【情報文章トツカサ友好使節団&不穏分子一掃作戦顛末 2006年01月30日


●【OP】トツカサ友好使節団(2006年01月23日 21時)
「……と、此処までがこのセイカグドの地で、私たち『門出の国マウサツ』が

行なって来た護衛士活動のあらましとなります。ご理解戴けたでしょうか? 

チオウ様」
 口元に浮かべた微笑みを絶やさぬままサコンは目前の巨漢、

チオウに語り掛ける。対してチオウといえば――。
「まあ、な。で、いい加減本題に入らねえってんなら、俺は帰らせてもらうぜ? 
こう見えても、そんなに暇人でもないんでなぁ」
 寝そべりながらあくびを噛み殺しつつ、ぞんざいな返事を返す。

早くこの厄介事を終わらせて、色街にでも繰り出そうという腹積もりなのだろう。
「では、単刀直入にお聞き致します。そろそろ、トツカサのライオウ様に

私たちの事に付いて色々とお話したいと思っているのですが、それに付いて

チオウ様のご意見などをお聞かせ願えませんか?」
「……何だと!?」
 微笑みを崩さずにさらりと告げるサコン。逆にチオウの表情から

怠惰な様子が消え、身体を起こして鋭い視線でサコンを睨み付ける。
 共に希望のグリモアを仰ぐ冒険者となった今、これまで頑なに秘事としていた

様々な事柄に付いて、トツカサの国王ライオウ公にもきちんと説明する必要が

あった。だが、それは非常に取り扱いの難しい問題でもあり。
万が一説明に失敗したならば、これまで地道に友好関係を築いて来たマウサツと

トツカサとの間に大きな溝が出来る可能性も否定出来ない。
 暫しの沈黙と、ただならぬ緊張が2人の間を駆け巡るが――。
「天子様と共に同じグリモアの下に馳せ参じる栄誉を得て、更には放蕩息子が

凱旋報告で華を添える……なるほど、確かに“今”なら親父を『口説く』絶好の

機会だろうぜ? ……ホントに性格悪いな、この九本尻尾!!」
 捲し立てる口調でチオウがサコンに吐き捨てる。まあ、チオウの帰還までも

充て込んでトツカサに外交使節を繰り出そうというサコンの『悪知恵』に

気が付く辺り、チオウも結構性格が悪そうな気もするが……。
 が、そんな誹謗中傷を浴びせ掛けられても全く崩れないサコンの微笑み。
「……テメエ、ひょっとしてまだ何かあるのか!?」
「いえいえ、そんなに大した事ではありませんよ。ただ、大々的にトツカサに

向けて使節を送るだけです。領内での他の懸念事項にまで、とても手が

回らないと思える程の、ですが」
 にっこり。そのサコンの笑顔の中に、チオウは義姉上と慕う某女史の“それ”に

通ずる何かを垣間見た気がした。
「……そういや、カザクラに新しく来たドリアッド様もキナイにいた美人さんも

同じような『ニオイ』がしてたよな。くそっ、義姉上もコイツも、霊査士ってえのは

みんな同じ穴のムジナかよ!?」
「……私がどうかしましたか?」
 ビクゥッッッ。一瞬にして背筋を正して正座するチオウ。聞き慣れた凛然とした

女性の声。マウサツに滞在しているもう1人の霊査士イズミの声であった。
「おや、いい所に来られましたね。ちょうど今、チオウ様とイズミさんの……」
「うわわああっ!? な、何でもありません義姉上っ! 何でも!!」
 何かいい掛けたサコンの言葉を遮るようにチオウが慌てて大声を張り上げる。
そんな2人の様子を暫し怪訝そうに見ていたイズミであったが――。
「ええと、サコン様。私に何か御用があるとお聞きしてお伺いしたのですが、

一体何の御用でしょう?」
 何事もなかったようにサコンに向き直って声を掛けるイズミ。
少しチオウが寂しげな顔になったのは見なかった事にしておくのが大人の

対応だろう。(多分)
「はい。実はイズミさんに折り入ってお願いしたい事がありまして……」
 我が意を得たりとばかりに、サコンは先程より20%増しの笑顔で2人を

呼び出した真の『用件』に付いて語り始め……。
「……腐ってやがる」
「サコンさん。以前とお変わりがないようで何よりです……」
 渋面のチオウと冷ややかな表情のイズミ。そして、笑顔のサコンを加えた

3人の話し合いが終わった翌日。
トツカサへの使節団の派遣が公布される。『門出の国マウサツ』の団長である

サコン自身も参加者に名を連ねた大規模な友好使節団の――。

 

 

 

●【情報文章】腹黒狐と誑し男(2006年01月25日 21時)
「……おい、腹黒狐。やけに楽しそうだな?」
 使節団がトツカサへと出発して数日目の夜。サコンが宿泊している天幕に

尋ねて来たシギルが開口一番そんなセリフを吐き捨てる。そのシギルの

赤い双眸には、疑いの色がありありと滲み出ていて。
「そうですか? 私はいつもと変わりありませんよ」
 しかし、敵も然る者。まるで動じた様子もなく、ニッコリと微笑んで

