【情報文章】ぐるり一周セイカグド周航の旅・総集編 2005年11月07日

●【ぐるり一周セイカグド周航の旅】OP(2005年10月29日 22時)
「ようし、決めたよ……」
 だんっと空になった酒盃を置いて声を上げたのは、アソウ一家の

頭領チヒロであった。
マウサツより雇い入れの話があって既に半月余りが過ぎていた。
 その間にやった事といえば、別の大陸から来たと言う船を出迎えた程度。
 残りは港で待機の日々が続いていた。手下の水夫たちも酒浸りの日々が続き、

すっかり鈍り切っている。
そんな現状に、チヒロが苛立ちを募らせていたのも無理はあるまい。
「おじょ……じゃなくてお頭、いったい何をお決めになったんで?」
 危うい所で地雷を交わし(?)つつ、アソウ一家の水夫の1人がチヒロに聞き返す。

その声に釣られるようにして、他の水夫たちも自ずとチヒロに向き直り、

酒場中の視線がチヒロへと集中する。
 そんなチヒロの口元に、にんまりと悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「……向こうが船を出す気がないなら、アタイたちが船を出すのさ。

陸に上がりっぱなしじゃあ、アソウ一家の名が廃るってモンだろう?」
 そのチヒロの言葉を聞いた途端、死んだ魚のような目をしていた水夫たちの瞳が

キラキラと輝きだす。まさに水を得た魚と言った所だろう。
「誰かマウサツのお偉方さんに知らせておやり。アソウ一家が船出するってねぇ。
行き先は、そうだねぇ……この間も言ってた通り、セイカグドをぐるり一周と

行こうじゃないか。船出に遅れたら置いてけぼりにするって、しっかりと

伝えて来るんだよ!」
「合点承知でさぁ!」
 先程までの千鳥足は何処へやら。文字通り、飛ぶような足取りで水夫の1人が

酒場から飛び出して行く。
「残りの連中は出航の準備だよ! 抜かりがあったら、ただじゃおかないからねっ!!」
「「「おおお――――っ!!!」」」
 待ってましたとばかりに歓声を上げるアソウ一家の面々。其処には、少し前まで

掃き捨てるほどいた酔っ払いではなく、精悍な海の男たちの姿があった。
 こうして、慌しい喧騒の中、船出に向けての準備が始まろうとしていた。

◆現状に付いて◆
 マウサツの港を出港して、一路トツカサ沖へと向かいます。

取り敢えずは、穏やかな航海が予想されていますが……

 


●【ぐるり一周セイカグド周航の旅】第1回結果(2005年11月01日 04時)
「んー、やっぱり海の上はいいねぇ。この潮の香りを嗅いでると、アタイは

生きてるんだってつくづく実感するんだよ」
 船の舳先に立って楽しげに声を上げるチヒロ。最も揺れの激しい場所に

居るというのに、まるで動じた様子もない。
 だが、船旅などの経験が浅い護衛士の多くは、予想以上の船の揺れに四苦八苦。
「船旅に身体を慣らすためにいろいろとコツを学ぶよう……耐えますぅ」(へろへろ)
「潮風……気持ちいいけど、船酔いは……気持ち悪い……」(ぽて)
 早く船酔いを克服しようとあれこれ試し過ぎて逆にへろへろになった

慈の影忍・シズク(a17134) や、余裕と思って敢行した『とっとこ船内探検ー♪』が

裏目に出てしまった闇夜の夢見師・ルシア(a10548)などは、
2人して甲板で伸びてたり。
 とは言え、この2人はまだマシな方で……。
「よう、兄ちゃん大丈夫かい?」
「も、もうダメかも……」(ぐったり)
 黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)に至っては、船出当初のアクティブな活動が

祟ってか完全にグロッキー状態。
救いといえば、仕事中に仲良くなったアソウ一家の水夫たちが気の毒がって

声を掛ける事ぐらいであろうか?
「ね、狙い通り……ですよ」(力なく笑ってキメ!?)
 大人しく寝てなさいって。(汗)
 一方で、船酔いなど物ともせずにマリンライフを堪能している者もいるようで。
「実際に揺れている船で活動するのだから、歩いて見て回り揺れに慣れつつ

