■【情報文章】マウサツの国の現状・その1(2004年12月04日 21時)
かなり簡略化しておりますが、引継ぎに伴なって一通り目を通した資料などから、
私サコンが抜粋して護衛士団の皆様方にご報告致します。
楓華列島の西南の地、セイカグド。
ここはかつて楓華列島を治めていたドリアッドの『天子様』と呼ばれる方の
ご采配によって、ストライダー達に授けられた土地です。
従って、この地の住人は全てストライダー、もちろんマウサツの国の住人達も
全てストライダーの方々となっております。
現在、セイカグドで覇を称える国は三国。ここマウサツの宗主国でもあったアルガ。
そのアルガとの戦いの仲立に動いたトツカサ。そして西の大国ジリュウ。
今、セイカグドの状況は大きく流動しています。
他にもエルフ達が住むと言う『リョクバ』と呼ばれる地があると聞き及んで
おりますが、今の時点では詳しい事は判っておりません。
また、異種族間の諍いや交誼は『天子様』の御威光に逆らう忌み事として
禁忌とされておりその禁を犯した者は天子様に叛く反逆者として扱われる事すら
あるようです。
と、余談はこの辺りにして、マウサツの置かれた立場とその現状、そして抱えている
諸問題について語らなければなりません。
まずは、マウサツの置かれた立場についてお話しましょう。
先のアルガとの戦いでのトツカサのチオウ王子の差配で、マウサツの国は
アルガからの支配を離れ自治を認められました。ですが、先の戦いに介入して
グリモア1つを無傷で割譲したトツカサはともかく、以前沈黙を守る西の大国
ジリュウなどから見れば、アルガの属国が内乱を起こして勝手に独立を宣言した
程度の認識でしかないでしょう。今後、外交などを取り行う場合には、この辺りを
しっかりと念頭において戴く必要がありそうです。
そして、何より忘れてはならないのは、アルガからマウサツへと向けられた深い
憎しみでしょう。逆恨み、と言ってしまえばそれまでですが、先の戦いでアルガの
将兵達を少なからず討ち取った事も事実です。
彼等の動向には細心の注意を払う必要があるでしょう。
次に、マウサツの国の現状と、それに伴なう諸問題についてのお話です。
鬼の支配、そして宗主国アルガの来襲など、立て続けに起こった苦境の渦中に
いたマウサツですが、ここに来てようやく落ち着きを取り戻しつつあります。
ですが、この冬を越すに当たって、燃料や食料品などの生活必需品の不足が
懸念され始めています。食料につきましては、砦の攻略の際に得られる兵糧で
当座を凌げると思っていたのですが、既に何処かへ持ち出された後でした。
昨今、セイカグド中で楓華列島の庶民の主食である米の値段が急騰しているとも
聞いております。燃料を含むこれらの品々の確保が今後の課題になるでしょう。
また、街の方の復興は進んでいるのですが、資材不足などから砦の修復が
殆ど手付かずになっております。いずれマウサツの護衛士団の本拠地ともなる
砦ですし、他国の動向も気になります。砦の修復作業ですが、
出来るだけ早急に着手すべきかも知れません。
そして、各国から放たれたであろう間諜の排斥も重要な課題となります。
同盟諸国についての情報、特に同盟本土へと繋がる『蒼の迷ひ路』の存在は、
出来る限り他国には隠匿しなければなりません。
皆様のご尽力に期待致します。
最後に、マウサツの護衛士団の前身ともなったマウサツの国救援部隊ですが、
ここマウサツの国とは完全に切り離されての活動となります。火急の折以外では
互いの連携及び、連絡は難しいでしょう。その事は重々ご承知下さい。
また、鬼に関する情報はあえて省かせて戴いております。
鬼についての詳細は救援部隊の方でご確認ください。
追申:他に付け足すべきご報告や情報などがございましたら、随時補完して
戴けますと幸いです。
楓華列島の文化と触れる機会の多い街での活動に従事している者は多い。
他にも夜光疾風・ハボック(a13762)や風に護られし者・カオル(a13583)、
黒点・シギ(a11321)も街中の見回りなどを行っていた。
若き疾風の狩人・ドークス(a12690)などは街の安全の確保から動くつもりらしい。
「ホントにストライダーしかいないんですね……」
一方、警備の傍ら街中の様子を窺っていた武装戦闘野良メイド・ステラ(a05867)が
感心したように呟く。
とは言え、ストライダーである霧玄ノ月・シェルティ(a12731)や瑠璃色の小雪・セト
(a15380)達への対応はともかく、ヒトである風来の冒険者・ルーク(a06668) や
