目立つ……。
隣にはべとべたぁとフリーザー。
べとべたぁが興味津々にあちこち視線を送らせるのは問題ない。
外見と言動が見合っているからだ。
だが、
「あわわわわ、皆格好いい機械をもってますっ」
氷の女王とも呼ばれたこの萌えもん、フリーザーが同様の行動をとっているのは如何ともし難い。
見た目だけならばクールビューティーな分、そのギャップに頭が痛む。
目立たないように何か買ってやるべきかもしれない。
「ごしゅじんさまー、おなかすいたですっ」
「もうそんな時間か?」
「そうなのです、もうおひるのじかんがせまってるですっ」
ぷりぷりと怒り出すべとべたぁ。
時計を確認してみれば確かにお昼前だが……。
今日、朝ごはんは遅かったはずだぞ?
「お昼ごはん? あ、自分ははんばーがーというものを食べてみたいですよぅ」
こいつが色々やらかしてくれたせいでな。
インスタントで軽く済ませようと思ったのに……。
「で、でわきょうははんばーがーにするですっ! いろんはみとめないですっ」
「ついにっ! ついにはんばーがーが食べられるのですねっ。わくわくが止まりませんよーっ」
「はんばーがーならわたしに任せるです! ついてきてくださいっ」
「了解でありますよっ! べとべたぁ大佐」
いつの間にかお昼はハンバーガーに決定したようだ。
財布は俺が握ってるというのに。
ふたごじま関連で所持金も少なくなってる。
フリーザーのために何かを買ってやることを考えれば出費は避けたいのだが……。
でも、甘い俺は駆け出した二人を慌てて追いかけるしかなかった。
店内はフリーザーが目立つので諦め、持ち帰ることに決めた。
べとべたぁと俺はいつも通りワンセット。
フリーザーが小食で、一通りを食べることが出来ないだろうことは今日の朝食で理解している。
スープを少し口にしただけで満足とか言ってたし。
だからフリーザーのためにワンセット買うことは出来ないが、こちらのセットのサイズを大きくして分けてやることにした。
「べとべたぁー、お前はいつものでいいか?」
「はいですっ! できればあとふたつくらいほし――」
「それは認めない。で、フリーザー」
「は、はぃぃ……」
「お前は何か食べてみたいものあるか?」
「えと、そのぅ……あ、あの飲み物をおねがいしまぅっ!」
「オーケー分かった」
フリーザーはおそらくジュースとシェイクを間違えているようである。
まぁ面白そうだから放置するけどね。
なんでフリーザーのお願いは聞いてるんだ、というべとべたぁの視線を浴びながら店内へ。
外で待っていても十分目立つ外見なのでてきぱきと注文。
ささーっとブツを受け取り外に戻る。
「持って来たぞー」
「ま、まってましたっ! でわでわさっそくっ!」
「あ、あのぅ……。どこか座れる場所探しませんか……? ここで食べるのはぅ」
「そういえば近くに公園があったような」
「ではそこで……」
「べとべたぁ、そこまで我慢できるよな?」
「できますっ! できるですからはやくいくですよっ!」
泣きそうな目でくちびるを噛みふるふると震えてる姿はどうみても我慢の限界。
それをおろおろしながらフリーザーが頭を撫でて宥める。
……放っておいたらどうなるんだろう。
という興味は捨て置いて、公園へと向かう。
道行く人に声をかければその場所はすぐに分かった。
「はんばーがー……うぅぅぅっ!!」
「い、いたいですっ! 自分はハンバーガーさんではないですよぅ……」
「はむはむ……」
「うぅ……助けてくださひ……」
我慢の限界を通り越したのか、べとべたぁがフリーザーの腕に噛み付いた。
目をうるうると涙ぐませて振り落とそうとするも、落ちない。
構ってやって落ち着かせるのもいいが、さっさと目的地に到着、食事にした方が楽だろう。
というわけで南無。がんばって耐えてくれフリーザー。
後ろのゴタゴタを聞き流して進む。
「待ってくださいぃー」
「がぅがぅ……」
待ってたら俺にも噛み付いてくるだろうから嫌だ。
前に一度やられたトラウマもあって絶対に止まるつもりはない。
うぅ、というフリーザーの呻き声をバックに三分ほど歩くと公園に辿り着いた。
「べとべたー、食いたいなら場所取れ場所ー」
「ぐるるる……。は、はいですっ! まっはでいくですよっ!」
