にあるとはいえ、小説の舞台になった所。私達がそれに魅かれてここに来たのなら、当然他の人々が同様の事を考えていても、何ら不思議はありません」
「ふむ…」
冬瑠は、指先に持った髪の毛をくるくると転がしながら、なにやら思案顔で俯いている。
「それは、夜達以外にも誰かここに足を運んでいる、という事だな」
「ああ。そうでなければ、この状況の説明が付かない」
ぐるり、とリュウが不気味なロビーを見回した。
「人の気配は、全く感じる事が出来ないんだがな…」
辺りは、埃の噎せ返るような籠ったオーラで満たされていた。それ以外には、特に気配は感じない。
「ならば、探せばいい」
その時、又津が新たな煙草を取り出しながらそう言った。
「どうせこの旅館は広いんだ。こんな中心で人っ子の気配を感じようなんて無茶っつうもんだ」
又津以外の三人が、再びロビーの周りをぐるりと見回した。
「どうやら、それしか無さそうだな」
その後、ため息交じりにそう言ったのはリュウだった。
「けど、ここからは不気味な何かを感じる。小説通りに事が起きるのなら、警戒はした方がいい。探すなら二人ずつペアになって探すべきだろ」
「ええ。それが得策でしょう」
リュウの提案に重影が相槌を打った所で、四人は二つの班に分かれて、自分達以外の人間を探す事になった。
「と言ってもなあ…」
リュウは、なにげなく通路の後ろを振り向いた。そこは自分達が歩いてきたとは思えない程に漆黒の闇に呑み込まれ、彼らに後戻りする気を無くさせた。
「不気味な旅館には変わりねぇしな…」
「全くだ」
懐中電灯を手にしながら、冬瑠がため息と共に呟いた。
「本当にここに人間がいるのか? リュウよ」
「居なきゃ困るんだけどな」
話し合いの結果、又津と重影が北側、リュウと冬瑠が南側の捜索に当たる事になった。確認が取れ次第、ロビーで再度集合する手はずだ。
だが、リュウ達の歩いている廊下の照明は何故か付けられておらず、リュウの持っていた懐中電灯で辺りを照らしながら進むことになっているのだが、その光で映し出される廊下の内装は、それはぞっとする物があった。
ただでさえ辺りは暗くて不気味であるのに、廊下の所々に飾られている、人が殺されている絵画などに光が当たると、もうそれだけでリュウの足を竦みあがらせるには充分だった。
冬瑠は大して驚く事は無かったが。
「まず、ここは全体的に埃っぽい。それは勘弁して欲しいな」
だが、女性的な点に於いて、冬瑠もこの旅館の空気には不満を感じていた。
「おっ、ようやく開けるぞ」
だが、真っ暗だった廊下は間もなく終焉を迎ようとしていて、その出口からは光が見えるようになってきた。
「何処に繋がってるのだ?」
もう明かりは必要無いと判断したのか、懐中電灯の電気を消してリュウに返しながら、独り言のようにつぶやいた。
リュウは、羽織っていたジャケットの懐に懐中電灯をしまった。
「もう少し行きゃあ分かるだろ。小説通りなら、確か…」
そして、リュウと冬瑠は、狭い廊下から抜け、開いた場所に辿り着いた。
「うわ…」
「これは…」
そこは、二人が思わず絶句してしまうほど広大なホールになっていた。
その広間には辺り一面に座席が設置され、所々に開いている隙間には「西通路」、「中央通路」などの名前がつけられていた。
そして、その広間の一番奥には巨大なステージも設置されていた。
そこまで来て、リュウはそこが何の目的で存在するのかを思い出した。
「ああ、やっぱり劇場だったか」
そう、そこは小説の文章の通り、赤雪山旅館に付属している劇場であった。
「そういえば、そんな記述も存在したな」
冬瑠も、小説の中にそれが書かれていた事を思い出したようで、顎に手を当てて頷いている。
二人は、しばらく劇場の客席をぶらぶらと散策していたが、その中で不意に、
「うー…」
どこか、恐らく二人の後方から、子供が拗ねたような声が聞こえた。それもかなり至近距離に。
リュウと冬瑠は、その身体に電流が走ったかのように激しく振り向く。
「今…」
「ああ、間違いない。行くぞ、冬瑠」
不貞腐れた声を辿って、二人は客席の後ろに向かって走り出した。
