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◆第二部◆~PROJECT『DARK CONCENTRATION』~ (ギコ)

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     -プロローグ-

一年前……あるデータの暴走がキッカケで、人々の記憶には…
小さな戦争の傷跡、忘れられない多くの悲劇が刻まれた。
そのデータの名は……<NIGHTMARE CITY>プログラム。
しかし、この戦争に終止符を打った子供達がいた。
この真相を知る者は少ない。大人でさえも、大半が誰に感謝をすれば良いのかわからずに、平和に暮らしているだろう。
そう、知っている者は少ないのだ。その子供の中の一人が今、この世にはいない事も………
何も知らない者がこう話を聞けば、「その子供は死んだんだ」と、そう思うだろう。
事実、今の彼の状態を表すならば、『死』。この表現が一番近いと言える。
だが、彼は生きていると現世で信じている者達がいる…
彼らとの約束を守る為、少年は今、何をしているのだろうか…
これから貴方達にお聞かせするのは、悲劇の上に成り立つ輝かしい未来と希望。
そして、新たに忍び寄る悲劇との少年達の戦いの物語である……


<第一章>~『トーナメント-NIGHTMARE CITY RIBORN』~

ここは…一年前に激闘が繰り広げられ、闇が解き放たれ、戦争が終わりを迎えた場所。
今この場所には、年中明かりが消える事は無く、千人以上の科学者が活動している大きな研究所がある。名前は『2ch研究所』
この研究所は、この一年で多くの成果を見出している。
その中でも、この成果はほとんどの人に知れ渡っている。
それは…『N・Cの再建』。
言葉の通り、N・Cを復活させたのである。
しかし、街の名とは打って変わって、N・Cは子供達に好評を受けている。
以前の設定と変わらず、ログインすると特定の動物やその人の特徴を良く現した姿に変換される。
その姿を気に入ったり、好み、楽しんだりする子供達が多い。
それらが子供達に好評の原因らしい。
今から登場する三人も、同様である……

その三人は今、ある家に集まって話しをしたり、遊んだりしている。
その家の表札は、見た感じで手作りとわかる雑な出来。
木を削って作っているにも関らず、綺麗な四角形を保てていない。
そこには、形と違い綺麗な字でこう書かれていた。

     <ギコ君・しぃ>

このギコと言うのが、戦争に直接的に終止符を打った張本人であり、この家の持ち主。
一年前の悲劇で親を亡くし、N・Cでしぃと出会う。その時に水の力に目覚めた。
そして、家の中にいる三人の内、唯一の女の子がしぃ。
ピンクの綺麗な長髪が印象的で、日頃着ている服は、シンプルなワンピースがほとんど。
ギコの守るべき存在であり、好意を抱いている少女。
ギコの命の危険を自分の体を張って守った事もある。

【しぃ】
性別;女
武器:弓矢
エレメント:風
覚醒進度:第二覚醒
特殊能力:???
所属:無し

しぃが茶髪の少年に話しかける。

「ねぇ、フサ君。さっきから何やってるの?」

フサと呼ばれたこの少年。
ギコの一番の親友であり、義理人情に熱い男。
茶色いその髪は、正にフサフサ。
ギコとは幼馴染であり、いつも一緒に遊んでいた。

【フサ】
性別:男
武器:槌
エレメント:炎
覚醒進度:第二覚醒
特殊能力:???
所属:無し

「ギコのアルバム見てんだよ。いや~懐かしいな~。ホラ、兄者見ろよ! このバカみたいなギコの顔!!」

そして残った一人が今呼ばれた兄者と言う少年。
彼もフサ同様、ギコとは幼馴染で小学生からの付き合い。
やはりギコ、フサと一緒に遊んでいた。
姉、弟、妹と兄弟も多く、更に母は恐ろしい。

【兄者】
性別:男
武器:鎧
エレメント:地
覚醒進度:第一覚醒
特殊能力:???
所属:無し

「うむ、ギコとはこの茶髪の子供か? 確かにバカな顔をしている」

「てめっ、わざとだな!? こりゃ俺だよ!」

「OK、正直スマソかった」

この様に、兄者がふざけ、誰かが怒り、兄者が謝ると言うのが一番多い会話のパターンだ。

「もう、人のアルバム勝手に見るなんて不謹慎よ」

そしてしぃが最もな事を言う。これもパターン。
他にもいくつかパターンはあるが、それは言わないでおこう。

「ほ~? よし、ならお前は見ねぇんだな!?」

フサが意地悪そうな…いや、意地悪な顔をして言う。
それに対し、しぃは少しためらい気味に答えた。

「あ、当たり前じゃない。ギコ君が可哀想だもの」

その答えを聞くなり、フサが兄者を捕まえた。
そしてニヤ~ッと笑い、

「じゃぁ俺達だけで見ようぜ、兄者! 見ろよ、ランドセル背負ってるぜ!」

兄者が呆れて、付き合ってられないと言った態度で答えた。

「横の茶髪の少年もな」

「てめっ、それはもう良いんだよ! ……よし! じゃぁこれ! ギコが授業参観の時に勉強道具を全部忘れて廊下で立たされた時の写真!」

流石の兄者も、これには耐えられず、つい吹き出してしまった。
フサは相も変わらずゲラゲラと大声で腹を抱えて笑っている。
しぃも気になるが、堂々とあんな事を言ってしまった為に自分も見るとは言えず、二人がいるのとは逆の方向を向いている。

「フ、フサ……お、お前何でそんな写真が……」

途中途中に笑いが混じった声で兄者が言う。
フサが次の写真を指差し言った。

「おい兄者、これ見ろよ!」

兄者もさっきの写真が面白かったらしく、ノッて来たと言う感じにその写真を横から覗いた。それに合わせるようにフサが言う。

「あいつ運動会のかけっこでこけてるぜ!!」

ちょうどこけた瞬間の写真があった為、兄者もフサと同じく腹を抱え、転げまわりながら笑う。

(ランドセル? 授業参観? 運動会? ……も~~気になるな~~)

しぃが難しそうな顔をしながら考える。
だが、フサの笑いがピタリと止まった。
それにつられ、兄者の笑いも止まる。
そしてフサが言った。

「あいつ……まだ帰ってこねぇのかな……」

「「………」」

気が遠くなる程辛い沈黙が続いた。
窓の外からワイワイと賑わう子供達の遊び声が聞こえる。
それが逆に沈黙の気まずさを際立てた。
その時、
ピンポーーーン
と、家の呼び鈴が鳴った。
あまりに突然の出来事の為、三人はひどく驚いた。
この様に、フサ、しぃ、兄者の順に。

「うおっ!!」

「キャッ!!」

「ピャッ!!」

誰かが行かなくてはいけない為、フサが席を立った。
部屋のドアを開け、出ようとしたその時、フサが立ち止まった。
そして、一言だけ残していった。

「兄者……『ピャッ!!』って……何だよ……」

そしてそのまま階段を下りていった。
フサのいない部屋には、顔の真っ赤な兄者と、笑いをこらえているしぃの姿が。
フサは玄関に行き、ドアを開けた。
そこには見慣れた新聞配達の青年が。
しかし、おかしい。絶対におかしい。
フサはその疑問をそのまま投げつけた。

「え……こんな時間に新聞? もう学校も終わった時間だぜ?」

すると青年はこう答えた。

「いえ、新聞ではありません。2ch研究所から、このチラシを配れと言われましたので……」

フサは不思議がりながらそのチラシを受け取った。
そのチラシを見たフサは笑顔に溢る。
そのまま階段を猛ダッシュで駆け上がり、部屋のドアを、
バン!!
と乱暴に開く。
そのせいか、二人はまたもや驚いたようだ。

「キャッ!!」

と、しぃ。

「いやん!!」

と、兄者。

「兄者! もうツッコまねぇぞ!!」

フサのそれこそ素早いツッコミである。
フサはそのまま二人の前で先程のチラシを広げた。

「見ろ!!」

そこにはこう書かれていた。


___________________________________
明日、新しくオープンされるN・Cの闘技場にてバトルトーナメントを開催いたします。
尚、ここで優勝すれば、豪華な賞品と、賞金十万円を差し上げます。
ルール、注意事項などは会場にて説明いたします。どうぞ積極的にご参加の程を。

日程:明日 昼十二時
チーム人数:三人一組
名称:『NIGHTMARE CITY REBORN』

遅刻の無いようお願いします。
強制参加ではありません。腕に自信の無い方はご遠慮願います。

*注意 命の保障はありません*
___________________________________


それを二人が読み終わったと判断すると、フサは兄者としぃの間に座った。

「……出るよな?」

フサが尋ねると、しぃが無愛想に答える。

「私は出ないよ」

それを聞くと、フサがすぐさま言い返した。

「何でだよ!?」

「戦いは好きじゃないの」

しぃがそのままフーと溜め息をつき、言葉を続けた。

「どうして男の子はこう言うの好きなの? 兄者さん! そんな嬉しそうな顔しないで!」

兄者も楽しみの様だ。
そして、しぃの言葉に対してこう言う。

「横の……茶髪の少年もな」

しぃはその言葉を聞くと、横のフサの顔を見てあきれきった。
純真な子供の様な笑顔で楽しみにしている。

「……もう! 仕方無いな~。その代わり二人で勝っちゃってよォ。そしたら私は戦わなくて良いんでしょ?」

「そうだな! よし! ならチーム名だ。二人共、何かいい案ねぇか?」

しぃの参加すると言う言葉を聞いて、嬉しくなったフサは、そのままチーム名を考えた。
案を出してくれと言われたのに対し、兄者が答えた。

「チーム・兄じ……「しぃ、何かいい案は無いか?」

フサ、兄者を全くの無視。
部屋の隅でしょぼくれる兄者。
しぃは兄者を横目に答えた。

「えーと……じゃ、チーム・フサ!!」

「……ん? 何で俺?」

「だって、私達の頭文字をローマ字にして取ったら……『FUSA』の『F』。それで、『SHII』の『S』。最後に、『ANIJA』の『A』でしょ? それを繋げたら、F・S・Aで『フサ』になるじゃない」

フサは納得の顔を見せた。
兄者は未だにしょぼくれている。

「自分の名前が出るのはなんか恥ずいけど……俺は賛成だ。その代わり英語のままな。兄者は?」

「……勝手にしてくれ……」

「よーし! 決定だ! 俺達のチーム名は……『FSA』!!」

【しぃ】【フサ】【兄者】
所属:FSA


<ギコ&モララー>


「え……そりゃホントか!?」

「答えろ! 本当なのか!?」

羽が生えている影が頷く。

「その大会はあの街で行われる」

その影がそこにいる『三人』を指差した。

「それと同時に……君達は生き返ることができる」

やっと……やっと生き返れる! 長かったぜ……フサ、兄者! もうすぐ帰れるんだぜ!
しぃ……待ってろよ。真っ先に会いに行くからよ。


<第二章>~トーナメント参加者~

トーナメントに出場する事を決めたフサ達。
彼らは優勝を果たす事ができるのだろうか。
現在、ギコの家に居座り、三人で作戦を練っている段階。

「しかしよー、このチラシだけじゃ、明日あるってのと、三人一組ってのしか情報はないんだよな~」

フサが鉛筆を口に銜えながら嘆く。
それもそのはず、フサの言っている事は事実である。

「うむ、確かに。新しくオープンされる場所と言うのもどこかわからんし……」

それに続き、兄者も愚痴を零した。
三人が家に泊まる事に決まったので、足りない二人分の布団を敷きながらしぃが言う。

「あら、新しくオープンされる場所ならわかるじゃない。ほとんど毎日行ってるんだから、工事中の場所くらい知ってるでしょ?」

「あ~、あそこか。あの~……ログインして、右の道に出た時にすぐ見える」

「そっ、兄者さん……わかる?」

兄者は分からない様子。首が斜めに曲がったように、ずっと傾げている。

その時、フサが口から鉛筆を落とし、チラシを見ながら言った。

「わかった……ここに集合場所が書いてない理由!」

フサが声を上げた瞬間、兄者が驚きを巧みに隠しながら言う。

「OK、俺もわかってるが、お前が話せ」

フサが軽く兄者を睨み付け、そして気を取り直し説明を始めた。

「簡単に言ったらな、場所探しが一次審査なんだ。これに参加できるのを、N・Cによく行く奴だけに絞るつもりなんだと思う」

「ん~……確かに納得できる理由だけど……そうする意味はあるの?」

布団を敷き終えたしぃが言った。

「多分……宣伝かなんかだろ?」

フサが答えると、しぃが更に駄目出しを。

「宣伝ならN・Cにあまり来ない人達を来るようにするはずじゃないの?」

「ん~……じゃあ外れか~。間違いねぇを思ったのにな~」

真面目そうな顔から一気にだらけモード。
そして大きなアクビを。どうやら眠くなった様だ。

「んじゃぁ寝るか。しぃ、布団サンキューな」

「いいよ、別に。もう慣れちゃったから」

「時にフサ、今日決まった作戦とは何ぞや?」

「え……」

フサの体が固まった。
もちろん作戦等何も決まってはいない。
少し話し合っただけである。
言い訳混じりに、フサが仕切りなおす。

「まぁ良いじゃん。作戦っつっても何もないだろ? 俺が勝って、お前が勝って、しぃは戦わずに俺達の勝ち! で良いんだよ」

「うむ……砕けた言い方だが、確かにそれしか無いな」

「それじゃあ電気切るからね~」

「「はいよ~~~」」

しぃが紐を引き、部屋が暗くなる。
言うまでもないが、しぃは別室。
この時、三人の戦士達は束の間の休息を得る。
今の内に体調を整えておくべきだろう。
明日は三人にとって、歓喜と悲劇を同時に味わう日となるのだから……

     <試合当日>

朝の十一時半、三人はちょうどいい時間に支度を終え、家を出る。
向かう先は『2ch研究所』。そこにはログイン出来るポイントがある。
移動方法は徒歩。二十分ほどで目的地へ着くだろう。
持ち物は無し。三人の武器は持ち運ぶ必要が無い為、便利である。

そして二十分後……

「お~着いた着いた!」

「もう疲れちゃった~~……」

「OK、中へ入ろう」

三人はそれぞれ感嘆の声を漏らした。
そして研究所の中へと入ってゆく。

その研究所は、職員の数が多いだけに、職場も驚くほど大きい。
しかし、三人は見慣れた光景のため、驚きはしない。
ログインのポイントは、ロビーからエレベーターに乗り、地下に行く。
その地下の通路を真っ直ぐ歩くと、すぐに着く。
三人はそこへ到着。
その時、そこにいたある三人組を見つけたフサが、声を上げた。

「あ!! お前ら!!」

そこにいたのは、弟者、≫1、おにぎりの姿だった。

「む、兄者も参加するのか?」

「弟者、お前もか? 兄弟揃って参加とは……」

「「流石だよな俺ら」」

「うむ、この台詞を言うのも久しいな」

流石兄弟のさすが兄弟と思わせるやりとり。
兄者の見事なフリと弟者の見事な反応。

「いや、お前らチラシの最後の文見なかったのか?」

フサが心配そうに言う。
チラシの最後の文。それは、“注意 命の保障はありません”だ。

「読んだよ? でも……曲がりなりにも、僕達だってN・Cで戦ったんだから……普通の子達には負けないよ!」

「そうだよね、おにぎり君! 今回は僕達も活躍して見せるよ!」

フサの顔から心配の顔が無くなった。
そして笑顔で問う。

「わあったよ。んで、お前らのチーム名は?」

「えっと……『おにぎりバスターズ』だっけ?」

「違うよ! 『≫1と愉快な仲間達』だよ!」

「もう忘れたのか? 『弟者の大冒険』だ!」

ギャーギャーギャー……
耳障りな騒ぎ声を、三人は鮮やかに無視し、ログインした。

     <NIGHTMARE CITY>

蒼白い閃光が空から三つ降ってくる。
その閃光は、やがて形を整えてゆく。
そこには、桃色の尾が長い猫。
そして、立派な毛を持った犬と黄緑色の細目の猫。

「やっと着いたね~~」

しぃが二人に語りかけるが、何か考え込んでいるようだ。

(おにぎりバスターズって……自分を壊してどうするんだよ)

(弟者……それはもはやチーム名ではない……)

「どうしたの? 二人共……」

「ん……いや、なんでもねぇ……よっし! 行くかぁ!」

「「おお!!」」

いつの間にかノリノリになっているしぃは気にせず、三人は会場へと向かった。
完成していた会場を目の当たりにし、三人は唖然。
その建物は、全てが岩で出来ていた。
高さは大して無い。中へ入ると、そこにあるのは、わりと広い入り口の広場と観客席と試合場のみ。
試合場は建物の中の中央に位置し、その周りには底が見えないほど深い溝がある。
そして、その溝を挟み、向こう側にあるのが観客席。
命の保障は無いと言う忠告通り、その溝に落ちれば死ぬだろう。
溝を覗いたフサは鳥肌が立ち、足がすくんだ。

「ひええぇぇ~~……俺、高所恐怖症だったぜ……」

「私は飛べるから安心だけど~」

薄暗い会場に不安が募る三人。
周りに人の気配を感じる。
しかし、暗さのあまり遠くまで見えないので確認は出来なかった。

(気配……他の選手も集まってんのか?)