びゅーん、なんて効果音を残して広い広い公園内を走り回る。
あの速度を萌えもんバトルでも使って欲しいものだ、というくらい速い。
べとべたぁが戻ってくる前に、
「大丈夫か?」
「だいじょぶじゃないですよぅ……歯型がつきましたぁ」
「歯形どころか血が出てるじゃねぇか」
「いたいですよぅ」
「だったら凍らせるなりなんなりして止めれば――」
……できない、よな。
「ふぅ、面倒なやつだなーお前は……ってか、えむ?」
「えむ?」
「いやなんでもない。知らないなら知らない方がいい」
「はぅ……そうですか……」
なんでかがっかりしてるように見えたり見えなかったりの様子。
でもこれは教えるわけにはいけないよな……うん。
というか、メンバー内に理解してくれる人が欲しいなぁ。
とりあえず水洗、消毒してタオルを巻いておいた。
「とりあえずこんな感じな。時間たっても痛むならいってくれ」
「……(コクコク」
「あと、飯食ったらお前の買い物もするからな」
「買い物ですか?」
「そのままの格好だと目立つしなー」
「ごーしゅじんさーまーっ!!」
と、こーこーにしーまーしょうですーっ! と向こうの方から声がやってきた。
「おーぅ! 待ってろーっ! ほら、行くぞ」
「はいぃ」
全く、世話の掛かるやつが増えたもんだな……。
もしかすると、今後も仲間に出来るのはこんなのばっかりなのかっ。
先行きの怪しさに打ちひしがれながらフリーザーを引っ張る。
「おそいですっ! はやくたべるですっ!」
「お前ははやすぎる、そして落ち着け深呼吸」
「すー……はー……」
「お前じゃないぞフリーザー」
「違うのでぅか?」
「いや、やってろやってろ」
「ふー……。でわ、ごはんにするですっ!」
袋からがさがさとバーガー、ポテトなど一式を広げる。
こいつがべとべたぁので……シェイクはフリーザー……。
「……む、どうしてごしゅじんさまのはすこし大きいですかっ!」
「? こいつはフリーザーと分けて食べるの」
「自分とですかぅ」
「お前に一人分は食えない」
「あぅ」
「べとべたぁと分けっこにするとべとべたぁがひとりで全部食べる恐れがある」
「むむー。そんなことないですよっ!」
「人の腕に噛み付くほどのヤツがなにをいうかっ!」
と黙らせる。
少しグズるかもしれんがハンバーガー食ってりゃ機嫌も直るだろうし。
いい加減、俺も飯が食いたくなってきた。
「んじゃ手を合わせて――いただきます」
「いただきますっ!」
「いただきますよぅ」
べとべたぁが猛スピードでがつがついってるが、喉を詰まらせないだろうかといつもヒヤヒヤ。
良く食べるな、というのもいつも通りの感想。
こいつが何かあったときは非常に分かりやすくて楽である。
対してフリーザー。
まずは飲み物、というつもりでシェイク、ストローをくわえて飲もうとするが、
「……? でてきません」
「もっと思い切り吸え」
「?」
どうやらまだそれがジュースでないことに気付いていないようだ。
……カップのふたの色クリアなのにな。
そして俺のアドバイスについても何も怪しまず、素直に実行。
一旦、呼吸を落ち着けて、フリーザーは一気にストローをすすった。
「ずず…………っ!? けほけほっ」
そしてむせた。
ようやくフリーザーはカップの中身が何であるかを確認。
視線を落としてうなだれた。
「うぅー……ジュースじゃありませんっ! こ、これはなんですかぅ」
「シェイク、以上。あ、あとこいつらも食え」
バーガー一式を少しずつ分けて、渡す。
このくらいなら丁度食べられる量だと思うが……。
「食えないときはべとべたぁに渡してやれ」
「わかりました……」
恐怖でも植えつけられたかシェイクを自分の下から遠ざけて、他のものに手を付け始めた。
口に入れるたび、
「か、からいですっ」
というのはどうも五月蝿いことだが。
ふたごじまでの生活では塩っぽいのは食わなかった、らしい。
海がすぐそこなのに激しく信じがたい。
そしてどれも一口かじるだけで十分なのか、べとべたぁにものが次々集まる。
「お腹空いたって言っても買ってやらないぞ?」
「二日に一食で十分ですぅ……」
こいつの食事情を改善したくなる一言でした。
最終更新:2008年02月03日 23:14