船内を把握出来るから一石二鳥なのよ♪」
 と言って手の空いた水夫に船内を案内してもらっているのは、

夢幻九尾狐・ルナール(a05781)。学べる所は学びつつ、

船に慣れて行こうとの事らしい。
「この辺りの海域じゃあ、あの2つの島を目印にするんだ。判るかい姉ちゃん?」
「なるほど、2つの島の見え方によって航路を確認するのですね」
 昔取った杵柄と、気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)は水夫たちから、

付近の航路や船内の構造に付いてを学んでいたり。
「よく働く兄ちゃんだな。こっちも助かるぜ。おっと、そろそろ休憩にしようじゃねえか」
「……休憩か……なら、ギターで賑やかなのを一曲弾くぜ……」
 そんな中、黙々と力仕事をこなしていた爆炎劫火の屍狼・ヴェリス(a16544)が

ギターを取り出して、楽しげな曲を爪弾き始める。
 その曲は船中に陽気に響き渡り、何時しか甲板にいた者たちを虜にして、

船酔いで気分の優れない者たちの重く沈んだ気分をも癒して行く。
「ふうん、悪くない腕だねぇ。よおし、もっと景気のいいヤツをやっとくれよ!」
「……勿論だ……」
 チヒロのリクエストに即答のヴェリス。
そんな賑やかな喧騒の中、護衛士とアソウ一家の水夫たちを乗せた船は

海原を進む。
 セイカグドを一周する船旅は始まったばかり。この先、如何なる試練や事件が

待ち受けているのか…
…それは、眼下に広がるこの深遠なる海だけが知っているのかも知れない。
【つづく】

◆現状に付いて◆
 現在はトツカサ沖を順調に航海中です。幾分航海に慣れたのか、殆どの方の

船酔いの方も収まりつつあるようです。
たまに他の船ともすれ違ったりもしますが、幸いな事に特に問題はありません。
ただ、少し波が高くなって来たような気もします。
 チヒロ曰く、
「この様子だと、明日はもう少し荒れるかもねぇ。アタイらは平気だろうけど、

シロウトにはちょいとキツイかも知れないよ。
早く船に慣れるには、ちょうど良い機会なんだけどさ。
ま、少し行けばトツカサの北の港だし、1日くらい入港すれば楽にやり過ごせるけど、

どうするかい?」
 との事ですが、さて……。

 

 

 

●【ぐるり一周セイカグド周航の旅】第2回結果(2005年11月03日 03時)
「こりゃあ、良い具合に荒れて来たねぇ♪ アタイらも腕が鳴るってモンさ。
おっと、甲板に出るヤツは命綱を付け忘れるんじゃないよッ!?」
 嬉々とした声を上げつつも、周囲に巡らせるチヒロの視線は鋭い。

うっかり命綱を付け忘れていた水夫を叱り飛ばす辺りは、船の長を

名乗るだけはあるだろう。
 荒れ始めた海面をひた進む船は徐々に揺れ始め、船内で活動していた

護衛士たちも身体でその揺れを実感する事となった。
「せっかくの機会じゃし、危なさを身をもって感じる事もいいと思ったのじゃが……。

うっぷ……さ、流石にキツイのじゃ」
 危険というよりはこの大揺れにやられてか、青色吐息の桃風・ダスト(a20053)。

まるで、船室で休んでいたツケを払わされているかのようです。(何)
「ふふふふふふふ……慣れるしかないですぅ……無理やりでもなんでも……

でも、なにからしましょう?」
 まともに立っていられない程の揺れに足を取られながら

慈の影忍・シズク(a17134)がどたばたと船内を右往左往すれば――
「……クッ……クールに徹して波に乗れ……が、流石に…へビィだぜ……」
 前回と同じく雑用の手伝いに従事していた爆炎劫火の屍狼・ヴェリス(a16544)も、