夢想の中で佇む泡沫神子・セイル(a11395) 、紅虎・アキラ(a08684)などからの
挨拶にも気さくに応じている所を見ると、同盟の冒険者たちの評判は
悪くないらしい。
ただ、天界の大天使・ヒメ(a14600)などドリアッドからの挨拶には、
「ドリアッド様、ご機嫌麗しゅう……」
などと謙った調子で挨拶を返す者も多い。
「まあ、アレもいずれ慣れるとは思うけどな」
街の者と世間話をしていた侍魂・トト(a09356)が笑いを噛み殺しながら呟く。
慣れると言うのは、街の者達がと言う事だろう。護衛士たちに対する順応力の
高さから見てもそう遠い未来ではあるまい。
逆に、不死鳥の翼・アイオーン(a08058)やヒトの吟遊詩人・エリエール(a90116)の様に街の様子に馴染みつつある者もいる。
両者が完全に打ち解ける日も近いだろう。
散歩がてらに街の様子を見て回る者達もいた。矛盾する相対者・ヒスイ(a13501)や
天下の酒豪・カスラ(a13107)、世間知らずな悠久の鬼姫・カヤ(a13733)である。
暫し観光気分に浸りつつも、今後の活動に向けての情報収集には余念が無い。
護衛士達の姿が完全にマウサツの街の一部となるまで今暫く時を必要とするだろう。
だが、その為の大切な一歩を護衛士達が踏み出した事は忘れてはならない。
●マウサツの砦
グリモアの直衛をヒトの重騎士・ハヤタケ(a14378) と天血塵・メイノリア(a05919)
に任せて、砦の破損状況の調査を中心に活動していた護衛士達の間に重苦し
い空気が流れ始めていた。
ここまでの調査や、ヒトの翔剣士・トゥシェ(a05627)が呼んでいた大工や石工など
の話から、砦の破損状況が思っていた以上に悪い事が次々に判明したからである。
歌って踊れる腹黒参謀・ヒメル(a15658)が作成した砦の見取り図が、眠りし女神の見る夢・マンジュ(a11930) や蒼之賓人・スカイ(a07708)、宿無し導士・カイン
(a07393)達からの報告で見る間に埋め尽くされて行く。
更に救援部隊からの引継いだ情報を紋章刻みし旧き宿木・キリエル(a04701)が
書き加えた砦の破損箇所の見取り図は、護衛士達を悩ますに十分な資料と
なった。
「何とかこれだけは確保して来ましたよ」
資材の調達に飛び回っていた雷槌の戦業主夫・クリストファー(a13856)が、
どうにか入手した幾許かの建築資材を持ち込むがその量は少ない。
基礎部分の修復に足るだけの量もあるかどうか。
「……とりあえず、修復修復……と」
黙り込んでしまった一同を鼓舞するかの様に黒の陽炎・イファルス(a11560)が
立ち上がる。
今出来る事に全力で取り組む事、それが全ての始まりに繋がるのだから。
一方、砦の外での活動も始まっていた。
「……安らかに眠れ」
周辺の巡回の合間に、傭兵上がり・ラスニード(a00008)は先の戦いで果てた
戦死者を埋葬して行く。如何に敵であったとは言え、死者に対しての礼を失する
訳には行かないと言う事だろう。
回収した遺品を届ける余裕があればいいのだが。
その近くでは月に魅せられし者・ライハ(a11398)が付近の把握に努めていた。
いざと言う時に、その知識が役立つ事だろう。と、その時であった。
「その話は本当なのですか?」
峠を行き交う者の監視や身元確認をしていた笑撃の・アルベルト(a01269)が
大きな声を上げる。
只ならぬアルベルトの様子に、近くにいた護衛士達の間にも緊張が走る。
程無くしてマウサツの街に仮設されている護衛士団の本部にもたらされる事と
なったその凶報とは――。
●物資調達
同盟本土からの補給計画を考えていた日常からの逃亡者・カッセル(a16822)だが、ゲート移動で持ち込める物品が数量共に限定される厳しい現実の前に、
計画の変更を余儀無くされていた。
「小型軽量で、マウサツの為に役立つ物を選定するしかねえな……」
落胆したようにそう小さく呟きながらも、カッセルの目から希望の光は消えない。
当面の急務でもある物資の調達の為には、あらゆる手段を講じる必要があるのだから。
同じ思いを抱いて、マウサツ近郊の山林に向かう者たちがいた。
「季節を考えると食糧になるものを探そう、というのは難しいかな……」
山林の様子を見て、運命を嘲う・タダシ(a06685)が独り言ちる。季節は既に初冬。
秋の恵みを得るには些か遅かったようである。蒼き月光の守人・カルト(a11886)も残念そうに周囲の様子を窺うが、程無くその顔に喜色が戻る。不足がちな木材の
