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砂漠遺跡の唄 ~滅びの少女~ (美怜) - (2006/03/28 (火) 13:29:50) の最新版との変更点

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 砂漠の外れに忽然とたたずむ、古びた遺跡。<br> <br>  その遺跡の一番下に、少女の歌が響く時、<br> <br>  街に住まう青い猫達は、滅びる。<br> <br> <br> <br> <br> < サウス・デザート地方 ><br> <br> <br> <br> 「・・・あ゛ー・・・あぢー・・・」<br>  砂漠地帯特有の焼けるような日差しの下、乾いた砂を蹴散らしながら、青い猫型AAがぼやく。<br> 「オアシスの一つもないのかよー、この地方は・・・」<br> 「まあまあぼやかないぼやかない。ぼやくと余計暑くなるだけだからな」<br>  不機嫌そうにぼやく青い猫の後ろで、黄色い猫型AAが苦笑いしながら言った。<br> 「モララー、お前良く平気だなぁ・・・」<br> 「ギコが最初にはしゃぎ過ぎるのがいけないんだろう?」<br>  ギコという名らしい青い猫の視線を軽く交わしながら、モララーと呼ばれた黄色い猫が意地悪く言う。<br> 「あ、そうだ・・・」<br>  ふと、思い出したように呟き、モララーは後ろを振り返ると、声を張り上げて誰かを呼んだ。<br> 「おーい、モナー!大丈夫かーい?」<br> 「・・・な、何とか・・・だいじょぶ、モナ・・・」<br>  ギコ達よりかなり離れた場所で、モナーと呼ばれた白い猫型AAが息を切らせながら、モララーの呼びかけに答える。軽装のギコやモララーと違い、モナーの背にはパンパンに膨らんだリュックが3つ背負われていた。<br>  お疲れモードのモナーに苦笑いし、2人はやむなくモナーがいる場所へ引き返す。モナーが不服そうに言った。<br> 「・・・ひ、酷い、モナ、2人と、も・・・モナが、荷物持ち、してるの、知ってて・・・わざと、先、行ってる、モナ、ね?」<br> 「お前、砂漠に入ってから、じゃんけん5連敗。運も実力のうちだからなw」<br>  肩で息をしながら、途切れ途切れに言うモナーに向かって、モララーが得意の意地の悪い笑顔を向けながら言った。<br> 「でもまあ可哀想だし、そろそろ良いか」<br>  そう言い、モララーがモナーの背からリュックを2つはずし、そのうちの1つをギコに投げてよこす。<br> 「はぁぁ・・・い、一気に背中が軽くなったモナ」<br> 「そりゃあそうだろうな」<br>  へなへなと座り込むモナーに向かって、ギコがモララーから受け取ったリュックを背負いながら、ぴしゃりと突っ込みを入れる。すると、モララーが突然声を上げた。<br> 「あ、あぁぁっ!街だよ、2人とも!w」<br> 「何だとゴルァ!でかしたモララー!w」<br> 「や、やっと休めるモナね~!w」<br>  先ほどまでの疲れをすっかり忘れ、3人は街に向かって走り出した。<br> <br> <br> <br> 「砂漠横断乙カレー。ここはサウス・デザートの街だよ。旅行許可証は?」<br>  街の門の両隣に立つ、八頭身族の青年が朗らかに笑いながら、一行を出迎えた。モララーが前に出て、懐から小さな手帳を取り出した。<br> 「もちろん、あるからな」<br>  モララーに習い、モナーとギコも同じものを取り出し、八頭身に見せる。<br> 「はい、通って良いよ。宿屋は入ってすぐ右手のところに在るからね。ところで君たち、いったい何の用事でここまで?」<br>  八頭身にたずねられたモララーは、胸を張って答えた。<br> 「何を隠そう、僕らはトレジャーハンターなんだからな!この近くに、『砂礫の遺跡』ってのがあるだろう?そこのお宝探しまくる為に、セントラル・シティから遠路はるばるやって来たんだからな」<br> 「お前なー。俺とモナーを半ば無理やり引きずってきたくせに」<br> 「え、そうモナ?モナは結構楽しみにしてたモナよ、宝探し」<br>  ギコが呆れながら、モナーが朗らかに言う。すると、砂礫の遺跡、と言う単語を聞いたとたん、八頭身の顔から笑顔が消えた。<br> 「・・・え・・・さ、砂礫の遺跡だって?あんなところへ行くの?」<br> 「そうだよ。何か知ってる?お宝について」<br> 「あー、えーっと・・・」<br>  モララーの質問に、八頭身言葉を濁しつつ言った。<br> <br> <br> <br> 「あそこだけは・・・今はやめた方がいいと思うなあ」<br> <br> <br> <br> 「「「え?」」」<br>  3人が同時に聞き返す。八頭身は苦笑いしながら、言った。<br> 「僕はあまりよく知らないんだけど・・・あそこには昔から色々と恐ろしい噂があってね。特に、ギコ族の君は行くのはやめた方がいいと思うなあ」<br> 「えーっ!何でだよー。手ぶらでこの大砂漠をとんぼ返りなんか、まっぴらごめんなんだからな!」<br> 「そうだぞ!こう見えても俺たち、結構腕が立つんだぜ!ギコ族好みのモンスターだったら、是非とも受けて立とうじゃねえかゴルァ!」<br> 「ふ、2人とも、失礼モナよ!」<br>  モララーとギコが八頭身に食って掛かるのを、モナーが慌ててなだめる。八頭身は苦笑いし、道を開けながら言った。<br> 「そういう話は、宿屋のマスターがよく知ってるよ。話を聞いてみたらどうかな?」