【情報文章】降伏勧告~シラトリの攻防戦までの流れ
●【情報文章】降伏勧告(2005年06月03日 22時)
リョウナンの村よりジンオウ将軍が派遣した増援部隊の到着し、
シラトリの村に置かれていたトツカサの防備は更に厚みを増したが、
陣を構えるトツカサの将兵たちの緊張と警戒が緩められる事はなかった。
先のシラトリの合戦に破れて軍を引いたとは言え、ジリュウの軍勢は
いまだにトツカサ第3領と接した国境付近に留まり、以前同様に
不穏な動きを続けていたのだ。
先の戦いでの損耗を考慮しても、ジリュウの軍勢が再び国境を越えて
再侵攻を始めるのは時間の問題だろうと、シュウセツをはじめとする
トツカサの武将たちの見解は一致していた。
「おそらく、トツカサの皆様の見解は正鵠を射ています。ジリュウの軍勢が
この地に再侵攻を始める事は確実でしょう」
マウサツ勢に宛がわれた陣幕にて集った護衛士たちにサコンが告げる。
確実、と言い切った霊査士の言葉を受けて、護衛士たちの緊張が高まる。
「ですが、その前にジリュウ側から何らかの動きがあるかと思われます」
「……まさか、要人の暗殺!?」
「もちろん、その可能性もあるでしょうが、今回はそのような直接的な
仕掛けではないような気が致します。
それよりは……そう、以前マウサツに送られてきた親書のような――」
「御免!」
護衛士の1人が洩らした声に答えを返そうとするサコンであったが、
突然の呼び掛けによって話を中断する。
陣幕の外に控えてその呼び掛けを放っていたのは、シュウセツ配下の武士であった。
「シュウセツ将軍が、マウサツの方々に至急お伝えしたき儀があるとの事。
お手間を取らせるが、シュウセツ将軍の陣幕まで御足労願えまいか?」
その武士の告げた言葉を聞いて、護衛士たちの脳裏に嫌な予感が過ぎる。
「よくぞ参られた。まずはこれをご覧になられよ」
陣幕まで出向いた護衛士たちへの挨拶もそこそこに、シュウセツが
手にしていた書状を広げてみせる。
『トツカサ国国王ライオウ公、並びに重鎮の方々に申し上げる。
我がジリュウと盟友トキタダ公は、このセイカグドの地に永久の安寧と
恒久の平穏をもたらす為、決起する物なり。
民を思い、セイカグドの明日を思うのならば、トツカサの国は早急に抵抗を止め、
我等が陣営に降伏なされよ。
さすればライオウ公並びに重鎮の方々には、然るべき地位と所領を安堵致そう。
我等は無用な血を望むものではない。しかし、我等が申し出を受けぬと
申すのならば、民の為、セイカグドの為、我等は剣を取ってお相手致そう。
返答の期限は、これより7日後。返答無き場合には我が申し出を拒絶したものと
見なし、トツカサ第3領への進軍を再開致す。
我が思いが通じず貴国が戦を望まれるのならば、存分に準備を整え、
我が軍勢の進軍を待ち受けるがよかろう。
貴君等の賢明なる英断を心より望む。』
「これは……」
「先程、ジリュウ陣営より届けられた我がトツカサに対しての降伏勧告の書状よ。
言うに事欠いて民の為、セイカグドの為とな。片腹痛いわ!」
吐き捨てるようにシュウセツが言い放つ。
ジリュウ陣営より届けられた書状――それは、ジリュウ国王サダツナ公が
トキタダ公と連名でトツカサの国に対して発した降伏勧告の呼び掛けの書状であった。
「合わせて、マウサツに宛てられた書状も預かっておる。
方々でご確認されるがよかろう」
そう言って、封をしたままの書状を護衛士たちに手渡すシュウセツ。
