moedra @Wiki内検索 / 「地下牢の記憶」で検索した結果

検索 :
  • 地下牢の記憶
    「被告に死刑を宣告する」 裁判官が高らかにそう告げると、王宮法廷の一同から喚声にも似たざわめきが起こった。 被告、つまり俺は、城下町で出会った美しい女性に声をかけただけだった。 いや、少しは誘惑的なことも言ったかも知れない。だが、たったそれだけだった。 その女性が王の娘だったことなど知らないし、何かいかがわしいこともした記憶もない。 それがどういうわけか王宮裁判にかけられ、死刑を宣告されている。 裁判官が何やら刑の詳細について語っているようだが、俺の耳にはほとんど聞こえていなかった。 やがて唐突に2人の衛兵に腕を掴まれると、引きずられるように地下牢へと連れてこられた。 法廷から連れ出されるときの傍聴者の哀れみや嘲りの顔が思い出される。 「なんだ?斬首刑じゃないのか?」 半ば独り言のように呟きながら、目の前の”地下牢”を見つめた。 まるでそこに元からあったかのような巨大...
  • SS便乗者氏
    ...生(♀竜×♂竜) 地下牢の記憶(♀竜×♂人間、Transformation) 調教(♂竜×♂人間)[絵あり] 沈黙の胸の内(♀竜×♂人間) 宝玉の主(♀竜×♂人間、流血) 蜂蜜(非エロ)[絵あり] 忘我の温もり(微エロ) 夢(♀龍×♂竜) 翼の庇護(♂竜×♀人間) 卵を求めて(♀竜×♂人間、♀竜×♂竜) 竜の呪い(♀竜×♂人間、♂竜×♀人間、流血、Transformation) 竜の女王(♀竜×♂人間) 竜の里親(非エロ、流血) 竜達の苦労(♀竜×♂人間)
  • 王の贖罪
    どこか不穏な熱気を孕んだ人だかりの中で、俺は懐に隠した細身の短剣を緊張の面持ちで押さえていた。 もうすぐ、城の前でこの国の王が大勢の国民に向かって政略演説を始める。 そしてその時、子供っぽい利己的な理論によって積み重ねられた王の暴政に終止符が打たれるのだ。 俺は、本来暗殺者などではなかった。どこにでもいる一般市民・・・むしろ、農民といってもいいだろう。 心無い政治に苦しめられる人々が寄り添い合ってついに革命を企て始めたとき、俺は真っ先にその実行役を買って出た。あの王のせいで、俺には誰も親族がいなくなってしまったからだ。 何もかも毟り取られるような苛烈な税の徴収、人足として無償でこき使われる男達、時には戯れた王が市民の中から若い娘を城に連れてこさせ、そのまま一夜をともにすることさえあったという。 そんな中で父は過労に倒れ、母は俺が城の補修工事に駆り出されている間に幼い妹を連...
  • 妃の笑う夜2
    くそ・・・なんてことだ・・・俺としたことが・・・ 薄暗い燭台の明かりが揺らめく地下の独房で、俺は自分の軽はずみな行動が生んだ最悪の結果を呪っていた。 辺りを見回せば、いかにも犯罪に手を染めそうな凶悪な面をした奴からどうしてこんな若者がと思ってしまう程に邪気のない顔をした精悍な男達が、1人ずつ鉄格子で隔てられた檻に繋がれている。 そしてその自分勝手な基準で見るならば、俺は正に後者に当たる男だった。 俺がこの独房に繋がれることになった罪状は、小さなパン切れを1つ盗んだこと。 俺は産まれたときからこの国に住んでいるから、どんな罪がどんな裁かれ方をするのかは大体知っている。 そして少なくとも3~4年くらい前までは、こんな軽微な罪で牢屋に繋がれるなんてことは絶対に有り得なかった。 なのに・・・ここ数年、この国は何処かが変わってきているような気がする。 所詮一般庶民の俺には政治や城の内...
  • 竜の女王
    見渡す限りの大海原。穏やかに揺れる船の舳先が、紺碧の水面を滑らかに滑っていく。 俺は甲板で辺りにたち込める潮の香りを一杯に吸い込むと、船室で待っていた船長のもとへと急いだ。 そろそろ、待ちくたびれた船長が葉巻をふかし始める頃合だろう。 二十歳を迎えた俺は、学生時代にせっせと貯めたお金で世界旅行を計画した。 だが、所詮バイトで稼いだ額など高が知れている。 さすがに飛行機で各地を回ることはできず、俺はしかたなく遠洋漁業用の船に乗せてもらうことにしたのだ。 「すみません、遅れちゃって」 「遅れるのは構わんさ。時間はたっぷりある。だが、ワシが待っていられるのはこの葉巻がある間だけだぞ」 そういうと、すでに3本目に突入していた茶色い筒を口から離して船長が笑った。 「それで?目的地はどこだったかな・・・ああ、ここか・・・ふーむ・・・」 テーブルの上に広げられた海図に指を這わせ...
  • 忘れようとした記憶
    Lioleia-side Hunter-side また、茹だるような暑さの照り付ける季節がやってきた。 不思議な絆で結ばれた人間と愛娘を森に残してこの鬱蒼とした木々の茂る密林に移り住んでから早4週間。 毎晩のように降り頻る激しい雨や涼しい洞窟の中に巣食う不快な虫どもに幾度となく辟易しながらも、私は何とか新たな塒となりそうな美しい縦穴のある洞窟を見つけてほっと胸を撫で下ろしていた。 今頃はもう、あの娘も成体といって差し支えない程に大きく成長しているに違いない。 それにあの人間も・・・ 私はそこまで考えると、滝の流れる涼しげな巨洞の地面に蹲ったまま大きく溜息をついた。 この先、もう人間如きとあれ程深く関わることはないだろう。 この密林には私の敵となるハンター以外の人間などは滅多に訪れぬだろうし、あの可愛い娘と離れてしまった今となっては目の前に現れた人間どもを生かし...