(あれ? どこかで感じた事ある気配が……気のせいかなぁ……)

(うむ、弟者達は間に合わない様だな)

三人がどうのこうのかんがえている内に、時間は正午を回った。
その瞬間、天井に付いている大きないくつかの照明が彼らを照らした。

「ぃょぅ! みなさん、今日はお集まり頂き、まことにありがとうございます!」

その時、観客席の一番前の列にある司会席から、声が聞こえた。
そこを見ると、一人の司会者らしき者が。

「え~私、ぃょぅと申します! 司会者と思われてるかも知れませんが、実際には選手紹介くらいしかしません! その辺を理解しといて下さい! じゃぁ早速、選手紹介行って見ょぅ! みなさんの情報は既に手元にあるょぅ!」

ぃょぅと言う司会者は、そう言うと何枚かの紙を取り出した。

「じゃぁ行くょぅ! まず一組目! 全てが謎に包まれている! ゴイク、マローラ、ノーマ選手で構成された、チーム『SAVIОR』!!」

その紹介でスポットライトを浴びたのは、白いコートを被った三人だった。

「二組目! 『俺達は大事な計画の為に来た。邪魔する奴は皆殺し』と、不気味ながらも自信に溢れたコメントをくれた三人組! その全員が匿名希望と言う名無しさん! チーム『NO NAME』!!」

今度は黒のコートを来た者達。すぐに強敵だとわかる程不気味なオーラを漂わせている。

「そして三組目! 『私達の武術の強さ、見せてあげます』と豪語する三人組はこいつらだ! リーダー『レモナ』を初めとし、彼女を慕うニダー、ッパの三人!! チーム『和風武術』!!」

そこには、見慣れた柔道着姿のAAと黄と青の姿のAA。

「「「レモナさん!?」」」

三人は歩いて近寄ってきた。

「久しぶりですね、三人とも」

「今日は負けないニダー」

レモナの不敵な笑み、ニダーの強気の発言、そしてッパのお菓子を差し出すと言う意味不明な行動がフサ達の不安を煽る。

「最後の組は!! 時間ギリギリに着いてコメントすらもらえなかった三人!! どうやら三人とも不思議な力を持ち、街を救った英雄の様だ!! チーム『FSA』!!」

その時、いつの間にかかなりの数の観客が入場していた
その観客達が一気に沸く。
ワアアァァーーーーーッの他に、キャアアァァーーーーー等の声援が三人に降り注ぐ。
英雄と言う事もあって、どうやら一番人気のようだ。
その観客の中には弟者達の姿も。

「ちくしょう……間に合わなかった……」

「ウワ――ン……間に合ってたのに~」

「流石だよな俺……「「流石じゃない!!」」

やはり兄弟。とても似ている。

「なぁ兄者……人気なのは嬉しいけどよ……このトーナメント……」

「うむ、楽じゃなさそうだ」

(あの白いコートを着てるの人達って……もしかして……)

しぃが考え事をする暇もなく、観客が更に沸く。
ぃょぅが対戦組み合わせを発表する様だ。

「よーし! ここで組み合わせをするょぅ! 各チームの大将は来てくれょぅ!」

それを聞くと、しぃと兄者はフサを見たが、フサは自分の考えを述べた。

「俺が大将でも良いけどな、順番的にはしぃが大将なんだ。俺と兄者で二勝するんなら、しぃは自動的に最後だ。だろ?」

兄者は納得。しぃは否定をした。

「え、私大将なんて無理よ! フサ君で良いじゃない!!」

「よーし、じゃぁお前が先に戦えよ!?」

「う……もう!」

しぃは嫌々行かされた。フサの言ってる事ももっともだが……

「じゃぁさっき紹介した順番にくじを引いてくれょぅ! 地味だけど、自分で引くから恨みっこ無しの方法だょぅ! じゃぁゴイク選手から頼むょぅ」

ゴイクと言う名の選手がくじを引いた。
そこには『二』と書いてある。
次に黒コート軍団が引いたのが『三』。
そしてレモナさん達が『一』。

「じゃぁ私は……『四』?」

「そうだょぅ! ってことで一試合目は『SAVIОR』VS『和風武術』だょぅ!! 両チーム、あの橋を渡って試合場に行ってくれょぅ!!」

ぃょぅが試合の指示を選手達に与えると、大将達は自分のチームメイトが居る所に向かった。その時、ゴイクがしぃとすれ違う時、立ち止まってずっとしぃを見ていた。
フードを深くかぶっていた為、顔はよく見えなかったが、口元は笑顔だった。
目も鼻も、輪郭さえ見えなかったからその笑顔の意味はわからない。
そのままゴイクは行ってしまう。
しぃはフサ達の元へ走っていった。

「しぃ、お前今あいつに見られてたろ?」

「うん……どう言う事なんだろう?」

「ちっ、感じ悪ぃ奴だぜ! な~に救世主だよ! ふざけんな!!」

「そうかな~……そんなに悪い人達には見えないけど……」

「「しぃはお人よし過ぎる!!」」

入り口広場と試合場を結ぶ端が試合場の方から伸びてきた。
レモナ達は黙々とその橋を渡っていく。
それに続き白コートの三人も。

試合場に立っているのは六人。
それが三対三に別れ、見合って立つ。

「よ~し、それじゃぁ始め……「待て!!」

ぃょぅが試合開始のコールを掛けようとしたその時、マローラが待ったを掛けた。
そしてぃょぅに近づき、ぃょぅに何か呟いている。
そして話し合いが終わったらしく、マローラが戻ってきた。

「え~と、今マローラ選手が、『面倒だ。三対三のチーム戦で一気に片を付けたい』と言ってきたょぅ! そこで、『和風武術』が賛成ならその勝負形式でやろうと思うょぅ!」

その司会に他選手、観客がざわつく。
レモナ達が集まり、話し合いをする。

「な? 勝手にルール変更しようとするんだぜ!? 良い奴らだと思うか!?」

「え~? でも、自分達の戦い方って言うのもあるじゃない」

「い~や! 俺は絶対認めねぇ!」

フサは相変わらず『SAVIOR』を嫌っているようだ。
現時点ではそれが普通だろうが、しぃだけは特別な感情らしい。
やはりお人好しなのだろうか……
その時、レモナが手を挙げた。話し合いが終わった様子。

「良いでしょう。私達は一心一体も心がけておりますし」

「ぃょぅし! それじゃぁ行くょぅ! 準決勝第一試合!! 試合……

コールを掛ける瞬間、マローラ以外の選手が後に下がった。
そしてマローラのみ、レモナ達の方を向いている。

「あの意見を出したのに、あなた一人で戦うのですか? ……見くびられたものです」

「ぶっ飛ばしてやるニダー!!」

「(シャキーン!!)」

「……開始!!!」

と言う言葉と同時に、三つの影が宙に舞う。
フサ達はそれを目で追った。
そこには……

「「「!? レモナさん!!」」」

レモナ達の姿だった。そしてそのまま地面に叩き付けられる。

「うっ……」

「ぐぅ……」

「(ショボーン)」

「し、試合終了―――――!! な、なんと試合時間はたったの五秒だょぅ!! 勝者は……『SAVIOR』!!」

会場に不穏な空気が漂う。
盛り上がる間もなく試合が終わったためか……
レモナ達を可哀想と思った観客もいるだろう。
フサ達がレモナに駆け寄った。

「レモナさん!! 大丈夫か!?」

「ええ……不覚でした……」

「しかし……とんでもない速さニダー」

ッパが急いで立ち上がり、心配そうな顔でレモナにお菓子を差し出す。

「ふふ……ありがとう。……私達は鍛え直します。……二人共、試合観戦をする時間も惜しい。今すぐ道場に戻りましょう」

ニダーも立ち上がり、二人はさっそうと走って帰っていった。

「フサさん。頼みますよ」

そう言うと、二人にすぐに追いつこうと、凄い速さで走っていく。

「負けたのに……ねぇ」

「うむ、気持ちの良い人達だ。なぁ、フサ」

兄者がフサに尋ねる。
しかし、フサは拳を握り、怒りに震えていた。

「あいつ……許さねぇ」

「ちょっと……フサ君?」

「OK、フサ。時に落ち着け。知り合いが負けて悔しいのはわかるが……勝者の影には必ず敗者があるんだ。それに試合内容も別に酷い訳では無かっただろう?」

「そんなんじゃねぇんだ!! 一人しか戦わねぇっつうあの態度が気にくわねぇ!!」

フサが立ち上がり、マローラを睨み付けた。
しかし、行動ほど頭は熱くないようだ。
拳を解き、震えも止まっている。

「あいつらを倒すためには……まず次の試合だな」

そしてフサが振り向く。
そこにはすでに『NO NAME』の姿があった。
それに気付いたしぃと兄者も、戦闘態勢に入った。

「お~っと! いつの間にか両チーム、戦闘態勢だょぅ! それじゃぁ早速始めょぅか! 準決勝第二試合、試合……「待ったーー!!」

(う……またかょぅ……)

「さっきのルールでやれてぇ」

「……『NO NAME』は賛成かょぅ?」

相手の三人は小さく頷いた。
このチームは一人で戦うという事はしない様だ。

「よし、しぃは後で援護頼むな!」

「え……ちょっと! 戦わないって言ったじゃ「行くぜ兄者!!」

「OK、早速あれを使うか?」

「あたりきよう!!」

「じゃぁ試合開始だょぅ!!」

「「第三……覚醒!!」」

この空気も久しぶりだな~~……あいつらも元気そうだ!!
早く話したいけど……先にあれを済まさなきゃいけねぇ。


<第三章>~戦争再開~

第三覚醒……
かつて戦争を終わらすキッカケとなった力。
その力を二人が発動した。
その時……

「「「!?」」」

相手チームの一人が手を挙げた。
三人は驚く。ぃょぅが相手に尋ねた。

「どうしたんだょぅ?」

すると相手はこう答える。

「……降参だ」

「「「「……え?」」」」

聞き間違いだろうか……『降参』と聞こえた。
四人の外に、観客さえも静まり返る。

「……って事は……」

「不戦勝……?」

「これで……」

「「「二回戦終わりぃ!?」」」

三人の大声に反応し、観客も一気に沸く。
そこには、フサ達を称える様な声援。
『NO NAME』にブーイングを送る等の声が聞こえた。
しかし、事実は覆らず、そのまま……

「チーム『FSA』!! 不戦勝だょぅ!!」

と言う事に。
しぃは喜び、兄者は『まぁいいか』、と言う様な顔だが……一人だけ納得のいかない男がいる。
二人もそれはよくわかっていた。騒ぎ出す前に兄者が押さえ、試合場から連れ出す。
ジタバタ騒ぐフサを引きずる兄者。しぃもそれについて行く。
その時、

     「お前は逃がさん」

と言う声と同時に、黒い雷が空気中にいきなり現れ、そのまま試合場と広場を繋ぐ橋を破壊した。

『バチバチッ』と言う電気の音の次に、『ドガーーーン』と言う破壊音が耳に入る。
壊れた橋のガレキが、深い溝へと落ちてゆく。
この出来事で観客はパニックになり、出口争奪戦が始まった。
弟者達も同様に争奪戦に参加している。
並みの、と言うか普通の人間ならこの深い溝を跳び越える事は不可能だが……

「え? 何々?」

しぃがパニックになっている。
そこへフサや兄者では無い何者かが声を投げかける。

「しぃ! 風で飛べ! こっちまで来い!!」

そう、しぃなら飛び越える事が出来る。
その声が聞こえた方を向くと、そこには白いコートの三人組が。
何がなんだかわからなかったが、しぃは言われるがまま、風を集めだした。
しかし……

「悪いが逃がさない」

黒いコートの男がしぃの背後に立ち、背中に何かをしている。

「しぃ! 急げ!!」

良く聞いてみれば聞きなれた声。
だが、パニックのしぃはそれにすら気付かない。
そのまま風で飛ぼうとした。
しかし、風が出せない。

「あれ? 風が……出てこない」

「『風封』。お前の風は、当分封じさせてもらう」

それを見ていたゴイクが白いコートを掴み、そのまま投げ捨てる様に脱いだ。
そこには……
黄色い毛並みに長い尾。
紛れも無く、あの世にいたはずのギコがいた。
ギコは片手に水を集め、剣へと形を整える。

「「「あ!! ギコ(君)!?」」」

「水よ……手伝ってくれ! あの試合場までの道を作り出せ!!」

そう言うとギコは、軽く剣を振った。
そこから大量の水が噴き出し、試合場へと落ちてゆく。
剣からは水が出続けている。
すると、水が平たく横長い形を保ち、それが試合場へと続く道となった。
ギコは自分の剣をサーフィンのボードの様にし、水の道に乗る。
すると、その水が波を打ち、ギコを試合場へと運んでゆく。
試合場に着く寸前に跳び、空中で剣を手に持ち替えた。
そして、そのまま着地し、しぃの元へ。

「しぃ、俺の後ろにいろよ!」

あまりにも唐突な出来事過ぎて、しぃは何があったか理解できない。
フサも兄者もそれは同様。
三人が唖然としている間に、残ったマローラ、ノーマも波打つ水の道から試合場へ向かった。

「……ギコ君!? ホントにギコ君なの!?」

「ああ、もちろん! 再会を喜ぶのは分かるけど、今は懐かしむ暇は無いんだ! フサ! 兄者! お前らも戦闘の準備だ!」

ギコが大声で叫ぶと、フサと兄者も状況を大体は理解したらしく、急いで試合場に向かった。

「お前らもそろそろコート脱げば?」

「全く……コートを着ると言ったのは貴様だろう……」

ギコの言葉に応じ、二人はコートを脱ぎ捨てた。
コートを脱ぐと、そこには紫と白の毛並みに丸い尾の猫が。
フサと兄者が試合場に着くと、いきなり衝撃の顔を見せた。

「モララー!! それに……モナーまで!?」

「フサ! 久しぶりモナー!!」

二人が再会を喜んでいるのを背に、兄者がギコを見た。

「ギコ、何故モナーと一緒に?」

兄者がギコに尋ねる。
視線は敵から反らさず、そのままでギコは答えた。

「あの世で俺達も色々あったんだよ。とにかく、四人とも戦闘の準備をしてくれ!」

しぃを隠すように、五人が並んで立つ。
ギコ以外の四人も武器を取り出す。
赤い大刀、黄に光る棒、茶色の槌に鼠色の鎧。

すると、敵の方もコートを脱ぎ捨てた。
そこには、耳にラインが入った黒いAA。
そして、ボサボサの尾で、柿色の毛並みのAA。
最後に、背は普通のAAに比べると高く、クチバシがあり、鶏の様な姿の白いAAがいた。