一瞬、その護衛士は開封を躊躇ったが、軽く頷いて見せるサコンに促されるように
書状をシュウセツたちにも見えるように広げて見せる。
『親愛なるマウサツの同胞たちよ。
我等は同胞たる貴国と事を構えるつもりはない。
過去の柵を捨て、共に良き隣人足る事を望むのみである。
マウサツの兵の速やかなる帰還をご注進致す物なり。
貴国がセイカグドの地に真の安定と平和を望むのならば、トツカサに降伏を促し、
無益な争いを未然に防ぐよう働きかけられよ。
さすれば、トツカサが降伏した暁にはマウサツに我がジリュウ第4領の
割譲を約束しよう。
共に手を携えて希望のグリモアを盛り立てつつ、民の心を安らかしめ、
このセイカグドの地に恒久の平和をもたらそうぞ。
貴君等の英明なる決断がある事を切に願う。』
「やってくれる……」
護衛士の1人が歯噛みしながら呟く。
トツカサに対する降伏勧告と、悪意で塗り固められたとしか思えない
マウサツへの書状。
重苦しい空気を湛えたまま、シラトリの夜は暮れて行くのであった。
●【情報文章】延期と言う名の始まり(2005年06月10日 22時)
降伏勧告への返答の期限を間近に控え、臨戦状態となったシラトリの村に
その知らせが届けられたのは、日もずいぶんと暮れてからの事であった。
「合戦を延期する、そうジリュウから申し出があったというのですか?」
思わず知らせを届けたシュウセツ将軍の配下の伝令に聞き返すサコン。
「はい。マウサツよりの口入との事で、火急に知らせよとのシュウセツ将軍からの
お言伝でしたが、如何なされましたか?」
「いえ、それならばよいのです。わざわざのご報告ありがとうございました。
シュウセツ将軍にもよろしくお伝えください」
伝令に労いの声を掛けた後、整然と並べられた様々な品の1つを手に取って
目を閉じるサコン。
護衛士たちに参集が呼掛けられたのは、それから間も無くの事であった。
「先程、ジリュウ側から一方的に合戦を延期するとトツカサ側に知らせが
入ったとの事です。今後、事実確認を行う必要もあるでしょうが、
合戦の延期は恐らく間違い無いでしょう」
サコンのその言葉に護衛士たちも思わずざわめく。恐らく、と前置きしたと言う事は、
霊査を絡めての発言であると言う事を護衛士たちは理解していた。
「その延期の裏にマウサツよりの口入があったとの事ですが、私の方には
そのような報告は届いておりません。どのような思惑があるのかまでは判りませんが、
今回の戦の延期はジリュウ側が描いた流れに則しての事だと思われます」
眉根を顰めて続けるサコン。護衛士たちも続く言葉を待つように声を顰める。
「もちろん、このまま後手に回ってジリュウ勢の思うがままに事を運ばせていては、
事態は好転しないでしょう。相手の思惑を知る為にも色々と打つべき手は
打とうと考えています」
そう告げてようやくサコンは笑みを浮かべてみせる。
「このまま、あと半月程はジリュウ勢はなりを潜めるものと思われます。
また、先だっての依頼に於けるサダツナ公とトキタダ公からの申し出についても
色々と検討する必要があるでしょう。
そこで、一旦マウサツに帰還する事も視野に入れて、これからの動きを
量ろうと思います」
トツカサ遠征の終了を示唆するサコンの言葉に護衛士たちが再びざわめく。
「今後も皆さんのお力を色々と借りなければならないかと思いますが、
どうかよろしくお願い致します」
頭を深々と垂れて一礼するサコン。
次第に見え始めた相手の思惑をどう受け止め、どのように判断するのか?
