【情報文章】トツカサ遠征~シラトリの合戦までの流れ

 

●【OP】トツカサ遠征(2005年05月22日 01時) 
 サダツナ公の催した野点の席から護衛士たちが帰還を果した後、

アルガとジリュウとの国境付近の情勢は大きく様変わりした。

国境付近に広く展開していたジリュウの武士団が引き上げ始めたのである。
 同時にアルガ領内である噂話が広がり始めていた。

 マウサツとジリュウが手打ちをしたらしい――と言う噂話が、である。

「恐らく、サダツナ公が仕掛けて来た策の1つと見て間違い無いでござろうな」
 務めて冷静な声でそう告げるクラノスケ。戦渦に巻き込まれる事を怖れていた

アルガの民衆にとっては、その噂話は朗報と言えた。

そして、その噂を裏付けるかのように引き上げて行ったジリュウ兵。
 それだけに一度広がり出したこの噂を抑える事は難しかった。
「……早急にトツカサに援軍を送るべきでしょうね。先手を打たれた以上、

このまま手を拱いていては手遅れになりかねませんから」
 暫く考え込んでいたサコンがゆっくりと口を開く。国境から武士団を引いたのは、

マウサツとアルガとの間に楔を打ち込む為のサダツナ公の仕掛けであるのと同時に、

トツカサ方面にその兵力を廻す為の施策でもあるだろう。
「しかし、こちらの守りは如何するのでござる? 今、トツカサへと護衛士の方々を

派遣しては国境はがら空きとなりますぞ?」
 そのクラノスケの危惧はもっともであった。相手が引いたとは言え、護衛士たちを

トツカサに派遣したならば、アルガとマウサツの守りはがら空きとなるのだ。
 しかし、サコンは静かに笑ってクラノスケに言葉を返す。
「あのお2人は、機が熟さない限りはアルガとマウサツには手出しをしないでしょう。
少なくともトツカサが健在であれば、こちらも安全と言う事です」
 サコンの言葉に大きく頷くクラノスケ。ならば、早急にトツカサへと援軍を送って

ジリュウの侵攻に備えるべきであった。
マウサツの護衛士たちに召集が掛かったのは、それから間も無くの事であった。
「只今よりジリュウの侵攻に備えて、トツカサへと遠征して戴ける方を募集致します。
現時点では、希望のグリモアの力を得いてるとは言え、トツカサの武士とジリュウの

武士との実力差は殆どありません。しかし、トキタダ公配下の30名ほどは、

護衛士の皆さんにも匹敵する力を得ています。
恐らくトツカサの武士たちでは、太刀打ち出来ないでしょう」
 集った護衛士たちにそう告げて視線を投げ掛けるサコン。
確かに、現状でマウサツの護衛士たちと他国の武士たちとの実力差は明白であった。
つまり、現状でトキタダ公たちに対抗出来るのは、このセイカグドに於いて

はマウサツの護衛士たちだけであったのだ。
「このままジリュウの凶行を見過ごしたならば、遠からずトツカサは滅び、

彼等の矛先は間違い無くマウサツへと向けられます。

いえ、恐らくはこのセイカグド以外の地域にも――」
 淡々と続けられるサコンの言葉に、護衛士たちは無言で聞き入っていた。
野点の席でサダツナ公が垣間見せたという野望。
それが真実であるならば、ジリュウの侵攻を阻止する事はセイカグドのみならず、
楓華列島全体の問題であるとも言えた。
「マウサツとアルガに付いては、来月初頭まで大きな異変はないでしょう。
それも踏まえた上で、護衛士の皆さんのお力添え、どうかよろしくお願い致します」
 そう言って深々と頭を垂れるサコン。トキタダ公とサダツナ公、この2人のもたらした

暗雲を振り払う事が出来るか否かは、護衛士たちの決断に託されたのである。

 

●【行動決定用スレッド】軍議
「援軍の派遣、ありがとうございます。これで我がトツカサの将兵たちの

士気も上がる事でしょう」
 トツカサへと到着した護衛士たちをジンオウ将軍が出迎える。今回の国境周辺での

緊張の高まりに、部隊の増援を準備していたトツカサにとって、

マウサツからの援軍の派遣は歓迎すべき事柄であった。
 しかし――
「残念ですが、歓迎の声ばかりではないのです。
将軍たちの中には、此度のマウサツよりの援軍を受け入れるべきではないと軍議で