柔らかく答え返すサコン。
というか、シギルの反応を楽しんでいる節もあったり?
「いーや。テメエがそんな顔で笑ってる時は、何かロクでもねぇ事を企んでるか、

実際にやっているかのどっちかだ。さあ、吐け! 俺……いや、俺たちにも

テメエの魂胆ってヤツをじっくりと聞かせてもらおうじゃねえか!」
 だが、そんな事で怯むシギルではない。ずずいとサコンに迫りながら、

捲くし立てるようにそう言い放つ、が……。
「おやおや、シギルさんはせっかちですね。それが色々とお噂の『誑し』の

秘訣なのでしょうか? ふふふ……」
「テ、テメエ! どさくさに紛れて人の噂を捏造してるんじゃねえ!!」
 まるで掛け合い漫才のような2人のやり取りに、シギルに連れて集まっていた

護衛士たちの表情は複雑で。
何時の間にか2人を取り囲むようにして人垣が出来てたり。
「おや、他の皆さんもお集まりのようですね。いい機会ですからお話を……」
「だから何のハナシだッ!!」
「ですから、今回の使節団派遣に付いてのお話などを少々……」
 笑みを崩さぬままにシギルに即答するサコン。遠くにムシャリンの

啼く声が響く中、周囲の喧騒が一瞬にして静まり返る。
「実は今回、護衛士の皆さんにご同行してもらったのは他でもありません。

マウサツ領内に於ける内と外、2つの大きな問題を一気に片付ける為です」
「内と外? まあ、外はトツカサへの使節団派遣って事だろうが、内ってのは?」
 いぶかしむような目でサコンを見つつ、シギルが問い返す。
「近々、風が強く吹く夜にアルガの都にて大火が起こります。

いえ、起こされるというべきでしょうね」
「なんだって!?」
 変わらぬ調子で事なげに言い放つサコンに、思わずシギルが声を荒げる。
「テメエ、そんな大事が起きるのを判っていて、何で護衛士を掻き集めて

トツカサにこんな大規模な使節団を送るってんだ!? この面子の内の

幾らかでも人員を割きゃあ、事前にそいつらの決起を止める事も……」
「ええ、可能ですよ。流石はシギルさん、私の考えをよくご理解のようですね」
 そのシギルの言葉に我が意を得たりとサコンは極上の笑みを浮かべて。
「……って、まさかこの腹黒狐……始めからそのつもりで、護衛士のみんなを

使節団に招集してたって事か!?」
「ご名答です。護衛士の皆さんには直接アルガの都に向かってもらっても

よかったのですが、ちょうどいい偽装が出来そうでしたので、少し御芝居を

させて戴きました」
「こ、この悪党……」
 悪びれず告げる腹黒霊査士にシギルが呆れたような呟きを洩らす。
確かに、直接アルガの都に向かうよりも相手の油断を誘う事が出来るだろうし、
何より大々的な使節団の派遣自体が不穏分子の決起を促す引き金にも

なっているのだ。
「私は当初の予定通り、チオウ様、ジンオウ様と共にトツカサへと参ります。
こちらへの護衛は最低限で構いません。いえ、むしろ護衛が少なければ

少ないほど、ライオウ様との交渉に於いては効果的でしょう」
 何らかの思惑があるのか、そう告げるサコンの口調に些かの淀みもない。
「そして他の護衛士の皆さんには、秘密裏に使節団を抜けてアルガの都に

向かって戴きまして、不穏分子の一掃作戦に参加して戴きたいと思っています。

そちらの指揮には……」
「失礼します。サコンさんの代わりに護衛士の皆さんの指揮を執らせて戴きます

イズミです。不束者ですが、よろしくお願い致します」
 サコンに促されるようにして、マウサツ在中のもう1人の霊査士イズミが深々と

頭を下げて一礼する。先日までの『楓華の風カザクラ』での指揮も然る事ながら、

彼のライオウ公をして女傑と言わしめたイズミならば、充分にこの重責を

果たす事が出来るだろう。
「間もなく、マウサツ武士団の武士見習いの方々がこちらに合流致します。

これで護衛士の皆さんが抜けたとしても、傍目には使節団の規模は

変わりがないように見える筈ですよ」
「ふーん、総て予定通りって訳かい。で、俺たちにまで秘密にしていた訳ってのを

聞かせてもらえるんだろうなぁ?」
「敵を騙すにはまず味方から、と申しまして。兵法の基本ですね」
 憮然とした声で攻めるようなシギルの問いにサコンがにこやかに返答する。

トツカサの王子2人とサコン、それだけで他の者の目を誤魔化すには

充分な御輿となるだろう。
「んじゃ、テメエとは暫しの別れってか。……死ぬんじゃねーぞ腹黒狐」
「まあ、それは時の運……といった所でしょうね。皆さんの御武運をお祈りします」
 シギルとサコンの2人が掛け合う言葉の中には些か乱暴なものも

含まれているが、悪意はない。
むしろ、互いを思いやる気持ちすら見え隠れしている。
 ここに来て急展開を見せる『トツカサ友好使節団』の動向に多少の

戸惑いを見せながらも、護衛士たちは自らの行なうべき責務を果たす為に

気を引き締め直すのであった。

 

 

●【潜入・アルガの都】行動決定用スレッド(2006年01月27日 18時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
 トツカサ友好使節団から秘密裏に離れた護衛士たちは、アルガの都近郊に