合戦の延期と言う名の始まりに向けて、夜も更けたシラトリの村に護衛士たちの思惑が
交錯して行くのであった。
●【行動決定用スレッド】帰還と続行(2005年06月12日 21時)
サコンです。
現在、トツカサ遠征に出向いている護衛士の皆さんの今後についてですが、
此処までの皆さんのご意見やご相談などを考慮しまして、トツカサに残り遠征を
続行される方とマウサツへと帰還する方とに分かれて活動を行って戴きたいと思います。
私自身は一旦マウサツに帰還して円卓への連絡を含めた対応を
行いたいと思いますが、トツカサ領内に於いても要人たちとの会談や情報収集など、
色々とやるべき事柄はあるかと思われます。
また、マウサツの方では、カザクラ方面での動きの確認や目安箱の方に挙がっている
戦闘訓練の実施などにつきましても検討したいと思っています。
今後、それらの活動に関連しての依頼なども暫時執り行うかと思いますが
、ご協力戴けますと幸いです。
以下に各地での活動についての指針などを簡略に説明致します。
【マウサツ・アルガ方面】
トツカサ遠征を一旦終了し、マウサツ領内での通常業務を始めとした各種活動を
主に行って戴きます。
戦闘訓練実施に向けての準備やカザクラ方面での動きに関する支援活動なども
併せて行う予定です。
【トツカサ方面】
トツカサ遠征を続行し、トツカサの要人たちとの会談や各種情報収集活動など、
対ジリュウ戦に向けた活動を主に行って戴きます。トツカサの住民や兵士たちとの
交流なども行えるかと思います。
【その他】
こちらでは、その他地域への潜入や他陣営への接触など、
上記以外の活動を行って戴きます。
行動後の現在地及び具体的な活動を明記してください。
以上となりますが、他にも色々と出来る活動は多々あるかと思います。
とりあえず、今回は以降の立ち位置も踏まえた上で、各地でどのような
活動を行うのかを決定して戴ければと思います。
護衛士の皆さんのお力添え、よろしくお願い致します。
1. マウサツ・アルガ方面(23)
2. トツカサ方面(23)
3. その他(5)
●【結果】帰還と続行(2005年06月18日 23時)
物資の確保や各地からの情報の取り纏めなど、マウサツ・アルガ地方での
今後の動向に向けた各種作業は山積みであったが、トツカサ遠征から帰還した者と
マウサツで留守を預かっていた者たちとの連携も相俟って、特に大きな問題が
起る事も無く順調に推し進められていた。
中でも戦闘訓練に向けての準備は、マウサツの砦近辺での模擬戦に向けた
陣地の設営など、大掛かりな動きとなっていた。
恐らく、近日中に具体的な活動内容などに付いて報告が入る事だろう。
マウサツ及びアルガ地方での近況についてだが、トツカサへの遠征から
これまでの間、懸念されていた流言なども無く、民衆たちは一応の落ち着きを
見せていた。
特にジリュウと国境を接しているアルガ領では、万一の事態に備えて避難していた
国境周辺在住の住民たちも徐々に帰還を始めており、様々な不安を抱えながらも
通常の生活に戻りつつあった。
だが、ジリュウ側よりの様々な工作が予想される中、より一層の警戒が必要との
声もあり、余談は禁物と言った情勢だろう。
さて、マウサツへの帰順を申し出ていた野武士たちについても
触れておかねばなるまい。
現在、元アルガ武士たちを取り纏める中心的存在のリュウゲンへの
口添えなどもあり、元野武士たちがアルガ地方での庶務に従事する事となって以降、
特に問題を起こすような素振りは見られていない。
自分たちの置かれている微妙な立場を知ってか、与えられた責務に真摯に取り組み、
信頼の回復に努めていると言った所なのだろう。アルガとマウサツのより良い関係の
構築の為にも、共に手を取り合って活動して行きたい所だ。
また、『楓華の風カザクラ』との相互連絡も行われ、セイリンとの間の海路を
確保する為の動きも始まっている。
マウサツの港もほぼ完成したとの報告もあり、今後、他の地域に向けての海路を
使った動きに弾みが付く事だろう。
マウサツ勢の一部撤退に対して、トツカサ側の反応は肯定的であった。
元より異国の地への長期間の外征が多くの負担を抱える事は、トツカサ側も十分に
承知していたのだ。逆に、現地に留まって活動を続ける護衛士たちに対しては