発言される方もいまして……」
「……どう言う事だ?」
 そう告げて表情を曇らせたジンオウに護衛士の1人が聞き返す。
「実は現在、我がトツカサ領内にてジリュウの動きの影にマウサツありとの

噂が広まっています。それだけでしたら、ジリュウの間者が流した虚報であろうと

無視出来たのでしょうが、折り悪くアルガ領内での情勢の変化が我が国にも

報告されたのです」
 ジンオウの説明を聞いて護衛士たちは言葉を失う。トツカサ領内での噂と

アルガ領内での噂、そしてそれらの噂を裏付けるかのようなジリュウ武士団の動き。

トツカサの将軍が疑念を抱くのも無理はあるまい。
「そこで私から1つ提案があります。これより軍議の席が開かれますので、
そこで直接皆さんの口から現状の説明をお願い出来ないでしょうか?」
 提案と告げるジンオウであったが、既にその席に護衛士たちが参加する事の了承を

他の将軍たちにも取り付けているのだろう。
「ジリュウ側が手に入れたと言われる力に付いても、その席にてご披露して戴ければ

皆さんの援軍が必要だと再認識してもらえると思います。説明されただけでは

納得されぬ方もおられますので」
「つまり、上級アビリティの『演舞』を見せろってコトか?」
 護衛士の1人が思わず確認の声をあげる。
「ええ。無理にとは言いませんが、そうして戴けた方が、皆さんの今後の活動にも

便宜を図り易くなります」
 爽やかな笑みを浮かべてジンオウが返答する。確かに、この軍議の席で

将軍たちの持つ不信を払拭し、更に実力を示す事が出来たならば、

反マウサツの声はなくなるだろう。
「それでは後ほど、軍議の席で」
 軽く会釈をして護衛士たちの下から離れるジンオウ。
 軍議の席は間も無く始まろうとしていた。

 

●【結果】軍議
 軍議の席に於いて、マウサツへの追及の声は厳しかったが、サダツナ公からの

招待状の提示や野点の席で得た情報を包み隠さず語った事、そして今回の

一連の事件がジリュウ側が仕掛けた工作であるとのマウサツ側の主張が大筋で

認められた事もあり、援軍の受け入れは滞り無く行われる運びとなった。
 無論、この難しい情勢の折にサダツナ公からの招待を受けた事に対しての

非難の声なども上がったが、マウサツ側からもたらされた様々な情報の前に、

その声は然程大きくはならなかった。
 否、続いて護衛士たちが披露した上級アビリティの力の前に、トツカサの将軍たちは

言葉をなくしてしまったのだ。
 試し斬りで凄まじい破壊力を見せた『電刃居合い斬り』、障害物や

敵の鎧強度を無効化する『ソニックウェーブ』を始めとした翔剣士の技の数々、

そして兇悪な拘束力を示した『暗黒縛鎖』や使い様によっては恐ろしい威力を

発揮しかねない『ウェポン・オーバーロード』……
 そのどれもが、トツカサの将兵たちにとって初めて目にするものであり、

想像を越えた力であった。
 危険性のない、『どこでもフワリン』や『癒しの聖女』などは、幾人かの将軍も

その効果を実際に確認したりもしていた。
 その他にも色々な力が披露され、口頭での説明も加えられる事となったが、
中でもトツカサの将軍たちを慄然とさせたのは、『幸せの運び手』の効果であった。
この力を得た事により、ジリュウ勢は事実上、補給を必要としなくなったのである。
 ジリュウの武士たちも手に入れたと言うその力、恐らくセイカグドの戦いを根底から

覆しかねない力をマウサツの者たちによって文字通り見せ付けられ、

騒然とした雰囲気も収まらぬ中、軍議は終了する事となった。
「些か、刺激が強かったようですね」
 護衛士たちと共に軍議の席に残っていたジンオウが呟く。

恐らく、あの将軍たちは今後の戦いに備えて寝る間を惜しんで戦略の建て直しを

図る事になるだろう。ジンオウ自身も、護衛士たちの力を改めて目の当りにして、

頼もしさと共にある種の恐怖をも感じていた。
 そんな思いを振り払いつつ、今後のジリュウの出方について思考を巡らせるジンオウ。
 天子様の定めた理に弓引く事すら辞さないと明言したと言うジリュウ国王サダツナ。
そして、そのサダツナの野心に再び火を着け、セイカグドに新たな戦乱を