ある古い館に集結していた。
この場所も今回の作戦に備えて用意されていた隠れ家の1つであり、

一時的な活動拠点となる場所でもあった。
 そして、そろそろ日も暮れようとしていた頃――。
「皆さま、御揃いのようですね」
 その声に護衛士たちは一瞬にして静まり返る。集まった護衛士たちに静かに

声を掛けたのは、サコンに代わって今回の作戦の指揮を執る事になっている

イズミであった。
「これより、夜陰に紛れてアルガの都へと極秘に潜入して戴きます。隠れ家は

数箇所用意されていますが、自分に見合った場所への移動を心掛けてください。

ただし、自信のない場合には、こちらで待機して戴いていても構いません」
 玲瓏な声の響きとは裏腹にイズミの告げる言葉の内容は手厳しい。
己の行動の責務は総て自分自身で持てと、言外に言い放っているのだから。
「自分たちが身に着けている装備品以外に持ち込める物は余り多くないと

思ってください。大きな荷物を持っての移動は、必要以上に目立ちますので。
また、ストライダー以外の種族の方は、出来るだけ外見的特長を隠すように

お願いします。季節柄、多少の厚着もおかしくはありませんしね」
 慣れた調子で潜入に関する注意点を次々とイズミは護衛士たちに指摘して行く。
「ヒュウ、流石は最前線を張っていただけの事はあるな……」
 そんなイズミの手馴れた様子を見て、シギルは思わず感嘆の声を上げる。
経験と実績に裏打ちされたイズミの指示は的確で、非の打ち所はない。
「では、皆さまの御武運をお祈りします」
 そう告げて深々と一礼するイズミ。
その後、軽く一息吐いていた辺り、久々の現場復帰に少なからず緊張

していたのだろう。
「よう、姫君。これからどうするんだい?」
 からかい半分、労い半分といった口調でシギルがイズミに声を掛ける。
「……出来れば私も都の中に潜入しておきたい所ですが、難しいでしょうね」
 他人事のように冷静な口調でイズミが答え返す。確かに、霊査士が単独で

向かうには色々と問題が山積みだろう。だが、その分イズミが都内部の

隠れ家に入る事が出来れば、今後の活動に於ける選択の幅も大きく

広がる事だろう。
「出来れば俺がお姫大将をエスコートしたい所なんだが、流石にこっちは

不案内でね」
「はい。始めから期待はしていませんから」
 肩を竦めながら苦笑するシギルにぴしゃりと言い放つイズミ。

取り付く島どころか指を引っ掛ける凹凸すらないようで。
 ともあれ、来るべく大火を防ぐべく護衛士たちはアルガの都へと向かうのであった。


●【事前準備】行動決定用スレッド(2006年01月28日 10時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
 護衛士たちによる隠れ家への移動は、多少危うい所などもあったものの無事に

成功を収める事となった。不穏分子たちに察知される事なく、25人の護衛士たちが

アルガの都の内部へと潜入を果たしていた。
「さてと、お姫大将。これからどうするんだい?」
 その隠れ家の1つに入ったシギルが背後に佇んでいる紫髪の女性に向けて

声を掛ける。
「……折角ですので、皆さまには様々な事前準備に従事して戴きたい所ですが、
本作戦の決行に備えて今の内に身体を休めておく事も重要でしょう。
私はこちらで出来る限り霊査を行なうつもりですが」
 毅然とした様子で答えるイズミ。霊査士であるが故に、実際の事件の折には

前線に出る事は適わぬ身。なればこそ、ここで出来得る限りの力を

尽くすつもりであった。
「そうかい。じゃあ、俺は一足先に休ませてもらうとするか。姫君の添い寝が

ないのは残念だけど、な」
 軽口を叩きつつ寝所へと向かうシギル。ストライダーに扮装して都へと

繰り出してもよかったが、どうせ身元を隠さなければならないのならば無理に

出掛ける必要もあるまい。
「ふわぁぁぁ……ま、楽しみは後に取っておくさ……」
 早くも欠伸を噛み殺しながらシギルは寝床に身体を横たえる。
「では、イズミ様。行って参ります」
「カティさんもお気を付けて……」
 今後の為に行動する者と、今後に備えて休息する者。
 其々の思惑を乗せて、作戦決行の時に向けての活動が始まろうとしていた。


●【不穏分子一掃作戦・その1】行動決定用スレッド(2006年01月29日 00時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
 凍えるほど冷たい乾いた風が吹き荒ぶ。夜に入って、冬の嵐にも似た激しい

強風が、アルガの都を襲っていた。
多少の物音などは強風の起こす騒音に掻き消されてしまう。
 そう、家の外で何者かが怪しげな行動をしている物音さえも――。
 事前準備を終えて、再び隠れ家へと集まっていた護衛士たちを前に

紫髪の女性がゆっくりと進み出る。イズミであった。
「不穏分子たちの決起の時が近付いています。ですが、これまでの皆さまの

御力添えによって、放火の行なわれる場所や時節などに付きましては、

ほぼ完全に特定する事が出来ました。
後はこの者たちの決起を鎮圧し、これを一掃するだけとなっています」
 ゆっくりと落ち着いた口調で言葉を続けるイズミ。と、その口調が不意に