賞賛の声なども数多く集り、現地での活動に大きな転機をもたらす事となった。
トツカサ領内で兵士や領民たちとの交流を進めていた護衛士たちの下に、
ライオウ公より今後のジリュウへの対応についてのマウサツ側の意見を
聞きたいとの申し出があったのだ。
遠征の続行を決めた護衛士たちがトツカサ領内で行った様々な活動によって、
流言を信じてマウサツに対して少なからずの不信感を抱いていた領民たちも次第に
考えを改め始め、マウサツとの友好的な関係を望む声が大きくなりつつあった。
更に、護衛士たちと前線に立って共に戦っていたシュウセツ将軍を始めとする
トツカサの将兵たちからの嘆願なども少なからずあったらしく、ライオウ公と
トツカサの重鎮を交えての会談の席を催す運びとなったらしい。
会談の席での主な議題などに付いては後日詳しい説明を行うが、
ジリュウへの対策だけでは無く、今後のセイカグドのあり方について
闊達な意見が取り交わされる物と思われる。
さて、トツカサ勢と対峙している国境付近のジリュウ勢だが、
偵察に向かった者からの報告では、長期戦に備えた陣形に移行して
不動の構えを見せているらしかった。
その為、トツカサ側も兵を引く事もままならずにシラトリの本陣に
釘付け状態となっていた。
此処で大きく浮上し始めた問題は、トツカサ側の兵糧の備蓄であった。
先日のマウサツとの交渉の結果、先年来の食糧難が改善されたとは言え、
兵糧などの備蓄に関しては底を尽いた状態であったのだ。
しかし、民から徴収などを行って余計な負担を掛ける訳にも行かず、
必然的にトツカサ勢の食糧事情は日々悪化の一途を辿っていた。
これ以上の長期戦になった場合、トツカサ勢は厳しい戦いを強いられる事となる。
グリモアの加護を受けた冒険者は一ヶ月程度は食糧を口にせずとも
活動出来るとされているが、士気の低下や体力の消耗など様々な悪影響が及ぶ事は
否めず、トツカサ勢の実質的な戦力がかなり落ちる事は確実だろう。
また、以前より懸念されているジリュウ勢の再侵攻の時期だが、遠征の折に各地より
集められた品々の霊査などを行った結果では、大きな動きは来月以降になる
公算が高く、ジリュウ側の狙いがトツカサ勢の兵糧の枯渇にあると言う
裏付けと言えるだろう。
新たに手に入れた希望のグリモアの力によって、ジリュウ勢の兵站は
充実しているだろう事も充分に予想される為、只でさえ劣勢と見られている戦力差が
更に拡大される事も懸念されている。
そうした状況を憂慮してか、一部のトツカサの将兵の間からは、全力で戦える内に
こちらから打って出るべきだとの強硬論も挙がっており、予断を許さない状況が続いている。
それらの情勢を踏まえた上で、今後のトツカサとの協調体制を模索したい所である。
「……取り敢えずはこんな所ですね」
報告書を纏めていたサコンが筆を止めて独り言ちる。各地での情勢は、
いまだ予断を許さない物であった。
国境を挟んで対峙しているトツカサ勢とジリュウ勢。
直接的に戦っているわけではないが、水面下では様々な駆け引きが続いている。
この難局をどう乗り切るべきか、そんな思いにサコンが囚われつつあった、その時――
「サコン殿、こちらに居られましたか!」
がらりと障子を開けて霊査士の私室に飛び込んで来たのは、クラノスケであった。
その只ならぬ様子に、サコンも居住まいを正してマウサツの老臣を
部屋へと迎え入れる。
「如何なされましたか?」
「まずはこれに目を通してくだされ……」
クラノスケが手にしていた書状をサコンに手渡す。その書簡に目を通して行く
サコンの表情が見る間に曇って行く。
それは――
『親愛なるマウサツの同朋たちにご連絡差し上げる。
我がジリュウは、貴公等の『本国』に友好親善の為の使者を派遣したく思う。
近日中に我が使者がマウサツへと向う故、然るべき対応を望むものなり。
願わくば、我が使者を快く受け入れ『本国』へと渡航する事を許されたし。
貴君等の英断がある事をを心より願う。』
「サダツナ公より先ほど届いた書簡にてござる。
まさかとは思いますが、もしやキナイよりの使者の事を知っているのでござろうか?」
「……その可能性もあるでしょうね。どちらにせよ、ジリュウ側も本格的に
動き出したという事でしょう」
クラノスケの問い掛けに厳しい表情でサコンが答える。この事も併せて
