自室の窓から夜空を眺め紫煙を燻らせる……。
夜空に煌々と輝く青い月を見る度に隣で寝ているコイツとの出会いを思い出す。
―――
その頃の俺は駆け出しの萌えもんトレーナーであり、
未だ自分の最初の相棒すら手に入れていなかった。
オーキドのジジイ言うには「お前の年なら最初の一人くらい説得して捕まえろ」との事だ。
まったく、ガキにばかり配ってるから俺みたいなのに渡すのがなくなるんだろうが。
しかし、草むらを歩き続けトキワが見える頃になっても一向に一人も寄ってこない。
当たり前だ。
俺の目つきや雰囲気はまさに‘カタギ’とは思えないものだから。
咥えタバコで歩き続け気がつけばそこはトキワの森。
どうもいけない。
このままではニビまでにすら、一人も手に入る事がないかもしれない。
……と、森を歩き続けてしばし、空に月が昇って久しい時間。
木々の切れ目、月明かりの差し込む開けた場所にソレはいた。
一目で瀕死と判る傷を体中に負い、虫の息で倒れ伏した女。
こんな場所にまっとうな人間がいるはずもない。
萌えもん、それもその名も高き九尾の妖狐。
こんな場所でなければ、そのまま行過ぎたはずだ。
この月夜の晩でなければ、俺もそんな気にはならなかったはずだ。
傷つき倒れ息も絶え絶えの姿でもなお、美しく気高い。
ただ莫迦のように見惚れていたわけではない。
荒々しく、(俺にしてみればかなり丁寧に)抱え上げトキワのセンターへ向かう。
金色の体毛は血と泥にまみれ汚れたままですら、美しい輝きを放っている。
「…………」
狐が何かを喋ろうとしているらしい。
とても聞き取れる声ではないし、聞く気も更々ない。
夜露に濡れ、足場を悪くする草を無造作に踏みつけつつ進む。
冬のこの時期にあのままでは当然息絶えていただろう。
センターに到着し受け付けの看護士に事情を簡単に話した後に、
多少気を使って(何度も言うが俺にしてみれば大分丁寧に)引き渡す。
……さて……。
踵を返しドアを出……。
「……そこにいて……」
あれだけ消耗していたはずのキュウコンがこちらに顔を向け消え入りそうな声で言う。
……俺はお前の飼い主じゃないぞ……。
仕方なしに待合室のソファーを占領し、一日歩き詰めの疲労に任せ睡魔に身をゆだねた。
―――
頭に違和感がある。
頭髪を梳くような感覚が何故か俺の頭を撫でる。
目を開けてみれば膝枕をしつつ、俺の髪を撫でる狐の姿があった。
―――
「まだ起きてるのかしら?」
気だるげに囁く声に頭を撫でて答え煙草をもみ消す。
「……今寝る所だ。」
乱暴に(俺にしてみれば優しく)抱き寄せ、耳元に口付ける。
「素直じゃないわね。」
お前こそ素直じゃないだろう?
言葉には出さない、俺の腕に抱かれ安らぎ寝息を立てようとするコイツに言葉はいらない。
一度はリーグを制覇した俺達に待っていたのはチャンプとしての退屈な日々。
金色の妖狐の名をほしいままにする相棒と共に挑戦者をねじ伏せる。
二人だけの戦い。
ずっと二人でやってきた。
こんな俺を怖がりもせずついてきた。
……恐らく、これからもずっと二人で。
Fin
―――
★作者弁明会。
いや、あのね。
聞いて。
煙草咥えながら空見てたら思いついちゃったんだよ。
構想5分執筆30分だからあんまり突っ込んじゃだめさ。
CAPRI
最終更新:2007年12月15日 17:04