凛としたものに変わり――。
「只今より、不穏分子一掃作戦を発動します。護衛士の皆さまの御力、

存分に振るわれるようよろしくお願いします」
 一部の隙もない流麗な動作でイズミは護衛士たちに一礼する。同時に一段と

強い風が吹き荒れ、この世ならざる者の咆哮の如き不気味な風鳴りの音が

アルガの都中に響き渡る。
 それが、他の隠れ家に潜伏している者たちへの『合図』でもあった。

『近々、風が強く吹く夜にアルガの都にて大火が起こります』

 そうサコンが告げた言葉を彷彿とさせる強風が吹き荒ぶ中、もう1人の

霊査士イズミの号令の下、アルガの都に潜む不穏分子たちの一掃作戦は

開始されたのである。

 

 


●【突発イベント・女占い師を捕らえよ!】行動決定用スレッド(2006年01月29日 17時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
「護衛士の皆さま。お疲れの所申し訳ありませんが、まだ残っている

仕事があります。
今回の一件の黒幕と目されている女占い師の一味が、この混乱に乗じて

アルガの都から逃亡を図ろうとしています。
どうかこの逃亡を阻止して、女占い師とその一味を捕縛して戴きたいのです」
 ようやく不穏分子たちの決起を抑え、安堵の溜息なども出始めていた矢先での
そのイズミの言葉に護衛士たちは慄然とする。
「一味の逃走経路などは既に判明しています。皆さまにお願いする事は2つ。
女占い師を確実に生け捕る事と、一味の真の黒幕である『黒衣の男』の逃亡を

必ず阻止する事です」
 厳しい口調のままイズミが集まった護衛士たちに視線を巡らせて。

そんなイズミの様子からも、この任務の重要性と困難さが窺い知れる。
「その『黒衣の男』を含めて、10名余りの一味のおよそ半数は“武士”です。

くれぐれも油断なきようお願いします」
 そう告げて護衛士たちに深々と頭を垂れるイズミ。
 こうして、今回の不穏分子一掃作戦の最後の締めともいうべき重要な任務は、

護衛士たちの双肩に託されたのである。

 


●【不穏分子一掃作戦・その2】行動決定用スレッド(2006年01月29日 16時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
 不穏分子たちの決起をどうにか最小限の被害で抑える事に成功した

護衛士たちであったが、まだ気を抜く訳には行かなかった。ここからの

事後処理を誤れば、今後のこの地での活動に大きな影を
落とす事は明白であったからである。
 あった、筈なのだが……。
「しかし、つくづく面倒な事を押し付けやがるよな。あの腹黒狐……」
 今この地にはいないマウサツの霊査士の含み笑いを思い出しつつ、

ぼやき始めるシギル。
作戦行動中にしては、些か緊張感が足りないようであったり。
「……珍しく意見が合いますね」
 が、作戦指揮の大役を担っているイズミもシギルの言葉に同調するように頷き返す。
どうやら御茶で渇いた喉を潤しつつ、気持ちを落ち着けようとしている風にも見える。
 そんな2人の目の前には、事後処理の折に使ってくださいとサコンから託された

品々が山のように詰まれていて――。
「まったく、手回しがいいというか……」
「私も少し頭痛がして来ました」
 溜息混じりに呟くシギルの言葉にこめかみを軽く押さえてイズミが続ける。
 山と詰まれた品々の正体、それは――。
「炊き出し、ですか?」
「はい。火事で焼け出された方々、もしくは火災に備えて非難した方々に

振舞う為の炊き出しの準備をして戴きます。
食材の方は既に用意されていますので、護衛士の皆さまには調理や配膳を

お願いする事になります」
 一瞬、呆気に取られたように尋ね返したカティに、ようやくいつもの調子を

取り戻したイズミが何事もなかったように答え返す。
 人気取りといってしまえばそれまでだろうが、こうしたちょっとした確信犯的な

配慮を仕込む辺り、サコンの本性がそこはかとなく窺い知れたり。
「事の仔細はともかく、寒い最中屋外で震えている住民の方々に暖かい食事を

振舞うというのは悪い事ではありません。皆さまの御力添え、よろしくお願いします」
 此処までの活動で少々疲れ気味の護衛士たちに発破を掛けるように

凛とした口調でイズミが声を上げる。
 こうして、不穏分子一掃作戦を締め括る為(?)の活動が今、始まろうとしていた。

 

 

 

●【情報文章】トツカサ友好使節団(2006年01月30日 02時)
○トツカサの王城にて
「ほう、これはサコン殿。まさか、僅かそればかりの護衛で我が国に参られるとはな」
「いえいえ、晴れて共に同じグリモアを仰ぐ事となったトツカサの国を訪れるのに、

何故護衛が必要でしょう?

