その日、セキエイ高原の雰囲気はおかしな空気で満ちていた。
「……あぁ?」
受付兼進行役をしている係員からの報告は、
いつものように煙草を咥えたマスターを不機嫌にするには十分すぎる内容だった。
その内容とは……。
―――
チャンピオンフィールドであるこの広場に人を見下した目をする男が入ってくる。
「四天王ってのも大した事ねぇのなぁ、はっはっはっはっ」
笑いながら歩くその後ろには傷だらけの萌えもん達が続いていた。
「……なるほど、報告の内容は正しかったようね。」
マスターの足を背もたれに座っていた私もさすがに立ち上がろうと……。
「座ってろ……。」
何をするつもりか知らないけれど、どうもあのトレーナーに怒り心頭のよう。
「……ほどほどにね。」
何をするのか判っている私は素直にそばにあるベンチ(マスターの手作りよ)に座る。
「ここのチャンピオンはモンスターに使われる馬鹿なマスターなのか?」
マスターの目がすぅっと細くなる。
「何でもいいや、ほらいくぜぇ!イワーク!」
構えもしないマスターに傷だらけのイワークを差し向けるトレーナー。
「……外道が。」
煙草を捨てイワークに向かって歩き出したマスター。
……こういう子供の指導は親の責任だと思うわ。
―――
「……四天王のモンスターをそれぞれ1人ずつ殺害未遂、
自身のモンスターも回復すらせず、死ぬまで戦闘させる……。」
報告の内容はこれだった。
私はマスターの気迫が膨れる前に丁重に係員に戻ってもらった。
……きっと倫理や常識の中でなんかで怒ってるんじゃないわね。
―――
「イワーク!アイアンテールだ!マスターぶっ殺してモンスター引き釣り出すぞ!」
……楽しそうに指示するもんだな。
躊躇いがちにアイアンテールを俺に繰り出す、こういう事は1度や2度でない様子だ。
「……ぬるい。」
迫りくるアイアンテールを掴み、イワークを投げ飛ばす。
「使えねぇイワークだな、次だ!ライチュウ!十万ボルト!」
このライチュウは恐らく何人も殺してる、暗い笑みで俺に技を撃ってくる。
「ば、化け物か?!」
この程度の輩に殺された人間や萌えもんが哀れに思える……。
―――
……弾いた。
きっと私以外気付いてないのよねぇ。
十万ボルトを弾いたのは左手に持ったゴムべら。
料理に使うアレ。
「マスター、懸賞金かかってるわよ、そいつ。」
人間及び萌えもん殺害の常習犯。
「…………。」
無言でトレーナーの前にいた萌えもん5人を全員投げ飛ばしている。
投げ飛ばされた萌えもん達はみんな目を回してる。
「……根性直してこい、腐れ外道。」
相手のトレーナーは既に気を失っている。
目の前で直視したマスターの眼光と怒気で。
相手の頭を掴んだままセンターの方に歩いていくマスター。
既に怒りは収まったのかまた煙草を取り出して火をつけてたりする。
「……料理の邪魔なんかするから。」
殺人犯なんかどうでもいい。
萌えもんが殺されかけたのは多少頭にきているだろうけど、
マスターが料理している時は、基本的に受け付けも休憩時間となっているはず。
それを強引に押し入ってきた馬鹿のせいで料理を中断されたせい。
「凝り性だものねぇ……。」
近くにあった油揚げをつまみ鬼火であぶって食べながら、ため息をつくキュウコン。
そして今日もリーグ制覇者は現れないのでした。
―――
後書き…。
もうなんか言い訳しか出てこないですね…。CAPRI
最終更新:2007年12月21日 00:18