セイカグド動乱23日-1(完成版) 2004年12月23日

●開け放たれし城門
 天地が割れるような鬨の声と供に迫る軍勢。
 津波のようにアルガの城に押し寄せる兵士の波。

それが、いつ終わると無く続くこの戦いの始まりであった。
 押しては引き、また打ち寄せるジリュウの攻撃が続く中、城門前に陣を構えた

マウサツの兵団もその渦中に飲み込まれ様としていた。
「城壁を背に背水の陣となし、アルガ攻めをするジリュウ兵を迎え撃つ。

これで、『先陣』の務めを果たす事になるだろう!」
 仲間たちを鼓舞するかの如く傭兵上がり・ラスニード(a00008)が声をあげる。

徹底した守りの陣であった。

城門を守り切れば、あるいはこの戦を凌ぎ切れる可能性もあろう。
「やっぱり頭数で遥かに劣っているか、なら!」
 素早く棍を打ち振るって『リングスラッシャー』を展開させる希望の流星・ルディン(a14167)。
ツバキ姫を、マウサツ家臣団の皆を守る為に力を振るうと決めていたから。
「城門の中の皆さん、よく聞いてくれ。近くにジリュウの別働隊がいる。

恐らくは内部からの城門の解放が目的だろう。気を付けていてくれよ?」
 城門に向ってそう一言声を掛けてから笑撃の・アルベルト(a01269)は、

軋む身体を引き摺りながら最前線へと向う。
 ジリュウの軍勢の本格的な攻勢が始まったのはその直後であった。
 マウサツの陣は奮戦していたと言っていいだろう。
「もっと強い人はいないのっ!」
 敵の手練れを倒し様に村人その壱・エン(a00389)が叫ぶ。次の相手を探す為に。
「皆さん、回復ですよ」
 味方の負傷を見計って紋章刻みし旧き宿木・キリエル(a04701)が

癒しの波動を放つ。
 だが、敵の攻撃は本気であるようには思えなかった。

手応えが無い、それが先陣で戦っていた者たちが須く受けた感想であった。
 しかし、その理由を考える暇も無く次の攻勢が始まろうとしていた。
「ちっ、別働隊が動き出したぞ!」
 敵陣を観察していた駆逐官・キヨミツ(a12640)が叫ぶ。
しかも、今度の攻勢は今までに倍する兵たちが向って来ていたのだ。
 別働隊に対応する余裕は無かった。
「姫様、私の後ろに……」
 ツバキ姫を庇うように採魂の女神・リィーリエ(a10908)が言葉を掛ける。

直後、壮絶な死闘は幕を開けた。
 耐える。ひたすらに耐える戦いが続く。
 如何に鉄壁の陣を引いたとは言え、兵力差は歴然であった。
「ここさえ耐え抜けば、勝機はあるっ!」
 仲間たちを奮い立たせるべくラスニードが叫ぶ。
「あの将さえ倒せば……援護を!」
 叫ぶと同時に無謀ともいえる特攻をかけるエン。
「無茶をする!」
 そう言いながらもエンに群ってきた敵兵目掛けて針の槍を放つアルベルト。
 身を切り裂く幾つもの刃を掻い潜りながら敵将に肉薄したエンの姿が

三つに分かれ――敵将は血反吐を吐きながら地に倒れ付す。
 直後、背後から重々しい音と供に怒声が湧き上がる。
 その只ならぬ気配に振り返った護衛士たちの目に映ったのは……
城より上がった黒煙と、内側から開け放たれた城門であった。
 そして、その内側では激しい戦いが行われていた。
「敵の別働隊か!?」
 思わず声を荒げるキヨミツ。将を失い後退して行くジリュウの兵たちを

追撃するか、それとも……


●ジリュウ撤退
 未だに興奮冷めないジリュウ第3領。
 トツカサの軍が一斉にその地を狙い、註していた軍の兵をあらかた

平らげたのは戦闘を開始して僅か、半日にも満たなかった。
「……逃げてくれている内は良いよね」
 忘却ノ彼方・サテラ(a16612)が呟くのは敵兵の背中に向けてか、