そして、
「どうしたのかや? わたしに言ってみてごらん!」
「やだ」
「むぅー、嫌われちゃったかや…?」
黒緋の髪と金の目を持った少女と、少女からそっぽを向いている幼女を見つけたのは、走り出してすぐのことだった。
うまく分散させる事に成功。ちなみにラスは狭霧さんとフラリミアです。
フラリミアはこっちのグループで再登場させました。
さて、残り二人は放置してみると面白い事に(ぉぃ
こつ、こつ、と、響く足音。
彼等二人を除いて、人の気配などしない、赤雪山旅館のロビー。
「……当たり前だけど、誰も居ないな。廃墟の割には、荒れてないけど」
そう言いながら、郷流は周りを見回す。
受付にも、当然誰も居ない。休憩用と思われしソファは、埃を被っている。
「まあ、誰か居たら吃驚だな。うん」
「じゃあ、吃驚することになるかもね」
そう言って、ソファを見ていたに居た理志が郷流の方を向く。
「は?ここに誰か居るって言うのか?」
ここは、先程も言った通り全く人の気配がしない。
それだけなら、まだ他の階や場所に居る、という可能性がある。
しかし、ソファやテーブルは明らかに何年も放置された埃の被り方をしている。
そうでなくても、ここは小説通りであれば、もう人が住んでいる筈が無いのだ。
「これ、見てよ、このソファ」
そう言って、近くにあるソファを指差す。
「この部分。……埃が、掃われたような後がある」
「んあ……?あ、マジだ」
確かに、一部分だけ不自然に埃をかぶっていない場所があった。
「これが指し示すのは、少なくとも最近、ここに誰かが来た、という事。因みに、自分で触った跡でした、なんてオチじゃないからね?僕触ってないし」
「なるほど……な」
もしかしたらその人物が来たのは今日、もしくは、数日前に来て今も居る、そういう可能性があるわけだ。
「……まあ、誰か居るなら、探索してる内に会うだろうね。相手が
殺人鬼だったりしたら困るけど」
困る、と言いつつ、理志は少し笑みを浮かべた気がした。
「まあ、その時はその時だ。とりあえず、当初の予定通り二手に分かれようぜ」
事前の計画では、郷流と理志が手分けして旅館内を探索することになっている。
「じゃ、僕は二階を見てくるよ。郷流は一階を頼んだ」
「了解だ。じゃ、なんかあったら携帯で連絡してくれ」
そう言って、郷流は奥へと進んでいった。
郷流が、完全に見えなくなった頃。
理志は、まだロビーに居た。
「本当に殺人鬼でも居れば良いのにねぇ……は、ははは、は……」
そう呟く理志は、普段の穏和そうな顔からは想像もつかぬ、狂気を孕んだ笑みを浮かべていた。
そして、背中のリュックを降ろして地面に置き、その中から何かを取り出し始める。
リュックから出てきた彼の手に握られていた物は―――短刀。
「こんな所に集まる物好きだし、ちょっとくらい強い奴、いる、よな?」
リュックをその場に置いたまま、理志は二階への階段を上っていった。
瘴気にやられた訳じゃなくて、これが彼です。
時系列的に郷流は知りませんが、彼、郷流より強いです。
この状態だと一人称が俺になったり、言動が狂気的、猟奇的になります。
……反転?( 因みに彼は本気で殺す気は無いので安心を。
ところで、本編よりこっちの方が出番多いってどうなのよ。今の所だけど。
郷流は投げる。誰か他のグループと合流させちゃってください(
因みに彼はここに来た者が「複数人」と確信しています。郷流に伝えてないけど。
実際色々万能なんですこの子。
窓のない部屋とは、とことん不健康である。
照らすものが一昔前の豆電球と、更に昔の行灯四つではタイムスリップが失敗でもして異次元に迷い込んだかと錯覚させる。
「はーい、どうぞ。この私梶岡家お抱えメイド霜月特製のジャスミンティです。ご賞味あれ~」
処は一階の住人用の部屋。
この部屋の主はまだ定まってはいないらしく、備え置きの家具や洗濯機、ケーブルテレビ等がそのまんまに在るのみであった。
「ありがたく……。頂きます」
壁には何やらな絵画が広がっている。
いや、絵画というにはとても相応しくはない、