「ネーノ……あの封印判は持ってあと三日だ。それまで待たなければならない」

黒いAAが柿色のAAに話しかける。
ネーノと呼ばれた柿色のAAが答えた。

「まぁ三日くらいなら問題無いんじゃネーノ?」

「そうか……よし。ネーノ、クックル。今の内にあの五人は潰しておけ。そして……あの女を連れて来い。俺は先に城へ帰る」

「ウララー、雑魚共でいいんじゃネーノ?」

「そうだな……お前らが手を下すまでもないか……よし、あいつらは俺が呼ぶ。しくじるなよ」

「「了解」」

今の会話で、黒いAAはウララー、背の高い白のAAはクックルと呼ばれていた。
ウララーは黒い小さな玉を手から出すと、それが次元を歪めた。
ウララーはその次元の歪みの中へと入っていく。
その中から声が。

「この作戦の成功にその女は不可欠だ」

ウララーの姿が完全に見えなくなった。
その時、その中から地響きが聞こえてくる。
ギコ達五人は武器を構える。そしてフサが一つだけギコに尋ねる。

「なぁギコ……これから何が始まんだ?」

「俺もまだ話半分にしか聞いてない。けど、一つだけわかる……」

その時、次元の歪みから現れたのは、かなりの数のAA。
白い丸の形をしたAAと四速歩行で首の長い白のAA。
そして、ようかんの様な姿をしたAAだった。

「戦争が……また始まるんだ」

「塵も積もれば山となる。ジエン、シラネーヨ、ようかんマンが合計で五百匹はいるんじゃネーノ? 生き残れたら褒めてやるよ」

モララー、モナー、フサ、兄者の四人がその軍団目掛けて走り出した。
ギコはしぃを守る為に、しぃの傍に残っている。
モララーが三人に叫ぶ。

「倒せなかったら試合場の外に落とすだけで良い!! できるだけ無理はするな!! 全員絶対に生き残れ!!」

「「「おおう!!」」

「モナー、お前は俺と来い」

モララーがモナーに耳打ちする。
するとモナーは軽く頷き、モララーと共にネーノ、クックルの元へ走る。
向かう途中、もちろん雑魚敵が行く手を阻むが、軽く押して場外へと落としていった。
そして、あの二人の下へ辿り着いた。

「お前らにはここで消えてもらう!!」

「ギコ達の所へは行かせないモナ!!」

すると、ネーノは首を曲げ、コキッと音を鳴らした。
そして、不適な笑みを浮かべて言う。

「生意気なんじゃネーノ?」

「……」

クックルは何も喋らない。
腕を組んだまま、二人を睨んでいる。

「生意気? 貴様、言ってくれるな……良いだろう。貴様の相手は俺だ!」

「それならモナはそっちの大きいのに遊んでもらうモナ」

「……俺と戦うのを『遊ぶ』と言うか……面白い」

ここで二対二の勝負が始まろうとしている頃……


     <フサ&兄者>

二人はすでにかなりの数の敵を倒していた。
しかし、一向に相手の勢いは止まる気配が無い。

「ちっくしょー! キリが無ぇ!!」

相手の数の多さにフサが嘆いた。

「うむ、何体かギコの所へ行ってしまったかもしれん」

「あ、しまった!! ギコ!!」

フサがギコの方を向く。
そこには十数匹の敵が倒れていた。
しかし、ギコは自分がいた場所から一歩も動いた様子が無い。

「こっちは気にすんな! しぃには指一本触れさせない!!」

「あいつ……さすがだな~」

「よし、俺達ももう一頑張りだな」

フサと兄者は再び敵を倒していった。
その時、上空から影が。
二人はそれに反応し、一歩後ろに跳んで武器を構える。
しかし、上空から飛んで来たのはモララーとモナーだった。

「「モナラー!?」」

二人はあまりに驚いたので、モララーとモナーの名前がごちゃ混ぜになってしまった。
とっさに二人は武器を離し、飛んで来た二人を受け止めた。

「モナー、大丈夫か!?」

「モララー、しっかりしろ!!」

二人を見ると、モララーは口から血が垂れていて、モナーは腹に痣ができていた。

「クッ……なんて事だ……」

「手も足も出ないモナー……」

フサは疲弊しきっている二人を見て思った。

(こいつらが手も足も出ないって……どれだけ強いんだ!?)

「お前らに休む暇なんて無いんじゃネーノ?」

ネーノの声が聞こえてくると同時に、全ての雑魚敵が突っ込んでくる。

(しまった! 武器持ってねぇや!!)

迎撃準備のできていない四人にギコが叫ぶ。

「上に跳べーーー!!」

その声がフサ達の耳に入ってくると、フサはモナーを、兄者がモララーを抱えたまま、力一杯地面を蹴り、上に跳ぶ。
そして、ギコが剣を構える。

「『水柱-荒波』!!」

ギコが思いっきり剣を振る。
すると、そこから噴き出したのは先程の水の道。
それが大きく波を打ち、敵を呑み込んでいく。
そのまま波は場外へと流されていった。

「へー……雑魚とは言え、こんなに早くやられるとは思わなかったょぅ」

まだ闘技場に残っていたぃょぅが言い放った言葉。
内容を見れば、ぃょぅは敵だと思える。

「お前も敵か!?」

ギコがぃょぅに剣を向けて言った。

「いかにもだょぅ! 僕は『七星幹部』の一人だょぅ! と言っても実戦部隊じゃないょぅ! ウララー様の側近で、作戦や計画を謀るのが主だょぅ! とは言え……」

ぃょぅが一通りギコ達を見渡した。
そしてニヤリを笑い、言葉を続ける。

「今のお前らくらいなら……殺せるょぅ」

モララーが立ち上がり、闇の気を集め始めた。

「……ここまで侮辱されたのは初めてだ……実戦部隊でもない奴に殺されるだと? 馬鹿を言うな!」

「……試してみるかょぅ?」

「当然だ!!」

モララーが叫ぶと、一気に気が膨れ上がり、闇からはやがて二本の剣が現れた。
モララーの第三覚醒。その二本の剣を手に取り、モララーはぃょぅに向かって行く。
しかし、ギコがモララーの前に立ち塞がり、止めようとする。

「どけ、ギコ!」

「どかねぇよ。あいつの言う通り、今の俺達じゃぁ傷一つ付けられない」

「ふざけるな! 何故だ!?」

「俺達が弱いからだ!!」

モララーは何かを言いかけたがそれをやめ、第三覚醒を解いた。
そして、何も言わずに振り返り、そのまま座り込む。
その時、ネーノが突然ギコの横へ現れる。

「隙だらけじゃネーノ?」

ネーノが拳を突き出す。
ギコはとっさに剣で防いだ。
しかし……

「クックル、今の内じゃネーノ?」

「無論」

クックルがいつの間にかしぃの背後に回っていた。
フサと兄者、そしてモナーはすでにクックルに倒されている。

「しまった! しぃ!!」

「キャッ!!」

クックルはしぃを抱え、次元の歪みへと向かう。

「クソッ、そうはさせねぇぞ!!」

「思い通りにはさせん!!」

ギコが走り出し、モララーが立ち上がった。
その時、ネーノが二人を地面に押さえつける。
そして、右手でギコ、左手でモララーの首に手刀を構えた。

「動くと殺す」

凄まじい殺気に圧倒され、二人は動けなかった。
クックルが次元の歪みに入った頃、ネーノとぃょぅも歪みへと向かう。
二人が歪みに入ると、歪みは消えた。
闘技場に残ったのは無様な姿の五人だけ。
遊び半分でトーナメントに参加したフサ達。
そこで待っていたのは仲間との再会。
謎の組織との戦い。
悲劇の再開だけだった。


そんな……ここまで力の差があるなんて思わなかった……しぃが……連れ去られちまうなんて……また守れなかった……


<第四章>~死後の世界(前)~

妙な静けさが漂う闘技場。
そこにいるのは倒れている五人。
その中で、ギコが立ち上がった。

「みんな……大丈夫か?」

ギコの質問にモララーとモナーが立ち上がり、そして応じた。

「無論だ……しかし……」

「ここまで差があるとは……思わなかったモナー」

それを聞くと、ギコはフサと兄者に肩を貸しながら言う。

「ああ……あいつの言うとおりだったな……フサ、兄者。起きろ」

しかし、フサと兄者は起きる気配が無い。
仕方なく、ギコとモナーがおぶって行く事に。
五人は闘技場を出て、ログアウトのポイントへ向かう。
そしてログアウトをして、NIGHTMARE CITYを出た。


     <DREAM CITY>

街へ戻ってきた五人は、ギコの家へと向かった。
向かう途中、フサと兄者が目を覚ます。
二人はしぃがさらわれた事に慌てたが、『家に帰って説明する』と言う事で落ち着きを取り戻した。
しばらくして、ギコの家に到着した五人。
家の中へと入り、ギコの部屋に集まった。

「よし。じゃあ、いきなりだけど……今から俺達があの世で何をしてきて、何を知ったのか……それから、今度の敵についても話す」

落ち着き、淡々をした口調で喋るギコに、フサが一つだけ尋ねた。

「ギコ……お前は何でそんなに落ち着いていられる? しぃがさらわれたんだぞ?」

「……その理由も、これから話す中にちゃんと含まれてる。よく聞いてくれ……俺とモララーはまずあの世で天使に会った……---



     <一年前・死後の世界>

その天使の名前は『ギコエル』。
名前だけじゃなく、姿も俺に良く似ていたから驚いたよ。
でも、外見で確実に違う点が一つだけあった。
それは羽。あいつの背中には天使の象徴とも言える、羽があったんだ。
俺がモララーに斬られて心臓が止まってたのは知ってるよな?
実はあれ、本当に死んでたんだ。
けど、あの世でこいつに会った時、止まったはずの俺の運命の歯車がまた動き始めた……

(ここはどこだ? 見たことも無い場所だし、なんか体が変な感じだ……)

あの世に辿り着いた俺は、何故かN・Cに行った時と同じ、猫の姿だった。
正直、俺は死後の世界だとか天使、悪魔とかの類は信じてなかった。
だから自分が死んだ事も実感できず、あの世だと気付く事も無かった。
そんな時、俺に近づいて来たのがあいつだ。

「具合はどうだ、ギコ? 僕の名前はギコエル。死後の世界案内人だ」

「ギコ……エル? 奇遇だな、俺と似たような名前だ。それに形も俺と似てるな」

そいつは、羽を除けばほとんど俺と変わらない姿で、特徴も良く似ていた。

「んで……その『死後の世界案内人』が、どうしてこんなとこにいるんだ?」

「……あ? ここがその、死後の世界だからに決まってるじゃないか」

それを聞くや否や俺は、頭を抱え込んだ。
必死に何があったか思い出そうとしたんだ。
そしたら……

「あ、自分の死因を忘れたんだな? 思い出そうとしなくても、僕が思い出させてやるよ」

そう言うと、ギコエルは俺の頭に手を添えた。
そして、ギコエルの掌から光が漏れ、その光は俺の頭の中に入っていった。
すると、俺の頭に生前の記憶が映像みたいに流れ込んできた。
そして、映像の流れが収まった。
それに追い討ちをかける様にギコエルは言った。

「君は死んだんだ」

「……そっか……俺は最後の最後で油断して……負けたんだ……」

その時、俺は涙を流していた。

「……ちくしょう……俺は何回あいつとの約束を破れば……」

「あ、悔しがるのはまだ早いぞ。君にはチャンスがあるんだ」

俺はそれを聞いた時、『まさか、そんな都合の良い話がある訳ない』と思った。
でも、あいつの話を詳しく聞けば、ホントに生き返るチャンスがあったんだ。

「今から僕が言う話を良く聞いてくれ。実は、先程まで君が戦っていたのは、モララーであり、モララーでない。言わば、あれは現世の闇……『負の感情』の集合体だったんだ」

「え……いや、闇ってのは知ってたけど……負の感情? 集合体? 何だそりゃ」

「人々が抱える負の感情……様々だが、強いて挙げれば憎、恨、怒、忌、呪、滅、殺、怨……これらが集まり、合わさって生まれたのが、モララーに適合した『闇のエレメント』。」

「……それとこれがどう関係するんだ?」

「実はな……今回の闇の反乱で起きた戦争は……こっちの世界から言わせてもらえば、全くの予想外だったんだよ」

「何!? そんなんあるのか!?」

「事実、あったから仕方が無い。そこで、死界は一つの提案と結論を出した」

俺はゴクッと固唾を飲んだ。

「それは、今回の戦争に関与した死人を、ごく一部の人間だけ復活させる事だ。意味はわかるか?」

俺は少しだけ考えて、頭の中で整理した。
そして、俺なりにまとまった考えを話した。

「えっと、今回の戦争で、闇に巻き込まれて死んじまった奴を、何人かだけ生き返らせるって事か?」

「そうだ。そして、その何人かを決める方法は……」

「方法は?」

「死後の世界である大会を開く。その三人一組で開催される大会で、優勝すればその三人は現世に戻ることができるんだ。それと、後一つ……それは君についてだ」

「俺について?」

ギコエルはコクリと頷いて、話を進めた。

「死界は君に対してこう言っている。『もう少しで勝てたのに何をしている。再び闇が動けば君の責任だぞ。せめてあの闇を止めると言う最低限の償いはしてくれよ』……以上!」

俺は一瞬、死界は何を言っているのかわからなかった。
精一杯理解しようと、脳をフルに働かせた。
そして、俺の中で結論は出た。

「……んだとゴルァ!! 何言ってやがる!! ドサクサに紛れて、お前らの予想違いを俺に解決させようとしてるだけじゃねぇかゴルァ!! 逝ってよし!!」

すると、ギコエルの口からとんでもない一言が。

「その通り。なかなか賢いじゃないか。でもな……ギコ、死界はすでに逝っている。これ以上は逝けない。残念だっt「うるせぇなゴルァ!! そんなんどうでもいいんだよ!!」

俺はギコエルの言葉を遮って言った。
怒りすぎて肩で息をしていたぐらいだ。
少し落ち着いて、俺は言葉を続けた。

「とにかく! そんな理由なら俺はやらねぇぞ!! 自分達でどうにかしやがれ!!」

「……良いのか? ギコ」

「何がだゴルァ!!」

「しぃを守りきれていない、闇に負けたまま。情けない男のまま終わるのか?」

「!? でもそれは……」

「君にチャンスをやると言ってるんだ。一度死んだ奴が遠慮をするんじゃない」

俺はこの言葉に妙に納得したんだ。
だから、決めたんだ。

「そうだよな……約束はまだ続いてる。守りかけの約束を果たしに行くぜ!!」

「よし……なら君を現世に送るよ。それと……時間も限られている。君に与えられた時間は一時間のみ。その間に闇を解き放ち、モララーを救うんだ。彼もまた、犠牲者の一人だからな」

(一時間か……その間にやる事がいっぱいあるな……)

俺は拳を握り、目を閉じた。
しぃとの約束をもう一回、頭の中で思い出していた。
それと……覚悟を決めてたんだ。闇を戦う覚悟を……もう一度。
そして、覚悟は固まった。

「ギコエル、頼む」

ギコエルは小さく頷き、今度は俺の体と同程度の光で包んだ。

「行って来い。運命は……まだ君を呼び続けている……試している。必要としている!」

「ああ! 待ってろよ! すぐに帰ってくるぜ!!」


そして、俺は現世に戻り、戦い、勝った。
モララーの元の人格も取り戻して、モララーに死界でギコエルに聞いた事を話した。

「罪を償う時間を得られるなら……俺は出るからな」

モララーはそう言って、同じチームと言う誘いもあっさりOKだった。
そしてモララーから一足遅れて、俺は死界に戻った。

「モララー、待たせたな」

「そうでもない。さぁ、案内してくれ。ギコエルとやら」

「じゃぁ最後に一つ……これから行く所はかなりの腕を持つ強者達がいる。君達………覚悟はできてるんだね?」

「当たり前だ!!」

「愚問だ。俺達は守らなければいけない約束がある」

「……逃げても良いんだよ? 何のためにそこまで頑張るんだ?」


     「「仲間の為に、帰る為にだ」」



「じゃぁ、あと一人のメンバーなんだけど……君達と組みたいと言ってる人がいるんだ」

「誰だ?」

「モナーと名乗ってるんだが……知ってるか!?」

しばらく、緊張が走る……が、次期に俺とモララーは驚きと簡単の声を漏らす。

「い!? モナー!?」

「そうか! あいつなら頼りにもなる……ギコ、決定だ!」

「ま、待てよ! 俺は反対だ! あんな危ない奴……」

この時の俺は、モナーとかには悪いイメージしか持ってなかったから、正直あまり乗り気じゃなかった。
でも、モララーが無理に入れようとするもんだから、最初は仕方なくそうしたんだ。