それとも闘うことに慣れてしまう事への恐怖なのか、それは判らない。
 だが、彼女の知らないところで伏兵としてトツカサ兵に襲いかかる者は決して

少なくなく、返り討ちに合う者、相討つ者と被害は決して無いとは言えない状況だった。
「これも、戦争だから?」
「そうだね、でも、こんな状況は少しでも短い方が良いよね」
 サテラに並んで愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)が周囲に敵が

居ないかと見渡している。
 だが、敵の影は彼女の視界にはなく、戦場に残るのは時折上がる雄叫びと

打ち合う鋼と鋼の音。
それらは兵站をかき集め、撤退準備が整うまでの間途切れることが無く、メルティナ達を苛立たせるのには充分な時間と数が上がっていた。
「撤収するぞ! 荷を背負う者は中央に、立ち塞がる奴等には容赦するな! 

余計な小細工は無しにしろよ!」
 永久の罪人・ケイル(a17056)が見ている前で、己も背に荷を負うた将軍が

先陣を切って走る。
荷車を押して走る者達は中央に寄せられて、安全策をとってはいるが、もしも敵襲があればそこは最も過酷な戦闘に陥ることになると予測できる。
「……わいも少し落ち着こう。こういう時こそ、落ち着いて行動せなあかんから……」
 荷を押し出す台車、それを引き、或いは押している者達の側で共に走り出した

ケイルが横に退いてトツカサ兵を先に行かせる。
 あの位置なら、襲いかかってくる敵は居ても相手を滅ぼす為の力を振るう者は

居ないと察したのだ。
 民を、この地を傷つけないよう見張ることを選んだケイルは武器を持った者達の

横に並んで走り出す。
敵対する者には容赦なく攻撃するのは当然のことかも知れない。
けれど、戦意の無い者、一般の人に攻撃の手が及ばないように、
これ以上、敵味方が必要以上の犠牲は出したくないのだと……。
「さて、そろそろか……だが、ここでお前達にもいい加減話しておかないと

怒られそうだな」
 ジリュウからトツカサに入ろうかという頃になって、チオウがマウサツから

来た者達、トヨナカから来た者達を集めて告げる。
「俺達はこれからジリュウ第4領に向かう」
 帰還はしないのだと告げたチオウに冒険者達が表情を硬くする。
「かつてはアルガ、そして一時的に俺達トツカサの第4領となった土地だが、
アルガ時代に徹底的に徴されていたようで、平定の為に向かったジンオウが

霧幻衆に襲われて撤退したのはお前達も知ってる話だな。だが、奴等ジリュウが

焼いたのは俺達だけじゃねぇ。第4領に搬入し、これから配らなきゃならなかった

食料までもやられてる。それで今アルガと開戦するというなら、兵糧は米一粒の

余分もないだろう」
 だからと、チオウが笑う。悪戯っ子の笑みで。
「やられた物は返して貰わないとな。それに、運ぶ部隊が居ないようだ。

俺達で運んでやろう。運び賃は食料半分だ」
「そんなことをして、第4領の人が無事に済むはずが!」
「無事だぜ……」
 ケイルが吼えるのにチオウは冷めた表情で返す。
「奪われたから返せと、自国の民に言うのか? それも、飢えて死にそうな者達に? 
自分達が本来なら始めに整備しなければいけない者達に、それを言うのか?」
 真顔で言うチオウは、ケイルを真正面から捉えて視線を外さない。
「やり方が汚いと、そう言うならな。鬼を無視してトツカサに喧嘩を売ったアルガ王