<br> <br> <br> <br>  カラン、カラン・・・<br> <br>  ドアベルの音に反応し、カウンターに座るネーノ族が顔を上げ、3人に会釈する。ウェイターのタカラギコ族が忙しそうに、席に着いた3人に水のグラスを置いた。<br> 「いらっしゃいませ~、アハハっ☆」<br> 「ありがとうモナ」<br> 「あ、ありがとう」<br> 「・・・どうも」<br>  水を置き終わるなり、タカラギコ族が3人の顔をかわるがわる観察し始めた。ギコがうざったそうにたずねた。<br> 「なんだよお前、さっきから人の顔じろじろ見やがって」<br> 「何ですか~冗談きついですねぇ~ギコ先輩~」<br>  へらへらと笑うなり、タカラギコは言った。<br> <br> <br> <br> 「あなた達、あれですよねぇ?砂礫の遺跡目当てでしょ?」<br> <br> <br> <br> 「「「!」」」<br> 「あ、図星ですかそうですか、アハハっ☆」<br>  図星をつかれ、表情をこわばらせる3人。相変わらずのくだけた口調で、タカラギコはへらっと笑いながら言った。<br> 「何で分かるモナ?」<br> 「だってだって、このあたりに来る冒険家は、大概砂礫の遺跡目当てでここに立ち寄りますからねぇ。そのリュックから見えてる、剣と弓と杖。こんな物騒なものこんなトコに持ってきてて冒険家じゃないなら、いったいどういうのが冒険家なのかと小一時間・・・」<br> 「おいタカラ!いつまで客相手にだべってんじゃネーノ!?さっさと注文聞くんじゃネーノ!!」<br>  タカラの台詞を遮り、カウンターのネーノ族が怒鳴った。<br> 「あ、はぁい!すいませぇんネーノさぁん、アハハッ;」<br>  マスターのネーノ族に返し、タカラは慌てて品書きを取りにカウンターの方に戻って行った。<br> 「「「・・・;」」」<br>  呆然とする3人。すると、思い出したように、モララーが突然立ちあがった。<br> 「・・・あ・・・じ、じゃあ僕、ちょっとマスターに遺跡の事聞いてくるから。何でもいいけど、あんまり変なの頼んじゃ駄目なんだからな!」<br>  最後のほうに少し力を入れ、モララーは2人に念を押しながら席を立つ。<br> 「え、あ、わ、分かったモナ!」<br> 「・・・へいへい」<br>  素直に頷くモナーと、無粋に返事するギコに向かって頷き、モララーはカウンターに向かって歩き出した。<br> <br> <br> <br> 「こんちわ。あんたがマスター?」<br>  モララーに話しかけられた、カウンターの中に座る黄緑色の猫型AA・ネーノは、唇の端を吊り上げる独特の笑みを浮かべながら頷いた。<br> 「そう。宿屋「砂漠の唄」のマスター、ネーノじゃネーノ。さっきは悪かったんじゃネーノ。タカラは性格が軽すぎるから、いっつもあんな調子なんじゃネーノ」<br> 「大丈夫だからな。図星、って奴だし」<br>  ネーノの謝罪に、悪びれる様子も見せずにけろりと言うモララー。ネーノの顔から笑みが消えた。<br> 「図星?んじゃあ、あんた遺跡目当てで来たんじゃネーノ?」<br> 「そ。ここのマスターが遺跡についてよく知ってるって、門番が言ってたんだからな」<br>  更に追求するモララー。ネーノはしばらく黙っていたが、やがて言った。<br> <br> <br> <br> 「・・・悪いことは言わないんじゃネーノ。とっとと荷物たたんで帰るんじゃネーノ」<br> <br> <br> <br> 「・・・な、何だって?」<br> 「さっき言ったとおりじゃネーノ。帰って欲しいんじゃネーノ」<br>  戸惑うモララーに向かって、ネーノは再びきっぱりと言い放った。<br> 「・・・どういう事だ、ゴルァ」<br>  たまらず、モナーとギコも立ち上がってカウンターに歩み寄る。<br> 「そこまで反対するって事は、何か隠してるモナ?・・・砂礫の遺跡にある、何か、貴方は知ってるモナ?」<br>  モナーの問いに、ネーノは少し動揺しながらも言い返した。<br> 「それは、俺の口からは・・・言えないんじゃネーノ。悪いことは言わないから、帰るんじゃネーノ」<br> 「例え貴方がどんな脅しを使おうと、僕たちは行きますよ。僕らの使命ですから」<br>  ネーノの言葉に少しも動じず、とどめだとばかりに、モララーがずばりと言い切る。ため息をついて、ネーノは冷め切った口調で言った。<br> 「・・・勝手にするんじゃネーノ。そこんとこは自分で確かめるんじゃネーノ・・・ただし、命の補償はしないんじゃネーノ」<br> 「あーあー、勝手にするさ。行くよ、2人とも」<br> 「おう」<br> 「えっと・・・すいませんモナ」<br>  最後にモナーが深く頭を下げ、一行はそそくさと店をあとにした。<br> 「何なんですかぁあの連中~。何にも頼まないで~・・・」<br>  ふてくされるタカラを尻目に、ネーノはそっと、誰にも聞こえないように、呟いた。<br> <br> <br> <br> 「・・・フーン・・・、ガナー・・・」<br> <br> <br> <br> 「全くもう、何なんだよあの頑固親父はぁ!僕らを見くびったからには、絶対の絶対に砂礫の遺跡は攻略するんだからな!!」<br>  街道を歩きながら、モララーが苛立たしげに声を荒げながら宣言する。その様子を呆れきった目つきで眺めながら、ギコが口を挟んだ。<br> 「でもよ。あそこまで頑なに俺達の探索を反対するとなると。何やらいわくがありそうだな。遺跡にも、あいつにも」<br> 「うん。