「俺の様に、あいつの人格も戻っている筈だ! ギコエル、モナーを呼んでくれ!」

「了解、ちょいとお待ちを……」

そういうと、ギコエルは飛んでどこかへ行ってしまった。
この間に、俺は一つの疑問をモララーに投げかけた。

「……あれ? モララーって、モナーの元の人格って知ってたっけ?」

「いや、あまり知らん。だが……奴は戦闘の時と、常時の性格が全く違う。奴を闇に染めても、常時の性格はあまり非道ではなかった……管理AIの中で俺に馴れ馴れしくしたのはあいつだけだったからな」

モララーは少し赤くなりながら言った。
モララーがここまで言うとは、よほど良い奴なんだと思ったよ。
こんな事をしてると、ギコエルが帰ってきた。
あいつの横には白いAAがいた。

「モララー! 久しぶりモナー!!」

「はしゃぐな! 恥ずかしい!」

「あれ? 照れてるモナ?」

「馬鹿め! 有り得ん!」

「顔赤いモナよ!」

「斬るぞ貴様!!」

モララーがいつの間にか第三覚醒をしてて、剣を持ってモナーを睨み付けた。
凄まじい殺気だった。

「キャーーー! 怖いモナーーー!!」

(ちっ……馴れ馴れしさが上がってるぞ……)

あのモララーとここまで楽しそうに会話ができるのは、こいつだけだと思った。
その明るさに、俺は思わず……

「……プッ、アハハハハハハ!!」

大声で笑ってしまった。
その声に、モナーは過敏に反応した。
そして、無言で近づいてくる。

「……ギコって、君の事モナね? モララーを救ってくれてありがとうモナ」

「ん、いや~~大した事ねぇよ! あいつ弱かったしな!」

「ほう?」

少し遠くで、モララーが鞘から少しだけ色即是空の刃を見せる。
その刃の光と、モララーの目の光が妖しく光る。

「いや……冗談だ冗談」

「断っておくが、今の俺は闇に支配されていた時よりも強い! 貴様にも負けんからな!」

「わかってるよ。でも、俺も負けねぇぞ!!」

それを聞くと、モナーが小声で俺に話しかける。

「(弱いから闇に支配された筈モナー)」

「あ、そっか!」

思わず声に出して納得してしまった。

「ん、何だ?」

モララーに声を掛けられてしまって、ちょっとギクシャクに答えた。

「あ……いやいや、何でもないよ! さ、さぁて、試合場に行くか~~!」

「ああ、そうだな」

意外にも何のお咎めも無く、事は過ぎた。
俺も小声でモナーに言葉を返す。

「(危ねぇだろ~~? 勘弁してくれよ~~)」

「スマソ……あ、そうだ。モナはギコに一つギコに聞きたいモナー」

上手く話題を変えられた気もするが、ここはモナーの話に乗った。

「ん? 何だ?」

「フサはどうしてるモナ? 元気モナか?」

「フサ? おお、元気だぜ? そっか、フサに開放してもらったんだよな」

「うん。だからモナは、ちゃんと会って一言礼を言いたいモナ」

それを聞いた俺は、律儀なモナーに不覚にもちょっと感動してしまった。
そして、モナーの肩にポンと手をかけて言った。

「よし、じゃぁその為にも……」

「このトーナメントは絶対に勝つモナー!」

「おい! グズグズしていると置いて行くぞ!!」

「「今行く(モナ)よ~~」」

俺達は走ってモララーに追いついた。
そしてこれから、俺達は死界のトーナメントに出場する事になったんだ。


よっしゃ! あいつらとの約束守る為にも……いっちょやるか!!
……それにしても、モナーは面白い奴だな~~


<第五章>~死後の世界(後)~

トーナメントに出てきた奴は、意外にも大した事無かった。
モララーに限っては、『弱い奴に興味は無い』とか言って俺達二人に任せる始末。
まぁ生き返ったから、優勝したって事はわかるよな?
でも、優勝してからも俺達はあまり生き返ることができなかった。
生き返らせてもらえなかったんだ。
どうやら、生き返らせる準備に十ヶ月くらいかかるみたいで……あ、時間の流れは現世と同じな。

でも、あの世での生活も結構楽しかったよ。変だよな、これ。
でも本当だ。珍しい物ばかりだし、死人にも会えるし。
俺は父さんと母さんに会ったんだ。そこで第三覚醒を使いこなす術も覚えた。
ま、とりあえずそれはまた今度な。
モララーとモナーはクロノス、つー、八頭身に会ったみたいだ。
実は、そこでモナーはクロノスから『光のエレメント』を受け継いだんだ。
死後の世界って、こんな事までできるんだな。
他にも色んな死人に会ったよ。でも、これでも半年くらいの時間潰しにしかならなかった。
それから、俺達は五ヶ月くらい修行に励んだ。やる事も無かったし、強くなりたかったから。
これで十一ヶ月。これでもギコエルからは何の報告も無い。
俺達の質問も全部流されていた。
痺れを切らした俺達は、ギコエルを責めるように問い詰めた。

「おい! 俺達はいつになったら生き返れるんだよ!」

「そうモナ! もうあれから十一ヶ月、約束の日から一ヶ月も遅れてるモナ!!」

「どう言う事だ!?」

ギコエルを追い詰めると、やっと話す気になったみたいだ。

「まぁまぁ、落ち着けよ。実はな……生き返らせる事をためらっているのには、ある理由があるんだ」

「「「理由?」」」

ギコエルは頷き、説明を始めた。

「実は……現世でまた……戦争が始まろうとしてるんだ。それで、君達が生き返った途端に戦争、と言うのも可哀想だと思ってね……」

俺達は目を丸くした。
また戦争、ってのも大問題だけど、それより問題なのがある。

「バカ野郎!! それなら、尚更生き返らせろってんだよ!!」

「戦争が始まるなら、モナ達も現世に戻って協力するモナ!!」

「そう言う事だ。早くするんだな。俺達の意見は変わらん!!」

「……そうか……よし、それなら準備に取り掛かる!! 待っててくれ!!」

「おお! ……って、え?」

「まだ準備してないモナ!?」

「貴様……殺す!!」

「待て待て! 一ヶ月で終わるから! それまで我慢してくれ!!」

そう言われ、俺達はまた時間を潰すハメに。
んで、また死人達に会ったりして時間を潰した。
そして一ヵ月後、やっとギコエルが俺達に報告をしに来た。

「三人とも……話がある。落ち着いて聞いてくれるか?」

生き返れるという内容の話にしては、かなり深刻な顔をしているギコエル。
俺達は、また生き返るのが先延ばしになったんじゃないのかと思って心配になった。
口数も減り、落ち着いて聞かずとも、体は勝手に落ち着いてしまう雰囲気だった。
俺達が息を呑むと、ギコエルが話を始めた。

「心配しなくても君達を生き返らせると言うのは嘘じゃない。ただ……一つだけ問題がある。今から話すのは……これからの敵についてだ」

俺達はひとまず、ホッと息をついた。
そして、また気を引き締めて、ギコエルの話に耳を傾けた。

「これから戦う敵………―――


     <現在・ギコの部屋>

「組織の名前は『北星』。今回の計画名称は……『DARK CОNCENTRATIОN』……『闇の集結』だそうだ」

部屋に緊張が走る。
ギコがそのまま話を続けた。

「ちなみに……今の俺達の個人個人の力量を『十』とすれば……『七星幹部』は『百』くらいかな」

「そんなに……差があんのか?」

「まず、俺達が第三覚醒をするだろ? 武器が変わるだけでも、『五十』くらいに上がる。それで特殊能力は『プラスα』、神話の生物の召喚術は使い手次第。俺で例えたら、神速状態で『百五十』、青龍召喚で『三百』に上がる」

「ОK、ギコ。その状態なら奴らに難なく勝てるんだな?」

兄者の質問に対し、ギコは首を横に振った。

「今の話は、奴らが通常の状態ならの話だ。俺達が能力を発動すれば奴らも何らかの能力を発動するはずなんだ。そうすれば……俺の『三百』状態の時、あいつらは……」

フサと兄者は固唾を飲む。
ギコの口の動きがゆっくりに見えるほど緊張していたらしい。

「軽く『千』くらいだと思う」

「そんな……」

フサがギコへと質問を投げかけた。

「闇を集めるのに……なんでしぃをあいつらはさらったんだ?」

「それは……しぃが闇をs“色々と詳しいな。もっと詳しく聞かせろよ”

「「「「「!?」」」」」

ギコの声を遮って聞こえてきたのはウララーの声が聞こえてきた。
五人が振り向くと、そこにいたのはまさしくウララーだ。
しかし、何か様子が変だ。

「てめーーー!!」

フサが殴りかかる。
しかし、殴ろうとしたウララーを透き通ってしまう。
フサがそのまま壁に激突。

「ビジョン……か」

“その通り。モララー君、良く出来ました”

(ちっ、完全に馬鹿にされている……)

“ギコ……と言ったな? お前らが聞いた事に間違いは無い。だが……それを知ったとしてどうなる? 力の差が埋まるわけじゃあ無いんだぞ?”

「ああ。でも俺達は強くなる。覚悟してるんだな!」

“くっくっく……面白い。それならゲームをしようか。女の封判が解けるまで後三日だ。三日経たないと俺達の計画は始まらない。三日の間に強くなり、しぃを取り戻し、俺達を止めてみな……楽しみにしてるぜ、ギコ”

ウララーがそう言うと、ビジョンは消えていった。
ウララーの高笑いが遠くから聞こえてくる様な雰囲気だ。
そんな中、フサが口を開いた。

「モナー、後三日って言うのは?」

「うん。嘘じゃないモナ。さっきギコが言いかけたけど、しぃちゃんは闇を制御する力の持ち主なんだモナー。それは第三覚醒でもなんでも無く、しぃの持って生まれた才能。第六感……『シックスセンス』ってやつモナ」

モララーがそれに対し付け足す。

「まだ自分で発動する事は出来ないが、少しの可能性も摘む為に奴らはしぃをさらった」

今度は兄者がモララーに尋ねる。

「三日後は……どうなるんだ?」

それに対し、モララーは淡々とした口調で説明を始める。

「しぃを闇に染めるつもりだ。しぃが闇に染まれば……光を制御する力の持ち主に生まれ変わるからな。それと、奴らは風の力がどうしても必要らしいからな」

「なるほど……三日経たないと奴らは風の力を利用できないから……」

「後三日か……」

フサと兄者が納得の声を漏らした。
そして部屋にはしばらく無言の緊張が走る。

「……」

すると、ウララーの話が終わった頃から、ずっと拳を強く握っていたギコが堅い口を開いた。

「あいつ……何をするっつった?」

「ん? ああ、『ゲームをしようか』って……」

フサがそう言った瞬間、ギコが力一杯壁に拳を当てた。
四人は突然の出来事に目を丸くする。

「ゲームだと……? あいつら……たくさんの命を奪う『戦争』を……『ゲーム』だと!? 許さねぇ!! あいつらは……全滅させなきゃならない!!」

「ああ、無論だ。何より……奴らは俺のプライドを傷つけた。万死に値する」

「戦争はたくさんの命を殺めるモナ……それを黙っては見てられないモナ!!」

「そうだ……だからあいつらは俺達で止めなきゃならねぇ。絶対に!!」

「うむ。五人そろって戦に出るとは……流石だよな、俺ら」

兄者のふざけた台詞も、こう言う場だと団結を固める。
四人は兄者の言葉に反応し、コクリと頷いた。
ギコが手を差し出すと、モララー、モナー、フサ、兄者の四人が手を重ねる。
そして、ギコが四人の目を見回し、堅い決意の目を見せる。

「あっちが北星の『七星幹部』なら……こっちは『南十字星』だ」

モララーの付け足しに、ギコが軽く頷く。
そして、五人は手を重ねたまま、士気を高めた。

「「「「「俺達は南十字星の戦士」」」」」


戦争は……今度こそ俺達が終わらせる。終わらせなきゃいけないんだ!!
戦争をゲームだと言えるふざけた奴らを無くすために!!


<第六章>~修行、改正、出動~

「よし、じゃぁこれから……お前ら四人にはやってもらう事がある」

ギコが四人それぞれの顔を見渡した。
その中に一つ、『納得がいかない、不満気』……そう言った部類の顔がある。

「納得いかんな……何故貴様が仕切る?」

モララーの言い分に、ギコはなんの躊躇いもなく答える。

「俺が一番強いからだ」

プライドの高いモララーに、なんの同様もなくそう言える神経が凄い。
しかし、やはりモララーは頭にきたらしく、その証拠を示せと言う。
その証拠を示す為に話したギコの言葉には、とんでもない事実が含まれていた。

「ふぅ……いいか、この際はっきり言うけど……この中で第三覚醒をちゃんと使えるのは……俺だけなんだよ!」

ため息を一つ。それに続けて驚愕の事実を話した。
もちろん四人そろって驚いた顔をしている。
モララーがコロリと態度を変えて尋ねた。

「俺は貴様と同じく、召喚術まで使えてるはずだが?」

「ったく……召喚術は使い手次第って言ったろ? 人格が変わったから、今の召喚術は全くの別物! それと、お前はまだ特殊能力を使えていない!」

「な……俺の特殊能力はn「二刀流ってか!? そんなしょぼい能力があってたまるか! それはお前の武器だよ! お前の課題は、能力の発動と召喚術が出来る様になる! 以上!」

ギコの怒涛の様な言葉に、あのモララーが何一つ言い返さない。
おそらく、自分でもわかっているのだろう。
ギコの言い分は正しい。ギコの言うとおりにしないと強くなれない。と……

すると、ギコの言葉が途切れたタイミングを見計らって、モナーがギコの前に出た。

「ギコ、モナの改正点を教えて欲しいモナ」

「モナーには召喚術を覚えてもらう。それと、モナーはとにかく戦え! 頭の中のイメージでも何でも良いから、とにかく戦う事! エレメントの経験で言えば、モナーが一番浅い! だからひたすら光の力を使って戦う! わかったか!?」

「了解モナ!」

そう言うと、さっさと外に出て行ってしまった。
走り去るモナーの右手には、既に武器が握られていた。
よく見ると、ギコとモナーの話が始まる前から、モララーは既に外に飛び出している。

「じゃぁ、次はフサ。お前はいっつも熱くなりすぎ! モララーの冷静さを見習え! まずはそれを克服するんだ! それと……お前と兄者はどのくらい修行した?」

「特殊能力は発動できるけどな~~……召喚術はまだだ」

「そうか……じゃぁフサは召喚術な! それと冷静さも忘れるな!」

「よし! 任せろ! んじゃぁ冷静さを見習う為に、モララーんとこ行くかぁ」

そう言ってモララーを探しに飛び出した。
ギコは兄者を見ると、真剣な目をする。

「兄者……一つ聞いて良いか?」

「ОK、なんだ?」

「第三覚醒をして……何か変だと思わなかったか?」

「む、なぜわかる?」

ギコは大きなため息を一つ零した。
やけに呆れた顔をしている。

「やっぱな……この馬鹿!」

「……む?」

その頃……


     <モナー>

「時間が無いモナ……ここで始めるモナ」

モナーが修行を始める場所は何の変哲も無い公園。
しかし、人気は全然無く、それどころか周りに人も見当たらない。

「頭の中で戦うイメージ……ひたすら光を使う……光を使いこなした自分自身の戦いを見つけるのがモナの課題モナ」

そう小さく呟くと、手に光を集めた出した。

「第三覚醒……!」

同じ頃……


     <モララー&フサ>

「ハァハァ……あっ、モララー!」

モナーよりも早く家を出ていたモララーを、フサが見つける。
そこは、山の頂上近くにある断崖絶壁だった。

「なんだ? 貴様と話す事はないんだが……」

モララーは絶壁の傍に立ち、遠くを見つめている。
それは、精神統一の様に似ていた。
フサの呼びかけに答えるも、フサの顔は見ず、遠くを見つめたままだ。
しかし、フサはそんな事は気にせず、言葉を続けた。