これでも護衛が多過ぎのではないかと危惧していた所です」
 謁見の間にて対峙するトツカサ国の王ライオウ公と『門出の国マウサツ』の

護衛士団長のサコン。表面上は笑顔での会見となっていたのだが、

互いに交わす言葉の内には様々な駆け引きが応酬していて。
 トツカサの2人の王子を始め、護衛役として、そして友好使節団の一員として

会談の席に同席していた明日はいつでも晴れのち晴れ・マイティ(a15944) や

女王大佐・クレウ(a05563)、そしてらでぃかる悪なーす・ユイリン(a13853)たちも

ハラハラしながら事の成り行きをただ固唾を飲んで見守るのみであった。
 やがて、2人の話はセイカグド内の事のみならず、遠く離れたトオミフジ州の

出来事にも及び――。
「聞けば、貴公らの同胞『楓華の風カザクラ』の者たちは天子様の覚えも目出度く、
更なる重要な役目を仰せつかっているとか。出来る事ならば、我がトツカサよりも
存分に力添えをしたい所だが、今、後背を疎かにする訳には参らぬ。虎視眈々と

我らが隙を窺う餓狼がいまだ健在であるのだからな」
「はい。その事は、私たちも十分承知しております。そこで1つライオウ様に

提案があるのですが、
この度晴れて帰参されたチオウ様をトツカサの国の名代として、再びカザクラへと

派遣する事になされては如何でしょう?」
「なっ、言うに事欠いてテメェ……じゃなくてサコン殿! 貴殿も承知の通り、

某は勘当の身。トツカサの国とは一切無関係……」
 いきなり話を振られて慌てふためくチオウ。が、そのチオウの抗議を遮る威厳に

満ちた声。ライオウ公の発した声であった。
「ふむ、なるほどな。よかろう。チオウ、此度の帰参に免じてお前の勘当を解く」
「ち、ちょっと待ってくれ! 俺は、ジンの顔を立てて親父たちに挨拶に

来ただけだぞ!? 帰参だの勘当を許すだの、俺はそんなつもりで

帰って来たんじゃねえっ!!」
「問答無用。子は親の為に功を成すべきであり、親は子の成長の為に

高き試練を与えるもの。トツカサが王子、チオウよ。新たに我が名代として、

カザクラへと向かえ!」
 動転の余り、礼を失した言葉を吐き散らしているチオウに有無を言わせぬ

冷厳な口調でライオウ公が言い放つ。
「ジン、お前からも親父……いや、ライオウ様を諌めてくれ!」
「兄者、諦めてください。それに兄者が殿の御命令を断るというのでしたら、
代わりに私がトツカサの国の名代として彼の地に向かう事になります」
「お前が? って事は、つまり……」
「ええ。この目の黒い内は、これまでのように勝手気ままに羽を伸ばす事も

ままならなくなるでしょうね。私は別にそれでも構いませんが?」
「ジ、ジン……貴様まで九本尻尾に毒されちまったか……」
 麗しき兄弟愛を深め合うトツカサの王子たち。
 そんな2人を横目に、柔らかな笑みを湛えたままサコンが静かに口を開く。
「ライオウ様。今日は他にもお耳に入れたき事柄があります。
恐らくはライオウ様が最もお知りになりたき事、と申しますとお判りでしょうか」
 ドクン、心臓の高鳴るようなそんな音を謁見の間に居る者たちは感じていた。
先程まで軽口を叩いていたチオウすら居住まいを正して眼前の2人を

注視している。
「……貴公らが抜きん出た実力を持っている事は以前より承知していた。

それ故に数多の戦いに勝利し、勇名を馳せている事にも疑いの余地はあるまい。

だが、解せぬ事も多々ある。我が先読みすら凌駕する的確な判断力、

長年を掛けて我らが構築した諜報網を容易く超える
卓抜した情報収集能力。貴公らの勝利の影には、常にそれらの超常的な

『何か』の働きが見え隠れしていた。
やはり……何か裏があるのであるな?」
 鋭い眼光を目の前の長髪の男に向けながらライオウ公が重々しい口調で

問い掛ける。
「はい。私たち希望のグリモアの冒険者には特別な力が発現します。
手にした品々より、その後先に係わる事象を見通す力、霊査もしくは霊視と

呼ばれる力が――」
 ゆっくりとそう告げてサコンはその場に集う者たちに視線を巡らせる。その表情は

ただ穏やかで、微塵の動揺もなく。
「サコンさん……」
「団長……」
 その柔らかな視線を受けて同席していた護衛士たちも覚悟を決める。
これまでその力の事に付いて話す機会もあった。だが、それを明かさぬように

働きかけていた事も事実。
「任せたよ団長殿……」
 そう小さく呟く声を受けて、目前に静かに佇む霊査士が無言で頷く。
「よくぞ、これまで我らを謀ったものよ。その力があればこそ、これまでの貴公らの

尋常ならざる武功があったか」
「そう思って戴いても差し支えありません」
 吐き捨てるようなライオウ公の言葉に即答を返すサコン。
「ならばサコン殿に伺おう。このライオウが今、何を考えているのか……。

貴公らを如何様にするつもりなのかを、な」
 そう問い掛けるライオウ公の視線に刺すような殺気が込められる。
気が付けば隣接している控えの間よりも似たような気勢が揺蕩って来る。

恐らく、伏兵を忍ばしているのだろう。
「親父殿! このチオウ、この者たちがその力を徒に使わぬよう

自戒している事を知っております。
この先、エミシの地にて鬼と戦う為にその力が必要だという事も。
それをお疑いとあらば、この腹見事掻っ捌いて見せましょうぞ!!」
 がばっと上着を脱ぎ捨ててチオウが予め着込んでいた白装束を露わにする。