流石に大揺れに揺れるこの状況には若干顔を青くしているようで。
「水夫さんたちから聞いた荒波の対応方法だけど、柱とかに身体をしっかりと

括り付けてやり過ごすのが一番だそうよ?」
 ダウンしつつある者たちを見かねてか、夢幻九尾狐・ルナール(a05781) が

仲間たちに声を掛ける。
そのルナールの話を聞いた数人の護衛士たちが、自分の身体を柱に括り付けて

行ったのも無理からぬ事だろう。
 実は、この対処法には別の意味もあって。たとえ、このまま船が難破したとしても、

柱に身体を縛っていれば生存率が高くなるとの事……らしいが。
「生活の知恵というか、ねぇ……」
 そう呟くルナールの口元に浮かんだ微妙な笑みが全てを物語っていた。
 そんな中、人知れず船室の片隅に敷かれていた布団が、もぞもぞと動き出す。
「ふふふ……こんな面白(?)そーなのに……寝てなんか……らんないぞ……」
 おお、芋虫のようにのたくりながら布団の中から姿を現したのは、

黄金の羅針盤・ナシャ(a21210) か!? 
ようやく船酔いから復帰したのか、そのまま甲板へと向かうようです……って、

布団は置いてくように。(汗)
「ぜ、前回の事を生かして……ちょぉーっぴり怖いですけど(ぼそっ)、

 ……ふぁーいと、おーっ!!」
 同じく、拳をぐぐっと握り締めながら闇夜の夢見師・ルシア(a10548) も

甲板へと向かう。何か御手伝いで雑用でも、
と思いつつも邪魔になるようなら見学も悪くないかもーと心動いていたり。
 だが、その甲板上が予想以上の修羅場となっていた事を、船内でのほほんと(?)

過ごしていた者たちは、知るよしもなかった。
「も、ものすごい大波が来てますよっ!?」
 船上での作業に従事していた銀の風の術士・ユーリア(a00185) が上ずった声を

上げたのも仕方あるまい。
その視線の先には、この船の数倍にも達する大波が迫りつつあったのだ。
「ふふん、大丈夫だよ。この程度の波なら、楽に乗り切ってみせるさ!」
 特に慌てた様子も見せずにチヒロはそう告げると、水夫たちに素早く指示を

飛ばして船を巧みに操り、いとも簡単にその大波を乗り切って見せる。
「ま、ざっとこんなモンさ。参考になったかい?」
「バランの大渦で難破した時にくらべれば、この位……と思っていましたけれど……」
 荒っぽいというよりもまるで曲芸のようなアソウ一家の操船に、ただ乾いた笑いを

浮かべるのみのユーリア。
チヒロの告げた『もう少し荒れる』という言葉を鵜呑みにしてしまったのは、

些か早計だったかもと後悔するも時既に遅し。
 何も知らずに甲板へと上がって来た他の護衛士たちも、その恐怖を存分に

味わう事となったのは言うまでもあるまい。
 やがて。荒れていた海は次第に落ち着きを取り戻し始める。
それと同時に、チヒロもふうと軽く一息吐いて、水夫たちに命綱を解くようにと

指示する。
 この山場を乗り切った護衛士たちは、流石にぐったりとした様子を見せていたが、

ここでの経験がこの後大きな意味を持つ事となるだが、それはまた別のお話で。
「おや、もうトツカサの港でござるかな? 行った事ないですので、

楽しみでござるなぁ」
 ……ちなみに。旅の渡り医師・イエモ(a24574)は、トツカサの北の港へと

入港する事を夢見つつ、大揺れの船室で1人ぐっすりと寝入っていたらしい。

船上育ちは伊達ではなかったという事だろう。が、しかし――。
「むむ、皆顔色が優れぬようでござるが、如何したのでござる?」
 この後、お疲れ気味の他の者たちに代わって、1人船上で雑務に勤しむ

イエモの姿があったというが、その真偽は定かではない。
【つづく】

◆現状に付いて◆
 先程までの荒波が嘘のように穏やかな海原が続いています。

ですが、ここより先はジリュウの勢力海域となり、より一層の警戒が必要に

なるだろうとアソウ一家の者たちも口を揃えて告げています。
 さて、今回はどのような行動を取るのかですが……。

 