「お前は……どうして冷静に戦える?」

全力で走って来たのか、フサの息使いが荒い。
その問いに、モララーは驚いたのか、フサの方を向き話す。

「どうしてだと? まぁ……それが俺の戦闘スタイルだからかな」

「いや、そうじゃなくて……何かコツとか無いか?」

「まぁ、相手の動きをよく見極めるんだな。それを意識していれば、いやでも冷静になるさ」

フサはモララーのアドバイスを受けると、少し頭を悩ませた。

「……実戦が一番だな。モララー、俺と勝負してくれ」

「何? ……ふん、まぁ良いだろう。俺も一つ試したい事があるからな」


     <ギコ&兄者>

「……なるほど。それなら全てに合点がいく」

兄者が納得の声を漏らす。

「ったく……まぁこれで大体わかっただろ! お前の課題」

「ОK、わかった。『武器の改正』だな」

そう言うと、兄者も家の外に飛び出した。
ギコは、フーッと一つ大きなため息をつく。

(さてと……そろそろ俺も始めるか)

すると、ギコも四人に続き家の外へと出た。


     <兄者>

兄者は、誰も使っていない廃ビルの中へと入ってゆく。

「OK、誰もいないようだな。ここなら思いっきり暴れる事が出来る」

兄者が自分の掌を見つめている。
誰もいないビルの中、一人で小さく何かを呟いた。

「……地の力だからと言って、防御に囚われすぎていたようだ。まさか、俺の武器が鎧じゃないとはな……まぁ鎧は元々防具か……」

広げていた手を強く握り締め、拳を自分の額にそっと当てる。
目を瞑り、集中している。まるで瞑想をしているようだ。

(ギコ、感謝するぞ。これで俺はまた一つ強くなれた)

額から強く手を振り下ろす。
握っていた拳を広げ、そこへ力を集めた。

「一つ一つ壁を越えなければ強くなれない。焦りは禁物だ……まずは第一覚醒を極める!」

独り言……と言うより、わざと声に出し、自分の意識を高めている。
集まった力が具現化したそれは、今までとは全く違う……地の鎧ではなかった。

(まずはこれを使いこなさなければ……第三覚醒のそれも役には立たない)


     <ギコ>

ギコは家を飛び出し、ある所へ向かっていた。
辿り着いたそこは2ch研究所。そしてその奥へと進んで行き、N・Cへと向かう。
研究所最深部の部屋へ入り、コアへ飛び込む。


     [N・C]

黄色い体毛に身を包み、ギコは初めてしぃと出逢った場所へと足を速めた。
時間が無い事を一番自覚しているギコは、只それだけの行動にも全力をそそげている。
そのせいか、既にギコは息を弾ませ、肩で息をしていた。

「ハァハァ……ここだ……」

ギコは速めていた足を止めた。
初めて会った時、しぃの座り込んでいた場所を見つめている。

(ここで俺は誓ったんだ……あの誓いを、俺は今でも行使してる……何気ない出逢いだったけど、今思えば運命的だった様にも感じるな……)

冷たい風が、容赦なく猫姿のギコの、尾や耳を揺らす。
吹き荒れる風に逆らうことなくギコはその場を立ち去った。

(絶対に助けるんだ……命を捨ててでも!)

次にギコが向かった先は、モララーと二度目の激闘を繰り広げたあの通り。
その戦いで滅茶苦茶になった筈の通りが、今では綺麗に再現されている。

「よし、とりあえず……『第三覚醒』!!」

凄まじい水気が集まり、一つの力へと集約され、ギコの第三覚醒を完成させる。
恐ろしい程強い力を感じるが、当の本人は納得していない様子だった。

(状態変化に十数秒か……あいつらならこの隙を逃さない。一瞬で出来る様にするんだ!)

今度は元の状態に戻り、再度第三覚醒を始める。
ギコの剣が姿を変えるのに、今回はさほど時間はかからなかった。
時間で表せば、五秒程度である。
しかし、さっきの様な凄まじさは感じられなかった。

「くそっ、これじゃぁ駄目だ! 元の状態と全然変わらねぇ!」

そう嘆くと、またまた元の状態へ戻り、第三覚醒を始める。

(まず水気を体の中に最大限集めて、溜めて、一気に自分の力に変える! これを速く!)

その時、凄まじい水気が辺りを染め、その中心には恐ろしい程強い力を感じた。

「……かかった時間は一、二秒。強さも十分だけど……これでも駄目だ。まだ遅いし、力も弱い! まずは素の自分から強くならないと意味がねえ! やっぱあそこ行くかぁ~~」

ギコの言葉から察知すると、自分を鍛えるために何か心当たりはある様だ。
が、しかし……気分はあまり乗り気ではない様子。

「でも他に心当たりはねぇぞゴルァ……」

そう言うと、ギコは第三覚醒を解かず、神速になるべく『FIRST RISE』を始めた。
そして、今度はN・Cの外へと飛び出す。


     [現実世界]

「レモナさん達なら、何の覚醒もしてねぇ俺より強いだろ。道場は学校の近くだったな」

すると、ギコは学校の方角へと走り去る。
どうやら、レモナやニダー達のいる道場へと行くようだ。

……各々が自ら己を鍛え、月日は流れた。
彼らにとって、その二日間は長い様でもあり、短い様でもあった。
しかし、彼らはこの二日間をプラスの力に変えただろう。


     <決戦当日>

修行を終えたギコ達。
現在は、ギコエルから場所を教えてもらっていた、敵の本拠地を目の当たりにしている。
先頭に立つギコが皆へ話しかけた。

「……これから生死をかけた戦いの中に身を置くことになるんだけど……勝算は?」

それに最初に答えたのは、熱き闘志を持つ炎の戦士。

「バッチリだぜ! 今回こそお前の力になる!」

【フサ】
性別:男
武器:槌
エレメント:炎
覚醒進度:第三覚醒
特殊能力:???
召喚術:???
所属:南十字星の戦士

次に応じたのは、正と静と聖を持つ闇の戦士。

「愚問だ。もう俺は貴様にも負けないからな」

【モララー】
性別:男
武器:刀(二刀流)
エレメント:闇
覚醒進度:第三覚醒
特殊能力:???
召喚術:???
所属:南十字星の戦士

そして、次に口を開いたのは、天使の様な微笑みと、紛れも無い実力を持つ光の戦士。

「もちろんモナー。モナだってしぃちゃんを助けたいモナー」

【モナー】
性別:男
武器:棒
エレメント:光
覚醒進度:第三覚醒
特殊能力:???
召喚術:???
所属:南十字星の戦士

最後にギコへと言葉を投げかけたのは、折れない屈強な心を持つ地の戦士。

「ОK、みんなして勝算有りとは……流石だよな俺ら」

【兄者】
性別:男
武器:???
エレメント:地
覚醒進度:第三覚醒
特殊能力:???
召喚術:???
所属:南十字星の戦士

兄者の言葉に続き、ギコは皆の顔を見渡し、口を開いた。

「みんな。戦うべき理由はそれぞれ少し違うと思う……けど、倒すべき敵は一緒だ。力を合わせるんだ。互いを信じ、自分の信念を貫く戦いをしてくれ。そうすれば……必ず勝てる!」

その後の言葉を見透かしている様に、ギコが言おうとした言葉を皆は知っていた。
ギコに合わせ、皆の声が一つになる。

「We are the crasaders of the southern cross」

【ギコ】
性別:男
武器:剣
エレメント:水
覚醒進度:第三覚醒
特殊能力:能力向上
召喚術:青龍
所属:南十字星の戦士

頼るべき仲間、愛すべき人、護るべき誓いを持った水の戦士。
まだ小さな少年だが、胸の中には多く、大きな信念を抱えている。
その全てを受け入れた少年は、戦場へと足を踏み入れた。
この後、どんな悲劇が起きようとも、少年は信念を貫くと言う瞳をしている。
その瞳に秘めた覚悟は、必ず平和を世にもたらす。
たとえどんな大切な人が犠牲になろうとも、その犠牲が自分であっても……
大きな少年は、この後起きる悲劇に目を反らさずにむかって行く。


しぃ、すぐに行く。お前を闇に染まらせはしない! 奴らの悪事にも利用させない!
絶対に護ってみせる! 俺の命を捨ててもだ!!


<第七章>~五つの顔合わせ~

敵の本拠地である大きな屋敷の前に立ち尽くす五人。
彼らの体のなりを見てみると、AAの姿になっている。
この屋敷はN・Cの中にあるようだ。
おそらく、彼らも見たこと無い場所なのか、最近出来た場所なのか。

「みんな、二日前に言ったとおり、俺達には時間が無い。んで、敵の数が俺達より多い為に、負けは時間のロス」

ギコが、最後にもう一度だけ念を押す。

「負けたらそこでゲームオーバーさ」

無言で頷く四人。
彼らは重い足取りを一歩ずつ進め、その屋敷の門をくぐる。

門を開けたそこには、自称ウララーの側近である、いょうが立っていた。

「ぃょぅ! そろそろ来る頃だとおもったょぅ。ここからは、屋敷内を僕が案内するょぅ」

敵からの思いもよらぬ言葉。
フサが怪訝な顔を見せ、真っ先に反応した。

「信用できねぇな。てめぇ、俺達を罠にはめようってのか?」

「そうじゃないょぅ。お前達を七星幹部のところへ連れて行くんだょぅ。この広い屋敷内を案内役なしで探すのはなかなかに厳しいょぅ」

「なるほど。そっちとしても、邪魔者は早めに消したいってか?」

「そういう事だょぅ! 嫌ならこの屋敷の中で彷徨ってればいいょぅ!」

フサも、頭にきている、と言う訳ではなさそうだ。
しかし、このままでは話が進まないと思ったギコが、フサの肩をポンと叩き、小声で呟く。

「それよりはマシだろ?」

「ああ、そうだな」

長年の付き合いでフサの心情をよく理解しているのか、もしくは、フサがギコの心情を読み取ったか。
どちらにせよ、フサとぃょぅの話し合いもここで、とりあえず一段落。
間に割って入るようにモララーも口を開いた。

「罠だとしても、罠ごと叩き伏せれば問題ない。さっさと連れて行け」

「決定かょぅ? それじゃあ……行くょぅ」

ぃょぅの言葉が終わった次の瞬間、敵味方含め、六人が闇の空間に包まれた。
周りは一切見えず、感覚的には異次元のそれに近い。

「くそっ、やっぱ罠か!」

フサが嘆き、武器を構えようとしたその時……

「じっとしてろょぅ!」

ぃょぅの怒号が鳴り響く。
驚いたフサは、武器を出すのをやめたと言うよりも、武器を出すのを躊躇ったと言うのが適切な表現かも知れない。

「空間転移だょぅ。君達を秘密の宮殿に連れて行くょぅ」

ぃょぅが発動させたその技は、ギコ達を攻撃するものではなく、周りの空間を転移させ、先程の屋敷とは違う、別の場所にある宮殿へと連れて行く為のものだったらしい。
ギコがその言葉を信用し、ぃょぅにあくまで自然体で尋ねる。

「秘密の宮殿って何の事だ?」

「あの屋敷は言わば囮だょぅ。今まで何人もの命知らずが僕達に挑戦して来たょぅ。雑魚を相手にするのにいい加減愛想が尽きたウララー様は、七星幹部を連れて屋敷を出たょぅ。そしてあの屋敷には、命知らずくらいなら簡単に殺せる雑魚達を配置した」

「成る程ね……そんで、雑魚を倒せるくらいの使い手が来たら、宮殿に連れて行くのか」

フサが自分なりの重いを述べる。
すると、ぃょぅが不思議そうな顔をしてみせた。

「宮殿へ連れて行く? 冗談はよしてくれょぅ。雑魚がやられた時は、その命知らずを僕が殺しに行くんだょぅ。お前達は特別だょぅ」

命知らずは雑魚が始末、多少の実力者はぃょぅが始末する。
この図式が本当だとすれば、一つ不可解な点があった。
モララーがそれを言葉にし、ぃょぅに尋ねた。

「何? ならば何故貴様が俺達を殺そうとしない? あの闘技場で俺達が大量に始末したあれは……」

「ああ、お前達の仲間の雑魚だろう?」

モララーの不完全な疑問をギコが完全なものにする。
すると、ぃょぅの口から意外な言葉が漏れた。

「言った筈だょぅ。お前達は特別……もう僕の力はお前達の足元にも及ばなぃょぅ。実戦部隊が動くに値する強さにまで成長してる。とんでもない成長力だょぅ」

そのぃょぅの言葉に、言葉を返す者はいなかった。
だが、五人全員が心の中で喜びの声をあげていたに違いない。
『強くなったんだ。修行の成果はあったんだ』と。

「さ、ここが宮殿だょぅ」

五人が軽い嬉々感を感じていると、それを打ち消すように、ぃょぅが知らせる。
辿り着いたそこには、縦に一直線に長い宮殿があった。

「ここが『六獄殿』だょぅ。僕以外の六人の七星幹部がここでお前達を待ってるょぅ。六つの地獄が……」

ぃょぅの説明を聞きとった五人は、各々で士気を高めている。

「あ、言い忘れたけど六獄殿と言っても、部屋は全部で四つだょぅ。第一の部屋が『剛健の間』、第二の部屋が『刃刻の間』、第三の部屋が『三つ巴の間』、最後の大広間が……『闇の集合地点』。ここにウララー様がいるょぅ。お前達の目的であるしぃも一緒……「しぃ救出は俺の目的のオマケだ」

ぃょぅの長い説明に痺れを切らしたモララーが、言葉を遮りぃょぅに詰め寄る。
そして胸ぐらを掴み、鬼の様な形相で尋ねた。

「ネーノはどこだ!? 答えろ!!」

「焦らなくてもお前達に縁があるなら、望まずともまた合間見ることになるょぅ。戦いの場で……」

「!? どう言う事だ!?」

「ネーノもお前との対戦を心待ちにしてるょぅ」

「!? ……そうか、あいつも……」

モララーが、ぃょぅの胸ぐらを掴んでいた手の力を、ゆっくり解いた。
そして、振り向き、俯きながら四人のいる場所まで歩んでゆく。
そのモララーの顔には、軽い笑みが漏れていた。

「さて、僕の仕事はここまでだょぅ。ここからはお前達五人で進むんだょぅ。今のお前達なら、かろうじて命は守れるだろ」

それを聞くと、五人は顔を見合わせ、無言の意思通信をする。
そして、コクリと五人全員が頷いた。

「よし、行こう」

「おお!!」

ギコの言葉に、他の四人が応答してみせる。
しかし、四人が歩を進めているのに、ギコ一人が立ち止まっている。
そして、顔だけを後ろに向け、ぃょぅと目を合わせる。

「どうした? 怖くなったのかょぅ?」

「いや、一つ気になる事があるんだ」

敵同士とは思えない程、日常的な雰囲気で会話をする。
ぃょぅが、気になる事とは何か尋ねた。
ギコは自然体を壊さずに話を続ける。

「さっきのモララーとの会話の時だ。お前は……ネーノと呼び捨てにしたよな?」

「それが何だょぅ? 同じ幹部だから当然だょぅ」

「それなら、ウララーも同じ幹部の筈だろ? 何であいつは『様』付けなんだ?」

「!? ……確かに、今のモララー様は、みんなと同じ幹部クラスだょぅ。でも、あいつらに会う前は……」

「あいつら?」

「…………」

顔を隠し、歯ぎしりをたて、濁った声でぃょぅが言う。

「……ギコ、ウララーを助けてくれょぅ……」

強く握り拳を作り、震える程に……後悔していた。
後悔、何を? あいつら、誰だ? 助けてくれ……敵に? 