巻き起こそうとしている元アルガ王トキタダ。
 かつて、主君トツカサ国王ライオウ公と並び、このセイカグドに覇を競っていた

2人の男が手を結んだ以上、このまま平穏に事態が収まるとは到底思えなかった。
 恐らく近日中に動きがある、予感と言うよりは確信めいた思いがジンオウを支配する。
「さて、明日までに皆さんの駐屯先を決定したいと思います。候補地を幾つか挙げて

おきますので、行き先を決めておいてください」
 務めて平静を装いながら告げられたジンオウの言葉を受けて、護衛士たちも

軍議の席を後にする。
 ともあれこの一件で、マウサツ護衛士たちのトツカサ領内での活動は、

ジンオウの預かりと言う事を条件としてではあるが、広く便宜を図られる事と

なったのである。

 


●【行動決定用スレッド】駐屯先
 マウサツからの援軍が駐屯する候補地としてジンオウより示されたのは以下の3ヶ所。
其々一長一短のある場所となっていますが、どこに駐屯してジリュウの侵攻に

供えるのか決定してください。

1.トツカサ本領・トヨナカの村
 以前、『楓華の風カザクラ』の前身であった『マウサツの国救援部隊』が駐留していた

ジリュウ本領の守りの要です。ただし、第3領とは距離が離れている為、そちらからの

侵攻があった場合には対応するのは難しいでしょう。
 この地域の主将はトツカサ国王ライオウ公となります。

2.トツカサ第2領・リョウナンの村
 トツカサのほぼ中央付近に位置する街道沿いの村です。地勢的に本領や第3領への

移動も容易で、どちらからの侵攻があった場合にも、

即座に援軍に向かう事も可能でしょう。

しかし、それだけに現在は最も手薄になっている地域とも言えます。
 この地域の主将はジンオウ将軍となります。

3.トツカサ第3領・シラトリの村
 トツカサの北部に位置する海沿いの村です。国境付近ではジリュウ勢の集結も

確認されており、トツカサ側も増援を送る事を決定しています。

ただ本領とは距離もあり、そちらを突かれた場合、迅速に対応するのは難しいでしょう。
 この地域の主将はシュウセツ将軍となります。

 基本的に移動先は多数決で決定致します。投票し直しも可と致しますので、

色々とご検討の上、行き先を指定してください。

 

 

●【結果】駐屯先

1.トツカサ本領・トヨナカの村 2票
2.トツカサ第2領・リョウナンの村 24票
3.トツカサ第3領・シラトリの村 2票

 以上、投票の結果、トツカサ第2領・リョウナンの村での駐屯となりました旨を

ジンオウ様にご報告、了承されました。
 現在、駐屯地のリョウナンの村へと移動中です。

 


●【行動決定用スレッド】情報収集
 トツカサ第2領・リョウナンの村。トツカサの国のほぼ中央付近に位置する

この街道沿いの村は、地勢的に本領や第3領への移動も容易であると言う

地の利を活かし、戦役などの折には遊軍が配される要衝の地となっていた。
 この日の夕刻、援軍に参加しているマウサツの護衛士たちは、無事に移動を終えて

駐屯に向けた作業を開始していた。
 ここからは、ジリュウ勢の出方を待つだけであったのだが――
「さて、このまま体を休めて鋭気を養うのもいいのですが、皆さんも些か

手持ち無沙汰ではありませんか?」
 陣幕の内でくつろぎ始めていた冒険者たちに向ってサコンが笑みを浮かべる。

そんな笑みをこの霊査士が浮かべる時、何か裏がある事を護衛士たちは

経験上、知っていた。
「実は、護衛士の皆さんに『お願い』したい事が幾つかありまして……」
 そう切り出して、笑顔のままサコンが護衛士たちに告げたのは――

 

1.国境周辺への偵察任務
 現在、ジリュウとの国境周辺で特別な動きなどは察知されていませんが、

万一に備えての偵察や周辺地形の把握に務めて戴ければと思います。

2.兵士からの情報収集
 今回の事態をトツカサの兵士(下級武士)たちはどのように考えているのか、

また兵士たちが見聞きしている噂話などについての情報を集めて戴きたいと思います。

3.対ジリュウ戦史研鑚
 トツカサの武将に教えを乞い、これまでのジリュウとの戦いについての歴史や

過去の資料などについて研鑚して戴きたいと思います。

4.民衆からの情報収集
 付近の村などに出向いて民衆たちから今回の事態についての噂話や

風評などについて、色々とお聞きして戴きたいと思います。

5.その他
 上記以外の活動をして戴きます。具体的な行動内容をお書きください。

 