確保に役立ちそうなヒノキや杉などが、周辺の山林に多々ある事を確認したから
である。石材に関しても駒犬・セツ(a11890)や遥碧の邪竜導士・シェンド(a09748)が商人や地元の者達から聞き出した石切り場などの情報から、ある程度は
確保出来そうである。
もっとも、それら資材の確保の為に多くの人手がいる事も確かであったのだが。
別の発見もあった。
「炭焼き小屋だって!?」
近くの山に柴刈りに向かった墓堀屋・オセ(a12670)だが、その傍らで同じく
柴刈りをしていた老人から、山の奥に放置されている炭焼き小屋があると言う
噂を聞き出したのだ。その話が本当ならば、不足がちの燃料の確保にも
繋がるかも知れない。
漁民達への挨拶回りに出向いた夜陰の風花・シス(a14630)だが、情報の収集に
関しては余り芳しくなかった。
特にこれと言った島などは無いと言うのである。が、ある程度の海産物の確保が
期待出来そうな事が判っただけでも、
無駄足ではなかっただろう。周辺地域での食料探しに出ていた鈍角の狩人・
ルイーナ(a03592)の方も、多少ではあるが食料の確保に成功していた。
街の外での活動は、概ね実のある物だったと言っても良いだろう。
一方で、マウサツの街で物資の調達に勤しんでいる者達もいた。放浪翔剣士・
ミン(a04357)や夢見るドリアッド・マルティーナ(a13778)のように現地の者との
交流も含めて活動を進めている者もいれば、
記憶は眠りし狂戦士・ノイン(a14628)や香水茅・シトラ(a07329)、森療術士・
フィルレート(a09979)達みたいに
物資の取引を優先させる者もいて、マウサツの市場は俄に活気付いて来た。
ランドアースでは余り馴染みの無い貨幣を使った取引、そして市場の調査も
兼ねて商人達に挨拶に向かう者達もいた。
銀河を疾る流星・ルディン(a14167)や氷雪の御前・ルナール(a05781)、
銀糸の檻・グリツィーニエ(a14809)達である。
もちろん、全てを調べ上げるまでには、今少し時間がかかるだろうが、
必要不可欠な事柄でもあった。
気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)も商人に挨拶に出向いている1人で
あった。交易を目指す以上、商人達との繋がりは重要になるだろう。
「冬だし防寒具とかも気になるの……」
挨拶や話し合いは滞り無く進んでいたのだが、きつねまくら・バンブス(a11316)が不足がちだと言う防寒具の話を切り出した瞬間、商人達の顔が一気に暗くなる。
暫しの沈黙が両者を包む。
その沈黙に耐え兼ねてか、やがて商人達は、お互いに顔を見やって頷き合うと、
新たな街の守護者となった護衛士達に、ある問題について切り出した。
その解決を護衛士達に頼みたいのだ、と。
●転機
「アルガの関所ですと!?」
その報告を聞いて、思わず声を荒げるクラノスケ。
マウサツの砦、そして商人達からの陳情で、昨今のマウサツの物流の滞りに
アルガの関所が関与している事が判明したのである。
陸路による交通手段しか持たないマウサツにとって、その関所の存在が復興への
大きな障害となる事は明らかであった。
山積みである問題に更に積み重なる障害。むろん、闇ばかりがマウサツを
包んでいる訳ではない。
幾筋かの光明も差し込みつつあった。だが、その光明を確実な物にする為には、
今思い切った手を打つべきなのかも知れない。
「……今暫くお待ちください。早急に報告書を纏めて、皆様に御報告致します。
これとは別の報告もございますので」
そう搾り出すように告げたサコンの言葉に、クラノスケや他の護衛士達も
ただ頷くのみであった。
【続く】
●ドラゴンズゲート周辺
マウサツの街を一望出来る小高い丘。そこにその『社』はひっそりと佇んでいた。
ランドアースと楓華列島を結ぶドラゴンズゲート『蒼の迷ひ路』。このマウサツ側の出入り口を外敵から護り抜く事、それはマウサツの護衛士達に課された
重要な任務の1つであった。
「ここら辺をしっかりしとらんと後々響きそうやからな」
そう告げる永久の罪人・ケイル(a17056)の声に催命仙龍・レイ(a01775)や
心に闇を持つ者・エンハンス(a08426)、日常の陰・レクト(a08256)も頷いて見せる。
既にドラゴンズゲート警護の任に就いていたのは彼等だけではない。