(思った通りだ……こいつら、なんかあるな)

俯き続け、黙りこくるぃょぅに、ギコが叫ぶ寸前の音量で言う。
今のぃょぅと違い、一片の濁りも無く、澄んだ瞳をしている。

「ぃょぅ、とりあえず、俺達は幹部全員を……六つの地獄を全て越えてくる。んで、戦争に終止符を打ってくるからよ……終わったら、全部腹割って話せよ!」

「! ……ああ、約束するょぅ!」

「じゃ、行ってくるぜ、ぃょぅ!」

行き場の無いぃょぅに対し、一番心強く、頼りになる言葉を置いて。
ギコは、入り口前で待っている四人に追いつけと駆け出した。

(『行ってくるぜ』……懐かしい響きだょぅ)

     “ぃょぅ、行ってくるぜ! 夕方には帰るからな!”

昔の事……おそらく、ウララーとの思い出を読み返し、一人たたずむ。
誰に言うでもなく、ぃょぅは呟いた。

「ウララーを……頼むょぅ」


     <六獄殿・入り口前>

「遅い、何を話してた?」

不思議そうな顔でモララーが訊く。
『今の段階じゃ、何も言えない』と判断したギコは、軽く流し、さっさと新しい話題を用意した。

「いや、まぁ大した事は話してない。そんな事より、準備は良いか? 中に入るぞ」

ギコがそう言うと、五人は宮殿の中へと入って行く。

     <『剛健の間』>

第一の部屋の扉を開いたそこには、闘技場にも来ていた男がいた。
殴られる様な重い威圧が、五人に襲い掛かる。
あそこで見た限りでも、かなりの強さを持つ男が、一番手。
そして、それならば、以後に現れる敵は、全員クックル以上の強さなのか。
不思議と不安が、モナーの言葉を編む。

「最初からお前かモナ……クックル」

「……」

鶏の様なAA、クックル……相変わらず無口である。
しかし、鋼の肉体とも言えるその体つきは、正に『剛健』と呼ぶに相応しかった。
ギコがモナーを見ずに尋ねる。

「どうする……モナー。やっぱお前が行くか?」

「……いや」

「!?」

「そう言う私怨的な戦いは自分自身のペースを乱すモナー。ここは止めとくモナ」

思わぬ返事がギコに返ってきた。
モナーもモララーと同じく、リベンジに燃えていると思っていたが、違うようだ。

「じゃぁ、誰が……」

「OK、俺が行こう」

ギコが決めあぐねていると、兄者が名乗りを上げた。
すると、四人は躊躇いもせず兄者に

「よし、任せた!」

と言うと、さっさと次の部屋へと進んでしまう。
そこまで簡単に決めてしまうのは諦めか、もしくは強い信頼か……
時間のなさも関係しているだろうが。

「さて、始めようか『剛健』。言っておくが、俺は負ける気は無い」

「……貴様の鎧でも、俺の拳は止められん」

「鎧? 古い情報を集めているのだな。生まれ変わった俺の力を見せてやろうか?」

「何人たりとも俺の拳は止められん!」

「……OK、俺が止めてやろう」

次の間へと走って向かう途中、モナーは顔を伏せていた。

「モナー?」

誰が言ったでもない、皆(モララーを除く)が抱える心配だった。
しかし、モナーは顔を上げず、ただ手を軽く振って答える。

(そう、私怨は駄目モナ。ペースが乱れて……)

思いの言葉の、最後の、抑えたい気持ちの部分だけが、小声で声に出た。

「殺してしまうモナ」

それを聞いた者は、当然いない。


     <刃刻の間>

先を急いだ四人は、第二の部屋に着いていた。
そこにいたのは、モララーの撃つべき敵であるネーノである。
そこは、クックルの重くのしかかる様なそれと違い、心臓や首など、急所を突きたてられる様な鋭い威圧感が漂っていた。

「ふーん……ちったぁマシになったんじゃネーノ?」

「何とでも言え。俺は貴様に勝つ為に全てを捨てて……強くなった」

「モララー……気をつけろよ」

「無論だ。ギコ、お前達は先を急げ」

すると、三人はコクリと頷き、またあっさりと先へ進んでしまう。

「見てもらってた方が良いんじゃネーノ? お前の骨は誰が拾うんだ?」

フン、と鼻息を軽く吹き、口の端を釣り上げる。

「俺もなめられたものだ」

モララーは右手に力を集め、第一覚醒を始める。
そして形成された剣をネーノに向けて言った。

「あいつは必ず止めに入る。正直、邪魔だ。貴様を……殺すのにはな」

モララーのその言葉に対し、ネーノは不敵な笑みを浮かべた。

「……楽しみじゃネーノ」


     <三つ巴の間>

第三の部屋に到着した三人。
そこには、見たことの無い謎の三人が、大きな椅子に座っていた。
その三人は皆同じ顔、同じ体系をしている。
もちろん、性格や能力はそれぞれ違う筈だ。
特徴としては、鋭い釣り上がった目つきにAAにしては珍しい髪のある者達だった。
腰にまでかかる長さの髪で、髪の色は体の色と同じである。
身長は高くも低くもなく、体格も細くも太くもない。
良く見ると、瞳の色も、それぞれの体の色をしている。
まるでその色が、それぞれを主張している様だ。
右から順に、フサと向き合う赤いAA。
真中に、ギコと向き合う黄のAA。
そして、モナーに向き合う透き通るような水色のAA。
威圧は……不思議と、感じない。

その、まるで一国の王が腰掛けるような椅子に座っていた三人が、同時に腰を上げる。

「ようやく来たか。戦の始まりじゃ」

「ああ、その様ですね。それでは即座に始め、手早く終わらせましょうか」

「ヒャッハハ! 皆殺しだ! 墓を三つ用意しなきゃな!」

予想通り、性格ともとれる喋り方は、各々バラバラだった。
が、しかし、三人それぞれの特徴と思っていた色。
その色の印象と喋り方の特徴は、まるでかけ離れていた。
赤は、熱くも冷めてもいない、ジジ臭い喋り方。
黄は、丁寧な敬語で、知的に思え、聞こえは何故か底が見えない響きだった。
そして、水色。穏やかな色のイメージが一斉に崩れるほど、荒々しく、好戦的な言葉だ。

「……よくわかんねぇ奴らだな、ゴルァ」

「ホントだぜ……色別で分かりやすいかと思ったら……」

「口調は色のイメージと全く違うモナー」

三人が、尤もな意見を漏らす。
が、敵は何ともせず、ただ戦いを求める。
その殺気を察知した三人は、ただ無言で武器を構える。
水の剣、炎の槌、光の棒と言うそれぞれの特徴的な武器。
相手もそれに触発される様に武器を手に持つ。
赤いAAが持つのは、単なる茶色の棒。
に見えるが、頂点に三重丸の模様が、手で持つちょうど親指の辺りにスイッチの様な物が。
拳から少々はみ出る程度、その大きさの、銀色の筒を持つのは黄のAA。
その筒には、上と下にそれぞれ窪みがある。
そして、水色のAAが持つのは、小さな黒いハンドガン。

「あの武器にはどういう秘密があるんだろうな……あの、銀色の筒」

フサが首を傾げてギコに問う。
すると、ギコは指をバキボキ鳴らし、名乗り出た。

「あの黄色いのは俺がやる」

「……ギコ、あの得体の知れない武器に心当たりがあるモナか?」

ギコの名乗りに、ピクリと耳を反応させ、ギコの顔を見てモナーが訪ねる。

「いや? 全然わからない。けど……あいつの体見てみ?」

「……黄色いモナね」

「ああ……俺はな」

言葉を中断させ、ギコはその黄色いAAの元へと歩を進めた。
そして、二人の方へ振り向かずに、怒りを込めた言葉を発する。

「キャラがかぶるってのが、大っ嫌いなんだ!」

「……」

「……」

「? どうしたんだ? 二人共?」

(くっだらねぇ)

(意味わかんないモナ)

「?? ま、俺があいつと勝負する事に文句ないんだろ?」

二人は変わらず無言。
代わりに、ギコの憎き(とても個人的、かつ小さな)仇である黄色いAAが答えた。

「ああ、構いませんよ。早速、始めましょうか?」

戦いが始まるというのに、自分自身で戦いの狼煙を上げているというのに、淡々とした口調は変わらない。

「……その態度、ちょっと腹立つぜ。度肝を抜かした上で、倒す!」

黄色い二人のAAの周りに、威圧感が漂う。
が、それもギコの威圧感のみ。戦闘直前でさえも、未知なるAAの威圧は感じない。
それを見ていたフサが、口を開く。

「さてと、じゃぁ俺はあの戦い好きの方でいいぜ」

「さっきの言葉から察するに、残った二人はどっちも戦い好きモナよ」

「水色の方だよ」

「ならモナは、あの赤い方……」

二人の相手が決まろうとしたその時、彼らを一つの影が覆った。
上を見上げる二人。不意打ちで宙に跳び上がり、二人に向かって拳を振り被る水色のAA。
不意打ち、否が応でも殺気が感じられるはず。
しかし、殺気は感じない。
反応が遅れた二人。
床を蹴り、自分の体勢など気にもかけず真横に跳ぶ。
不意打ちは辛うじて避けた。
だが、この時から二人は違和感を抱くことになる。

(何で、殺気どころか、気配すら感じなかった!?)

(こいつら、どこか普通の人間(AA)と違うモナ!)

両者、不安定な回避のため、肩を床に擦った。
が、掌を床に叩きつけ、その反動を利用し、体勢を立て直す。
その一瞬、フサは槌を持ち、不意打ちの仕掛け人の懐に飛び込んだ。

「モナー、あっちはお前に任すぞ!」

「了解モナ!」

同じく、モナーも手に武器を持つ。
フサを背に、部屋の中にある赤に向かう。

フサが槌を上から下に、水色のAAは射程距離から身を逃がした。
それにより、ある程度距離が取れた。即ち、フサにとって話す時間が生じた。

「お前達、どっか変だ。なんか……秘密があるな?」

「ヒャハハ! 秘密だと!? それがどうした!? 俺は殺しが出来ればそれで良い!」

戦闘中なのに、フサは辛うじて聞き取れる聞き取れるくらいの小声で喋っている。
冷静とはとれないが、熱くなっていないのは確かだ。
その逆、敵はひたすら鼓膜に響く大きな声。
熱いのは確かだが、その反面隙が見当たらない。
熱さを戦闘力にする術を熟知している証拠だ。
フサが槌を方に掛け、水色のそれを指差して言う。

「コテンパンにして吐かしてやるぜ」

「我はメシアなり! ハハハハハ!」

フサ達と同程度の距離をとっているモナー。
これもフサと同じく、違和感の疑問を問う。
すると、赤いAAはその言葉に耳も傾けない。

「ワシはただ戦を欲する。主の問い等には、答える気も興味もない。来い!」

「いけないモナ……」

モナーは小声で、だが敵に聞こえるくらいの音量で声を漏らした。
そして、それを続ける。

「答えが聞きたいからといって……戦いが始まるといって……『ペースを乱す』のは……」

「? なんじゃ?」

「抑えられない、勝負を始めるモナ!」

「む、主にも戦好きの血が流れておったか。よかろう!」


     <全局面戦闘開始>


モララーのプライドの高さは、リベンジマッチとかじゃぁ有利だな。兄者はどれくらい強くなったかによるな。それと、フサとモナーも気付いただろうけど……こいつら、何か妙だ。けど、負けるわけにはいかない!


<第八章>~新しい訪問者~

五人の戦士が戦う場、『六獄殿』。
そこに着く前、彼らが戦場だと思い、足を運んだある屋敷。
その前に、ボロボロの布を体に纏い、顔までそれで隠した者がいる。

「ギコ、君達はここで戦っている筈だと思ったが……気配は無いな」

ギコの名を口にした事から、彼に縁のある者だというのは、わかった。
しかし、布に包まれているため、何の特徴も見えない。
故に何者かもわからない。


     <六獄殿前>

真に彼らが戦っている宮殿の前、思い悩んでいる者が地に腰を下ろしている。
そこにいるのは、ぃょぅのみ。
そのぃょぅが、何かの気配を察したらしく、俯いていた顔を上げる。

(屋敷に誰か来た……ギコの仲間かも知れない、一応会ってみるかょぅ)

そう判断を下したぃょぅは、重い腰を上げ、自分のみ空間を転移させる。


     <屋敷前>

ウララーの側近(くどい様だが、自称)と、謎の訪問者が顔を合わせる。
否、一方は顔を布に包んでいて、顔を合わせるとは言えない。

「ぃょぅ、感じた事ない気配だけど、誰だょぅ?」

ぃょぅが先に尋ねる。
すると、失礼を感じたためか、訊かれた側が、布を脱いだ。
そこであらわになった顔、それは―――

「! お前は……!」

「ギコはどこで戦っている? 彼の下へ案内してくれ」

間違いなく、彼に縁のある者の顔。


     <剛健の間>

六獄殿第一の部屋の番人、クックル。
それに相対する、地の使い手、兄者。
その二人だけの空間の中、戦いの合図とも言える言動を兄者が。

「俺の武器は鎧じゃない、それを見せてやろう!」

兄者は軽く力を集め、第一覚醒を始める。
集まった力は、鎧の様に体全体を包まず、兄者の両拳だけを包む。
形成された武器、それは……

「爪……?」

クックルが言う通り、爪。
各指の長さを、もう一本づつ伸ばしたくらいの長さの、鋭利な地の刃物が兄者の指先に伸びる。 拳は、グローブ形状の土が包んでいた。

その武器を手に、兄者は床を蹴る。
一気にクックルの懐まで詰め寄り、眼前で足を止めた。
突然の戦闘開始から、間髪入れずに足を上げる。
勢いをつけている右足は、クックルの左脇腹へと向かった。
クックルは左手で、その足の勢いを止め、掴む。
その隙に、兄者は左の手刀で、クックルの顔面を狙った。
右足を上げたままの状態で。
クックルは、今度は右手でそれを掴む。
そのまま、兄者の右足と左手を、離した。
そして、兄者の右足が地に着く前に、兄者が左手を構える前に、左拳を腰につける。
不安定な体制の時に、左正拳が腹を襲った。
かろうじて腰をひねり、避ける。
兄者は右足をしっかりと地に着けた。
眼前には、クックルの伸びきった腕が。
その肘に、左手を。拳には、右手をそれぞれ添える。
その掌に力を込め、肘を上に、拳を下に力一杯、押した。
すると、クックルは宙に浮き、兄者の頭上へと引き寄せられる。
型違いの一本背負いの様に。
クックルは、その兄者の攻撃を、自分の攻撃へと変える。
引き寄せられる力を利用し、右膝を兄者の顔面に向けた。
兄者はとっさに反応し、膝を曲げ、しゃがんでかわす。
一本背負いの体勢が崩れ、クックルは両足でしっかり着地。
兄者の腹と顔に向け、両拳を突き出す。
兄者は軽く跳び、体を宙で横にし、クックルの腕と腕の間に入った。
そして、宙に浮いたまま右足をクックルの顔めがけ伸ばす。
腕で防げないクックルは、それを頭突きで叩き落とした。
そして、両者いっせいに跳び退き、ある程度の距離をとる。
兄者の右足の甲は痺れ、クックルの頭からは、少し血が滲んでいる。
突然の攻防を経て、クックルがここぞと言わんばかりに、兄者に語りかけた。

「わからんな……必死で自分の能力を改正したと言ったが、何故その爪を使わない? まさか、使わずとも勝てると思ってるのか?」

その疑問に、兄者は焦らず答える。

「まさか。お前にはそう簡単に勝てるとは夢にも思っていない」

しかし、心の中の答えはこうだった。

(まさか、改正したのが二日前で、編み出した技は、『第三覚醒での一撃必倒の技のみ』とは、口が裂けても言えないな)

クックルほどの強さの持ち主ならば、兄者が爪を使った攻撃を一回繰り出すだけで、型がなってないとわかるだろう。
それを察し、兄者は爪の攻撃を使わないのだった。

「ふん、ならば、貴様が爪を使う前に、俺が貴様を殺してやる」

だからと言って、使わずに勝てる相手でもない。
兄者は今、密かに必死の決断を迫られているのだった。


     <刃刻の間>

この第二の部屋の番人は、闘技場での戦いで、モララーを完膚なきまで負かしたネーノ。
そして、対するはその負けの張本人、リベンジに燃えるモララーだった。

「行くぞ!」

先に動いたのは、モララー。
ネーノに向かって、床を蹴る。
ネーノの間合い一歩手前で、もう一度床を蹴った。
ジャンプしたモララーは、ネーノの頭上から、剣を振り下ろす。
ネーノは、なんと、それを手で受ける姿勢をとった。

(!? 馬鹿め、切り落としてやる!)