護衛士の皆さんに報告しなければならないでしょうね、そう心の中で呟きながら。
セイカグドを覆う暗雲は、まだ晴れようとはしていなかった。
●【評決用スレッド】ジリュウよりの使者(2005年06月20日 21時)
サコンです。
今回ジリュウ王より派遣されると言う使者への対応についてですが、
護衛士の皆さんによる評決で大まかな対応を決めたいと思います。
以下に、受諾の場合と拒否の場合に付いての私なりの考察を書き連ねています。
それらの事柄を吟味した上で、評決に望んで戴きたいと思います。
使者を受諾する場合、楓華列島とランドアースを繋ぐドラゴンズゲートの
存在が明らかになります。
また、相手も希望のグリモアの冒険者ですので、ゲート転送の事も併せて
相手側に知られる事となるでしょう。
ただ、この事実に関しましては、万一の場合、マウサツへの援軍派遣が
迅速に行われるとジリュウ側に思わせる事により、戦争回避に向けての牽制に
なり得るかと思われます。また、使者がランドアース方面へと出向いている間での
トツカサへの再侵攻は無いかと思われます。
ランドアースでの使者たちの行動については、護衛士の皆さんが『護衛』の任務に
就くと言う形で牽制する事も可能かと思われます。
使者を拒否する場合、ドラゴンズゲートに関する事柄は秘匿されたままとなりますが、
ジリュウ勢のトツカサ再侵攻が早まる可能性が高くなります。使者派遣の拒否すると
同時にトツカサへの再遠征を至急行う必要があるでしょう。
ただ、ジリュウ側が決戦を急ぐのならば、懸念されている兵糧不足による
トツカサ勢との戦力差はそれ程広がってはいないでしょうから、
現在のマウサツ護衛士団の3分の2以上の皆さんが遠征に向えるのならば、
勝機は充分にあります。
問題は、トツカサへの遠征に参加するのならば、ランドアース本国へと帰還する事は
不可能だという事です。総力戦となるだろう『ノスフェラトゥ戦役~無敵大帝に鉄槌を~』と、
トツカサへの遠征を同時に行う事は不可能でしょう。
以上、となります。
今回の評決の締め切りは、6月21日の23:59までと致します。
期間は大変短くなりますが、護衛士の皆さまのご協力よろしくお願い致します。
1.使者を受諾する(15)
2.使者を拒否する(18)
●【情報文章】ジリュウよりの使者(2005年06月22日 22時)
「……と言う事は、マウサツは我等が派遣する友好親善の使者を断ると
申すのであるな?」
「正確には、筋を通して戴きたいと言う事でござる。マウサツを蔑ろにして、
頭越しに交渉を行おうとは、友好以前に礼を失する行いでござろう。
まずは我等に話を通して戴かねば、貴国よりの御使者の派遣を
検討致す事もままなりませぬ」
アルガ領内のジリュウとの国境付近でのクラノスケとジリュウ側の前触れの使者との
舌戦は佳境に入ろうとしていた。
「礼を失するとは聞き捨てならぬ。我等が申し出に対して何ら返答を致さなかったのは、
貴国の方であろう。なればこそ、我がご主君も平和裏にセイカグド統一を推し進める為、
交渉の相手を貴国の後ろ盾に移行しようとしたまでの事。
礼を失する行いなどでは断じてない!」
「斯様な重大な決断を僅かな時間で行える筈もないでござろう。
そもそもトツカサへと戦を仕掛けたは、ジリュウ側でござる。
左様に平和を高らかに謳うのであるならば、別のやり方もあった筈でござるぞ?」
「口先だけでの降伏勧告がどれ程の意味を持つ? 力の差を見せ付ければこそ、
成し遂げれる事もある。総ては犠牲を最小限に抑える為の我がご主君のご英断であろう」
「如何様に申そうとも、今回の御使者の派遣は受け入れられませぬ。
改めて会談の席を設けて話し合う事柄ではありませぬかな?」
流石にサダツナ公が先触の使者として派遣した者だけはあり、クラノスケの言葉にも
一歩も引かない。
この話の噛み合わない堂々巡りが今暫く続くかにも見えたが――
「つまり、友好親善の使者など必要無いと言うのだな?
よかろう、即刻引き上げて戦に備える事と致そう」
話し合いを断ち切るように響く冷たい声。気が付くと不気味な面を着けた武士の一団が、
ムシャリンを駆ってジリュウ側より姿を現していた。
「ご、御使者殿、今暫くお待ちくだされ!」
「無駄だ。今回の使者の派遣は拒絶されたのだろう?