モナが最後に見たとき・・・あの人、ちょっと寂しそうだったモナ」<br>  モナーも頷きながら意見を言う。<br> 「そうかなぁ~・・・」<br>  モララーが口を尖らせながら文句を言おうとした、その時。<br> <br> <br> <br> 「おーい!門に野生ぞぬがいるぞー!!誰か援護を頼むー!!」<br> <br> <br> <br>  1匹の猫型AAが、街中を走りながら大声で叫んでいた。<br> 「・・・だってさ。ちょいと遊んでいこっか?」<br> 「おぅ!ウォーミングアップって奴だなゴルァ!」<br> 「あの八頭身の門番さん、助けるモナね!」<br>  意見一致。3人はリュックからそれぞれの武器を抜き取ると、走り出した。<br> <br> <br> <br> 「うぅぅ・・・タフなんだよなぁ、こいつ・・・」<br>  自分の体格に合わせた長い槍を構えつつ、目の前の野生ぞぬを前に、冷や汗を書きながら八頭身は呟いた。<br> 「うん。もうちょっと頑張らなくちゃ・・・」<br>  そういって自分を励まし、槍を構え直した、その時。<br> <br> <br> <br> 「やっ。苦戦してるじゃんw」<br> <br> <br> <br>  背後からモララーに話しかけられ、八頭身は目を丸くして驚いた。<br> 「あ、君達!危ないよ!」<br> 「心配には及ばないからな。じゃあいつも通り、ギコは前衛、モナーは中衛ねっ」<br> 「了解モナ!」<br> 「いちいち指図すんなよ・・・」<br>  杖をくるくると回しながら八頭身の言葉をかわし、モララーは前に立つ二人に指示を出す。モナーは弓を構えながら元気よく、ギコは剣を構えて面倒そうに答えた。前衛に立つギコが、自分達をにらみつけるモンスターたちを睨み返しながら、検証する。<br> 「ふぅん、野生ぞぬか。たいした相手じゃあないよな、きっと。んじゃ・・・」<br> <br> <br> <br> 「いっちょやっかぁっ!!」<br> <br> <br> <br>  そう叫び、剣を構えて走り出すギコ。それと同時にモナーが弓矢を構え、モララーは目を閉じて魔法を唱え始めた。<br> 「ガウゥッ!!」<br> 「おっとぉ!」<br>  野生ぞぬの牙を剣をつかって防ぎ、そのまま押し返す。そうやって野生ぞぬがふらついたところへ、<br> <br> <br> <br>  ヒュンッ、ドスッ!!<br> <br> <br> <br>  モナーの弓が見事、野生ぞぬの片目を貫いた。<br> 「ギャゥ!!」<br>  たまらず、野生ぞぬが目をかばおうと前かがみになった、そこへ。<br> <br> <br>  <br> 「『バーン』!!」<br> <br> <br> <br>  ドガァン!!!<br> <br> <br> <br>  詠唱が完了したモララーの魔術が襲った。<br> 「ギャワァァァアゥアァ!!!」<br>  すさまじい断末魔をあげ、炎から逃れようとのた打ち回る野生ぞぬ。<br> 「とどめだぁっ!!」<br>  剣を振るい、ギコが勢いよく走り出し・・・<br> <br> <br> <br>  ザンッ・・・・<br> <br> <br> <br>  それが、決定打となった。<br> <br> <br> <br> 「・・・いやぁ~・・・強いんだね~君達・・・」<br>  片目を貫かれ、炎で焼かれ、とどめに腹部を斬られた野生ぞぬの亡骸を見やりながら、八頭身は感嘆の声を上げた。<br> 「まぁねぇ。伊達にあちこち冒険してないからな。北はノース・スノーマウント、東はイースト・フォレスト、西はウェスト・ロック・・・お宝だってたんまり頂いたからなw」<br>  得意そうに、モララーが杖をくるくる回しながら言い放つ。<br> 「分かったでしょ?僕らが凄い冒険者だって事。砂礫の遺跡探索、許可してくれるよね?」<br>  ニヤニヤと笑いながら八頭身に詰め寄るモララー。八頭身はやれやれ、と溜息をつくと、渋々言った。<br> 「しょうがないなぁ・・・でも、あまり深入りはしちゃ駄目だからね」<br> <br> <br> <br> 「へー。ここが砂礫の遺跡かぁ。見事なもんだねー」<br>  サウス・デザートの街から更に南下すること数分。3人の目の前に威風堂々とたたずむ寂れた石舞台を見上げながら、モララーが感嘆の声をあげた。<br> 「・・・おい。・・・深入りも何も、この変な舞台だけなのか?」<br>  ギコが疑問を口にする。言われてみれば、最下層へつながる穴や階段らしきものは、石舞台の上には見当たらなかった。<br> 「きっとそれはないでしょ。秘密の抜け穴、ってやつっぽいね」<br>  そう言い、モララーは舞台の上に上がって、石の柱を調べ始めた。<br> 「ギコ、モナたちも手伝うモナ」<br> 「・・・へいへい」<br>  モララーのあとを追って舞台に上がったモナーに促され、ギコは渋々石舞台に上がろうと手をかけた。・・・その時。<br> <br> <br> <br>  ・・・ギィ・・・帰ってきたのね・・・<br> <br> <br> <br> 「?・・・おい、何か言ったか?」<br> 「え?何にも言ってないモナよ?」<br>  ギコにたずねられたモナーが、首を横に振りつつ答えた。ギコはモララーの方を見たが、彼は遠くのほうで石舞台調べに集中していた。<br> 「じゃあ、誰が・・・」<br>  ギコが首を傾げつつ呟いた、その時。<br> <br> <br> <br> 「ん?・・・ギコ!誰かいるモナ!!」<br> <br> <br> <br>  モナーが弓矢を取り出しながら警告する。