  • 語らい
    荒野を旅する人間。 目の前に山のようにうずくまったままの龍に、旅人が声を掛ける。 他愛もない話は、いつしか旅人が信ずる神の問いかけに変わる。 「では聞くが、お前はどんな神を崇めているのだ?」 眠ったように目も開けず、龍がそう聞いた。 「私にはこれといって崇める神はいない。」 「ほう、全ての道は己が切り開いてきたとでも?」 龍がそう聞くと、人間は肩をすくめた。 「いや、そうはいっていない。 私にとっての真実とは、万物に神は宿るということだ。 そう、例えば、この石ころひとつにだって、神は潜んでいる。」 人間は、足元に転がっていた石を拾い上げて見せた。 「ふふ、それはそれは…。面白い考えだな。」 龍は静かに笑った。 「では聞くが、お前の足元にある枯葉にも神は宿っているのか?」 「もちろん。」 人間は深く頷いた。 「では聞こう。お前の足元にある何千と言う砂...
  • 忘れようとした記憶2
    Hunter-side Lioleia-side 「なぁおっちゃん、これで弓を作ってもらえるかい?」 ようやく、憧れだった念願の武器が手に入る。 僕はそんな期待感に胸を膨らませながら真っ赤に溶けた金属の熱がこもる武器工房へと駆け込むと、いつものように腕を組んでふんぞり返っているおっちゃんにやっとの思いで集めてきた素材と金を差し出した。 「何だボウズ。お前はまだハンターになりたての青二才だろう?」 だがこれまたいつものようにというべきか、僕の依頼を聞いたおっちゃんが意地悪な笑みを浮かべながら僕の頭をクシャクシャと撫で回す。 「かっこつけて弓なんぞ使っても、お前にゃあの鬱陶しい猪どもだって狩れやしないだろうよ」 「うっ・・・い、いいだろ、別に・・・」 確かに、おっちゃんの言っていることにも一理はある。 僕がこれまで細々とでも鍛えてきた片手剣を捨てて弓を使い始めよ...
  • ジェオライル
    夢から目覚めるように、何気なく目が覚めた。 しかし、視界に飛び込んできたのは自分の見慣れた部屋ではなく、 どこかの森の木陰だった。 首を曲げ、隣を見るとライルがこちらを見ていた。 私は、その瞬間に気づいた。また、やってしまったのだ。 「ああ、ごめん。俺、またやっちゃったの?」 ライルは、私が目覚めて意識がはっきりしていることを見定めると、冷たく視線をそむけた。 「ふむ。まただ…。 全く、人間という存在は弱くて敵わない。」 ラィルはそういって腕を組んだ。 「今回の殺られ方は派手だったぞ。 私の背中に乗ったお前は、やつの攻撃を受けて胴体から二つに千切れ折った。 私がいるから生きているようなものの、お前はどうしてそう脆いのだ。」 そっと腹部に手を当てる。 着込んでいた装甲が、腹部の辺りで引きちぎられている。 私の腹の皮膚に、つぎはぎしたようにどす黒いごつごつし...
  • 私の隣には
     私が目を覚ますと、そこには晴れ渡る青空が広がっていた。 サワサワという涼しげな音が、辺りを駆け抜けている。 数秒ぼんやりとしていたが、やがて理解に至る。 この草原に休憩がてら訪れてぼんやりと空を眺めているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。  ふいに、風が傍らをすり抜けた。まるで私が一人であることを強調するかのように。 隣には誰もいない。そのことに微妙な違和感を感じてしまう。 一部だけ切り取られた風景を見ているような違和感が。 突然不安が押し寄せ、私は慌てて辺りを見回す。 するとすぐに、何メートルか先にうずくまる、蒼と紅の大きな姿が目に入ってきた。 ――よかった。 ――居た。  蒼い体を草原に横たえ、眠っている。 大きな紅の翼も、今は元気なく垂れ下がっていた。 私はほっとして近づこうとしたが、何歩か進んで躊躇いが生まれる。 本当はす...
  • 秘湯2
    「うっ・・・」 相変わらず背中にのしかかるドラゴンの重さに、俺はハッと目を覚ました。 どうやら寝ている間に食われたりはせずに済んだようだが、いつのまにか場所が変わっている。 首まで浸かっていたはずの温泉は跡形もなく消え、いくら辺りを見回しても暗い岩の壁で囲まれているばかり。 「起きたか?」 硬い岩でできた地面の上に俺をうつ伏せに組み敷いたドラゴンが、背後からそっと呟いた。 「こ、ここは・・・?」 「私の住処に決まっているだろう?フフフ・・・貴様が眠っている間に連れてきたのだ」 ドラゴンの顔は見えなかったが、その声にはひどく愉快そうな響きが混じっている。 「ま、まさか・・・いやだ・・・助けて・・・」 知らぬ間に住処へと連れ込まれ、今度こそ食い殺されるかもしれないという恐怖に温泉で温められていた体が内側から急速に冷やされていく。 もぞもぞと必死で巨体の下から這い出そうとす...
  • 赤月の悪戯
    Dragon-side Human-side 「む・・・もう日が落ちたのか・・・」 今日はもうこれで4頭目の獲物となる猪にとどめの牙を突き立てると、私は狩りに夢中になり過ぎて気がつかなかった夜の訪れに空を見上げていた。 森の中から見える背の高い木々に囲まれた漆黒の空はキラキラと星々の瞬きを滴らせ、全身を覆った薄い水色の体毛を撫で摩る冷たい風が狩りの終わりを私に告げる。 これだけの食料があれば、この先1週間は寝床の上でゆっくりと甘い惰眠を貪っていることもできることだろう。 私は急所から血を流してぐったりと力尽きた獲物にグルリと尻尾を巻きつけると、夜風の当たらぬ暖かい住み処へと帰るべく森の中を歩き出していた。 森を抜けた先に広がっているウネウネと蛇行した尾根から見下ろす世界は穏やかな静寂を保っており、地平線の向こうから顔を出したばかりの満月が不気味なほどに赤く輝いている。 ...
  • 竜の女王2
    女王は俺の体をベッドに広げると、その上からゆっくりとのしかかってきた。 ズシィッ・・・ 「う・・・は・・・お、おも・・・」 みっちりと強靭な筋肉の詰まったドラゴンの巨体を預けられ、俺の体がベッドに深く食い込む。 そして、女王は俺の上でグネグネと左右に体をうねらせながら妖しげに笑った。 「ふふ・・・雄のドラゴンにすら軽々には許されぬ私の中を、人間のお前が味わえるのだ。喜ぶがいいぞ・・・」 その言葉に続くように、ドラゴンの膣が口を開けたクパッという音が下の方から聞こえてくる。 いよいよ、あの中に俺のペニスが飲み込まれるのだ。 これから与えられるであろう想像を絶する快感を無理矢理想像し、俺は顔に恐怖の色を浮かべた。 「ふふふふ・・・恐ろしいのか?そう怯えた顔をするでない・・・生きてここから帰りたいのであろう?」 「あ、ああ・・・帰りたい・・・」 「ならば・・・今しばらくは私...
