【情報文章】トオミフジ州へ行こう 2007年04月07日
●首脳会談?
「……と言う方向で、調整をして戴きたいのですが如何でしょう?」
「彼の地との連絡体制の確立など、手助けはさせて戴きますわ」
「ランドアース本土とは、そちらが最も近い事なのですし」
「……仕方ありませんね。何とかやってみましょう」
そんな言葉が何処かの地で交わされたかとか交わされなかったとか。
全ての真相は闇の中、神のみぞ知る……。
●人材派遣のススメ
トオミフジ州はアオイサガの国への人材派遣。
それは、彼の国との繋がりを深めるべく、救援物資の提供と共にマウサツ側から
提言した支援策の1つであり、アオイサガ側もその受け入れに向けて前向きな
反応を示し、後は人材を募り部隊を編成して現地に派遣するばかりとなっていた。
「ところが、アオイサガ側から少々難しい提案がありまして、それらの条件を
整える為に部隊の派遣に当たって色々と見直しが必要になってしまったのです」
此処までの説明を静かに聞いていた護衛士たちに困ったような表情を向けるサコン。今にも悲嘆に満ちた溜息を吐きそうにも見える憂い顔であったが、この霊査士と
付き合いの長い護衛士たちは、それが半分芝居掛かったものである事を直感的に
見抜いていたり。
無論、そんな護衛士たちの複雑な表情など意に介する事なく、黒尻尾の霊査士は
説明を続けて。
「そうした複雑な事情などもありまして、今回のアオイサガの国への人材派遣ですが、『マウサツの護衛士』としてではなく、『希望のグリモアの冒険者』として向かって
戴く事になりました。いつもとは勝手が違うかも知れませんが、お力添えの程
よろしくお願い致しますね」
にっこり。
発言の意味が今1つ飲み込めずにぽかーんとした表情を浮かべている
護衛士たちとは対照的に、サコンは先程までとは打って変わって満面の笑みを
浮かべて見せる。
「……って、どう言う意味!?」
護衛士の1人が辛うじて上げた疑念の声に他の者たちも一斉に頷き合って、
サコンに更なる説明を求めるように視線を向けるが。
件の霊査士と言えば、寸分も笑みを崩さないままサラリと答えを返して。
「要するに、国や護衛士団などによる組織的な活動ではなく、あくまで一個人の
活動として現地に向かって戴きたいと言う事です。
そうですね、色々と『政治的な配慮』が必要になったのだとお考えください。
そうして戴けた方が、現地に向かって戴いた皆さんが身軽に動けるように
なるそうですので」
息継ぎをするかのように一旦話を区切りつつも、それほどの間をおかずにサコンは
更なる説明を続け――
「これらの配慮への見返りと言っては何ですが、今後アオイサガの国とは定期的に
連絡を取り交わす運びとなります。出来れば、それらの活動にも皆さんの
お力添え戴ければ幸いです」
これ以上の説明は不要だとでも言うように、サコンは更なる笑みを浮かべる。
何がどうなってこのような事態になってしまったのか……裏の事情を
知りたいのは山々だが、深く突っ込んではいけない――数々の戦いの中を
生き延びて来た歴戦の勇者(?)たちの野生のカンがそう告げる。
緊張感漂う沈黙が暫し続いた後――
「ああ、1つ言い忘れていましたが、派遣先はアオイサガの国だけではなく、
トオミフジ三国となる予定となっています。依頼の内容については、妖怪退治などが
主なものになるかと思われますが、詳細が分かり次第、その都度私の方から
ご説明させて戴きますね」
追い討ちとも言える言葉が最後に放たれ、波乱に満ちたサコンからの説明が
終わる。
『もう何がナンだか……』
とある護衛士は説明を受けた日の日記にただ一言、そう書き記していたと言う。
ともあれ、アオイサガの国への人材派遣改め、トオミフジ州三国への人材派遣は、
こうして執り行われる事になったのであった。