トキタダ公に言いな。アルガがマウサツの鬼を無視してトツカサにちょっかい

出して来た半年の間あざ笑いながら食料を蓄えて、時が来たらトツカサに

兵糧攻めをした挙げ句にアルガに喧嘩を売ったジリュウ王サダツナ公にも

同じ事を言いな。それでなら話は幾らでも聞いてやる。……違うか?」
 一拍置いて、ケイルを見つめるのはチオウの深い悲しみを持った目だった。
「あっちがあっちの流儀を貫くなら、こちらもこちらの流儀で返すまでだ。

自国の民を救い、護り、良き国であるべきと天子様の教えに則って俺達は国を治めている」
 視線を先に外したのはどちらだったか、それすら判らない長い間二人はにらみ合っていた。
「やる気がねぇと言うなら、ジリュウを抜けてトツカサに入った時に帰れ。

2日もあればアルガに、途中で道は違うが、マウサツには2日半もあれば

お前達の脚で着くだろう」
「あの、それで良いのですか?」
 夢見るドリアッド・マルティーナ(a13778)がおずおずと尋ねると、

巨漢のストライダーは無言で縦に頭を振り、そして続けた。
「言いたいことは判る。腕も立つのは判る。だが、選ぶものが違うなら共に

行くのは互いの身を破滅に追い込むもんだ。それが生まれ育った国の違いなら、

これはどうにも埋められようが無ぇかもしれん。
少なくとも、俺は俺の生き方を曲げる気はねぇ」
 マルティーナがヒーリングウェーブで兵達を癒していたのを彼は知っている。

違った意味で兵達を睨んではいても、ケイルが暴走する兵達を止めようと

してくれていたことも知っている。
「周囲に敵の影はないと思いますけどね……」
 それで良いのですかと、問いたげな蒼き月光の守人・カルト(a11886)の

表情にも頷いてトツカサの将軍は部下達を進ませる。
「時が勝負だ。変な小細工も、おためごかしで時間を稼ぐのも性にあわねぇ。
敵はぶっ潰す、俺の手で護れるものは民草全てを護る。気にいらねぇなら

出て行くか、俺を倒せばいいだろう」
 倒せるならなと、傲慢不遜とも言える言葉を言ってのけるのは、背負ったものの

重さを知る者の強みなのか、それともただの阿呆なのか。
「……では、まずはトツカサ領に脱出するまでを急ぎましょう」
 答えを先の伸ばす訳ではないのだが、これで釈放されるならと銀糸の檻・

グリツィーニエ(a14809)が先を急ぐ。
時間が惜しいのは何もトツカサ兵だけではないからだ。
 急ぎマウサツに、或いはアルガに向かわなければいけないのは、彼らも同様だった。
 または、元も近いトヨナカに戻ってトツカサについてもう一度調べるのか……。
 小競り合いとも言えない関所突破を行って、彼らはトツカサに帰還した。


●暗躍する陰
 エルフの一軍の到来までにはまだ時間があるとの報を受けたものの、一度

張り詰めた空気はそう簡単には解かれる事は無かった。
 しかし、それは今回に限っていえばいい方向に働いたと言えるだろう。

その気配を敏感に感じ取った者たちの暗躍が活発となり、護衛士たちの

警戒網に捕らえらる事となったのである。
「待てっ!」
 鋭く響く我流影殺法忍者・ショウシンザン(a05765)の声。追われるように

2つの影が逃げ惑う。
街中で不審な2人連れを見つけたショウシンザンンが、2人から話を聞こうとした所、

急に逃亡を始めたのだ。
「右のは任せとけ!」
 近くで警戒の任についていた紅虎・アキラ(a08684)が右手の路地に

逃げ込んだ男を追う。
 頼むとだけ告げてショウシンザンはもう1人の男を追う。
「手伝おうか?」
 と、逃げる男の前に立ち塞がったのは颯颯の黒狐・チッペー(a02007)であった。
 周辺の路地を熟知していたのは護衛士とて同じ事。行き場を無くしてうろたえる男。
「こっちは片がついたぜ?」
 にっと笑って運命を嘲う・タダシ(a06685)が右手に逃げた男を捕えて合流する。
何時の間にか周囲には他の護衛士たちも集合していた。
「おいしい所を取りやがって……」
 タダシにそう愚痴を言いつつも笑って見せるアキラ。男は周囲を見回して