  • 死神と呼ばれた少年2
    「ド、ドラゴンさん・・・よかった・・・無事だったんだね!」 「え、ええ・・・あなたのお陰でね・・・」 キョトンとしたドラゴンの顔にはまだ何が起こったのかよくわからないといった疑問の色がありありと浮かんでいたものの、取り敢えずは命が助かったことを安堵しているらしい。 「どうしてあなた・・・地震が来ることがわかったの?」 やがて予想していた質問がドラゴンから投げかけられたのをきっかけに、僕は1つ大きく深呼吸して息を整えた。 「う、うん・・・そのことなんだけど・・・話すと長くなるんだ・・・」 そう言いながらそばにあった大きな木の根元に背を預けると、ドラゴンがゴロリと目の前に体を丸めて細めた視線を僕へと注いでくる。 「いいわ・・・聞かせて・・・」 そんないかにも興味津々といったドラゴンの様子に、僕は初めて明るい気持ちで自分の能力のことを話し始めていた。 「・・・それで昨日、...
  • 禁断の意匠に抱かれて
    カッ・・・カキッ・・・ガッ・・・ 町の片隅に佇む小さな小屋の前の広場に、断続的な金属音が響き渡っている。 岩肌に押し当てたノミにハンマーを叩きつける度に、砕けた細かな岩の破片がキラキラと辺りに飛び散った。 照りつける太陽の暑さに滲み出した玉のような汗を拭いながら、ハンマーを振るう手にさらに力を込める。 「はは・・・今日も精が出るじゃないか、ルイス」 不意に背後からかけられたその声に、俺は作業の手を止めると静かに後ろを振り向いた。 「何か用かい?グレッグ」 背後に立っていたのは、俺よりも3歳ほど年上の友人だった。 年が違うのに幼馴染というのもおかしな話だが、実際の所この小さな町では彼ほど親しい友人は数少ない。 「あんまり根詰めると日射病で倒れちまうぞ。ほら、こいつでも飲めよ」 そう言うと、グレッグは手にしていた冷たい水の入ったコップを俺の前へと差し出した。 「ああ...
  • 宝玉の主2
    ―――72年前 「そっちへ行ったぞ!」 「矢は当たったか!?」 厚い木々に覆われた薄暗い森の中で、黒いドラゴンが木の陰で蹲っていた。 弩から放たれた矢を肩と背中から引き抜くと、傷口から真っ赤な鮮血が滴り落ちる。 「グググ・・・おのれ人間どもめ・・・」 突然の人間の襲撃に怒りを燃やしたドラゴンは、背後にガサッという物音を聞いて振り返った。 その瞬間、無防備だったドラゴンの背中に植物毒が塗られた矢が数本、ドスドスッという鈍い音とともに突き刺さった。 「グアアッ!」 強烈な激痛にドラゴンが仰け反る。 矢に塗られた劇毒で体が痺れ、指の先から尻尾の先までがピクピクと痙攣した。 「仕留めたぞ!」 「よし、馬で引きずっていこう」――― 「人間どもは体の自由を奪われたワシの尻尾に縄を結び付け、数頭の馬でワシを引きずっていった」 ドラゴンは依然怒りを湛えた眼で俺の顔を覗き込...
  • 黒竜の罠
    穏やかな波に揺れる船首の先には、大西洋上にひっそりと浮かぶ小さな島がその姿を現していた。 島の中央には、船乗りの間でダイヤモンドピークという名で呼ばれる深い樹海を従えた山があった。 その樹海の中には至るところに古代の遺跡のようなものが点在し、稀少な鉱石や文化的に価値のあるものが頻繁に出土するという。いわば宝島だ。 普通ならどこかの国が領有権でも主張しだして徹底的な探査のひとつも入りそうなところだが、噂を聞いた人達が次々と島へ押し寄せ、当初無人島だったこの島も今では海岸沿いに多くの民家が立ち並ぶまでになってしまっていた。 島に住む者は週に1、2度樹海に分け入り、そこでの収穫を本土で競りにかけて生計を立てているのだ。 「どうして週に1、2度しか山に入らないんだ?」 俺は乗っていた船の船長に素朴な疑問をぶつけてみた。 かく言う俺も、そんなおいしい話を聞きつけて島へやってきた身...
  • 禁忌の報い
    活発な人と物資の流れに栄えるノーランド王国。 隣国の領土へと伸びる幾本かの街道を除けば周囲をグルリと深い森に囲まれているこの国の名は、ほんの6、7年程前までは非常に危険な国の代名詞でもあった。 決して、国の治安が悪かったわけではない。 国の兵達は皆健康で団結心が強く、今は隠居している当時の王も民に善政を敷き大いに慕われていた。 だがこの国に向かって延々と深い森の中を突き進む街道やその周辺の森には自由に人間に姿を変えることのできる危険なドラゴン達が数多く巣食っており、それらが道行く人々を襲っていたのだという。 やがて大勢の死者や行方不明者が後を絶たなくなって数ヶ月が経った頃、王はようやく森に棲むドラゴン達の退治に乗り出した。 元々強大な兵力を持っていたノーランドの軍勢はドラゴン達との戦いで夥しい犠牲者を出しはしたものの、約1年後には街道でドラゴンに襲われたという話はほとんど...
  • 氷炎の恋物語2
    掟を破ったことでどんな咎めを受けるのかなど、最早知ったことではない。 だが失意の底に溺れながら火山地帯へと向かって飛ぶ間、私はずっと彼女のことばかり考え続けていた。 彼女のあの悲しげな表情が脳裏に浮かんでくる度に、すぐにでも引き返したくなる衝動を必死に押さえ付ける。 やがて不安と後悔を胸に秘めたまま住み処の傍までやってくると、案の定数匹の仲間達がまるで周囲を監視するかのように待ち構えていた。 そんな不穏な雰囲気の山間部へ向かって、堂々と正面から降りていく。 その瞬間私の姿を見つけた仲間の1匹が、慌てた様子で私のもとへとやってきた。 「おい、最長老様がお前のことを探していたぞ。何かやったのか?」 どうやら、彼らは事の詳細を知らされぬまま私を探していたらしい。 もし彼に真実を告げたなら、彼は一体どんな反応を示すのだろうか? 「ああ・・・わかっている」 私は力無くそれだ...