ならば、トツカサを滅ぼした上で改めて使者を送ればいい。
貴様の言う通り、力の差を見せ付ければこそ、成し遂げれる事もあろうからな」
恐縮する先触の使者に冷たく言い放つ仮面の男。その声をクラノスケは知っていた。
いや、その声の主を、と言った方が正しいだろう。
「その声は、もしや……」
「……クラノスケ、だったか? 久しいな」
冷笑しながら男が仮面を外す。その不気味な面の下から現われたのは、
嘗てクラノスケが主君と仰ぐ事を余儀無くされた男
――先のアルガ王トキタダ公の冷たい微笑であった。
「ジリュウよりの使者とは貴殿の事であったか……」
「然り。マウサツの背後にある『本国』とやらをこの目で
かめてみたかったが、またの機会に致そう」
搾り出すようなクラノスケの言葉に踵を返しながらトキタダが続ける。
ジリュウ側が派遣する使者ならば、それ相応の者が派遣されて来るだろうとは
予測していたが、まさか言わばマウサツの仇敵であるトキタダを派遣して
来ようとは予想だにしていなかった。
呆然と立ち尽くす先触の使者を置き去りにして、仮面の兵団がジリュウ側へと
引いて行く。と、不意にトキタダが振り返って口を開く。
「だが、覚えておけ。我等をキナイよりも下に扱った事、高く付くという事をな」
凄まじい笑みを浮かべて去り際にトキタダが吐き捨てた言葉。
こうして、ジリュウよりの使者はマウサツの地を踏む事無く引き返す事となった。
選び取った道が正しいのかどうか、それを知る者は誰もいない。
そう、今は誰も――
●【行動決定用スレッド】ライオウ公との会談(2005年06月24日 21時)
ジリュウがトツカサへの再侵攻に向けた動きを始めたとの報は、
瞬く間にセイカグドを駆け巡った。
トツカサとジリュウとの国境付近では、連日に渡って多数のジリュウ兵が
目撃され、両陣営の緊張は最高潮に達しようとしていた。
そんな中、マウサツよりトツカサへ派遣されつつある遠征部隊では、
サコンから今回の決戦に向けての説明が行われていた。
「国境周辺の各地で目撃されているジリュウ兵は、トツカサの軍勢を各領地に
釘付けにする為の陽動です。
ジリュウ側の真の狙いは、戦力を集結してトツカサ第3領シラトリの村に
展開するシュウセツ将軍以下のトツカサ勢を一気に蹴散らし、そのまま第2領、
本領へと雪崩れ込むつもりのようです。シラトリでの緒戦にトツカサ勢が敗れれば、
ジリュウ側の目論見が現実の物となる可能性は極めて高いでしょう」
サコンの言葉に息を呑む護衛士たち。天子様の教えを遵守するが故、
守勢を強いられるトツカサ勢は、ジリュウの侵攻に備えて各領地に兵を
配していたのだが、ジリュウ勢はそれを逆手にとって各個撃破を目論んでいたのだ。
ざわめいた護衛士たちが落ち着くのを待って、サコンが話を続ける。
「そこで、護衛士の皆さんにお願いがあります。トツカサの軍勢をシラトリの村へと
集結させ、兵力的な格差を埋める様、ライオウ公を始めとするトツカサの重鎮たちを
説得してください。幸い、トツカサ側より、ライオウ公を交えての会談の席が
催される事となっております」
そう告げて一旦話を句切り、護衛士たちを見回すサコン。
「勿論、その会談の席でそれ以上の申し出を行って戴いても構いませんが、
トツカサ側の事情も考慮して戴く必要があります。本来ならば、じっくりと時間を掛けて
行うべき事柄であったかも知れませんが、既にその余裕はありませんので」
時間に余裕があれば、互いに様々な提案を持ち掛け、検討する事も出来たであろう。
だが、最早交渉を行うにはあまりにも時間も材料も足りなかった。
「説得が上手く行き、シラトリ方面にトツカサの戦力を集中させる事が出来れば、
ジリュウ側の目論見は水泡に帰し、場合によっては、今回の再侵攻を未然に
防ぐ事も可能かと思われます。
ですが、説得に失敗したならば、勝利を得る為には、かなり危険な賭けに
出なければならなくなるでしょう」
「危険な賭け?」
節目がちに言葉を続けるサコンに護衛士の1人が聞き返す。
「はい。圧倒的な兵力差を誇る相手と真正面から戦っても勝ち目はありません。
予め、トツカサ勢の負けを見越して、味方の被害を最小限に抑える様、
防戦に徹する事も1つの選択肢です。