「……と、以上でしょうか。もちろん強制ではありませんので、十分に身体を休めて

鋭気を養って戴いていても構いません。あ、そうそう。ジンオウ様には許可を

取っておりますので、やり過ぎない程度でお願いしますね」
 そう告げてもう一度にっこりと笑って見せるサコン。
 こうして、サコンが言い出した『お願い』について、リョウナンの村に到着したばかりの

護衛士たちは色々と思案を巡らせるのであった。

 

 

●【結果】情報収集
 リョウナンの村を中心としたトツカサ第2領とジリュウとの国境周辺の偵察任務は、

懸念されていたジリュウ勢との接触などもなく滞り無く終了した。
 あくまで限られた時間の中での任務であった為、流石にジリュウ領の内部や

トツカサの他領まで足を伸ばす事は出来なかったが、今回の偵察によって、

護衛士たちは数々の得難い情報を得る事が出来た。
 まずは、対ジリュウ戦の重要な拠点となるだろうリョウナンの村周辺の地形。

川縁付近の湿地帯の所在や山林の木々の植生など、地図などで確認しただけでは

判らない様々な情報が、『地の利』として偵察任務に出向いた護衛士たちの脳裏に

しっかりと刻み込まれる事となった。
 次に、トツカサ側の防衛線の穴について。これまで、軍備を整えての行軍は難しいと

されていた険しい岩壁や渓谷などの天険の地は国境周辺にも幾つか存在していた。
 事実、その地を確認した限りでは、多数の軍勢が侵攻ルートとして使う事は

難しいだろう。
だが、ジリュウ勢が新たな力を手に入れた今、これまでの常識が通用しない

可能性もある。油断は禁物だろう。
 予想されていた工作部隊などの存在も確認する事は出来なかった。

だが、一切の痕跡を残さずに潜入している可能性もある。それを裏付けるかのように、

シラトリへと向うルートの確認を行った者によって、最短と目されていた山道が

崖崩れによって通行出来なくなっている事が判明したのだ。
 それが人為的な物か、偶発的な物なのかは現状では定かではないが、

憂慮すべき事態である事は確かであった。

 トツカサの兵士たちからの情報収集に先駆けて護衛士たちが礼節をもって

友好的な態度を示した事で、兵士たちのマウサツ勢に対する考え方に変化が生じて、

両者の間に友好的な雰囲気が芽生えた事は、嬉しい誤算と言っていいだろう。
 トツカサの国がマウサツを含む同盟の冒険者たちと縁浅からぬ国であるとは言え、

交流を始めてまだ半年余り。
しかも、下層の兵士たちとの交流は殆ど皆無であったと言っても差し支えない。
共に轡を並べて戦うとは言え、得体の知れない連中との評が先に立ち、

兵士たちも一線を画した対応を取らざるを得なかったのだ。
 だが、今回の接触でそうした風評も取り除かれ、食事を共にし、お互いに

語り合う事などによって、護衛士たちとの間に友好的な関係が構築されようとしていた。
「これを狙っていたのですか?」
「さあ、どうでしょう?」
 そんな兵士や護衛士たちの様子を見ていたジンオウの声に笑みを浮かべたまま

答え返すサコン。
狙っていたにせよ、偶然であるにせよ、両者の間にある垣根が取り払われる事は、
ジンオウにとっても望ましい事であった。
 此処で培った両者の交誼が信頼へと変わるには、もう1つ段階を踏まなければ

ならないだろうが、それが達成されるだろう日は然程遠くないに違いあるまい。
「その日を迎える事が出来ればの話ですが……」
 人知れず小さく呟くジンオウ。隣に居たサコンにも聞こえたかどうか。
 そうした若き主将の心の葛藤を他所に、トツカサの兵士たちは、新たな力を