  • 押掛女房朱鷺色恋記
     ……来てしまった。  とうとうここまで来てしまった。  後ろ足だけで歩いたせいか疲れがひどい。人間に化けず本来の姿で来た方がよかっただろうか、と思うものの、竜の姿では見つかる危険の方が大きいから仕方がない。 とにかくここが森の、人間の住処との境目だ。この橋を渡ればもう引き返せない。何度も練習を重ねて覚悟を決めた筈なのに、胸の高鳴りが苦しくて動けなくなる。  『でも、もうすぐあえへ、あっ、あ――会える』  多少もつれはしたが、人間の言葉もちゃんと話せる。大丈夫。大丈夫だと私は自分を励ました。私にはおばあさまもついている。それに何より自分の気持ちを――今更抑える事などできない。  ――あの人に会いたい。そして……。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  『はっくしゅん!』  ヴィス...
  • 無題3
    小高い岩山の頂上付近に洞窟があった。 高い場所にある洞窟は猛獣や敵意を持った竜に襲われにくいという 利点もあり、多くは竜が住み着いていた。 この場所も例外なく竜がすんでいた。しかも2頭。 この2頭はオス、メスで仲が良いことで周りに住んでいる竜に知られていたが、夫婦ではなかった。 「はぁ~・・・まずいなぁ・・・」 そのオスが住処の山のすぐ真下で独り言をいいながら困り顔で白い体を揺らしながら うろうろしていた。 彼の名前はリラン。住処で待つメスの元へ食べ物を持って帰る最中だった。 手には小動物が2~3頭と果物少々を抱えている。 「でもどうせ遅くなっても怒られるだけだし・・・」 そういうと意を決した表情で翼を広げ、住処へ向かっていった。 「か、帰ったよー・・・」 リランはおそるおそろる声を洞窟の中に向かって発した。 「・・・いないの?」 何か言葉が返って...
  • 禁断の意匠に抱かれて2
    次の日、俺は昨晩の激しい疲労のせいか昼近くまで深い眠りについていたらしい。 目を覚ました時には既に太陽は南中を迎えており、青々とした草木の萌える初夏の香りが辺りに立ち込めている。 「そうだ、あのドラゴンは・・・?」 俺はふと昨夜の出来事を思い出すと、まだふらつく足取りでよたよたと玄関の扉を開けて外の様子を窺ってみた。 その家の目の前で、一見すると石像に見える黒々としたドラゴンがじっとその巨体を地面の上に横たえている。 だが扉を開けた様子で俺の気配に気がついたのか、ドラゴンはおもむろに大きな頭を地面から持ち上げると心配そうな眼差しをこちらに向けた。 「おはよう・・・よく眠れたかい・・・?」 返ってくるのは小さな唸り声だけだと知りながらも、何故かこのドラゴンにはついつい気軽に話し掛けてしまう。 それは恐らく、昨日の一件で彼が随分と心の優しいドラゴンであることが容易に想像できたか...
  • 毛鱗の番い
    冬の訪れを告げる木枯らしが吹く深い森の中、1匹の雌のドラゴンが暗い面持ちを湛えて当てもなくさ迷っていた。 全身から伸びたフサフサの赤い短毛に、真っ白な2本の角。 腹の辺りから尻尾の裏側にかけてだけはやや灰色がかった毛に覆われていて、長過ぎず短過ぎない小振りな尻尾がバランスを取っているかのようにフリフリと左右に揺れている。 まだ若い彼女は周りの仲間達に比べれば小柄で気もあまり強い方ではなく、今年も番いを見つける唯一の機会である繁殖期に手頃な雄を1匹も見つけられずに深く落ち込んでいた。 「あーあ・・・今年もだめだったわ・・・早く子供が欲しいなぁ・・・」 もう数年も前からの話なのだが、私は自分の力で小さな子供を育ててみたいという衝動に駆られている。 だが歳が離れているとはいえ周囲の仲間達が楽しそうに子育てしている姿を見るにつけ、番いとなる夫も見つけられずに落ち零れている自分が情...
  • MH小説
    リオレイア ─ 竜盤目・獣脚亜目・甲殻竜下目・飛竜上科・リオス科 この世界の全域に広く生息するワイバーンの雌。 強靭な脚と鋼にも匹敵する強固な甲殻を有し、陸の女王とも呼ばれる。 全身は美しい鱗に覆われ、生態素材としての価値は高い。 繁殖期には卵を守るために凶暴化する。 古代文明の遺跡からは飛竜種と人間が共同生活を営んでいるかのような壁画が幾つか発見されており、 学者の中には彼らの知能レベルが人間に匹敵するのではないかと唱える者もいる。 ──今まさに、その雌火竜と対峙している一人のハンターがいた。 いや、彼が獲物といったほうが正しいのかもしれない。 彼の手に握られた大型のナイフは大きく刃毀れし、 ナイフと対になって左手に握られるはずの盾は雌火竜の足元で鉄屑と化していた。 後ろは高さ数十メートルはあろうかと思われる断崖絶壁。 幸い下に広がっているのはマリンブル...
  • 2つの灯火
    家族を失う悲しみ。2度と味わいたくなかったその悲劇が、再び私の身に降りかかろうとしていた。 真っ白なベッドの上で蒼白な顔に玉のような汗を浮かべ、母がチラリと私の方に視線を向ける。 「お母様・・・」 思わず私の口から漏れた言葉に返事をしようとして、母は枯れた喉から声を出すのも辛そうに目を細めた。 不治の病など、この世にあっていいはずがない。 ましてやその恐ろしい悪魔を、よりにもよって母が患うなんて・・・。 15年前、まだ私があどけなさの残る少女だった頃、この村を取り囲むようにして広がっている森の中に1匹のドラゴンが棲んでいた。 定期的に村を脅かし、家畜や畑を荒らす禍禍しい獣。 それがくると、私達はみな家の扉を固く閉ざして恐怖と不安にひたすら震えていたものだった。 外を歩く重い足音、窓からわずかに覗く青黒い鱗、大地を揺るがすような甲高い雄叫び。 なぜか家の中にまでその...