しかし、トツカサ第3領からは撤退を余儀なくされる事でしょう。
それを良しとせず、勝機を見出したいのならば、
私たちが遊軍となってジリュウ勢に奇襲を仕掛けるしかないでしょう」
「奇襲、ね。その程度で敵陣が崩れてくれたら楽なんだけど……」
サコンの説明に別の護衛士が口を挟む。
「崩れます。敵陣深くまで斬り込み、敵将を討ち取る事が出来れば、ですがね」
そのサコンの発言に周囲の温度が一気に下がる。
確かに、それが成し遂げられたならば敵陣は崩れるだろう。
だが――
「……可能なのか?」
その場にいる誰もが思ったその疑問を護衛士の1人が口にする。
「正直、ある程度の人数が揃わない限りは、敵陣を突破出来ずに
全滅する可能性もあります。更に、首尾よく敵将を討ち取れるかどうかも微妙でしょう。
ただ、討ち取れないまでも、敵将に手傷を負わせる事が出来れば、敵陣を崩すと言う
目的を達成出来る可能性はあります」
務めて淡々とした口調で語るサコンの言葉の端々からも、それを成し遂げる事が
困難だと言う事は垣間見えた。
「一敗地に塗れる事を承知で防戦に徹するか、危険な賭けを承知で敵将を討ち取りに
行くか、判断は難しい所でしょう。ただ、先に申しましたように、ライオウ公たちへの
説得を始めとする皆さんの行動如何によっては、戦自体を回避する事も出来るかと
思われます。
護衛士の皆さんのお力添え、どうかよろしくお願い致します」
護衛士たちに深々と頭を垂れて、サコンが一礼する。
セイカグド統一に向けて動き出したジリュウ。その強大な力を前にして、
どのように行動し、対抗するのか。
全ては、護衛士たちの双肩に託される事となったのである。
●【行動決定用スレッド】シラトリ攻防戦(2005年06月26日 10時)
「……よかろう。貴公等の進言、信用に値する。我が軍はシラトリの地に集結し、
ジリュウとの決戦に挑むと、トツカサの全将兵に号令せよ!」
マウサツの護衛士たちによる懸命の説得が功を奏し、ライオウ公の号令の下、
トツカサは全軍を挙げてシラトリの村へと布陣する事を決定した。
このライオウ公の決断により、シラトリの村近郊に配されたトツカサと
ジリュウとの兵力は、ほぼ互角となり、戦は未然に回避されるかに見えた。
だが――
「このまま戦闘は回避されるかと思っていたのですが、そうは甘く行かないようですね。
恐らく、ジリュウ勢は再侵攻を開始します。ジリュウ側の主将は、前回の
シラトリの合戦と同じく大将軍カツシゲです。戦いは厳しい物となるでしょう」
シラトリの陣幕の一つに集まっていた護衛士たちにサコンがそう断言する。
ジリュウ側も必勝を期して兵力を集めた手前、一度も戦わずして兵を引く事は
出来なかったのだ。
「ですが――」
そう告げて、護衛士たちにゆっくりと視線を向けるサコン。
「防御に徹してジリュウ勢の攻勢を凌ぐ事が出来たならば、ジリュウ勢は兵力の
損耗を嫌って、今回の再侵攻を断念し、軍を引く事でしょう」
サコンの言葉に護衛士たちの間から、歓声にも似たどよめきが走る。
両陣営の兵力差が埋まった事で、護衛士たちが採るべき作戦も大きく様変わりしていたのだ。
護衛士たちを取り巻く情況は、間違い無く好転していると言ってよかった。
「もちろん、危険を承知で当初より提案していた敵陣突破作戦を敢行し、敵将を
討ち取るべく動いて戴く事も出来ます。各作戦の説明ですが――」
1.徹底防衛作戦
敵の攻勢を凌ぐべく、防御を重視して戦って戴きます。この選択肢を選ぶ方が多い程、
味方陣営の損耗を軽減し、敵部隊の攻勢を凌ぐ事が出来るでしょう。
2.敵陣突破作戦
敵陣深くに斬り込んで、敵将を討ち取るべく戦って戴きます。参加者が少ない場合、
全滅の恐れもありますが、戦況を一気に変える事も可能でしょう。
3.その他
敵の特殊部隊への対応など、上記以外の行動を行います。
具体的な内容をお書きください。
「――と、以上が大まかな作戦案となります。どの作戦を採るのかは、
全て護衛士の皆さんの判断にお任せします。
お力添えの程、どうかよろしくお願い致します」
深々と頭を垂れて、戦場へと向う護衛士たちを見送るサコンの表情は硬い。