手に入れたというジリュウに対する脅威を自覚しつつも、マウサツからの援軍に

訪れた護衛士たちとの絆を深め、更に士気を高めて行ったのである。

 トツカサの武将に教えを乞っての戦史研鑚に於いては、マウサツの者たちが

知る事のなかった様々な事実が浮き彫りになっていた。得られた情報の中でも、

今回の件に於いて役立つと思われる情報について抜き出す事にしよう。
 ジリュウの取る戦法は、こと戦場に於いては至って単純であった。

相手を圧倒出来るだけの戦力を整えて、一気に敵を叩き潰す

――ただそれだけであった。
「問題なのは、そこに至るまでの過程よ。陽動や流言、ありとあらゆる策謀を絡めて

ジリュウ勢に有利な状況を構築して行くあのサダツナ公の手腕こそが、

最大の敵なのじゃ」
 忌々しげに告げるトツカサの武将。時折、サダツナ公が打つ奇策も、

後に鑑みれば大きな戦の陽動に使われている事も多々あったのだという。

奇策を弄しつつも本道を外さない、それがジリュウの戦い方に関するトツカサの

武将たちの共通した見解であった。
 また、戦況が不利になる要素があれば勝ち戦といえども躊躇いなく引くという事も

合わせて告げられ、昨年末のアルガ防衛戦でのジリュウ勢の不可解な撤退を

思い出した者も少なくなかった。
 ジリュウの精鋭中の精鋭と謳われる霧幻衆についての情報も、多少ではあるものの

得る事が出来ていた。
 霧幻衆――それは吟遊詩人と忍びを中心に編成されたジリュウの切札ともいえる

精鋭部隊であり、これまでにも様々な状況で戦場に姿を現していた。

時には主力部隊を足止めし、時には有力な武将を暗殺して、トツカサ側に

甚大な被害を与え、霧幻衆の名はトツカサ将兵の間では憎悪と恐怖の対象と

なっていた。
 そして、ジリュウ側の将兵についての情報も確認された。
「現在、ジリュウの軍務を司るのは大将軍カツシゲ。彼のサダツナ公の嫡男にして

軍才は父をも超えるとも噂される勇将よ」
 用兵の達人じゃな、そう評して老練の武将が話を続ける。彼我の被害を度外視した

消耗戦となる事の多かった波状攻撃を、医術士の育成に努め、錬兵を繰り返し、

単なる消耗戦ではなくジリュウの得意戦術として昇華させたのもこの男であった。
 ジリュウ勢が新たに得た力を利してどのような戦術を取ってくるのかは

定かではないが、これまで以上の苦戦を強いられる事は想像に難くない。
 また、現体制以前の古い戦史などの情報についても色々と研鑚が進められたが、

残念ながら今回の戦いに活用出来そうな情報は確認されなかった事を報告しておく。

 周辺の集落へと向った護衛士たちもいたが、ストライダー以外の者たちは、

やはり奇異な目で見られる事が多かった。
マウサツやアルガ地方では、少なくなった反応ではあるが、このセイカグドという地域の

特異な現状を改めて知る形となっていた。
 しかし、そうした事情を抜きにしても民衆たちの護衛士に対する反応は、

複雑なものであった。
そう、ジリュウ侵攻の前にマウサツの影ありとの噂が住民たちの間で物議を

醸し出していたのだ。
 トツカサの将兵たちが噂の払拭を始めた事もあり、事態は落ち着きつつあったが、

疑いの眼差しを投げかける者も少なくはなかった。
 ただ、護衛士たちの姿を見て安心感を覚えた者が居た事も事実であった。

中には――
「思っていたよりオレたちと変わらないなぁ」
「もっと恐い人たちかと思っていたわ」
 ……などという感想を漏らす者たちすら居た。護衛士たちに付いてどのような

風評が立っていたかは定かではないが、今後の状況如何では悪評を振り払う

追い風にもなるだろう。
何より、トツカサの民衆と直に言葉を交わし合った事は、今後の両国の関係に於いて、

大きな前進とも言える。
 今回の事態を収めた後、改めて彼等の元に訪れる機会があれば、

その答えを聞く事が出来るだろう。

「……以上が現在までに判明した情報です。お力添えありがとうございました」
 集った護衛士たちを前にしてサコンが深々と頭を垂れる。
「さて、どうやらこのリョウナンの地ではなく、シラトリの地にジリュウ勢の

侵攻があるようですね。それも恐らく、一両日中にでも――」
 続くサコンの言葉に護衛士たちは慄然と立ち竦む。その言葉を告げる

サコンの手には、サダツナ公がマウサツへと送り届けた招待状と

護衛士たちから届けられたトツカサ各地の地図が握られている。
それが意味する所は――
「これは、これまでに皆さんのお力添えで得られた情報を元に『分析』した結果ですが、

恐らく間違い無いでしょう」
 だが、機先を制するかのようににっこりと笑みを浮かべてサコンが続ける。
 確かに、護衛士たちの精力的な活動で得られた情報は、トツカサから開示されていた