観念したかのようにへたり込む。
「あらら、これはハズレかな?」
 ぷかぁとキセルをふかせてチッペー。このうろたえぶりから見ても、取るに

足らない小物の可能性が高いだろう。
「じゃあ、警戒に戻るね。あまり把握していないから……地形などもチェック

しとこうかな?」
 応援に駆けつけていた気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)が終わったと

ばかりに元の任務に戻って行く。
「うむ。では、いざという時に避難出来ぬ者がいない様に街の見回りに戻るかの」
「避難経路の確認、か」
 矛盾する相対者・ヒスイ(a13501)と影月・カスラ(a13107)も再び街の見回りに戻る。
2人の様に街の者たちの避難という観点からの見回りが重要になる事も今後

あるのかも知れない。
 マウサツの街の動きもそうであったが、砦周辺での動きも慌しかった。
「待ちなさいっ!」
 世間知らずな悠久の鬼姫・カヤ(a13733)の静止を呼び掛ける声が砦付近の

山林に響く。
 見回りの最中、怪しい人影を発見したのだ。
「ちょっくら先回りするか」
 そう言ってふいっと姿を消したのは宿無し導士・カイン(a07393)。ドリアッドな

だけに林の中はお手の物なのだろう。
「よし、このまま追い詰めれば……」
 その様子を見て風来の冒険者・ルーク(a06668)は追い足を緩める。
「待つ必要は無いさ」
 逃げる影の前に立ちはだかった時空を越えし牙狩人・ユウ(a15210)が弓を

構えて見せる。
 その矢に込められた殺気を感じ取ってか、影の動きが止まる。
観念した、と言うよりは最後のチャンスを窺っているのだろう。
 だが、護衛士たちはついにそのチャンスを与えたりはしなかった。
 影、いや間諜の男は護衛士たちに捕らえられる事となった。
「どこの国の奴なんだなぁ~ん?」
 一方、アルガとマウサツの緩衝地帯に出向いていた夜陰の風花・シス

(a14630)は、幾人かの間諜らしき者たちの出入を確認していた。
「砦まで知らせに戻るなぁ~ん……」
 静かに、しかし急ぎマウサツの砦へと走り出すシス。
 間諜の出入があった、それが確認出来ただけでも大きな収穫であるとも言えた。
「とにかく、人員が裂かれている間、砦の警備は万全にしておきたいスね」
 マウサツの砦では雷槌の戦業主夫・クリストファー(a13856)が砦の周囲にいる

一般の者たちとの交流を深めつつ、その顔を覚える作業に務めていた。

地道だが、いずれ重要になる可能性の高い作業であると言えた。
 その砦の近くの峠を進む隊商。
 サイカイ屋ジンエモンの商隊の列であった。
「いっそジリュウまでおいでなされますかな?」
 見送りに付いて来ていたフローライトと話を続けていたジンエモンが不意に

告げた言葉。
 誘い、と言うには些か相手が悪い気もする。
「……ふーん、人攫いも商売なのかい?」
 やがて、ジンエモンの言葉を冗談と受け取ったように見せてフローライトは

答えを返す。
「いえいえ、滅相も無い。冗談でございますよ……」
 最後にあの人を食ったような笑みを浮かべて見せて、豪商サイカイ屋は

マウサツを後にしたのである。
「万が一のときの帰る道は、俺が守っておく……」
 『社』の警備に付いていた心に闇を持つ者・エンハンス(a08426)の決意に

満ちた言葉。
「この先は他国の者には見せる訳には行かないからな……」
 マウサツの街の南方の警戒に当っていた墓堀屋・オセ(a12670)が視線を

小高い丘に向ける。
 帰るべき場所への道を守る為に。

 


最終更新:2007年05月07日 01:19