  • 黒竜の葛藤2
    ペロッ・・・ペロッ・・・ 「う・・・ん・・・」 瞼越しに突き刺さる陽光の眩しさとザラザラした湿った物に顔を擦り上げられる感触に、僕は手放していた意識の糸を探り当てていた。 とても暖かい・・・まるで極上の羽布団に包まっているかのようだ。 ペロッペロッ・・・ 再び顔を擦り上げられ、僕はゆっくりと目を開けてみた。 目の前に巨大なドラゴンの顔が見え、大きな舌が僕の頬を駆け上がっていく。 「ん・・・な、何してるの・・・?」 僕が起きたのに気がついたのか、ドラゴンは舐めるのをやめると少しだけ僕から顔を離した。 その眼に、とても心配そうな輝きが宿っている。 下を見ればドラゴンの柔らかくて暖かい腹が僕の体に絶え間なく擦りつけられていて、僕は氷点下の砂漠の夜を裸で過ごしたというのに全く寒さを感じずに済んでいた。 「僕を・・・心配してくれたの・・・?」 少年から投げかけられた率直...
  • 静寂の夜に
    風も波もない穏やかな海の底に佇む、小さな海中洞窟。 「ふぅ・・・」 その最奥にある薄暗い住み処の中で、1匹の大きな海竜が落胆気味に小さな溜息をついていた。 透き通った紫色と純白の2色に塗り分けられた体をまるで大蛇のように艶かしくくねらせながら真っ赤な長髪を靡かせるその海竜は、仲間達の間でナギと呼ばれている。 長年この暗い洞窟の中で勇猛な雄龍の出現を待ち続け、そしてついに数年前、ようやく深い山間の洞窟から移住してきた雄龍と結ばれて可愛い2匹の子を授かったあの海竜である。 だが常に勝気で夫であるアンクルにすら滅多なことでは弱みを見せない彼女にも、ここにきて初めてある葛藤と決断に苦しむ時期が訪れていた。 ザバッ 「うっ・・・な、何だ・・・お前か・・・」 洞窟の中に広がる水面から食料となる魚を大勢咥えたまま顔を出した途端、ナギが一瞬ビクッと身を強張らせてはワシの顔を見て安堵の...
  • シグ2
    「トードー? ねぇトードー」 暖かな冬の布団に全身を埋めて、今まさに寝入らんとする俺の頭を揺さぶる奴がいる。 「起きてる? トードー?」 揺さぶり方がだんだん大きくなってきた。これはこれで心地いいものだが、残念ながら頭を揺らしながら寝られるほど俺は呑気ではない。 夢の沼に沈みつつあった俺の意識はすんでの所で現実に引き戻された。 しかし、徹夜が明けてやっと寝床についた人間にこの仕打ちは少々酷ではないかと、俺はんんと一言、鼻で反論した。 「トードー、ちょっとマズいことになってるんだ。ちょっと着いてきてもらうよ」 耳元でささやく声が聞こえて、夢うつつのまま、俺の体は宙に持ち上がった。 アルミサッシが軽い音を立てて開き、冷たい風が頬をなでる。 「寒いぞ」 「寒いよそりゃ」 早朝の風が容赦なく眠気を剥ぎ取っていく。目が開いた。 「………」 眼下に広がるのは...
  • 奪われた平穏3
    ギュウッ・・・! 「ウガッ・・・グ・・・グアァッ・・・!」 やがて必死に快楽に耐えようと歪めていたワシの顔をうっとりと眺めながら、突然雌竜がそのドロドロに蕩けた火所に呑み込んでいる無力な贄を思い切り押し潰す。 そして堪えようもなく迸ったその雄の悲鳴を堪能すると、雌竜が肉欲に火照った艶のある声を漏らしていた。 「おやおや・・・この様子だと、今夜もたっぷりと快楽に泣き叫ぶ声を聞かせてくれそうだねぇ・・・」 「ア・・・ガゥ・・・こ、これ程までにワシを弄んで・・・い、一体お前は何が望みなのだ・・・?」 「お前はあの村の人間どもを守りたいんだろう?だから、あたしがその望みを叶えさせてやってるのさ」 望みを叶えさせてやっているだと・・・? ワシの望みは、あの村の人間達とともに平和に暮らすことだけだ。 なのにこ奴は村人の1人を無残に食い殺したばかりか、彼らが神と崇める存在を自らの手で貶...
  • ペット
    朝目が覚めると、僕は裸で見知らぬ部屋にいた。 明らかに自分のものとは異なるベッド、テーブル、調度品。 そしてなにより、独特な獣の臭い。 ええと、昨日の夜は何をしていたっけ? 必死に記憶を辿る。確か、友達と飲んで、酔って帰る途中だったのは覚えている。 でもそこから先の記憶がない。 ということは、どこかで倒れて誰かの家で介抱されたのか? でもそんな見知らぬ酔っ払いを普通こんないいベッドに寝せるものなのかな?しかも服も着せずに。 みれば、僕のいた部屋は綺麗に片付けられていて、ホコリ一つ落ちていない。 その上ベッドときたら2メートル四方の大きなもので、明らかに部屋の中で異常な占有率を誇っていた。 僕はとりあえずベッドから這い出すと、窓を覗き込んで驚いた。 「一体何階建てなんだこの家は!?」 窓の外には霞がかった一面の空の下に深緑の絨毯が敷いてあるように見えた。 だが...
  • 奪われた平穏2
    やがて呑み込んだ獲物が腹の中で息絶えたのを感じたのか、空を振り仰いでいた雌竜がクスクスと笑いながら再びワシの顔を見下ろしてくる。 そのあまりにも残酷で傍若無人な捕食の光景を見せつけられて、ワシらの周囲を取り囲んでいる村人達もすっかりと言葉を失ってしまっていた。 「ぐ・・・うぅ・・・ワシの力が及ばぬばかりに・・・す、済まぬ・・・」 小声でそう呟きながら眼前で村人を食い殺された激しい無念と怒りにワナワナと身を震わせてはみたものの、このままではやがて村の者達が1人残らず雌竜の餌食になってしまうのは目に見えている。 「さぁて・・・まだこのあたしに楯突こうなんて考えている馬鹿な奴はいないだろうね・・・?」 更には心の弱り切った村人達に駄目押しするように、雌竜が彼らの方を鋭く睨み付けながらそう訊ねていた。 だが当然というべきかそんな脅し文句を肯定する者などいるはずがなく、目の前にあるのはた...