情報をも凌駕していた。何より、情報以外に得られた物も多々あった事も事実。
だが、今回の情報収集に秘められていた真意の最たるものは、

『霊査』のカモフラージュであったのだろう。
「急げば、ジリュウ勢が動くまでに間に合うと思います。援軍に向うのでしたら

早急にお願いします」
 そう告げて護衛士たちに一礼するサコン。
 遂にトツカサの国に牙を剥こうとするジリュウ。セイカグドを覆い尽そうとする

2人の男たちの野望に対するべく、遠路マウサツより遠征した護衛士たちは、

一路シラトリの村へと向うか否かの選択を迫られる事となった。

 


●【行動決定用スレッド】決断
 シラトリの村へと援軍に向うかリョウナンの村に留まるか。
 それだけについてご決断ください。

1.シラトリの村へと向う

2.リョウナンの村に留まる

 


●【結果】決断

1. シラトリの村へと向う 44票
2. リョウナンの村に留まる 0票

 以上、決断を戴いた皆さんの総意により、シラトリの村に向います。

 


●【OP】シラトリの合戦(2005年05月28日 15時)
 シラトリの村は戦を前にした兵士たちの放つ異様な熱気と興奮に満ち満ちていた。
そんな喧騒の中、マウサツの護衛士たちは同時にリョウナンの村を出発した

ジンオウ将軍配下の増援部隊に先駆けて、シラトリの村へと到着する事となった。
「よくぞ参られたなマウサツの輩よ」
 闊達な笑いと共に護衛士たちを出迎えたのは輿に乗った老齢の武人。
名をシュウセツ、トツカサ随一の戦上手と謳われた宿将である。

輿には乗っているものの、シュウセツ将軍は礼を尽くして護衛士たちを

シラトリの村に置かれたトツカサ軍の陣地へと招き入れる。
「そうか、増援は遅れるか。が、貴殿等が到着しただけでも僥倖というものよな」
 先の偵察で判明した山道の崖崩れの影響で、迂回のルートを選択せざるを

得なかった為にトツカサの増援部隊の到着は遅れていた。その事がこの決戦に

於いて大きく影を落とすだろう事は容易に想像出来る――と、その時であった。
 トツカサの将兵たちに向き直り、シュウセツが大音声を張り上げたのは。
「勇猛なるトツカサの兵たちよ!」
 それは、老齢の身とは思えぬほどの精気と熱とを帯びた雄叫び。
「ジリュウ勢が我がトツカサに攻め入らんとする今、遠く離れたマウサツの国より、

頼もしき援軍が到着した!」
 ざわざわとそのシュウセツの放つ声に聞き入り始めるトツカサの将兵たち。
「是はまさに瑞兆なり! この戦、勝利は我等のものぞッ!!」

「「「うおおおおおおおおおおっっ!!!」」」

 地を揺るがすような歓声と足踏みとが護衛士たちとシュウセツ将軍とを

中心にして巻き起こる。

トツカサの兵士たちの士気は最高潮に達しようとしていた。
「気を悪くされたなら、許されよ。が、何が何でもこの戦、落とせぬでな……」
 そう言いつつも悪びれない様子で笑うシュウセツ。待っていた増援部隊ではなく、

護衛士たちの到着を兵士たちの士気を上げる為の呼び水としたのだ。
 老練なシュウセツならではの機転であり、そして、その効果は絶大であった。
「さて、方々の配置を決めねばな。余り詳しく説明する余裕はないが、

まずはこれに目を通されよ」
 配下の者に命じてシュウセツが広げたのは一枚の地図であった。

 

=================================
【迎撃軍布陣乃図】
          ジリュウ第3領方面
=================================

   (正体不明)
  ジリュウ遊軍・1
      ▼           (霧幻衆?(現在消息不明))
                     ジリュウ遊軍・2
         (大将軍カツシゲ指揮)   ▼
           ジリュウ本陣
            ■■■■
            ■■■■
              ■■

 

 

|    □                  □
    □□□               □□□
  トツカサ左翼部隊       トツカサ右翼部隊
              □
             □□□
            トツカサ本陣
         (シュウセツ将軍指揮)

=================================

 


「現在、ジリュウ勢の進撃に対して我が軍はこのように布陣しつつある。
敵将はジリュウが大将軍カツシゲであると聞く。緒戦に主力を配する辺りは、
流石はサダツナ公と言っておくべきであろうな」
 護衛士たちに告げて口元を歪めるシュウセツ。厳しい戦いを予想してか、