<br> 「え、マジ?」<br> 「モナーの感覚は折り紙つきだからな。感じてる気配、AAのもので間違いない?」<br> 「うん。野生じゃないと思うモナ」<br>  2人の問いを肯定するモナー。頷き、ギコらも武器を構える。<br> 「おい!出てきやがれゴルァ!!」<br>  ギコが大声を張り上げる。すると、柱の影で何かが動いた。<br> 「そこだぁ!『フレア』!!」<br>  モララーが、先ほど野生ぞぬを倒したものよりはかなり弱い炎を、柱めがけて放つ。柱は音を立てて崩れ落ちた。<br>  そして、砂ぼこりの中から、一人の猫型AAがそっと現れた。<br> 「・・・しぃ族の、女の子モナ」<br> 「かなり古めかしい服着てんなぁ」<br> 「うん。かなり昔の民族衣装だね」<br>  驚きつつ、しぃ族の少女を見ながら3人が言う。少女の視線は、ギコにずっと注がれていた。<br> 「おい。・・・俺に何か?」<br> 「・・・ぇ・・・?」<br>  少女を軽く睨み返しながら、ギコが訪ねる。少女が目を丸くした。<br> 「・・・ギィ・・・私を忘れたの?」<br> 「ギィ?誰だそりゃ。俺はギコだぞ」<br>  少女がそっと尋ねる。ギコは首を傾げつつ聞き返し、名乗った。少女の表情が険しくなる。<br> 「嘘よ!だって村に、ギコ族はギィ1人しかいないのよ!」<br>  そう言い放ち、少女は追及した。<br> <br> <br> <br> 「2ch大戦から帰ってきたんでしょ!?ギィ!一緒に村に帰りましょう!」<br> <br> <br> <br> 「だから、俺はギィじゃ・・・」<br> 「え、ちょ、ちょっと待って!?」<br>  ギコの反論を遮り、モララーが慌てて少女にたずねた。<br> 「君、今・・・2ch大戦って言った?」<br> 「そうよ」<br>  モララーの疑問を、少女はあっさり肯定した。モララーが、首を横に振りつつ言う。<br> 「そんな馬鹿な・・・」<br> <br> <br> <br> 「2ch大戦って、もう・・・500年以上も前に終結したはずだよ・・・!?」<br> <br> <br> <br> 「・・・何ですって・・・?」<br>  モララーの放った言葉で、少女は思わず上ずった声で聞き返した。<br> 「言ったとおりだよ。サウス・デザートの街・・・旧アオールの村、だったかな?そこも、チューボー帝国・・・現セントラル・シティに滅ぼされて植民地になった。北のアラース、東のマターリ、西のナレアーイを同様にね。2ch暦2006年現在、セントラル・シティ博物館に記録されてる歴史書によれば、そうなっていたはずさ」<br>  真顔のまま、モララーはさらりと真実を少女につけた。<br> 「・・・・・・」<br>  放心状態のまま、その場に棒立ちになる少女。<br> <br> <br> <br> 「・・・信じないわ」<br> <br> <br> <br>  ぽつりと、少女は低い声で呟いた。<br> 「何だって?」<br> 「私は信じないわ!!今は1500年よ!!あのクソ帝国だって、司法からの集中攻撃にあってるはずなのよ!!貴方達、帝国からの回し者ね!!ギィを人質にとって、そんなでたらめ言って、この私を捕らえるつもりなのでしょう!?そうなのね!!」<br> 「な、何言ってやがるゴルァ!」<br>  慌てて、ギコが弁解しようと口を挟んだ。<br> 「俺はギィじゃねぇって何度も言ってんだろうが!第一、俺達がそういう野郎だとしても!大昔のそんじょそこらの村娘何ざとっ捕まえて、一体何の得があんのか小一時間・・・」<br> 「な、何ですって!?」<br>  ギコの言葉を<br> 「この私を知らないだなんて、とんだ非国民なのね!私を村娘なんかと一緒にしないで!!」<br> 「あ!?知らねえモンは知らねえよ!何か文句あっかゴルァ!!」<br> 「だ、駄目モナよギコ!女の子相手に乱暴は・・・」<br>  いきなり口げんかを始めた少女とギコの間にモナーが割って入った。<br> 「で、でも君。ギコの言うとおり、知らないものは知らないモナ。せめて、教えて欲しいモナ」<br> 「・・・良いわ。そこのモナー君だけは礼儀って物を知っているようだし。特別に名乗ってあげようかしら」<br> 「何でぇ。タカビーぶりやがって」<br> 「まぁまぁ。で?君はなんて言うのかな?」<br>  ギコをなだめながら、モララーは微笑みながら少女に尋ねる。少女はため息をつくと、名乗った。<br> <br> <br> <br> 「私はシィリア・ニィ・アオール。この地域一帯の王女。・・・良く覚えておくことね」
 南の砂漠の外れに位置する、古びた石舞台。<br> <br>  そこに、少女の歌が響く時。<br> <br>  砂漠に住まう青き猫は、皆…滅びる。<br> <br> <br> <br> <サウス・デザート地方><br> <br> <br> <br> 「あ゛ー…あぢー…」<br> 「そぉモナねぇ~…」<br>  何処までも広がる砂漠を、3匹の猫型AAが歩いていた。<br>  腰に剣を下げたギコ族と、背中に弓矢を背負ったモナー族の青年が、疲れきった様子で歩いている。<br> 「だらしないなぁ、ギコラスもモナクセルも~」<br>  先頭に立つ、片手に杖を持ったモララー族の青年が、ニヤニヤと嫌味な笑いを浮かべながら、二人のほうを振り返りつつ言う。ギコラスと呼ばれたギコ族がむすくれた。<br> 「何言ってやがる、モランズの方がよっぽど軽装じゃねぇか…スタミナ不足のモナクセルはともかく、俺は剣に軽鎧だぜぇ?」