●アルガの城(22日深夜)
固く閉ざされた城門。その内側では今尚、アルガの将兵たちが戦の準備を
整えているようだが、その様子は定かではない。
ようやく到着したマウサツの後続部隊は完全に締め出しを食わされる形となっていた。
「城には入らずに先陣で戦えと、トキタダ公はそう申されたのですか……」
悲痛な面持ちでツバキ姫が呟く。
マウサツから派遣された者たちの数は50名余り。マウサツ家臣団のほぼ全てが参加していた。
当初からこの数を想定していたのならば、交渉の席でのあの冷遇は無かったのかも知れない。
思いの全てを語り合う余裕があったのかも知れなかった。
だが、交渉の席で指し示した数は、数百の軍勢がこれから戦う戦場において、
援軍と言うにはあまりにも数が少なかった。足元を見られても仕方の無い所であろう。
だが、時は巻き戻らない。今出来る事をやるしかなかった。
●ジリュウ本陣(日時不明)
「ほう、マウサツは動いたか。して、その数は?」
「およそ、50。その出で立ちからマウサツの家中の者が大半かと。
どうやら城の外に配されるようです」
「そうか。続けて任務に当たり、その動きを報告せよ!」
そう告げて、目の前の地図に駒を1つ置く男。
「ここまでは予想の範疇……さて、次の一手はどうする?」
男の口元に薄い笑みが浮かぶ。
●トヨナカの村(日時不明)
トヨナカの地に留められる事となった護衛士たちに今出来る事は僅かでしかない。
チオウの言葉に従い、この地に留まるか。
それとも、チオウの『誘い』に乗って行動を起こすのか。
決断の時は迫っていた。
●マウサツの街(23日払暁)
「マウサツの地に異変が無い。それは間違いの無い事……」
複雑に絡んだ糸を紐解くように思いを巡らせるサコン。ジリュウとマウサツを除く、
他のセイカグドの地域では少なからずの異変が起きていると言うのに。
「これも、ジリュウのサダツナ公の思惑の1つなのでしょうか……」
何故……そう思って目を閉じたサコンの脳裏に新たな啓示が浮かび上る。
時期は定かではないが、海を越えてマウサツを攻める軍勢。その者の姿が、はっきりと脳裏に浮かんだのだ。
「エルフ……エルフの一族がこのマウサツの地を!?」
セイカグドの異変、それだけに囚われていたのかも知れない。
この事を皆に告げる為に、サコンは部屋を後にする。
絡み合った糸の先を握る者の嘲笑を感じ取りながら。
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