●【ぐるり一周セイカグド周航の旅】第3回結果(2005年11月05日 06時)
「さあ、此処からが本番だよ。ここいらの海にゃ、アンタらと敵対している

ジリュウの息の掛かった海賊や軍船がウヨウヨしている筈だからねぇ」
 艶然とした笑いを浮かべてチヒロが楽しげに告げる。
アソウ一家の水夫たちも自分の獲物をしっかりと手元に置いている辺り、

ヤル気満々といった様子だったり。
 そんなアソウ一家の面々を横目にして、悩ましげに唸る男が1人。
「ううむ、医術士の戦いは普通の切ったはったではないでござるし……

如何様に訓練したものか?」
 旅の渡り医師・イエモ(a24574)であった。そのイエモの言葉を聞くとはなしに

聞いていたチヒロだが、腕組みをしたまま口を開く。
「そうだねぇ……船の上じゃあ急な揺れとかで足元が定まらずに、飛び道具の

狙いが逸れたりする事もよくある話さ。アタシは良く知らないけど、術士なんかにも

同じような事があるんじゃないのかい?」
「ええ、確かに。出来れば、問題なく行なえるようにしたいのですが……」
 チヒロの声に気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)が言葉を続ける。
船上での戦闘経験もあるとは言え、まだまだ経験不足な所は歪めない。

少しでも経験を積みたかった。
「ま、とにかく習うより慣れろって事さ。頭で判ってても、身体が動かなきゃ

どうしようもないからねぇ。頭で考えるよりも先に体が動くようになりゃ一人前だよ」
 チヒロの言葉になるほどとイエモが相槌を打つ。揺れる船上では、自分の体が

予期せぬ動きをする事も多々ある。
経験を重ねない限り、克服出来ない類のものであろう。
 と、そんなイエモを上から下へと見ていたチヒロであったが――。
「アンタのその動き辛そうな術士服は戴けないねぇ。陸の上じゃ重装備も

良いかも知れないけど、海の上じゃ棺桶の中に足を突っ込んでるようなモンさ。

溺れ死にたくなきゃ、この娘を見習って船上では動きやすい防具に

換えとくんだねぇ」
 と、ぴしゃりと言い放つ。見れば、アソウ一家の者たちも軽装である。

万が一、戦闘中に海に転落したとしても、他の者が即座に助けてくれるとは

限らない。なればこその軽装なのだろう。
 一方で。
 そんな甲板でのやり取りを他所に、船室には今後に備えて

身体を休める者たちがいた。
「……邪魔に成らんように隅っこで寝る……が、額に『肉』とか書いた奴は

ウメボシの刑……」
 ごろりと横になりながら爆炎劫火の屍狼・ヴェリス(a16544)が釘を刺す 。
ちなみに『ウメボシ』とはこめかみを拳でグリグリする事らしい。
「えぅ。ヴェリスさんの額に『肉』とか書きたかっ……な、なんでもありません」
 不穏な事を口走り掛けた闇夜の夢見師・ルシア(a10548)だが、ヴェリスに

じろりと睨まれて口篭もる。
『肉』の落書きもそうですが、ウメボシの刑が見られなくて残念!?
 そんなルシアやヴェリスたちの側らでは、既に黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)が

安らかな眠りに付いており――。
「トキタダさんの……にゃんこしっぽ……むにゃむにゃ……」
 などと、意味不明の寝言を連呼していたり。ところでトキタダさんの尻尾ですが…。
「……あれ、わんこしっぽ?」
 ええと、その通り……って、実は起きているんじゃ!?(汗)
 と、船室での諸事はさておいて、航海は順調に進んでいた。そう、まるで

嵐の前の静けさの如く、何事もなく……。
 だが、しかし。やがて、その静寂の時も終わりを告げる事となる。
「前方に船影よっ!」
 周囲の監視の任に就いていた夢幻九尾狐・ルナール(a05781)が鋭い声をあげる。