こうして、セイカグド史上類を見ない大軍同士の激突が今、始まろうとしていた。
1.徹底防衛作戦(20)
2.敵陣突破作戦(20)
3.その他(6)
●【結果】シラトリの攻防戦(2005年07月01日 23時)
戦場に於いて、『もし』と言う言葉を使ってもいいのならば、もしこの戦いに
参加していた護衛士たちが全力で防備を固めたならばジリュウ側の攻勢を
凌げた可能性はあったかも知れない。
逆に、もし突破部隊により多くの戦力を集める事が出来ていたならば――
いや、無意味な仮定ばかりしていても仕方あるまい。過ぎ去った過去は
取り戻す事は出来ないのだから。
兵力だけを比べるならば、マウサツからの援軍を加えたトツカサ勢と
ジリュウ勢との間にそれ程の差異はなかった。
だが、兵士一人一人の実力差は、シラトリの合戦時と比べても如実な差として
現れていた。
1つの大きな戦を経験した事で、ジリュウの武士――冒険者たちは
着実に成長を遂げていたのである。
だが、トツカサ側の武士たちには然程の上積みも無く、それが今回の戦の趨勢を
大きく左右する事となった。
以前ならば凌ぎ切れた筈のジリュウ勢の攻勢を、トツカサの前衛部隊が
支え切る事が出来なかったのだ。
守勢に回っていたマウサツの護衛士たちも奮闘をみせるが、ジリュウ勢の勢いを
受け止めるだけで手一杯となり、トツカサ勢は次第に後退を余儀なくされる。
此処で戦場に1つの転機が訪れる。ジリュウ側の大将軍カツシゲを討ち取るべく、
マウサツ側の特攻部隊が猛然とジリュウ勢の後背から突撃を開始したのである。
一瞬、統率が乱れ浮き足立ったジリュウ勢の間隙を突いて、猛反撃に打って出る
トツカサ勢。
このまま劣勢を脱するかに見えたトツカサ側であったが、反撃も一時的な物であった。
トツカサの本陣に、トキタダ公が指揮する別働隊が猛然と襲撃を仕掛けて来たのである。
元々の配下の仮面兵団にジリュウ側の精兵たちも加えた総勢50名余りの
別働隊による猛攻は、トツカサの陣を深く貫き、シュウセツ直属の
トツカサ本陣にまで到達した。
だが、予め別働隊に対して備えていた護衛士たちの活躍などもあり、トツカサ勢は辛くも
トキタダ公の襲撃を凌ぎ切る。
これに対し、マウサツの繰り出した特攻部隊の総数は20名足らず。
目的を成し遂げる為には余りにも寡兵過ぎた。
個人個人の力量では護衛士たちが勝っていたものの、数に勝るジリュウ勢の
頑強な抵抗の前に体力、アビリティ共に消耗し、カツシゲの本陣を目前にして、
満身創痍となった護衛士たちは退却を余儀なくされてしまう。
万一の事態に備えてアビリティを温存していた者たちの機転などもあり、ジリュウ勢の
執拗な追撃を交わし、特攻部隊に参加した護衛士たちに一人の犠牲者も
出なかった事は、まさに僥倖であったと言っても過言ではあるまい。
起死回生とも言えるジリュウ本陣への特攻が失敗に終わり、逆にトツカサ本陣への
襲撃を許した事で、トツカサの宿将シュウセツ将軍は終に苦渋の決断をする。
シラトリの陣及びトツカサ第3領を放棄すると、トツカサ全軍に伝えたのである。
退却するマウサツの特攻部隊への追撃を仕掛けていた事でジリュウ勢の対応が
立ち遅れた事は、撤退を開始したトツカサ勢にとって貴重な時間を提供する事となる。
無論、ジリュウ勢による追撃も行われたが、シュウセツ将軍と共に殿に立った
護衛士たちの奮闘もあり、少なからずの犠牲を払いつつもトツカサ勢は第3領からの
撤退を完了させたのであった。
結果として、トツカサ軍が壊走ではなく撤退出来た事は、不幸中の幸いであったと
言っていいだろう。
こうして、シラトリの攻防戦でトツカサ側は出陣した兵力の2割近くとシラトリの村を
含む第3領を失い、ジリュウ勢に敗れる事となった。
この敗戦により、領地と兵を失ったトツカサは更に苦境に立たされる事となるだろう。
逆にジリュウ勢は更に気勢を増し、残るトツカサ領への侵攻を続けるだろう事は明白。
今回の敗戦の責を取ってシュウセツ将軍が将軍職を辞するとの噂も乱れ飛び、
トツカサを取り巻く情勢は混迷の度を増そうとしていた。
着実にセイカグド統一に向けての手を進めるジリュウに対して、マウサツと
トツカサに残された手筋は果たしてあるのだろうか?
【END】