護衛士たちの口数も少なくなる。
「して、現状で当方と敵方との兵力は、およそ五分と五分。だが、戦力比となると

恐らく敵側の方が上であろう。
カツシゲめの狙いは、恐らく得意の波状攻撃の形に持ち込む事と見て間違いあるまい。
その所為か、敵は本陣に大多数の兵を固めている様子」
 ついっとシュウセツが手にした軍扇でジリュウ側の本陣を指し示した後――
「我等はこれを逆手に取り、敵部隊を我が本陣まで引き込み、後に右翼左翼の部隊で

これを挟撃、同時に本陣も反撃に転じて、これを包囲殲滅致す所存よ」
 絵図面上のトツカサ勢の布陣をシュウセツが次々と指し示して護衛士たちに

視線を向ける。
シュウセツが語るトツカサ側の戦術、それは大胆にも自らの本陣を囮にし、

敵本陣を深く誘い込み、左右に展開させた両翼の部隊によって包囲殲滅を狙う

『鶴翼の陣』であった。
「無論、戦場に於いて思い通りの用兵が適わぬ事は多々ある。

決して、楽観は出来ぬしするつもりもない。敵の遊軍の動向も気に掛かる所であるしな」
 所在が掴めなくなった一方の遊軍は、彼の『霧幻衆』。
そして、後方で待機している少数の部隊は、仮面を着け異形の装束を身に纏った
正体不明の謎の集団であるとの事であった。
「本来ならば、相手と同様の布陣を以って対するが良策であろうが、

貴殿らより伝え聞いたジリュウ勢が手に入れたという新たな力の話、

そして敵の遊軍の事も憂慮して、敵本陣と真っ向正面から激突する事は

避けるべきと判断した。我が本陣の損耗は激しいだろうが、両翼の部隊が

首尾よく攻勢に転ずれば十分に勝機はある。幸い、貴殿等のおかげで

我がトツカサの兵たちの士気は高まっておるしな」
 そう続けて護衛士たちにシュウセツが向き直る。
「貴殿等の部隊が何処に向うのかは各々の判断に任せよう。各部隊の指揮官にも

貴殿等の動きには制約を掛けぬよう通達しておく。独自に別働部隊として

活動するのもよかろう。その力、存分に振るわれるがよいぞ!」
 そのシュウセツの言葉に護衛士たちの意気も自ずと上がる。
 暗雲の元に交された盟約を打倒するべく、ジリュウ勢と

――同じく希望のグリモアの力を手に入れた冒険者たちとの戦いが始まろうとしていた。

 

●【結果】シラトリの合戦(2005年06月02日 01時)
 トツカサの宿将シュウセツ、そしてジリュウの大将軍カツシゲ――

両軍の中核たる両将軍の率いる本陣同士の真正面からの激突。

それがこのシラトリの合戦の幕開けとなった。

 正面に重騎士部隊を配して防御重視のトツカサ本陣に対し、

大将軍カツシゲの号令の下、ジリュウ本陣は容赦ない波状攻撃を開始する。
 数に勝るジリュウ勢の攻勢の前に、苦戦を強いられるトツカサ本陣であったが、
シュウセツ将軍の巧みな采配、そしてマウサツ護衛士たちの奮闘も相俟って、