トツカサに再び足を踏み入れると決めたその時から、己の死を覚悟していただけに

チオウの表情には鬼気迫るものがあった。
 か、しかし……。
「チオウ様、その必要はありません」
 そんなチオウを諌めるように良く通るサコンの声が謁見の間に響く。
「……なんだと?」
「ライオウ様は何もされませんよ。私がどういうつもりでこの場に来ているのか、

知っておられる筈ですから」
 怪訝な顔をするチオウを諭すようにサコンが言葉を返す。直後、突如として

巻き起こった笑い声に一同の視線が集中する。

大きな声で楽しげに笑い始めた者、それは――
「ふはははは。やはりこのライオウを試していたか」
「ええっ!?」
 それまでの殺気を消して、楽しげに笑うライオウ公の様子に護衛士たちの間から

思わず驚きの声が上がる。
「ここで激昂に任せて貴公らを討ったとして、我がトツカサが得るものは、

マウサツよりの深き恨みに憎しみと、あのサダツナめの高笑いのみ。

しかも、今のマウサツには彼の女傑が滞在しているとも聞いている。
全くもって用意の良い事よな」
「はい。自身が至らぬ分、仲間には恵まれておりますので」
 にっこりとライオウ公に微笑みを向けるサコン。たとえ、読み間違えてこの場で

討たれたとしても、マウサツにはもう1人の霊査士がいて。その力を今後も

存分に振るえるよう既に布石もしている。
 やがて、表情を引き締め直してライオウ公が最後にして最も重要な問いを

投げ掛ける。

「その力、天子様もご存知であるのだな?」
「私たちの事は総て承知している、と仰せになられていたと伺っております」
「ならば是非もあるまい。天子様の意に沿うものを我らが排する訳にも行かぬだろう」
 大きく頷いて護衛士たちを見るライオウ公の表情は何処か晴れやかで。
 1つのわだかまりが溶け、続けるようにしてサコンが他の事柄に付いても

ライオウ公に語り始める。
聞き手はその話に頷き、時には疑問を投げ掛け。話し手は総てを語り

聞かせるべく、朗々と言葉を続けて。
 日が沈み、夜が深まり、そして空が再び白み始めた頃。長い話がようやく終わる。
「中々に興味深い話であった。また折を見て、貴公らと語らう時を持ちたいものよ」
「今度はライオウ様のお話を是非とも伺いたいものです」
 互いにそんな言葉を交わし合って、長時間に渡って続いていた会談の席は

終了する事となった。
 これまで、『門出の国マウサツ』がトツカサの国との間に培って来ていた

信頼関係とマウサツ領内に於ける活動の数々。
そして他地域に向かった同胞たちの活躍。そのどれが欠けても、この会談は

成功しなかっただろう。
 そしてこの日。マウサツは信頼すべき新たなる『同胞』を得る事となったのである。

 

 

●【結果】不穏分子一掃作戦&女占い師を捕らえよ!(2006年01月30日 23時):ヒトの霊査士・イズミ(a90160)
○逃走
 夜陰に紛れるようにして、アルガの都を抜け出そうとする者たち。
10名余りのその集団は、今宵アルガの都で起こった不穏分子たちによる

一斉蜂起の中核を担っていた者たち、女占い師とその一党であった。
 トツカサへの友好使節団を送る為、警戒が手薄となったアルガの都を火の海に

して、マウサツ護衛士団を混乱に陥れる――。
 だが、その目論みはあえなく費える事となった。何処で情報が漏れたのか、

護衛士たちは今回の作戦の全容を未然に察知していたのである。
「……解せぬ」
 黒衣の男が短く口の中で呟く。放火地点の1つや2つを残った警備の者たちに

特定される事は予め織り込み済みであったのだが、其処から芋蔓式に作戦の

全容が露見しないように細心の注意を払っていた筈。
 腹心の部下たちにすら、放火予定地点の総ては知らせていなかったのだ。
 しかし、扇動に乗った者たちによる蜂起は、ほぼ完全に鎮圧され、

“草”と部下たちに任せていた材木置場への火付けすら失敗に終わっていた。
「何故だ?」
 裏切りはない。在り得る筈もない。ご主君の意思に従ってこその我等であり、

その主命を果たす事こそ至上の喜び。
それは、武士ならぬ“草”とて同じ事。
 ならば何処から事が露見したのか――。
 答えの出ない疑念を抱きつつ、黒衣の男は先を急ぐ。
 ただ、己に課せられた主命を果たす為に。

○避難民
 火事に焼け出されて逃げ惑う人々を誘導する者たちの仕事はまだ続いていた。
「逃げ遅れた人はいませんか?」
 大きな声を上げながら舌先三寸忍者・リツキ(a12603)が逃げ遅れた者を

探し歩き。
 皆の足元を照らすように武士見習い・シロウ(a26228)が『ホーリーライト』を

発動させ、混乱を防ぐべく
蒼の旋律・キャルロット(a38277)は住民たちを励ましながら避難場所まで

案内して行く。
 その避難場所に近付くに連れて、住民たちの鼻腔をくすぐるような芳しい匂いが

漂い始め、不安げであった表情が徐々に和らぎ始め。
「まだたくさんあるから慌てないでね」
 温かいスープをよそいつつ愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)が