  • 裏窓
    俺の部屋の窓の正面には、ボロアパートと廃墟になったオフィスビルが建っている。 俺はその隙間から見える雲が好きだった。 それはアパートのベランダの格子の隙間を縫うように現れて、向かいのオフィスビルまでゆるく蛇行しながら橋をかけている。 俺は毎日、昼夜問わずその雲を眺めて過ごした。 俺が俺のアパートの俺の部屋に入ったときから、雲の形は変わっていない。 変わる訳が無い。 俺は、本物の雲を見たことが無い。 俺が気に入っている雲は、この町を覆う壁に描かれた絵なのだ。 俺の住んでいる町には、空が無かった。 どこまでも続く壁。 それは、擬似的な地平線からまっすぐ上に伸び、恐ろしく緩やかな曲線を描いて反対側の似非(エセ)地平線へと消えていく。 壁には地面に近いところから徐々に深みを増し、人工光源周辺ではその光源により白さを得て、頸を痛くして反対側に向かうごとに地面に近い色になる見事な...
  • 押掛女房朱鷺色恋記3
     いや、これは。ひょっとして。  (気持ちいいのかも?)  『はぁ……はぁ……ハヤく……入れさ、せて、イレ……』  私の推測を裏付けるようにヴィストさんの官能の呻きが応え――。  ――瞬間。私の中にとんでもない推測が閃いた。  (入れる……挿れる――まさか!)  今彼が見ている夢は――罪悪感が一気に焼き尽くされる。 これは、嫉妬だ。私がこんなに、こんなにも悩んでいるのに……彼は手の届かない所で誰かとよろしくやっているなんて!  (私と、私というものがありながらっ!!)  頭の芯がカッと熱くなる。身勝手なのは百も承知で、私はヴィストさんに覆いかぶさっていた。  (じゃあ……私もこちらのヴィストさんと、シテしまってもいいですよね!)  猛る情欲のままに口を大きく開いて獲物に狙いを定める。一思いに楽にはさせてあげ...
  • 美女と野竜2
    第3章 「全ての責任は私にあります。本当に申し訳ございません!」 大きなベッドから体を起こしたワシの傍らで、シーラの乗る馬車を操っていた御者が深く頭を下げていた。 「それで・・・シーラの行方は?」 「はっ・・・今も姫様が転落したと思われる辺りを数十人の兵士が捜索を続けております。ですが・・・」 「ですが・・・なんだ?」 後に付け加えられた御者の不穏に一言に、思わず聞き返してしまう。 「転落されたときに怪我を負ったのか、所々に血痕が残っておりました。それと共に、大きな獣の足跡が・・・」 「なんということだ・・・」 最悪の事態を想像し、ワシは頭を抱えた。 「とにかく・・・何か手がかりを見つけるまで捜索を続けるのだ・・・」 「もちろんそのつもりでございます」 「うむ・・・さがってよいぞ・・・」 重責にうろたえる御者をさがらせると、ワシは自分の愚かさを呪った。 軽...
  • 禁忌の報い2
    どんよりと曇った胸の内とは裏腹に美しく晴れ渡った大空へと舞い上がると、俺は広大な森の様子を遥かな上空から一望した。 そんな深緑の絨毯の中にぽっかりとした丸い穴が空いていて、そこからキラキラと陽光を反射する水面が覗いている。 彼女が・・・イザベラが、毎日のように水浴びを行っているあの湖だ。 ここ数日の記憶を辿ってみれば、昼過ぎの今頃は丁度イザベラが冷たい水面を泳ぎ回っていることだろう。 一目惚れとはいえ1度は恋に落ちた女性に、俺はこれから襲いかかろうとしていた。 あの場所ならば、たとえ彼女が大声で泣き叫んだとしても助けはやってこないに違いない。 やがてなるべく羽ばたく音を立てぬように湖の上空まで静かに飛んでいくと、眼下では案の定イザベラが心地よい一泳ぎを終えて水から上がろうとしているところだった。 今だ・・・! そして気付かれないように素早くヒュウッとイザベラの背後に回...
  • 獄中の宴
    満天に広がる星々の瞬きを眺めながら、俺は家の屋根の上に寝転がってウトウトと惰眠を貪っていた。 深い深い森の奥にひっそりと佇む小さな町。隣の町まで行くには険しい森の中を5日は歩き続けなくてはならないというのだから、ここは正に陸の孤島という表現がぴったりくる。 何故こんな不便なところに町があるのか俺にはさっぱり理解できなかったが、それでも森の木々に浄化された空気が見せる眩い星空を見ていると、そんな悩みもどこかへ消えてしまう。 何しろ時折森へ迷い込んだ人が帰ってこなくなる以外は、この町はいたって平和だった。 争いや犯罪も起きなければ、食料だって豊富な山の幸と草食の獣達のお陰で十分に潤っている。 正直ここに骨を埋めたいとは思わないが、少なくとも自然の素晴らしさを満喫しながら暮らす分にはさして悪い環境ではなかった。 「ん?」 本で身につけたばかりの星座の知識を頼りに星の軌跡を目で...
  • Locus of Control
    少しだけおどおどした龍の男の子。 幼馴染のあの子が近くの家に住んでいる。 今日は、ひょんなことからお酒を飲んじゃって、思い切って告白することにしてみた。 僕は、いつもこんな事なんてしないんだけど、 さっき飲んだ果物のお酒のせいかな。 僕の尻尾は、まるで別の生き物みたいに振れている。 そして今、こうして君の家の前で、大切なことを君に言おうとして立っている。 ドアをノックして、君がでてくるだけで良い。 君のきゃしゃな鱗の体を僕の腕で抱きしめて、 「前からずっと好きだった。付き合ってください!」 そういうだけで良いんだ。 それだけなのに、どうしても一歩が前に出ない。 お酒が入って、雲の上を歩いているようなふわふわした感じ。 僕に羽があったなら、きっと月まで飛んでいってしまうだろう。 景色がはっきりと冴え渡って、何でも出来る感じ。 それなのに、どうしてもこ...