舌先三寸忍者・リツキ(a12603)や静逸なる匠・アレキス(a02702)、やんちゃ忍者・リク(a01945)を始めとする忍びの者達も早々に周辺警戒を始めていた。
中には拠点探しに勤しむ駆逐官・キヨミツ(a12640)や鬼に対しての
警戒を強める採魂の女神・リィーリエ(a10908)等もいたが、陽を望む白銀の風・
フェレク(a15683)や深淵の魔女・ファリナ(a05105)、
徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)の様に人員配置を見定めての
活動に従事する者達もいた。
そうした配慮もあり『社』周りの警戒は、今の所ほぼ万全であると言えるだろう。
一方で、今後の活動に向けて周辺地区の調査に勤しむ者達もいた。
「なるほど、この道も街に通じているようですね」
マウサツの街から『社』までの道などの調査に勤しむ黒鱗の盾・ヴァラ(a13934)。
そして『社』周辺の調査を行う青銀の医術士・エスリス(a08853)や忘却ノ彼方・サテラ(a16612)達が、付近の地図の製作に取り組んでいたヒトの武人・ティルミー
(a05625)に調査の報告を入れて行く。
その地図が完成した暁には、ドラゴンズゲートの警護に大いに役立つ事に
なるだろう。
その作業の傍らで、木苺息子・ラズリ(a11494)が『社』付近にいる者達の身元の確認作業などを続けていた。
取り敢えずは不審人物などもいない様子である。
この『社』を失うような事があれば、楓華列島に訪れている同盟の冒険者達は
帰るべき道を失ってしまう。
この地をどうやって護り、警戒して行くか、護衛士達に託された課題は多い。
●マウサツの人々
マウサツの街や砦、ドラゴンズゲートやマウサツ郊外での活動と並行して、
この地の領主ツバキ姫やその補佐役である家老のクラノスケ達から話を聞こうと
試みる者達がいた。
トツカサへの金1,500の支払いの準備や『マウサツ救援部隊』の移動に関する
支援など、様々な公務などの合間を縫っての挨拶や受け答えではあったにも
関わらず、ツバキ姫やクラノスケの対応は概ね好意的なものであったと言えよう。
しかし。簡略に挨拶だけに留めた戦神の末裔・ゼン(a05345)はともかく、
マウサツ付近の情勢についての資料を借り受けるついでにクラノスケから
解説攻めにあった夢見る箱入狐・ネフィリム(a15256)や物流に関する質問を
して様々な薀蓄をクラノスケから叩き込まれる事となった闇を斬る白き翼・アルヴァ
(a05665)。そして政治的な話を持ちかけてクラノスケの説明を延々と聞かされた
時の語り部・ソロン(a11490)と香水茅・シトラ(a07329)、今後の国造りに関して
質問した颯颯の黒狐・チッペー(a02007)も『舌好調』なクラノスケの『口撃』に
あったとかなかったとか。
「……クラノスケの話は長過ぎます。皆様もお困りですよ?」
「そ、そうでござったかな?」
ツバキ姫の助け舟が無かったならば、クラノスケの話はもっと長くなっていた
かも知れない。
……ともかく。黒葬華・フローライト(a10629)が持ち掛けた砦の修繕に
関する打ち合わせも含めて、近い内に詳しい報告があるだろう。
一方、砦の書物の確認整理に当たっていた崩壊せし漆黒の狼・ヴェリス(a16544)
の作業は少々手間取っていた。
『マウサツの国救援部隊』との本格的な分割に当たって、資料の複製や調査、
再確認などの作業と重なってしまっていたからである。
確認作業などが任せられる分、整理にのみ集中すればよかったので渡りに
船ではあったが。
ここでの作業はまだ暫く続く様子である。
●それぞれの道
初冬を迎えたマウサツの日暮れは早い。沈み行く夕日が辺りを朱に染める。
「……夕日……ランドアースと……同じ……」
砦周りで地形の把握に勤めていた赤誠の武道家・フェリディア(a16292)が
沈む夕日を見ながら呟く。
マウサツの街の裏通りへ向かう桜月玲瓏冴雲水・ウイング(a01562)、
そして愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)と
幻月の陽炎・クローディア(a01878)も場所は違えども同じ夕日を見詰めて
足を止める。
マウサツの護衛士達の活動はまだ始まったばかりである。自分達に出来る事、
そしてやらなければならない事。
それぞれの道は、まだ遥として見えないのかも知れない。
だが、進まなければならない。
それが、たとえ闇の中へと続く手探りの道になろうとも。
こうして、マウサツの1日は終わる。
【おわり】