<br> <br> <br> <br>  俺はギコラス・イルデ・ヨシュア。<br>  モナクセルにモランズと一緒に世界を旅する、いわゆる冒険者って奴だ。<br>  俺は一応、前衛で敵をなぎ倒す剣士なんだが・・・<br>  こう暑い砂漠じゃ、重装備の俺はちょっと不利だよなあ…砂のせいで足元不安定だし、踏み込みが甘くなる、っつか。<br>  でもま、モランズの奴に言われっぱなしなのはむかつくから、頑張ってるんだけどな。<br> <br> <br> <br> 「酷いなあギコラス。そんな風じゃ、モナクセルが冒険者に向いてないひ弱な奴って意味にも取れない事ないよ?某クソゲー主人公みたいにね」<br> 「あ、大丈夫モナ、モランズ」<br>  モランズの反論を遮って、ずっと黙っていたモナクセルが口を開いた。<br> 「ギコラスの言葉は間違ってないモナよ。モナ、持久力ないモナから」<br> <br> <br> <br>  モナはモナクセル・マオ・エモナード。<br>  ギコラスにモランズとは、セントラル・シティ地方の冒険者ギルドで紹介されあった仲で、今では親友モナ!<br>  モナの武器は弓矢。あと、ちょっとだけ回復魔法も使えるモナ。<br>  砂漠じゃ、重装備のギコラスがちょっと不利だから、モランズと一緒に頑張るんだモナ!<br> <br> <br> <br> 「あ~あ、認めちゃった、モナクセルがっ」<br> 「う。わ、悪かったよ」<br>  モランズがにやにや笑いを保ったまま、ことさら嫌みったらしく言う。慌ててギコラスが取り繕った。<br> 「モナクセルはけなげで偉いなあ。それに比べてギコラスってば…」<br> 「わ、悪かったっつってんだろ!」<br> 「はいはい」<br> <br> <br> <br>  僕はモランズ・ショウ・マタリア!<br>  単細胞なギコラスと天然ボケなモナクセルの、いわばお目付け役ってとこだからな!<br>  僕が得意なのは攻撃魔法。炎と氷と雷。あと、地図士の資格も持ってたりするんだ。<br>  後衛で詠唱してるときはほとんど無防備状態だから、地形効果関係なしに2人には頑張ってもらわなくっちゃね。<br>  この僕の顔に傷がつくなんて、在り得ない事だからな!<br> <br> <br> <br> 「さ~てと、痴話喧嘩はここら辺で切り上げて~」<br>  独り言を言いながら、モランズが背中に背負っていたリュックをおろした。痴話喧嘩って何だ、とギコラスが怒鳴りつけようとしたが、モナクセルに止められ、渋々引き下がる。<br> 「ん~…もうそろそろ、アオールの街が見えてきても良い頃なんだけどなあ」<br>  モランズがリュックの中から引っ張り出したのは地図だった。首に下げた方位磁石と地図、そして周りの景色を代わる代わる見比べる。<br> 「こういう時だけは真面目だよな、お前」<br> 「イヤだなあギコラス~、お世辞言っても何も出ないよ~」<br> 「…褒めてねぇっつの」<br>  ギコラスの嫌味を軽く流して、モランズは再び地図に視線を戻す。殴りかかりたい衝動を抑えて、ギコラスがぼそっと呟いた。<br> 「…あ…あれ?」<br> 「どうしたモナ?」<br> 「………」<br>  突然、地図を見ていたモランズの顔から笑みが消えた。モナクセルの問いに、モランズは答えない。焦りながら、再び地図の検証を始める。<br> 「お、おい!まさか、方向間違えたってんじゃ・・・」<br> 「…ここだ」<br>  ギコラスの文句を遮って、モランズが結論を口にした。<br> 「あ?ここが何だって?」<br> 「街なんか、何処にもないモナよ?」<br> 「…間違いない…ここだ」<br> <br> <br> <br> 「僕らは今、かつてアオールの街があった場所に立っているんだ…!」<br> <br> <br> <br> 「な…何だとゴルァ!?」<br>  思わず、ギコラスが声を上ずらせて叫ぶ。モランズは黙って頷いた。<br> 「さっき言ったとおりさ。ここが、僕らの目的地…砂漠の街・アオール、だからな」<br> 「え…だ、だって!」<br>  冷静に、再び真実を伝えるモランズ。慌ててモナクセルが反論した。<br> 「1週間前セントラル・シティの冒険者ギルドで、アオールの街について調べてた時は、ちゃんとあったモナよ! アオールの街は今も栄えている、って!」<br> 「うん。ギルドの情報はかなり正確だ。そのギルドの情報網が追いつかないって事は…」<br> 「アオールの街はここ最近で滅びた、っつー訳か…」<br>  ギコラスが、ぽつりと、導き出された結論を口にした。<br> <br> <br> <br>  ギコラスら3人が出会った場所、セントラル冒険者ギルド。<br>  北の雪国ノース・マウント地方、東の森林地帯イースト・フォレスト地方、西の渓谷ウェスト・ロック地方、そして今3人がいる、南の砂漠・サウス・デザート地方。この4つの地方をめぐって冒険する冒険者達を支援する為にある施設だ。<br>  そして、各地方の情勢を全世界の何処よりも把握している。それも、各地方に数人のギルドの職員がおり、各地方の情勢をいち早く察知できるからだ。<br>  その情報網が追いつかないうちに、サウス・デザート地方唯一の街・アオールが滅びたという事は、この街が滅んだのはつい最近のこと。<br>  きっと、アオール所属の職員も、すでに街と共に故人となっているだろう。<br> <br> <br> <br> 「きっと今頃、ギルドは大騒ぎだろうね」<br> 「だなあ…情報提供者のギルド職員の消息を探して、ちっともめでたくねぇお祭り騒ぎだなゴルァ」<br> 「…でもやっぱり。