見れば、確かに前方の海上に小さな船影が見え隠れしているのが判る。
「休める所で休んでおいて正解だったかしらね……」
 先日来の疲れが出て暫く休んでいたルナールが、見張りの任務を交代した

直後の出来事であった。
 時に、そのルナールの報告に一番目を輝かせたのは誰あろうチヒロであったり。
「あの船影は、どうやらジリュウ水軍の戦船のようだねぇ。相手が1隻なら、

十分に勝負になる筈だよ。1つ、こちらから仕掛けて……」
 意気揚々と護衛士たちに話を持ちかけようとしていたチヒロであったが、

見張りの任に就いていた若い水夫の叫びがその声を遮る。
「か、海岸線にも1隻、船がいます! こ、こちらもジリュウの戦船ですっ!!」
「な、なんだってぇ!?」
 流石のチヒロも顔色を変えて、双方の船を遠眼鏡で交互に確認する。
 ジリュウ沖で遭遇した2隻の戦船。
 風雲急を告げる中、護衛士たちを乗せたアソウ一家の船の運命や如何に!?
【つづく】

◆現状に付いて◆
 皆さんの乗る小型船ですが、海岸線に停泊していた戦船と、前方から

近付きつつある戦船とに挟まれる形となっております。
 今回は監視度が低かった為、双方の船の詳細に付いては明らかではありません。
 ……約1名、甲板におられましたら、片方の船には見覚えがあるかも?(何)
 さて、チヒロの言葉を信じるなら1隻ならば勝負になるとの事ですが……。

 

 

 

●【ぐるり一周セイカグド周航の旅】最終回結果(2005年11月07日 06時)
「くっ、ジリュウのヤツらを目の前にして逃げの一手とはねぇ。

この状況じゃ仕方ないとはいえ、口惜しい限りだよ……」
 護衛士たちの下した逃避の決断を受けて切歯扼腕するチヒロであったが、

配下の水夫たちに船上戦の準備を取り止めさせると操船の作業に集中する。
「一応聞いとくけど、揉め事の種を増やしたくはないんだね?」
「ええ。極力戦いを避けて相手の船を振り切ってちょうだい。暗礁や浅瀬なんかで

撒いてもらってもいいわよ?」
 チヒロの確認の声に夢幻九尾狐・ルナール(a05781)が返答の言葉を返す。

現段階で、ジリュウとこれ以上揉め事を増やしたくはなかった。
「……簡単に言ってくれるじゃないか。いいよ、其処まで言うなら見せてやるさ。
アタイら、アソウ一家の“逃げ”ってヤツをねぇ!」
「自慢のその腕前、しっかりと見せてもらいましょう」
 ほとんどケンカ腰でやり合うチヒロとルナール。だが、そんな罵り合いにも似た

言葉の交換を、2人とも楽しんでいるようにも見えるのは気のせいであろうか?
 ともあれ、護衛士たちを乗せた船は、チヒロの指示で進路をやや外海側に

向けつつ海上を進んでいた。余計な揉め事をトツカサに――第3国に

持ち込ませぬ為の操船であり、前方と後方、双方の船からの挟撃を
避ける為の操船であった、が。
「……動かねぇな……」
 遠眼鏡で海岸線付近に停泊中の船を監視していた爆炎劫火の屍狼・

ヴェリス(a16544)が腑に落ちないといった表情で呟く。
そのヴェリスの言葉通り、その中型船はいまだに動く気配はない。
 そう。まるで、自分たちから離れる船に構う必要はないとでも言うように――
「あの船、なんとなく見覚えがあるんだけど……」
 小首を傾げて闇夜の夢見師・ルシア(a10548)が呟く。その船影を

最近どこかで見たような記憶があったのだが、
なかなか思い出せない。そう遠くない過去に、確かに何処かで見た筈なのだが…。
「まあ、我等は攻め込みに来たでなし、血に飢えた訳でもなし。