  • 調教
    ジャラっという金属の擦れる音で、僕は目を覚ました。 キョロキョロと辺りを見回してみるが、何か柔らかいものの上に乗っているということ以外は真っ暗で何もわからない。 えっと・・・僕・・・一体どうしたんだっけ? ああ、そうだ・・・確か山の中でいきなり大勢の人間達に囲まれて・・・捕まったんだっけ・・・ 何か大きな音のする鉄の棒を向けられたような気がするけど、それからどうなったのか記憶が途切れている。 とにかく、気がついた以上早くここから逃げ出した方がよさそうだ。 僕は細かいことも考えず、急いで柔らかな土台の上から飛び降りようとした。だが・・・ ジャララッ 再び聞こえた金属音とともに、両腕が引っ張られた。 いや、引っ張られたというよりもどこかに繋ぎ止められているらしい。 「な、何だこれ・・・」 いくら引っ張ったり叩いたりしてみても、その鉄の鎖は決して千切れる事はなかった。 ガ...
  • 裏窓2
    「うわ・・・。」 吐いてきてよかったと思った。 「見事だなこりゃ・・・。」 桐生がフィアと同じことを言った。 窓から入った銃弾は、若干身を乗り出していた竜人の眼窩を見事に打ち抜き、あたりに脳漿をばら撒きながら頭蓋骨を破壊し、ビルの壁にめり込んでいた。 あまり見ないようにする。 「でしょ?初めてでこれは・・・。」 フィアが桐生に同意し、賞賛の意味を込めて俺を見やる。 俺は正直複雑な心境なわけだが・・・。 「ん?」 桐生が足元に目を落とす。 「おい・・・これってM249じゃないか?」 「へ?」 フィアが間の抜けた声で答え、俺は名前だけは聞いたことがあるその銃を近くで見ようと、桐生の傍に寄る。 見かけは通常のライフルとあまり変わりないが、弾倉部分に台形をしたマガジンが付いている。 桐生がそのマガジンをはずすと、中からベルト状に繋がった5.56mmがジャラジャラと連な...
  • 裏窓4
    「ねえ。」 「んー?」 「へーさん達、いつ頃になるかな?」 「さあ。」 「先に夕飯食べてる?」 リオンが腕時計を確認しながら言う。 俺も横から覗き込んだ。 「もうそろそろご飯食べてもいいくらいの時間だけど・・・。」 「・・・まあ、それほど時間かかる事じゃないし、先に済ませちまおうか。風呂入るときもその方が楽だし・・・。」 シャワールームとトイレは全員共用なので、全員が決まって利用するような時間帯はものすごく混む。 飯の類も配当制なので、それらしい時間には竜人が殺到するのだ。 「じゃ、貰ってこようか。」 リオンがそう言ったので、俺も付き合うことにする。 テントを出ると、いつもよりも大分竜出が少なかった。 代わりに、午前中に来た人間の集団が一箇所に固まって飯を食んでいる。 テントから竜人と一緒に出てきた俺を見て、怪訝な顔を浮かべるものも多い。 「君さ。」 「ん...
  • 渇望の日々
    深い木々の生い茂る密林の洞窟であのリオレイアと不思議な一夜を過ごしてから数ヶ月・・・ 僕は毎日のように護身用の弓を携えながら、彼女のもとへと足を運び続けていた。 もちろんこれは、巨大な雌火竜に対する警戒のためではない。 季節は暑さの厳しかった温暖期から早くも夜の冷え込む寒冷期へと移り変わり、食料の乏しさから空腹で凶暴化した獣達が森のそこかしこで跋扈しているからだ。 尤もそれは当の彼女も同じであるらしく、僕も最近はポーチの中に詰め込めるだけの生肉を押し込んでいる。 そして冷たい風の吹き込む巨洞の中で蹲った彼女と出会う度、僕はその骨付き肉を彼女の口元にそっと運ぶのだ。 プシュン!・・・ズバッ! 身の丈程もある大弓から勢いよく放たれた幾本もの矢の雨が、僕の周囲に五月蠅く付き纏っていた毒針を持つ大きな羽虫を正確に捉えていた。 その激しい射撃の衝撃で、憐れな的となった獲物が緑色...
  • 我が翼を想いて2
    翌朝、僕は彼女の大きな腹の上で心地良い眠りから目を覚ましていた。 柔らかな体毛に覆われた彼女の体はさながら高級な羽毛布団のような暖かさと肌触りを兼ね備えていて、昨夜は満腹の腹を摩りながら彼女に抱かれた途端に眠りに落ちてしまったのを薄っすらと覚えている。 「よく眠れたか?」 「うん、とっても気持ち良かったよ」 僕はそう言うと、のそのそと藁の敷かれた地面の上へと滑り降りていた。 「それで、今日はどうするの?」 「そうだな・・・今日はここの訓練所へ行ってみるというのはどうだ?他の竜達が戦い合う所を見られるぞ」 「本当?行くよ!」 だが僕が勢い込んでそう言うと、彼女が小さく息をついて半ば起こしていた体を再び藁の上へと横たえる。 「竜達の訓練が始まるのは午後からだ。それまでは、もうしばらくここで休んでいてもよかろう?」 「そっか・・・じゃあ・・・」 その不意に何かを思い付...
  • 誕生
    コポ・・・コポコポ・・・ もう間もなく22世紀の元旦を迎えようと人々があちこちで陽気に騒いでいる中、僕は1人薄暗い研究室で夢の完成を心待ちにしていた。 辺りには青白い液体に満たされた巨大な試験管が立ち並び、時折浮かび上がる気泡がコポコポと軽い音を響かせている。 その中でも一際大きな2つの試験管に、恐らく世界で最も有名で、そして誰も見たことのないモノが眠っていた。 ドラゴン・・・蛇の体に蝙蝠の羽を持ち、岩をも砕く爪と特殊な力の宿る角を有するトカゲに似た生物。 東洋では精神と善の象徴、西洋では力と悪の象徴だという。 勿論それは人間の想像力の産物であり、それを現実に作り出すことなどは不可能だろう。 だが僕は、先人達が長い年月をかけて行ってきたドラゴンの研究をもとに遺伝子操作を駆使して雌雄のドラゴンを創造した。 もうすぐ、彼らが目を開ける。そして僕は世界で、いや人類で初めて生きたド...
  • ドラグーン・キングダム
    第一章「洞窟のドラゴン3兄弟アル、ブル、チャル」 ドラゴンが住むといわれた森―― その森の中心に近い薄暗い洞窟に3頭の兄弟の竜がいた。 森に入った者がその姿をちょくちょく目撃しており、その国を治める長は その存在を大変恐れて、たびたび討伐隊を組んでドラゴンを捜索させていた。 しかし発見してもうまく逃げられたり、尻尾でなぎ倒されたりと結果は散々だった。 「人間をさらう、食われる、慰み者にされる」 などの噂も流れており国の人々も大変恐怖していた。 ただ、実際にそういう被害報告はないのだが・・・ 洞窟の奥の一室―― 「ただいま」 アルはいつもの落ち着いた声で自分たちの洞窟へ帰ってきた。 いかにも冷静な様子はスマートな外見と白い体毛によく似合っていて 3兄弟の長男という自覚を常に持った賢いオスだった。 ――しかし、洞窟に入ってその...