数度に渡る波状攻撃を支え切る事に成功、両翼部隊による挟撃の開始を待つ。
 ここで大きく動いたのはジリュウ勢であった。挟撃の機を窺っていた両翼部隊の

指揮官に、霧幻衆による奇襲が仕掛けられたのだ。霧幻衆への対応に動いていた

護衛士たちによって、奇襲は未然に察知されたが、対応に動いた者たちと

ジリュウ最精鋭と呼ばれる部隊との間で激しい戦いが繰り広げられる事となる。
 だが、その所為でトツカサ両翼部隊による挟撃の仕掛けは遅れてしまい、

厳しい戦いを続けていたトツカサ本陣がその煽りを受ける事となる。
 更に数度のジリュウ勢の波状攻撃を受け、両翼部隊の到着を待ちながら猛攻を

耐え凌いでいたトツカサ本陣の粘りも、最早限界に近付きつつあった。

防御に回った護衛士たちの死力を尽くしての行動、そして援護・回復に努めた

護衛士たちの献身的な活動がなければ、ジリュウ本陣の猛攻に耐え切れず、

トツカサ本陣は陥落していたかも知れなかった。
 此処で1つ目の転機が訪れる。トツカサ右翼部隊の到着であった。

霧幻衆を早々に撃退した右翼部隊は、態勢を整えるとジリュウ本陣の側面に

向けて進撃したのである。

こうしてジリュウ本陣への果敢な横撃を敢行した右翼部隊は、先頭に立っての

奮闘を見せた護衛士たちの活躍もあり、ジリュウ勢に多大なダメージを与えて行く。
 そして、右翼部隊の到着により防戦一方であった本陣の将兵たちの士気も上がり、

ジリュウ勢を一時的に押し返す程の奮闘を見せる。
 しかし、ジリュウ側の対応も迅速であった。大打撃を受けた側面の部隊を後退させると

同時に、新たな部隊を投入して右翼部隊の攻勢を凌ぎつつ、本陣への攻撃の手を

更に強めたのだ。
 数の上では、まだトツカサの右翼部隊と本陣と比べてもジリュウ本陣の方が

優勢であるが故の決断であり、対応であった。実際に、ジリュウ勢の大攻勢によって

トツカサ本陣は一気に劣勢に追い込まれ、シュウセツ自身も輿から降り、

自ら剣を抜いて敵兵と切り結ぶと言う窮地にまで陥ったのである。
 ジリュウ勢の勝利が確定したかに見えたその時であった。到着が遅れていた

トツカサ左翼部隊が、無防備になっていたジリュウの側背面に突撃を開始したのは。
 この左翼部隊の参戦により戦いの形勢は完全にトツカサ側に傾いた。

だが、ジリュウの大将軍カツシゲの決断も素早かった。形勢不利と見て取るや否や、

即時全軍撤退を通達したのである。
 後に判明した事だが、左翼部隊の指揮官は霧幻衆の奇襲によって負傷したまま

部隊を指揮していた。
左翼部隊に身を投じていた護衛士たちが指揮官の負傷を補うべく勇猛果敢に戦い、

他の将兵たちをも鼓舞した事がこの戦いの趨勢を決めたのだ。
 防備に徹し、整然と撤退に移るジリュウ勢に対して、トツカサの各部隊は

追撃を仕掛けなかった。
いや、疲弊の激しいトツカサの各部隊は、追撃を仕掛ける事が出来なかったのだ。

 こうしてシラトリの合戦は、ジリュウ勢の猛攻を凌ぎ切り、反撃に転じて押し切った

トツカサ勢が辛くも勝利を収める事となった。

 これだけの激しい戦いにもかかわらず、両軍の死者は驚くほど少なかった。

マウサツ護衛士の加勢による各部隊の回復力の底上げも然る事ながら、

有志による戦線を離脱していたトツカサ将兵への回復や援護も大きく寄与していた。
 しかし、最も大きな要因はトツカサ勢の取っていた戦法にあった。

攻撃よりも防御、回復に重きを置き、自軍の被害を抑えるかのような

戦い方であったのだ。

思い返せば、カツシゲが撤退を決断したのも早過ぎるようにも思えた。

後もう一押しでシュウセツの首級を揚げる事も出来たのだ。
そうすれば、三度、戦況はジリュウ側に傾いた事だろう。
 ジリュウ軍撤退の直後に、ジンオウ将軍の派遣した増援部隊が到着した事もあり、

その情報を察知した為の決断ではないかとの声も上がったが、結論は出なかった。

 また、ジリュウ勢の後方に位置していた遊軍がトキタダ公配下の部隊であった事が

後に報告された。
対応に当たった護衛士たちの活躍によって、ジリュウ側の切札とも言える

トキタダ配下の精鋭部隊の合戦への参戦を阻止出来た事も、トツカサ勢にとって

僥倖であったと言っていいだろう。

 戦いは終わったが、刻み込まれた爪痕も大きかった。何より、国境を挟んでの

両国の睨み合いは、いまだに続いている。戦乱の火は消えたとはとても言えなかった。
 勝利と呼ぶには余りにも際どい今回の戦の結果。しかし、この勝利がマウサツと

トツカサの、いや今後のセイカグドにとって重要な意味を持つであろう事を感じつつ、

護衛士たちはトツカサの将兵等が催したささやかな勝利の宴席に招かれ、

互いの健闘を湛え合うのであった。

【END】 

 

最終更新:2007年05月07日 21:51