その職員さん、きっと生きてない、モナよね…」<br>  3人の間に重苦しい沈黙が流れた、その時。<br> <br> <br> <br> 「あっれぇ?貴方達ぃ、こんな所で何やってるんですかぁ?」<br> <br> <br> <br> 「「「?」」」<br>  突然3人の耳に入ってきた、素っ頓狂な間延びした声。3人が振り返ると、そこにはぞぬ車(馬車の荷台をぞぬが引いている物)が1台。ぞぬの上には、タカラギコ族の青年が乗っていた。<br> 「中央から来た冒険者ですかぁ? んー、だったら残念でしたねぇ、アオールの街はつい昨日、街中のギコ族が謎の死を遂げたって事で、破壊される事を余儀なくされちゃったんですよねぇ~」<br> 「…はぁ? アオール中のギコ族が、だぁ?」<br>  ギコラスが疑わしげに聞き返した。続いて、モナクセルがややのん気に口を開く。<br> 「それは大事件モナねー…アオールの街って、別名「ギコ族の聖地」って言われてるモナよね?」<br> 「そうですよぉ、そして、中央から来たギルド職員もギコ族だったわけです~。そんなアオールにい~っぱいいたギコ族が1人残らず死んじゃったものですからぁ、アオールの街はもぬけの殻。そんな訳でぇ、街としての機能を失ったアオールはぁ、丁度街に滞在していた冒険者達の手で破壊されましてぇ、そんな訳でもうこの場所にアオールはぁ…」<br> 「おいタッカー!! 何やってんじゃネーノ!?」<br>  タカラギコ族の説明を遮って、ネーノ族の男が荷台から顔を出して怒鳴った。そして、呆然と突っ立っている3人に気がついて、怪訝そうに尋ねる。<br> 「? あんた達、何なんじゃネーノ?」<br> 「え、あ、せ、セントラルの冒険者ギルドの者です!」<br>  慌ててモランズが名乗る。ふぅん、とネーノ族が気のなさそうな返事をした。<br> 「まあ…こんなトコで立ち話してたら、いつか干上がっちまうんじゃネーノ。中入るんじゃネーノ。このぞぬ車、例のアオール滅亡事件の生き残りがいるテント行くんじゃネーノ」<br>  そう言い、あー暑いんじゃネーノ、とぼやきながら、ネーノ族はさっさと荷台の中へ首を引っ込めてしまった。<br> 「聞いた? 滅亡事件の生き残りがいる、ってさ」<br> 「うん。色々と話聞けそうモナ」<br> 「おう、色々聞いてみるか。つか、とっとと日陰入りてぇぞゴルァ」<br>  意見を一致させ、3人はぞぬ車の荷台に手をかけた。<br> <br> <br> <br>  荷台の中には、先程のネーノ族以外には誰もいなかった。<br> 「他の連中はテントにいるんじゃネーノ・・・さぁて」<br>  そう教えた後、一息ついて、ネーノ族は名乗った。<br> 「俺はネーストル・ノーヴェス。学者じゃネーノ。で、ぞぬに乗ってた馬鹿が、動物使いのタッカー・ランダ・トレジャー」<br> 「あ、よ、宜しくお願いします! モランズ・ショウ・マタリアです! 魔法使いです!」<br> 「…ギコラス・イルデ・ヨシュア。剣士だ」<br> 「ゆ、弓使いのモナクセル・マオ・エモナードですモナ!」<br>  モランズとモナクセルは慌てて、ギコラスはやや無愛想に返す。すると、突然ネーストルの視線がモナクセルに釘付けになる。<br> 「え、あ、あの、ネーストルさん?」<br> 「…」<br>  モナクセルの問いかけが聞こえていないかのように、ネーストルはモナクセルの顔をじっと凝視している。たまらず、ギコラスがネーストルの耳元で怒鳴った。<br> 「おいネーストル!! ぼけっとしてんなゴルァ!!」<br> 「!! …あ、いや、すまないんじゃネーノ」<br>  ギコラスの怒鳴り声で我に返って、ネーストルは慌てて頭を下げた。<br> 「あの、モナの顔に、何かついてましたモナ?」<br> 「いやぁ、そうじゃなくて」<br>  モナクセルの質問をかぶりを振って否定し、ネーストルは答えた。<br> 「俺もタッカーも、例のアオール滅亡事件の生き残りなんだが・・・」<br> <br> <br> <br> 「その生き残りの1人に、あんたに雰囲気が良く似た娘(こ)がいたんじゃネーノ」<br> <br> <br> <br> 「…え…そうですか、モナ」<br>  それを聞いて、少しだけモナクセルが表情を曇らせた。<br> 「…モナクセル」<br> 「深くは聞かないで下さい、ネーストルさん」<br> 「?…あ、ああ。分かったんじゃネーノ」<br>  モランズに念を押され、ネーストルは少し怪訝に思いながらも頷いた。<br> <br> <br> <br>  モナには…妹がいたモナ。<br>  名前は、ガナディーン・ナーガ・エモナード。<br>  今から5年ぐらい前、モナが冒険者ギルドに入ったばかりで…まだギコラスともモランズとも出会ってなかった頃。<br>  セントラルの街に、飛行モンスターが侵入してきたんだモナ。<br>  で、その飛行モンスターが舞い降りてきたのが、モナの家だったんだモナ。<br>  モナはギルドの仕事があって、たまたま家にいなかったから、助かったモナけど…<br>  ガナディーンは、家ごと…<br> <br>  …<br> <br> <br> <br> 「…お、おいおい! 何辛気臭い顔してんじゃネーノ?」<br>  ネーストルが慌てて取り繕う。はっと、3人が我に返った。<br> 「あ、…ごめんなさいモナ」<br> 「気にすることないんじゃネーノ。