モララーの剣が、ネーノの腕に当たる。
ガキーーーーィ!
と言う、刃物と刃物が擦れるような音が、部屋一杯に響いた。
モララーは目を丸くする。
ネーノの腕が、しっかりと剣を受け止めている。

「早速だが、俺の能力を教えてやる」

ネーノが、不敵な笑みと共に、言葉を零す。
モララーは着地と共に、間合い三つ分は退いた。
が、眼前に迫っているのは、部屋の明かりを反射させている、ネーノの右腕。
顔をひねり、どうにかそれを避ける。
だがそれは、ギリギリ、モララーの頬を掠めていった。
モララーの頬に、横一線の傷が刻まれると同時に、少し血が噴き出す。
伸びていった腕は、まるでゴムの様にネーノの元へ帰っていった。
何が何だか分からないモララー、しかしネーノの言葉で、合点がいく。

「体の一部を、伸縮自在の刃物に変える。威力は今ので証明済みじゃネーノ?」

「確かにな……」

モララーは自分の頬を、空いている方の指で触れ、血を拭う。
そして、指を弾くようにして、血を飛ばした。
そして、まさかの、突然の第三覚醒を始める。
第二覚醒は、既に体に染み込んでいて、第一覚醒で武器を形成していなくとも、発動する事が出来る。
第二覚醒をとばし、第三覚醒にいっても、なんらおかしい事は無い。

モララーの体に、黒い、しかし正しさを感じさせる気が集まる。
それが一気に両手に集まり、二本の剣を形成させた。
右手に日本刀『色即是空』と、左手に洋刀『メテオム・ヴァルキリー』。
そして、左側の腰に、日本刀の鞘。
背中に、左肩から右側の腰にかけて、洋刀の鞘が。

「さっさと終わらせよう。リベンジは早い方が良いからな」

「いいぜ。けど、リベンジは一生、無理じゃネーノ?」

「以前までの俺なら、確かにそれは無理だった」

まるで、モララーの言葉とは思えない、弱気な発言。
しかし、それは過去の話。
その過去の弱気の裏には、現在の強気が含まれている。


     <屋敷前>

驚いたぃょぅは、断る気の無い彼の注文を、無言で返してしまう。
しかし、数秒後、我に返ったぃょぅは、すぐに空間転移の準備をした。

「お前なら大歓迎だょぅ。ギコに手を貸してやって欲しいょぅ」

「無論、私はその気でここへ来た」

ぃょぅは、自分は闇に包まず、訪問者だけを空間転移させる。

「三つ巴の間に飛ばすょぅ。そこでギコは戦ってる」

「そうか、助かったよ、ぃょぅ」

「!? なんで僕の名を知ってるんだょぅ?」

「知っているさ。〝白虹の零〟の使者、そのコピーもここにいるんだろ?」

「!! 一体どこでそんな情報を……」

「情報を集めるのが得意なんでね。行って来るよ」

〝白虹の零〟。何の事だろうか。
意味不明な言葉を残し、赤髪の男は三つ巴の間に向かった。


     <三つ巴の間>

三つ巴の攻防。
南十字星の戦士、その三人は今、劣勢。
第一覚醒の状態とはいえ、紙一重で各敵が一枚上手だった。

ギコは剣を振るう。
だが、当たらない。
敵はまるで、ギコがどこにどう剣を振るか知っている様に、ギコの剣撃をかわす。

「くっそ~~、やっぱ何か変だぜ……」

正確には、ギコの心情が読まれていると言うより、相手の心情がちっとも読めないため、ギコが攻めあぐねている、と言うのが正しいだろう。
しかも、おかしな事に、相手からの反撃が無い。
相手の妙な銀色の筒も、正体を現さない。

他の二つの戦況も同様。
ただ違うのは、反撃がある事。
証拠に、モナーとフサの顔や体には、痣が見られる。
だがそれは、拳でしか攻撃を受けていない事にもなる。

しかし、ここで戦況が動く。
彼らが、更に不利になる状況へと。

「ハァーッハッハー! 弱ぇなァ! ドーク、シャオン! そろそろ使おうぜ!」

「うむ、ワシはメシアに同意じゃ! シャオン、主はどうじゃ!?」

「ああ、そうですね。私もそろそろ攻めましょうか」

敵が武器を使う。
彼らが更なる劣勢へと向かう狼煙だった。
だが、『更に』戦況は動く。
今度は有利な方向へ。

「ギコ、フサ、モナー! 彼らに心は無い! ガムシャラに攻めるんだ!」

と、聞き覚えのある声が響く。
強さに満ちた声が。
そこを見ずとも誰が来たかは、来てくれたかはわかった。
それでも、声の聞こえた方を向く。
彼らにとって、最強の助っ人。

「来てくれたのか!」

ギコが叫び、彼の名を三人の声が呼んだ。

「サザン!!」


まさか、サザンが来てくれるとは思わなかったな。これで六対六。ウララー、覚悟してろよ!

<第九章>~特名~

かつて、『赤髪のサザン』と恐れられ、その赤い髪をみるだけで、逃げる者も少なくなかったと言う。
その赤い髪は、AAになっても変わらない。
部屋に僅かに入り込む風が、その髪を揺らす。
髪が揺れ、時折見せる瞳は、ギコやフサと同じ、白。
肩にかかる程度の後ろ髪、目が少し隠れる程度の前髪。
そして、猫の耳。
顔、体は赤。
そのサザンの、N・C限定のAAの姿。
ギコ達は見たこと無い筈だが……
おそらく、後から飛んで来た、聞き覚えのある声。
話だけで聞いた、その赤い髪。
そして、何より彼らの絆が、そう言う核心を持たしたのだろう。

「彼らはコピーだ! 本物は、こことは別の場所にいる!」

その聞きなれた、しかし久しぶりな、サザンの助言が耳に入る。
サザンの助言、ギコは何度、この助言に助けられただろうか。
心の底から信じさせられる。
信じずにはいられない。
サザンの助言は、絶対に俺達を助けてくれる。
そう感じたのか、フサとモナーが、言われた通り、ガムシャラに攻め始める。
しかし、ギコは敵との対戦を放棄し、サザンの元へと走る。
まるで戦闘意欲の無い、ギコの相手改め、シャオンは、追う事も呼び止めもしない。
ギコがサザンの元へと辿り着く。何事も無く。

「サザン、久しぶり!」

ギコは手を挙げる。
サザンも答える様に、手を挙げた。
そして、パチン、と互いの手と手を叩く。

「ギコ、彼との戦いはいいのか?」

サザンは、横目にシャオンを睨みながら言う。

「ああ、あいつ、さっきから反撃もして来ねぇから」

「反撃が無い? まさか、彼はシャオンと名乗ったか?」

サザンは、やはり知識が豊富だ。
初対面の敵の、名も知っていた。

「別に名乗っては無いけど、敵同士の会話でわかったぜ?」

「そうか、君は〝炎涼の螺旋〟のコピーだな?」

横目でしか見ていなかったサザンが、体も顔もシャオンに向け、言う。
シャオンは、やはり涼しい態度で言った。

「ああ、そう言うあなたは〝万識の電槍〟。お会いできて光栄です」

その二人の会話を、傍で聞くギコだが、もちろんチンプンカンプン。
かろうじて聞き取れた言葉を、口にしてみる。

「え、えんりょう? ばんしき?」

「特定の人々の特徴を由来に名づけられた異名、これを略し、『特名』と言う。そして、彼の特名が〝炎涼の螺旋〟。実は、彼の能力は炎だ。しかし、それに反し、何時でも涼しい態度をとる事から、炎涼が名づけられた」

丁寧なサザンの説明に、ギコは頭を縦に大きく振る。
それでも、いくつかの疑問が浮かんだ。
とりあえず、一つ聞いてみる。

「じゃぁ、螺旋は?」

それに対しては、サザンでは無く、シャオンが答えた。
が、自分が説明するからと言って、自慢する様子ではない。

「螺旋の由来は、私の武器の特徴です。ちなみに、あなたの隣にいる『赤髪のサザン』。彼は最近、様々な場所を旅し、近寄ってくる悪しき者は、問答無用で叩き伏せてきました。それで彼の能力、武器、豊富な知識は有名になり、今の特名、万の戦闘知識で電力を纏う槍を操る、〝万識の電槍〟が名付けられたのです。『赤髪のサザン』と呼ぶ者は、もういないでしょう」

ギコは、口を開き、ポカーンとしている。
隙だらけで、攻撃が飛んできたら、一撃であの世へ行きそうだ。
そして、そんな、まるで新時代の様な会話に挟まれ、ギコが漏らした感想は……

「か、カッコいい……」

の一言。
何がカッコいいのか、ギコ自信は何を指して言ったのか、ギコの次の言葉に期待しよう。

「ギコ、一体何が?」

サザンは、あえてカッコいいと言う言葉を省いた。
理由は、秘密である。

「その特名だよ! 俺には、何か付いてないのか!? 特名!」

今度は、サザンが気を抜く。
しかし、サザンの態度も納得である。
やっと英雄の貫禄が出たかと思いきや、やはり子供だ、と言う部分を見せる。
結局は、子供は気まぐれだと言う事だ。
目をキラキラ輝かせ、期待するギコを見ると、事実が言えなくなる。
そんなサザンを置いて、〝炎涼の螺旋〟ことシャオンが、残酷な事実をさらっと口にした。

「ありませんよ。あなたはコピーである私と同等、もしくはそれ以下。未熟な上に、ほとんど無名。せいぜい、一部の者に『英雄』と呼ばる程度でしょう」

ギコは顔を伏せ、肩がダラーンと力なく垂れる。
『ガーーーン』と言う効果音が、今にも聞こえそうだ。

「ああ、そうですね……〝万識の電槍〟の様に、世界を旅し、数多くの強者に打ち勝ち、私の本体の耳に届く程に名を轟かせれば、もしくは……」

言いつつ、シャオンが銀色の筒を、眼前に構える。
そして、上下のくぼみに気が集まり、刀の刃が現れた。
上の刃には、右向きに刃、左向きに峰。下の刃は、それの逆。

「剣? 反撃の無い理由とか、螺旋の由来とか全然関係ないじゃんか!」

「いや、見ていれば分かる」

ギコが怪訝な顔で尋ね、サザンが即答する。
それに答える様に、シャオンは自分の手の内を明かした。
銀の筒を指先で持ち、指を器用に操って、その上下の刃が、円を描くように回す。
結果、それは双刃の盾となった。

「これが、螺旋の由来ですよ。守りが私の戦法ならば、反撃に出ないのも分かるでしょう?」

「な~る程。けど、盾で守ってばっかじゃ、勝てないぜ?」

「ああ、勘違いしないで下さい。これは、『武器』なので。『防具』では、ありません」

ギコの耳がピクリと反応した。
そして、戦闘を再開するつもりか、足を一歩踏み出す。
が、サザンがギコを手で押さえ、言った。

「ギコ、君はウララーの元へ」

そして、サザンは武器を取り出す。
第一覚醒、特名にもある様に、それは電槍。
今、世に名を轟かせている様だが、『赤髪のサザン』も、十分異常に強かった。
しかし今、名が広まっているのは、〝万識の電槍〟。
何が違うのか、あれから更に強くなったのか。
勝てるのか。
いくつかの疑問は、サザンの強気な一言によって、嘘の様に消えた。

「彼が私の特名を知っていたと言う事は、彼の本体も知ってる筈だ。即ち、少なからず〝炎涼の螺旋〟は、私を警戒している訳だな。だろ?」

自信ありげなサザンの質問。
シャオンは、サザンの期待を裏切らなかった。

「ああ、確かに、『警戒してません』と言えば、嘘になりますね」

内心、少しの安堵があった。
サザンは、自分の強さに自信を持っていいほどの、実力だ。
それでも、〝炎涼の螺旋〟は、間違いなくサザンよりも強い。
一種の目標であり、憧れでもあった。
それほどの男が、自分を警戒している。
そう思うと、嬉しくもあった。
しかし、その感情は表に出さず、そのまま言葉を続ける。

「そして、コピーは本体の『三分の一』の強さだ。本体には届かずとも、目の前にいる敵には……絶対に勝てる」

ギコは確信した。
サザンは勝つ。
絶対に勝ってくれる。
勝てないわけが無い、と。
ギコ自身は、サザンは〝炎涼の螺旋〟本体にも、勝てるんじゃないかと密かに思っていた。

「サザン、頼むぞ」

「ああ、任せろ」

ギコの小さな(本人が言うには、かなり重大な問題)恨みは、どこへやら。
ともあれ、ギコは『三つ巴の間』を飛び出した。

「さて……フサ! モナー!」

「!?」

サザンが叫び、多少の傷は気にせず、ガムシャラに攻めていた、フサとモナー。
しかし、サザンの声が響くやいなや、ある程度の距離を取る。

「第三覚醒だ! 彼らに勝てねば、到底ギコにはついていけないぞ!?」

「!? よっしゃ、任しとけ!」

「少し早い気がするけど、そろそろ見せてあげるモナー!」

彼らの体に、それぞれの属性の気が纏う。
大きく強い気、しかしそれをすぐに凝縮させ、自分の力へと変えていく。

「第三……覚醒!」


     <闇の集合地点・通路>

三つ巴の間を出、通路に飛び出したギコ。
今、彼の顔には、驚愕の色が見られる。
その通路に、無数の気配を感じた。
否、気配と言うには、ハッキリしすぎている。
敵の姿は、もう目で見えているのだから。
ウララーではない。
未知の敵でもない。
確実に、対峙したことのある敵。
それは、二日前。
新たな敵が現れ、しぃをさらわれ、自分達は完膚なきまで叩きのめされた。
そして、今その渦中にいる、この戦争が起きたその日。
とてつもない数のそれを倒し、その敵は全滅かと思っていた。
しかし今、彼の目の前にいるのは、間違いなくあの時の雑魚。
ジエン、シラネーヨ、ようかんマンと言う名だったはず。
その数は、闘技場で見た時と大体、同じ数。
五百前後、今度はこの数をギコ一人で相手にしなくてはならない。

「ウララーの奴、こんなん用意してやがったか! こんなもん、あの時みたいに水で……」

ギコの言葉が途切れる。
あの時は、水で場外に流した。
しかし、今回は場外などない。
その上、下手に攻撃をすると、先の部屋までに影響を及ぼす。
この先には、しぃがいる、その状況がわからないと、どう攻撃をしていいかわからない。
彼はしぃを守るという誓いを持っているため、人一倍この場面に臆病になった。

「くそっ、ウララー! 正々堂々勝負しやがれ!」

ギコは叫ぶ、しかしその声は届かない。
しぃにも、ウララーにも。
ギコは、第一覚醒からその上の覚醒に発展させない。
ウララーとの勝負に、水力を全て溜おくつもりらしい。
しかし、この状況でそのギコの思考は、戯言と言うに相応しかった。

「ちくしょう、剣五百振りで終わらしてやる!」

ギコは剣を構え、雑魚の群集に立ち向かった。
剣を一振り、敵は固まっているため、複数の敵が倒れる。
しかし、攻撃後の隙を狙い、ジエン一匹が体当たりを仕掛けた。
ギコはもちろん隙だらけ。
彼の腹に直撃した。
ギコはよろける、敵の攻撃は止まらない。
ウララーの作戦を、『敵の体力消耗』と思っていた、ギコ。
が、ウララーの狙いは、そんなに甘くなかった。
あわよくば、ギコをここで倒せれば、くらいに考えているに違いない。
よろけた所に攻撃の雨が降り注ぎ、ギコが床に叩き付けられた。
その上に、雨は容赦なく降り注ぐ。
満身創痍。
戦闘開始、否、乱闘開始後の数秒で変わり果てた、ギコの姿。
口からは血が垂れ、頬は腫れ、体中には痣が見られる。
立つ気力も、微塵も感じられない。
まさか、既に力尽きたのか……そんな筈は無い。
彼のこの戦いに対する、この戦争に対する意気込みは、何よりも強い。
しぃを守るという誓いは、海よりも深い。
彼女を守るという約束は、空よりも高い。
絶対に、彼は立ち上がる。
しかし、その希望を押し潰すように、落下軍団第二陣が飛び掛る。
その意気込み、誓い、約束、希望もろとも押し潰されるのか……。
その時、

「『水柱-逆滝』!」

ギコの声が鳴り響き、彼の体を支点に、水の柱が上に打ちぬけられた。
飛び掛った雑魚十数体が、天井に叩き付けられ、そのまま床に落ちてくる。

(水力消耗は、ある程度仕方ない。しぃに影響が無い様に、ぶっ潰す! 絶対に勝つんだ!)