避難民たちに明るく声を掛けて。
甲斐甲斐しく避難民たちに食器を手渡す泡沫神子・セイル(a11395)や、

その手伝いをしている闇夜の夢見師・ルシア(a10548)が避難民たちの間を

忙しく駆け回る。
「こっちも出来ましたよ」
 調理を担当していた氷刃・シュン(a27156)の声に、炊き出しの

手伝いをしていた安楽死探偵・エン(a00389)が早速給仕を開始する。

そんな護衛士たちの隣ではヒトの吟遊詩人・エリエール(a90116)がぱんだ~♪ と
自慢(?)の歌を披露したりして。
 避難民たちの自分たちの住む家を失うかもしれないという恐怖と不安な気持ちを、

暖かな食事と勤めて明るく振舞う護衛士たちの笑顔が癒して行き――。
 やがて、頑なであった民衆の心が変化する。
 ゆっくりと、しかし確実に。

○事後処理
 炊き出しが行なわれ、住民たちへの慰撫活動が進む中、事後処理の諸作業も

進められていた。
燻っている火種を消す消火作業もそのうちの1つであった。
「見回りも重要ですわ!」
 事前に確認していた場所を中心に燻る火種が残ってないかを

月に寄り添う一等星・カーラ(a26268)が

銀糸の檻・グリツィーニエ(a14809)と共に探して。
 最小限の被害に押し止めたとはいえ、流石に人手が回り切らずに数箇所で

ボヤ騒ぎが起こり、数軒の家屋が半焼または全焼していた。
 幸いにも他への類焼はなかったのだが、何処に火種が残っているとも限らない。
笑顔の剣士・リュウ(a36407)やおてんばドリーマー・ルクミニ(a30918)も

燻っている火種を迅速かつ確実に消して回り――。
「これは……霊査に使えそうですね」
 消火作業をしつつ改良型直撃撲殺スパナ姫・カヤ(a13733)が焼け跡などから

霊査用の物品を回収する。
 こうして、アルガの都を飲み込もうとしていた火種は悉くが潰え消され、

大火は未然に防がれる事となった。
 そして、アルガの都を火の海に落とし入れようとしていた不穏分子たちの

一掃作戦は、残党たちの摘発に取り掛かった事で最終局面を迎えようとしていた。
「ご協力感謝します」
 アルガ武士団とも親交の深い白銀に瞬く星・アルジェント(a26075)からの

協力要請に応じて、武士団からも数名の武士が摘発に参加し、

ぽんころりん・マアヤ(a30403)や鉄梦人・キヨミツ(a12640)と
共に潜伏または逃亡していた残党たちを次々と検挙して行く。
「これも使えそうですね」
 そうした中、ヒトの武人・カティ(a90054)が火事場の後を巡って残党を探すと

同時に回収していた不審物も、ヒトの霊査士・イズミ(a90160)の霊査を

経る事によって、カヤの持ち込んだ品々と共に残党たちの摘発に一役買う事となる。
「逃がしはしないぜ……」
 一方、葬風・オセ(a12670)は加勢に来た白夜の射手・シギル(a90122)と共に

アルガの都から郊外へと逃亡を図る不審人物らを摘発して。
 夜が白み始める頃には、今回の一件に加担していた不穏分子たちのほぼ

総てを摘発し、その身柄を確保する事となったのである。

○最後のけじめ
 後もう少し――。
 誰一人として声には出さなかったが、逃亡を図っていた女占い師の一行の

誰もがそう思っていた。アルガの都から郊外へと抜ける門扉は、大きく空け

放たれたままで。ここさえ通り抜ければ、後は如何様にでも立ち振る舞えるだろう。
 だが、そんな甘い幻想は突如として一行を襲った『蜘蛛の糸』によって

一瞬にして絡め取られる。
「……よし、掛かった」
 不意に姿を現して静雪流影・ノヴァリス(a30662)が突き出した両手から

伸びる『粘り蜘蛛糸』に女占い師を含む数人の者たちが動きを縛られ――。
「行っけえっっ!!」
 勇ましく放たれた掛け声と共に、不思議な剣舞を舞いながら少女が一撃を放つ。
その雲色の飛翔脚・レスタァ(a32114)の『幻惑の剣舞』を受けて男が『消沈』して――。
「これでも喰らうのじゃ!」
 言い放ち様打ち振るわれた桃風・ダスト(a20053)の麒麟封刀の剣閃の煌きから、

無数の薔薇の花びらが乱れ飛んで。
「ここまでにさせてもらうよ」
 裂帛の気合と共に、風来の冒険者・ルーク(a06668)の放った『達人の一撃奥義』

が一味の1人を完全に沈黙させる。
「……逃がさねぇ……ぜ……」
 銜えタバコの赤い残像を揺らめかしながら爆炎劫火の屍狼・ヴェリス(a16544)が

鋭く強靭な蹴撃『斬鉄蹴奥義』を放つ。
 一味の逃亡を阻止するべく、この地へと先回りしていたマウサツの護衛士たちに

よる奇襲であった。
如何にストライダーとはいえ、反応し切れなかったのも無理はあるまい。
 それでも反射的に数人の男たちが飛び退って逃亡を図ろうとするが、眼前を

掠めるようにして討ち振るわれた横薙ぎの斬撃に行く手を阻まれる。
「だから、逃がす筈がないでしょっ!?」
 氷の微笑を浮かべて銀ギツネの・ルナール(a05781)が『ウェポン・オーバーロード』