「この落書きはなんだろうね。えーっと、萩に火の玉に花のつぼみに」
「雪に桜に鳩に、あとは人間がいますねぇ。なになに、あら名前があるわ。”鍵山たかお”? 絵師さんの名前ですかねぇ。うちの主の坊ちゃんさんよりもすごぉく綺麗で墨痕淋漓な字ね」
およそ愉快な絵が壁一面、はては床から天井にまで広がっている。
ずず、ずずず……。
ジャスミンティをゆっくりと飲んでいるのは剣客羽橋鈴音、メイドの霜月、後はサラリーマン七瀬彰である。
七瀬は正座、霜月も正座、当然ながら羽橋も正座。
部屋の一間、座敷にはこの冬にはうってつけの炬燵があったので、そこに皆して入って談笑している。
「いや、ほんとに心優しい方がいて助かりました。あんなところで寝てしまうとは」
「いえ。たまたま、歩いていたら見かけたものですから。つい、おせっかいで」
「ふふ、つわものですねぇ七瀬さん。まっさか誰が来るとも知れないロビーの、しかもど真ん中のソファの上で眠ってしまうとは。ユウ君にも見習ってほしい豪気さに豪傑っぷり」
霜月はそんなことをいい、ひどく皮肉っぽい笑みを浮かべる。それが驚くほどさまになっているのが、七瀬と羽橋には、
(面白い……)
思わせている。
「豪傑というか、呑気かな。危機感が薄すぎるのかもしれません」
「あ、それはよく私も人から……」
「私もよく言われますね。きっと私たちは全員タフなんです、えぇ」
///
羽橋鈴音は、さりげなく斯様なことを云った。
「人の気配がありますね」
「そうですかねぇ?」
「そうかな?」
「はい」
小さく頷く。そんな仕草から、彼女がとても穏やかな者であるということを容易く推察できる。
ただ、切れ長の鈍色の眼をみれば、武芸を極めている者が発する気が見え隠れする。
「それは困ったね」
明らかに困っていない風な口振りで七瀬彰はのほほんと口にする。
さきほどあまり使用のされていないソファで眠りこけたものだから、黒のスーツには所々に埃や塵が付着している。
「こんなところに来るくらいですから、まぁマトモな頭の持ち主じゃあないですよねー。あぁ、もちろん私たちのことじゃないですよ?」
人がいるのか、それは楽しくなりそうだと顔で語る霜月がいう。
この女、顔はしゃっ、と細く髪は短髪なため下手をすれば男とも見間違いそうな。
「どうしようか」
「どうしましょうかー」
ジャスミンティの中身は、羽橋を除いて空である。
「……」
(どうといわれても……)
返答は用意していない。
ちなみにその茶を淹れた容器は、これまた備え置きの食器棚から拝借したもので何故だかどれもこれも取っ手の形や付き方が不揃いである。
耳のように歪曲したものもあれば、三つくらい同じ取っ手が付いているものもあれば、はたまた何も付いていないカップもある。
羽橋鈴音は手にもつカップに視線を落とす。
白くまぼろしめいた香りを含んだ湯気が、もう、と立っている。
「うん。やはりここはこれが一番ですね。素直に部屋でのんびりと過ごそうか」
「それは名案。あ、お茶を淹れましょうか」
霜月は炬燵よりさっ、と立ち上がり、キッチンの方へと歩いていく。
水は出るようで、ガスコンロから最低限の料理器具、言うまでもなく湯沸しの道具もある。ただしジャスミンティについては、常に霜月が持ち歩いているものである。
「えっと……」
羽橋は鈍色の長髪を指で軽く梳く。
七瀬はありがとうございます、と霜月の背中に声をかける。
先ほど霜月が確認したところでは、キッチンの方には冷蔵庫もあり中にはキャベツや小松菜、魚の干物などの食料も見受けられるが、食えるものであるかどうかは分からない。
羽橋鈴音は、くい、と残りのジャスミンティを飲んで、
「はい。それが一番ですね」
並の男が見れば抱きしめたくなるであろう、困ったような笑みをふ、と幽かに浮かべた。
つられて七瀬彰も微笑する。
ポットを持った霜月が戻ってきた。
霜月さんがご登場しました。
そういや、ミステリってことは死人が出るのかー。
赤雪キャラズで皆にも割と知られてる死人かー。ふーん。
そろそろ次ページ?
最終更新:2010年12月23日 20:48