そして、ギコはよろけながらも、立ち上がる。
何故? 負けたくない、勝ちたいから?
戦争を終わらせたいから?
誓いを、約束を守りたいから?

     しぃを護りたいから?

全てが当てはまるだろう。
何故なら、

「俺の、この戦争への意気込みは……」

彼の、この戦争にへの意気込みは、

「誓いの、約束の重さは……」

誓いの、約束の重さは、

「しぃを護りたい気持ちは……」

しぃを護りたい気持ちは、

「しぃへの想いは……!」

しぃへの想いは、

     「何よりも、何よりも強い!」

何よりも強いから。


しぃ、すぐに行くから……絶対に護るから……
もう少しだけ、あと少しだけ我慢してくれ。


第九章~一の間と、二の間と、ギコの行方~

<剛健の間>

六獄殿の第一の間、そこにいるのは二人の男。
肉体を鋼の域にまで鍛えたAA、クックル。
地のエレメントの適合者であるAA、兄者。
その二人が戦う最中、静かな部屋に一つ、

「……なんだと?」

と、クックルの疑問の声が響く。
兄者の決断、それは、

「聞こえなかったか? 第三覚醒、と言ったのさ」

第三覚醒。
兄者は今、既に第三覚醒後の姿になっている。
両手に、指から肘までの長さを延長した、地の爪が付いている。
そして、体に纏っているのは、地の鎧。

「地の力は防御が真骨頂」

第一覚醒に比べ、より長さと凄みを増した、爪。
それだけでも、相手にとっては十分に脅威だ。
しかし、その上、鎧まで纏っているとなると……
射程距離が長く、殺傷能力の高い爪。
隙を突かれても、半端な威力なら無効化してしまう、地の鎧。
死角が、無い。

「なかなか、良い組み合わせだ」

「どうも」

短いやりとりを終え、自分の武器が届き、敵の攻撃が届かない。
そういう距離に、兄者が飛び込む。

(ここまで長い爪ならば、型どうとかは、関係ない!)

ある意味、開き直った兄者が、左の爪を振るう。
クックルの真横から、五本の爪が襲ってきた。
しかし、クックルは避けず、逆に兄者の懐に入ってきた。
一瞬にして。

「し、しまった!」

落胆の声を零したのは、兄者。
そう、懐なら、爪の攻撃は関係なく、しかも自分の射程距離に入れる。
まさに、攻防一体の術だった。

(くっ、多少の衝撃は鎧が受けてくれるが……)

兄者が、この攻撃を受け、次はどう動こうかと思っていたその時、

「甘い」

と、重い言葉が兄者を襲った。
兄者の懐で、右の拳を腹に添える。
そして、

「ふん!」

気合の言葉が耳に入ってくると同時に、兄者の腹に激痛が走る。
目の前には、石の破片の様な物が、宙に浮いている。
腹に気を配ってみれば、自分の腹に、確実に拳の感触を感じる。
鎧が、あるのに?

「っ、があ!」

少し遅れた悲鳴と血が、口から出た。
クックルが、どんどん遠くなっていく。
否、自分がふき飛んでいる。
ドン、と壁に叩きつけられた。
自分の腹に、目をやってみる。
鎧に、拳一つ分、穴が開いていた。

(何てことだ……これ程の破壊力とは)

兄者は驚いた。
落胆は、しない。
鎧が通じないと、わかったのに?

「なるほど……これで決心がついた」

相手の破壊力を見極め、次はどう行動に出るか、考える。
答えは、出た。

「一撃必倒の奥義……お披露目しよう」

「! 面白い、見せてみろ」


     <刃刻の間>

「見せてやろう。俺の、新しい力を」

弱気とも強気とも取れる発言。
その後に言った、モララーの言葉。
察するに、新しい特殊能力を発動するつもりらしい。

(闇気と自分独特の気を……ドッキングする!)

モララーのエレメントの気と、モララー自身の気を、混ぜ合わせる。
それが、なにを意味するのか。
その答えは、すぐに出た。

「っはあ!」

モララーの持つ二刀に、紫色の気が纏った。
それは、闇と感じられる。
人には、それぞれ独特の気がある。
しかし、その気を具現化できるものは、ほんのごく一部だ。
だが、モララーはそれを闇と混ぜ合わせる事で、具現化させた。
モララーにしか出せない、紫の闇。
光と闇のエレメントはその実、扱いが難しい。
雷や炎の様に、痺れや熱さがある訳ではない。
ギコの『水柱』や、兄者の地のエレメントの様に、衝撃があるわけでもない。
風の矢の様に、切り裂けるわけでもない。
実に、術者によって使い方と威力も変わってくるエレメントなのだ。
モララーは、自分の気とドッキングさせ、何をするつもりなのか?

「これが俺の特殊能力だ……気を、自在に操れる」

ようは、モララーも気を具現化できる『ごく一部』に、仲間入りしたのだ。
その上、エレメントに適合しているとなれば、おそらく世界でモララー一人だろう。
が、その新たな力を目の当たりに、ネーノは軽く笑い飛ばした。

「ふん。結局は、何も変わってねえんじゃネーノ?」

が、そのネーノに、モララーは酷く冷たい目を向けた。
殺意も込めて、こう言う。

「そう……見えるか? なら……地獄を見て来い」

すると、ネーノは怪訝な顔をする。
そして、嬉しそうな笑みを見せた。

「? なんだかわかんねえけど……自信満々じゃネーノ」

モララーが、剣を構えた。
今まで通りの、独特な構え。
違うのは、紫色で漂う、自身の気とエレメントを混ぜ合わせた、剣に纏う、気。
ネーノも、構えた。
両の手を、刃に変えて。

「そろそろ、クライマックスじゃネーノ?」

「ふん。貴様が、死への階段を、一人でのぼっているだけだ」


     <闇の集合地点・通路>

ギコの、『水柱-逆滝』が、落下軍団第二陣を押し返した。
剣をしっかり握り、目の光は失われていない。
しかし、体が言う事を聞いていない。
立とうとすると、膝が笑う。
剣を振るにも、腕が上がらない。
体の部位全てが、ギコの意思に逆らう。
常人なら、そのはずだった。

「うあああああ!」

彼は、止まらない。
笑う膝を引きずって、敵の群集に向かって走り出した。
『上がらない』腕を『上げて』、剣を振り上げる。
そして、たった一振りで、かなりの敵が吹き飛んだ。
通路の真ん中を、『闇の集合地点』への道を邪魔する敵だけが。
右端と左端には、まだ敵が残っている。
が、ギコは空いた中央を駆ける。
もちろん、敵はそれを阻止する。
すると、またその敵だけを振り払う。
これが、実際にはかなり有効な手段だった。
最低限の労力で、ウララーに辿り着く、辿り着ける。
はずだった。

ドン、

といきなり、ギコの背中に何かが当たった。
否、何かが飛び込んできた。
敵に襲われたのか?
当然である。
目には、通路の先にある扉しか写ってない。
が、後には、かなりの数の敵が、残っているのだから。
背中を、見てみる。
そこには、敵がジエンと呼んでいた、少し横に伸びた丸と言う形の、AAがいた。

「ジバク、イイ!」

耳を、疑った。

(なっ……自爆!?)

爆破音が、ギコの耳元で響く。
それに連鎖する様に、他の雑魚軍も、爆破を始めた。
爆破の規模は、自身の周りだけの様だ。
しかし、ギコは敵の群集の中に、敵を掻き分けて、入っていた。
それが、悲惨な結果を、悲劇を生んだ。
雑魚の群集が、爆発の炎に包まれる。
ギコを、囲んで。


<闇の集合地点>

「クックック……まんまと罠にはまってくれたな、ギコ」

ウララーが座る台座の前。
そこに、大きな画面がある。
その画面が、全ての部屋、通路を幾つかのモニターで映していた。
そして、画面右上の方に、ギコのいる通路を映しているモニターがある。

「この爆発で、確実に息絶えたな。お前の大切な人なら無事さ。この宮殿の扉全てに、『魔力無効化』の効果を加えたからな。爆発はここまで届いていない。お前の仲間にもな」

言うと、ウララーは台座から立ち、モニターの前に歩み寄った。

「お前達は、一人一人、確実に殺すからな」

そして、画面の前で両手を広げ、また通路のモニターを見つめる。

「美しい死に様だ、ギコ。爆炎の中に身を包み、愛する者の為に、命を落とす」

しぃは、その画面を、爆発を、惨劇を、見ていた。
ギコの死を、見ていた。

「さぁ、ショーの始まりだ!」


第十一話 三つ巴の間の、三つの、三番目の覚醒

フサ、モナー、サザンの戦う部屋で、三つの気が混ざり合う。
それは次第に、各々で凝縮され、形を整えていく。
光の気が集まる場所、そこには当然、モナーの姿が。
部屋に響くのは、

「何じゃ、それは?」

モナーと相対する、ドークの声。
それに答えるのは、もちろん、モナーである。

「見ての通り、杖。能力は、秘密モナ」

モナーの手には、黒い鉄の杖。
先端には、白色の水晶が付いている。
少し攻めるのを躊躇うドーク。
しかし、意を決し、彼が手にしていた茶色の棒。

「ならば、ワシも種明かしをしようかの」

そこにある、スイッチを押す。
すると棒から、鋭く洗練され、薄く透明になっている刃が現れる。

「剣かモナ」

「参る!」

ドークが一歩、大きく踏み込み、モナーの懐に飛び込む。
そして、間髪いれずに剣を振った。
モナーがそれを杖で防ぐ。
二本の腕が、それぞれ左、右に弾かれた。

「くっ」

モナーが、体勢を整える。
しかしその時、既にドークは追撃の準備をしていた。

「遅いぞ!」

剣撃を更に加える。
しかし、それをモナーは最小限の動きでかわした。
その後に来る、連続の剣撃も同様に。

「なんじゃと!?」

そのまま、モナーが距離を取る。

「防ごうとすれば、力が互角で弾かれるけど、その程度のスピードなら、避ける事は造作も無いモナ」

そして、杖を床に指し、先端の水晶に両手を添え、膨大な気を込め始めた。
すると、モナーの周りにいくつもの光の玉が現れる。

「その程度の速度で、三分の一……遅いモナよ。覚悟するモナ!」



炎の気が集まった先は、フサの手。
しかし、フサの手には、いつもとほとんど変わらぬ槌。
変わるのは、それが合金で出来ていると言う事。

「ヒャッハ! 大仰な前振りの割に、何も変わってねぇじゃねぇか!」

甲高い声が響く。
しかし、あくまで冷静に対処するフサ。

「今に、わかるぜ」

すると、メシアが右手を前に突き出す。
手には、黒いハンドガン。

「なら、先に見せちまうぜぇ!」

メシアが、その引き金を引いた。何度も。
ハンドガンからは、小さな黄色の気の弾が連発して発射される。

「!?」

フサは身を横に避け、その一直線に発射された弾をかわす。

「ヒャハッ、序の口だぜ!」

そう叫ぶと、メシアが引き金を引き『続けた』。
ハンドガンの先端に、小さな弾が、発射されずに留まる。
それが、次第に大きさを増していく。
それがフサの体の大きさを、ゆうに越えた時、

「避けて見やがれ!!」

引き金を放した。
その巨大な弾が、発射される。
しかし、フサは避けるそぶりを見せない。
そこから動かずに、両手で槌を握り、振りかぶる。

「ッ、ラァ!」

そして、その弾が迫ってきたとき、それを振り下ろす。
すると、巨大な弾が小さな槌に押し潰され、消滅する。

「なっ、バカな!」

「今の、全力で撃ったのか?」

と、いつの間にかフサが、メシアの目の前まで、接近している。
そして、槌の先端に、炎を纏わせた。

「これで三分の一かよ。ぬるいぜ、コピー野郎!」



雷の気が集まる先。
そこには、〝万識の電槍〟が。
サザンの第三覚醒、『ゴールド・セッション』が手に握られる。

「能力は、互いに知られている」

サザンに対するのは、〝炎涼の螺旋〟。
手には、銀色の筒が。
その筒の、上下両方のくぼみから現れた刃。
それを器用に回し描く、双刃の盾。

「ああ、そうですね。条件は、五分」

サザンが、槍に電力を集める。

「行くぞ!」

そして、槍を前に突き出した。
そこから出る一直線の雷が、シャオンを襲う。

「甘いですよ。私の能力を知っているのに弄する策ではないですね」

それを、双刃の盾で受け、そのまま撥ね返す。
しかし、そこにサザンの姿は無い。
あるのは、床に突き刺さった『ゴールド・セッション』のみ。

「それも、あなたの能力を知っている私に弄する策ではないですね」

言いながら、シャオンは武器を持つ手を後ろに引く。

「〝万識の電槍〟ともあろう者が、万の戦術から失策を選ぶとは、見損ないました」

そして、引いた手を、横に弧を描きながら、双刃の盾を槍に狙いを定め、投げた。

「『双刃翼』」

それは、まるで羽の生えた刃の様に、正確に槍に向かって飛んでいく。
すると、

「読みが浅いな」

「!?」

シャオンの背後から、サザンの声が。

「あれは囮だ槍だけがあそこに残っていれば、君は私が同化したのだと思う。そして当然、攻撃を加える」

『双刃翼』が、サザンの槍に到達する。
槍は真っ二つに切れたが、そのまま雷に戻るだけ。
サザンの姿は、無い。

「その隙に背後に回れば、君は隙だらけ。槍が無くとも、攻撃は加えれる」

サザンの掌に雷の気が集まり、それは次第に球体となって行く。

「三分の一、か。がっかりだよ、〝炎涼の螺旋〟」



<剛健の間>

兄者が両手を広げ、そして両手を同時に、内に振る。



<刃刻の間>

モララーが洋刀を消し、和刀のみに絞り、それを鞘に収める



「『聖光波』!」
「『槌炎撃』!」
「『砲雷丸』!」
「『操地爪』!」
「『紫闇斬』!」

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