で強化した剣を構え直す。
次は外さないと冴え冴えとした視線で語り掛けながら。
「其処の黒いヤツ、お前が黒幕だな?」
 残鉄剣を構える侍魂・トト(a09356)の視線が黒衣の男を捉えて鋭く光る。
その隙のない所作を見ただけでも相当の手練れであろう事は読み取れた。
何より、その凄まじいまでに冷徹な男の視線に、次の行動を読み取った

トトの背筋に戦慄が走る。
「拙いッ! コイツら……」
「殺れ……」
 トトが皆まで告げるより前に、黒衣の男の短い指示に即応して数人の男たちの

手中に気の刃が生じ、放たれる。
先程まで仲間であった筈の足手纏いたちに向けて。直後、断末魔の叫びと共に

血飛沫が舞い飛び、数体の骸が地に崩れ落ちる。
 だが、しかし。
「仕損じた……だと?」
 僅かばかりの焦りを含んだ声で呟く黒衣の男の視線の先には――。
「ふうっ、どうにか間に合ったみたいだね……」
 気を失った女占い師を抱きかかえるようにして、ヒトの武道家・セツハ(a37324)

が冷や汗を拭いながら笑みを浮かべる。
間一髪の所で、男たちの凶刃から女占い師を確保したのだ。

しかし、その代償が決して少なくなかった事は、男たちの放った気の刃『飛燕刃』で

少なからず傷付いたセツハの身体からも明らかで。
 それを知ればこそ、男たちは躊躇う事なく次の行動に……。
「やらせはしないぜっ!」
 再び気の刃を放とうと身構えた男たちに向けて月鎖天狼・フェンリル(a27206)が

『粘り蜘蛛糸』を放出し、セツハを援護する。
「癒しの波動よ……」
 それと同時に祈りの言霊紡ぐ・コト(a26394)が傷付いたセツハに柔らかな癒しの波動を解き放ち、
受けた傷を回復させる。それで充分であった。
「よし、この隙に離脱しろっ!」
「わかりました」
 術手袋を構えたフェンリルに護られるようにして、脇目も振らずに戦線を離脱する

セツハを追える者は誰もなく。
続いて始まった乱戦で、護衛士たちと互角に渡り合えるのは黒衣の男ただ1人。
自ずと戦況は圧倒的に護衛士たちが優位に立つ事となり……。
「まだ、やる気なのですか?」
「降伏なさい。そうすれば命までは取らないわ」
 相手の攻撃を的確に打ち払いながらルークとルナールが降伏を勧告する。
絶望的な戦いに身を投じていた男たちの表情に一瞬、安堵の色が浮かぶが――。
「主命を違える者には、死あるのみ――忘れたか?」
 黒衣の男が言い放ったその言葉に男たちの瞳から一切の光が消え失せる。
 やがて……。
 最後まで逃亡の隙を窺いつつ戦いを続けていた黒衣の男もトトの放った

『達人の一撃』の一撃に斃れ、戦いはようやく終結する事となった。
「……チッ……後味が悪いぜ……」
「全くじゃな」
 吐き捨てるように呟くヴェリスの隣でダストが遺体に手を合わせる。
本来ならば、戦いは降伏を呼び掛けた時点で終わっていた筈であった。

勝てる見込みのない戦いを挑まざるを得なかった彼等の心情は、

いったい如何ばかりであっただろうか。
「こちらの方はどうにか息があるようですわね」
 最後の一撃となった『慈悲の聖槍』の効果で辛うじて助かった1人をコトが

介抱する。
「ともかく……これで終わりだな……」
「うん。さ、早くみんなのトコに戻ろうよ」
 白み始めた空を見上げて呟くノヴァリスに続けてレスタァが重苦しくなっていた

雰囲気を打ち払うように元気な声を上げて。
 武士と思しき男1人と女占い師、その2人を捕獲した護衛士たちは

他の仲間たちと合流するべく移動を開始する。
 不穏分子一掃作戦が決行されたアルガの都の長い夜は今、静かに

明けようとしていた。

○顛末
 この夜、幾つかの家屋がマウサツの支配に不満を持つ不穏分子たちの蜂起に

よって焼き討ちにあったものの、その悉くはアルガの都に極秘に展開していた

マウサツ護衛士たちの手によって早期に消火され、
火災による被害は最小限に抑えられる事となった。
 そして、実行犯となって捕らえられた不穏分子たちだけではなく、

この焼き討ち事件の主犯格たる女占い師とその一味もアルガの都から

逃亡を図っていた所をマウサツ護衛士たちの働きによって
捕縛、または討ち取られる事となった。
 尚、今回の事件では幸いな事に一般の者たちに死者はなく、怪我を負った者や

家を失った者たちに対してはマウサツ護衛士団の名に於いて、一切の被害の

補償が約束された。

 こうして、アルガの都の奥底に巣食っていた不穏分子たちは護衛士たちの活躍に

よって一掃される事となり、マウサツを取り巻く問題の1つは無事に解決する事と

なったのである。

【END】

 


 

最終更新:2007年05月12日 02:02