誰にだって、追及されたくない事はあるんじゃネーノ」<br>  優しげな微笑を浮かべながら言うネーストル。モナクセルが黙って頷いた。<br> 「…あ、テントが見えてきましたよぉネーストルさぁん!」<br>  その場の思い雰囲気を振り払うかのように、タッカーの声が響いた。<br> <br> <br> <br>  砂漠の真ん中にぽつんと立つ、古びたやや大きめのテント。これが、ネーストルが言った「アオール事件の生き残りが住んでいるテント」らしい。<br> 「5人がかりで街中のギコ族の死体から洋服剥ぎ取って、それをバラして縫い合わせて作ったんじゃネーノ」<br> 「うぇ~…」<br> 「残酷モナぁ~…」<br> 「そうだねぇ…って、え?」<br>  思わず眉間にしわを寄せながら言うギコラスとモナクセル。賛同しかけたモランズが、何かに気がついた。<br> <br> <br> <br> 「たった5人しか生き残らなかったんですか? 貴方とタッカーさんを含めて?」<br> <br> <br> <br> 「まあそうなんじゃネーノ。アオールは「ギコ族の聖地」て言われてるのは知ってるかも知れないが、俺たちネーノ族に限らず、ギコ族以外の種族をあの街で見るのは低確率なんじゃネーノ」<br> 「同じギコ族でもぉ、僕は亜種ですからぁ」<br>  ネーストルとタッカーが答える。すると、タッカーが突然、意味深な言葉を口にした。<br> <br> <br> <br> 「『滅びの少女』は、純正ギコ族しか相手にしないんですかねぇ」<br> <br> <br> <br> 「「「『滅びの少女』?」」」<br>  3人が同時に聞き返す。ネーストルがそうそう、と言って、語り始めた。<br> 「こっから南へずっと行ったところに旧時代の遺跡があるんだが、冒険者ギルド所属なら知ってるんじゃネーノ?」<br> 「ええ。まあ、資料でちょっとかじった程度ですけど」<br> 「大昔、旧時代アオールの姫さんが…北の敵国・アーラスの王子と駆け落ちして、立てこもった砦の跡…だったっけか?」<br>  モランズの回答に続いて、ギルドの資料で見た記憶を辿ってギコラスが尋ねる。そうなんじゃネーノ、と、ネーストルが頷いた。<br> 「で、その姫は幽霊になって、今もその遺跡の中で、アーラスの飛竜騎士によって連れ戻されて処刑された王子様を待ってる、とか何とか言われてるんじゃネーノ」<br> 「『滅びの少女』っていうのはぁ、そのお姫様のあだ名ですよぉ。何でもぉ、その砦を訪れたギコ族さんは、お姫様に死に別れた王子様と勘違いされてぇ、道連れにされちゃうとか何とか~…」<br>  ネーストルの説明に続いて、タッカーがわざと怖がらせるような口調で言う。モナクセルだけが、ぶるっと背筋を震わせた。<br> 「こ、こ、怖いモナぁ~!」<br> 「何言ってんだ。御伽噺に決まってんだろゴルァ」<br> 「だってだって、『滅びの少女』モナよ! ギコラスも呪い殺されちゃうモナ!!」<br> 「あのなぁ…」<br> 「じゃあ確かめてみる?」<br>  怯えながら言うモナクセルに向かって反論しようとしたギコラスを遮って、モランズが突然提案した。<br> 「はぁ? いねぇに決まってんだろそんなの!」<br> 「えーっ! ギコラスが呪い殺されちゃうモナ~!!」<br>  ギコラスとモナクセルが同時に、それぞれ違う反論を口にする。駄目駄目そんなんじゃ、と、モランズがかぶりを振った。<br> 「きっとアオール滅亡事件と今の話はつながってるよ。アオール滅亡のキーワードは、ずばり! 『滅びの少女』だからな!」<br> 「まあそうだなあ…でもどうにも信じらんねぇ」<br> 「ち、ちょっと怖いモナ…」<br>  渋るギコラスとモナクセル。はっはあ、と、モランズがお得意のニヤニヤ笑を浮かべながら尋ねた。<br> 「まあモナクセルはともかく~…」<br> <br> <br> <br> 「ひょっとしてギコラス、怖いの?」<br> <br> <br> <br> 「はぁ!? そ、そんな訳あるかゴルァ!!」<br> 「じゃあ、行くよね?」<br> 「な…しょうがねぇなあ…よっしゃ、もーやけっぱちだゴルァ! こうなったら成仏させてやろうじゃねぇか、『滅びの少女』でも何でも!!」<br> 「えぇっ! ぎ、ギコラスが行くならモナも行くモナ!!」<br> 「ハイ決まりっ! じゃあ今日は遅いし、出るのは明日にしようか?」<br> 「勝手にしろゴルァ!」<br> 「お、おいおいおい!!」<br>  目の前で進む恐るべき計画。思わずネーストルは待ったをかけていた。<br> 「何言ってんじゃネーノ!? あんた達がどれだけ腕が立つかは知らないけど、あの『滅びの少女』はとんでもないんじゃネーノ!!」<br> 「そうですよぉ! 特にギコラスさんは危険ですよぉ! 下手したら死んじゃいますってぇ!!」<br> 「まあ、攻め際と引き際はよくわきまえてますよ。それに僕達を甘く見たら、火傷して凍傷起こして痺れますよ、お二方?」<br> 「そりゃお前の特技だろ」<br>  慌てて言うネーストルとタッカーに向かって、得意げにきっぱりと言い放つモランズ。後ろからのギコラスの突っ込みは軽くスルーして。<br>  やれやれ、と、ネーストルは深い溜息をついて、観念したように言った。<br> <br> <br> <br> 「勝手にするんじゃネーノ。あんたらが呪い殺されても供養はしないんじゃネーノ」<br> <br> <br> <br> 「じゃあ勝手にさせて貰いますよ、ネーストルさん」<br> 「…さぁて、じゃあ残りの3人を紹介するから付いてくるんじゃネーノ」<br>  モランズの自信に満ちた返答に少々呆れながらも、ネーストルは3人にこう促して、テントの方へ歩いて行った。