『人工色違い』
「ようやく帰ってこれましたね」
「ちょっと遠かったねぇジョウトは」
ジョウトのもえもんに会いに鼻血マスターたちは、ジョウトまで足をのばしていた。
見たことのないもえもんとの出会いに悶えながら、トレーナーたちと戦ってみたりして、ジョウトを旅していた。
ジョウトにいるすべてのもえもんに会えたわけではないが、伝説もえもんに会えたので、一区切りして帰って来たのだ。
「それにしてもジョウトのトレーナーは強かった……」
「四天王クラスがごろごろいましたからねぇ」
「アイテムつぎ込んで、ようやく勝てたもんね。おかげで赤字」
「まあまあ、いいじゃないですか。最近は、収入が多かったからまだ余裕がありますよ」
足に抱きつくメリープを撫でながらフシギバナは言った。
このメリープは、ジョウトで仲間なった一人。どことなくほんのりと赤いのは、色違いなのか。
その様子を羨ましそうに少女は見るが、見るだけにとどまっていた。
「仲間が増えたから、無駄足だったわけじゃないし、たまには強い人と戦うのもいい経験だ」
「珍しいもえもんも見れましたし、いいことのほうが多かったですよ」
「ホウオウのこと? 綺麗だったよねー。仲間にできなかったのは、残念だけど」
うっとりとホウオウのことを思い出す少女。
「かわりに、ルギアっていうもえもんの情報を教えてもらえたじゃないですか」
「ヒントが海の神ってだけじゃ、どこにいるかわからなかったけど」
もらったヒントをもとに、なみのりで海上を探してみたが、みつかることはなかった。
適当な場所で釣竿をたらしてみて、ルギアが釣れないかなーなんてやったりもした。
それで伝説もえもんが、釣れたりしたら、それはそれで問題だっただろう。
「ホウオウだけじゃなくて、ベイリーフもいたじゃないですか、筋肉のすごい」
「エ、エートナンノコトカナー? ワタシハシラナイナー」
かたことで喋る少女の様子を見て、フシギバナはしまったと焦り、反省する。
少女にとって、あのベイリーフは許容できない存在だったらしく、見た途端気絶。
そして目覚めると、筋肉ベイリーフの記憶を封印していた。
少女にとって筋肉ベイリーフは、トラウマに近いものになっていたのだ。
「そうそう! 仲間も増えましたね!」
すで出た話題だが、話をそらすためフシギバナは、再び話題にした。
それは功を奏したようで、少女の様子は普段のものへと戻った。
「メリープにヒマナッツ、ウパー、アリアドス。みんな可愛いいよー!」
そう叫んで少女は、近くにいるメリープに抱きつこうとする。
メリープは、びくっと驚き、フシギバナの足にしっかりと抱きついた。
少女がメリープに抱きつくことはできなかった。
メリープが怖がったのを見て、抱きつくのをやめたわけじゃなく、フシギバナに止められたからだ。
「マスター、忘れたんですか? メリープに抱きついちゃ駄目です」
「だってあんなに抱き心地がいいのに! 我慢できないよ!」
メリープが少女を怖がっているから、抱きつくのを禁止しているわけではない。
ただ怖がるのならば、フシギバナも止めない。
少女に害意があるわけではないし、次第に怖がることがなくなっていくのをわかっているからだ。
別の理由があって少女は、メリープに抱くつくことを禁止されていた。
「鼻血を止められるようになったら、いいですって言ってるじゃないですか。
忘れたわけじゃないですよね? 初めて抱きついたとき、メリープを鼻血で染めたこと。
毛に染み付いて、血を洗い流すのに苦労したんですから。
完全には抜けないで、今もほんのり赤いし」
メリープが赤いのは、色違いというわけではなかった。
抜けきれなかった血の色なのだ。
「無理だよ! これはもう本能だもの!」
「それでも少しくらいは、止められるはずです」
「うう~。いいもんいいもん! プリン抱いてくるからぁ」
泣きながら走り去る少女。宣言したとおり、プリンを抱きにいったのだろう。
「ますた、泣いてたよ?」
心配そうに、フシギバナを見上げてメリープが言う。
メリープも少女が嫌いなわけではない。嫌いならば、仲間にはならない。
ただ、テンション高く接してくる少女に、慣れていないだけだ。
「本気泣きじゃないから大丈夫ですよ」
「本気泣き?」
「一回見たことがあるだけですけどね」
思い出すのは、最後まで人間を怨みとおしたもえもんのこと。
それを振り払って、メリープを誘いもえもんセンターへと歩いていく。
そこにマスターがいて、プリンを抱いているだろうから。
やりすぎは止めないと、などと考えながらフシギバナは、メリープと手をつなぎ歩いていった。
最終更新:2008年01月02日 17:14