向かって来ぬのなら、それに越した事はござるまい」
 命綱を準備しつつ旅の渡り医師・イエモ(a24574)が諭すように言葉を返す。

アソウの衆の気に副わぬかも知れぬが、ここで無闇に戦う必要はないのだ。
「でも、あっちの船はヤル気満々ですぅ」
 こっそりと物陰から前方の船を観察していた慈の影忍・シズク(a17134)が

恐々と告げる。アソウ一家の船と然程大きさの変わらないそのジリュウの戦船は、

明らかにこちらの行く手を阻むかのように進路を変えていたのである。
 同時に帆柱に見慣れぬ旗が高々と掲げられる。
「あっ、あの旗はもしかして……」
「停戦勧告の旗、だな」
 はっとしたように気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)の上げた声に

水夫の1人が答え返す。ジリュウの戦船が揚げた旗。それは幾つか種類のある

信号旗にあって、停戦を勧告する為の旗であった。
 だが、その勧告に従って停戦出来る筈もない。
「接触は避けられぬようじゃな……」
「ですね。こちらに乗り込まれないようにしませんと……」
 厳しい視線で前方の船影を睨みつつ桃風・ダスト(a20053)が洩らした声に
黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)が補うように続ける。
このまま進むのならば、ジリュウの戦船との接触は免れまい。
 否が応にも緊張が増す中、双方の船の距離はどんどん狭まる。
ジリュウ兵らが上げている怒声すらも聞こえる程にまで。
いや、それだけではない。牙狩人と思しき者が数名、大きく弓を引き絞っていたのだ。
 それに対して、乗船中の護衛士たちに牙狩人はいない。ただ1人、アソウ一家の

老水夫が1人、弓を構えていただけで、このままでは間合いの外からいいように

射撃攻撃を仕掛けられる事は必定。
「……ちっ、面倒な事に……なりやがったぜ……」
 吐き捨てるようにヴェリスが呟く。最早、戦いは避けられないかに見えた。

刹那――
「今だよ! 取り舵一杯っ!!」
 チヒロの鋭い指示が飛び、近付きつつあった双方の船の距離が開く。

相手が牙狩人の間合いを利して、有利に戦いを進めようとした事をチヒロは

逆手に取ったのだ。
 後はこの間合いを保ったまま、暗礁水域に向かうのがチヒロの算段であった。
「ふむ、上手く行ったようじゃのう……」
 そう言って白髪混じりの老水夫が引き絞っていた弓の弦を緩める。
だが、護衛士の内の何人がその事実に気が付いただろうか? 
先程まで弓に番えていた筈の赤い矢が、老水夫の手中から雲散霧消していたと

いう事実を……。
 やがて。数度の小競り合いを経て、2隻の船は白波の揺れる海域へと差し掛かる。
「さあて、お待ち兼ねの暗礁だよ。みんな、覚悟は出来てるんだろうねえ?」
 些か緊張したような声でチヒロが皆に告げる。他の水夫たちの様子から鑑みても、
この水域が相当の難所である事は想像に難くない。
「は、はい。船から落ちないよう、がっちり掴まってます」
 冷や汗を流しながら答えるユーリアにチヒロは軽く頷いてみせる。
 流石にジリュウ船の追跡も此処までであった。巧みに暗礁を避けて行く

アソウ一家の船を尻目に、ジリュウの戦船は座礁を怖れてか

この海域へと入ろうとはしなかったのである。
 こうして最大の危機を脱した護衛士たちは、そのままジリュウ沖を一気に抜けて

アルガ沖、そしてマウサツの港へと向かっていた。
「あっ、思い出した! あの船って確か……」
 ちなみにジリュウ沖で見掛けた中型船が、アオイサガの港に入港していた船で

あった事をルシアが思い出したのは、皆の乗っている船がマウサツの港へと

入港しようとしていた最中であったと言う。
 ともあれ。この船旅を通じて得た様々な経験や知識は、須らく参加した者たちの

血肉となる事だろう。
だが、それを活かせるか否かは自分次第である事は忘れてはならないだろう。
 こうして、セイカグドをぐるりと巡る周航の旅は、無事(?)に終了したのである。
【END?】


最終更新:2007年05月12日 01:44