<br> <br> <br> <br>  ネーストルとタッカーに案内されて3人がテントに入ると、中には3人の猫型AAが立っていた。灰色の身体に細目・鼻の高いフーン族。金髪にカチューシャをしたレモナ族。そして、橙色の身体に黒いパッチリした瞳を持つガナー族。彼らが、ネーストルとタッカー以外の「生き残り」らしい。<br> 「あっネーストル君タッカー君お帰り~♪」<br>  レモナ族の女性がこっちを向いて、やたらブった声で言った。<br> 「ただいまじゃネーノ」<br> 「丁度良かったわね。今夕飯作ろうと思ってたトコなの」<br> 「…で、後ろの剣士ギコと弓使いモナーと魔法使いモララーは何処のどいつだ」<br>  他の2人も言う。ネーストルがため息混じりに言った。<br> <br> <br> <br> 「『滅びの少女』目当ての、中央から来た命知らずの冒険者馬鹿3人組じゃネーノ」<br> <br> <br> <br> 「…何?」<br> 「嘘っ!?」<br> 「わぁ~勇気ある~!」<br>  3人が思い思いの返事をする中、ネーストルはギコラスたちに向かって言った。<br> 「こいつらがお前らが話したがってた、俺達以外の生き残りじゃネーノ。フーン族がフランク・ソーン。ガナー族がガナーディア・ガンツ・オランジェ。で、レモナ族がモーナ・レム・カーマイン。フランクとガナーディアは俺の助手学者じゃネーノ」<br> 「あ、よろしくぅ♪ アオールの街では酒場で踊り子やってたのよ~♪」<br> 「何をのん気に自己紹介なんかしている」<br>  モーナの台詞を遮ってぴしゃりと突っ込むフランク。直後、フランクはネーストルの方をじろりと睨んで、質問していた。<br> 「何故許した? この前までのお前ならば決して許さなかっただろうに」<br> 「まあ…押されて押されて押し切られた、ってトコじゃネーノ?」<br> 「ふぅん…まあ、百歩譲って生命は取られずとも…返り討ちが関の山、だろうな」<br>  ネーストルの返事に気のなさそうに答えてから、きっぱりと言い放つフランク。ちょっとちょっと、と、モランズがすかさず前に出た。<br> 「僕らを見くびってもらっちゃ困りますよ。僕らはそんじょそこらのやわな冒険者とは違いますからね!」<br> 「例えそうだとしても、『滅びの少女』はその辺の雑魚魔物とは月とスッポン、全然違う。…何しろ」<br>  モランズの言葉に少しも動じることなくこう返し、フランクは一呼吸間をおいてから、告げた。<br> <br> <br> <br> 「何しろ、お前らが所属するギルドで1番偉い奴とその奥方ですら叶わなかった相手だ」<br> <br> <br> <br> 「…え?」<br> 「…何だと?」<br> 「ギルド長と副長が、負けたんですかモナ?」<br>  モランズが、ギコラスが、モナクセルが、口々に聞き返す。無言でフランクが頷いた。<br> 「し、信じられない…あの、お2人が…」<br>  先程までの満ち溢れた自信が嘘のように、モランズが呟いた。<br> <br> <br> <br>  冒険者ギルド長、フィリップ・サフ・ダッカーラ。クラス、格闘家。<br>  冒険者ギルド副長、ツェツーリア・ヒャーリ・ダッカーラ。クラス、シーフ。<br>  ギルドの頂点とその下に立つ、僕達3人を含める冒険者ギルド所属者たちが、世界で1番、誰よりも尊敬する人達だ。<br>  僕達も時々彼らと手合わせをすることがあるけど、勝ったのは勿論互角に渡り合ったことなんか1度もない。いっつも彼らの圧勝、僕達のぼろ負け。<br> <br>  そんなお2人が、多分たった1度だけ、負けた相手。それが『滅びの少女』。<br>  そいつは、僕達が想像している以上に…手ごわい相手なんだろうか…?<br> <br> <br> <br> 「まあそんな訳だ。特に…そこのギコ。お前はやめた方がいい」<br>  最後にそうきっぱりと言い放ち、フランクはテントの隅の方へさっさと歩いて行ってしまった。呆然とする3人に向かって、ガナーディアが苦笑いして言う。<br> 「あまり気にしないでね。フランク、いっつもあんな調子だから。さて、貴方達もお腹空いたでしょ? 私、久々に腕振るっちゃうから」<br> 「ガナーディアちゃんのお料理は美味しいわよ~。ついでといっちゃあなんだけど~、あたしの踊りも見せてあげちゃうわね!」<br> 「「「…あ」」」<br>  ガナーディアとモーナにそう言われた途端、はっと自覚する3人。そう言えば、セントラル・シティを出てから、ギルドから支給された保存食と水以外、何も口にしていなかった。くすっとガナーディアが笑った。<br> 「その表情からすると、ペコペコなのね。分かったわ、出来る限り超特急で作っちゃうから」<br>  最後にそう言って、ガナーディアはそそくさとテントを後にした。<br> 「ガナーディアさんのご飯、久々ですね~。皆さんも楽しみにしてくださいね~、もう最高なんですよ~」<br> 「え、あ、はい!」<br> 「期待しとく」<br> 「楽しみにするモナ!」<br>  慌ててタッカーの言葉に答えつつも、3人の心は乱れていた。<br> <br> <br> <br>  憧れの人が倒された相手に対して、初めて感じる『恐怖』に。<br>

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