  • 宝玉の主
    「あった、これだ・・・」 城下町にある古めかしい巨大な図書館。その一角の古書ばかりを集めた資料スペースで、俺はついに目的の物を見つけることができた。 "世界の四大秘宝"と題されたその色褪せた資料には、古くから言い伝えられる4つの宝玉についての様々な情報が載っていた。 "神鳥のルビー"、"大亀の黒曜石"、"猛虎の白水晶"、そして"竜眼のサファイア"。 直径5寸きっかりの真球に磨き上げられたこれらの玉は最高級の国宝として、また権力の象徴として、国々が競って奪い合った。400年前には西欧で3つの大国が神鳥のルビーを巡って争い、その内2つの大国が戦いに敗れて滅んだという。 価値のあるものとはいえ何故これほどまでに宝玉を巡って血みどろの争いが繰り返されたかというと、それはこの宝玉にまつわる言...
  • 受け継がれた救い
    「まあ予想はしていたけど・・・こりゃ相当古い建物だな・・・」 鬱蒼と木々の生い茂る森の中に建てられた、小さな木造の山小屋。 辛うじて家としての体裁は保っているものの今にも崩れ落ちてしまいそうなその様子を目の当たりにして、僕は別荘での一人暮らしを決めたことを既に後悔し始めていた。 家の玄関口にかけられている"アイザック"と書かれた古ぼけた表札が、この家が先祖代々受け継がれてきた遺産であることを物語っている。 アイザック・ヴァルアス・ウィリアム、それが僕の名前だ。 学者の家系の子として生まれはしたものの、僕は正直落ちこぼれだった。 お世辞にも頭がいいとは言えなかったし、こんな隙間風の吹き込んでくるような酷い山小屋で暮らすことを決意したのだって、もともとは両親に勉強を強要されるのが嫌だったからなのだ。 ミドルネームの意味は知らないが、父も祖父も曽祖父までもがVと...
  • 我が翼を想いて3
    バサ・・・バァサ・・・バァサ・・・ やがて10分程もそうして翼を動かし続けていると、突然体が軽くなったかのような感覚が全身を駆け巡っていく。 効率のよい羽ばたき方が体でわかってきたのか、翼や筋肉の疲れ方も先程に比べると大分楽になったようだ。 「こ、こんな感じかな?」 「そうだ。だが、空を飛んでいる間中ずっと羽ばたいている必要はないぞ。風を利用して、緩やかに飛ぶのだ」 彼女はそう言うと、僕の上達振りに満足したのか相変わらずたどたどしい歩き方で僕の方へと近付いてきた。 そしておもむろに僕の肩口の毛を両手で引っ張りながら、彼女が何やらウンウンと唸り始める。 どうかしたのだろうか? 「全く・・・人間とは思ったよりも随分と不便なものなのだな・・・尾が無くては、歩きにくくて仕方がない」 だがその全く予想だにしていなかった彼女の愚痴を聞いて、つい笑いを堪えられずに噴き出してしまう。 ...
  • 竜の里親
    深い森の奥に隠された薄暗い洞窟。その中に設えられた鳥の巣のような温かい寝床の上に仰向けに寝転びながら、僕は自分の不思議な人生を思い返していた。 悪政のために今はもうなくなってしまったが、20年ほど前この森の近くには1つの小さな国があったらしい。 その国は、国土の大きさに対して人口が増えすぎては困るということで、全ての国民に第2子の出産を禁じていた。 だがそんな理不尽な御触れを出されて最も困るのは、図らずも第2子を孕んでしまった夫婦などではなく、やはり生まれてくる子供の方だったのだろう。 なぜならその子供は、国から罰せられるのを恐れる両親の手によって殺されてしまったり、あるいは森の中にひっそりと捨てられてしまうらしかった。 いずれにしても、生き延びることなどできない死の運命が待っているのだ。 そして、僕もそんな不幸な運命のもとに生まれてきた2人目の子供だった。 22年前―...
  • 山中の追跡
    「また行方不明か・・・」 出かける前少しだけ広げてみた新聞の記事に、俺はつい目を奪われた。 といっても、別段珍しいニュースが載っていたわけではない。 極めてありふれた、とはいえ他人事と無視することもできない事実が、白黒の写真つきで紙面に躍っている。 山菜を採りに山へ入った老人が行方不明になったというものだ。 これが他の人であれば夜の寒さに凍えてしまったのだろうとか、道に迷ってしまったのだろうなどと勝手な憶測に終始してしまうのだが、俺にとっては割と身近な問題と言えた。 何しろその老人が消えた山というのは、俺がこれから趣味のキノコ採りに向かう予定の山だったからだ。 確かに年老いているが故の不覚で災難にあったのであれば、若さに溢れる俺には心配することなど何もない。 だがクマや何かに襲われたというのなら、話は変わってくる。 まあ、その時はその時で採取用のナイフでも投げつけてやれば...
  • 静寂の夜に2
    恐らくは9年振りに目にするであろう、浅い海底で蠢く小さな生き物達。 普段暮らしている遥か遠くの海域から夜通し実に500km以上に渡って泳いできたお陰で、俺は朝日に照らし出されているすっかり様変わりした辺りの様子に大きく目を瞠っていた。 あの時作った洞窟は、多分この辺りにあったはずなのだが・・・ そういえば俺が最初に作った大きな住み処には首尾よく随分と綺麗な雌の海竜が住んでいたというのに、何だかその彼女にはかなり酷い目に遭わされて洞窟の外へと放り出されてしまったような記憶がある。 雄の俺が地面に組み敷かれて気を失うまで雌に弄ばれてしまったなどとは他の仲間には口が裂けても言えないが、それでも今考えると随分もったいないことをしてしまったものだ。 まあ前のよりは少し小さくなってしまったとはいえ、別の場所に新しい住み処を作ってからもう既に9年が経つ。 さすがにそれだけの時間があれば、新し...
  • @wiki全体から「地下牢の記憶」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索

目安箱バナー