風邪っぴきティエリア
「バカ、刹那。それじゃ芯しか残らないだろ」
「……ロックオンこそ、うさぎの耳がちぎれてる」
「やっぱりすりおろしたほうがいいんじゃないのかな……」
にぎやかな声で、ティエリアは眠りの底からすくい上げられた。
身体は熱く、気分も悪い。目を開けるのすら辛く時間がかかったが、
自室に勝手に入ってくるバカは誰かを知りたくて、ティエリアは気を
ふりしぼった。
「起きた」
刹那の声で、残りの二人も振り返る。数個目の林檎を芯だけにしたところで
役目をはずされた刹那は、ティエリアの様子を見るミッションを与えられて
いたのだった。起きなければ、何時間だって熱で紅潮したきれいな顔を
みつづけていたことだろう。
「帰れ」
「目が覚めて一言目がそれかよ」
ティエリアは、口の中の渇きを唾液で潤してから、言った。
「帰れ」
「二回も言われちゃったね……」
三回目を言おうとしたとき。
ティエリアは、口元に林檎をつきつけられた。みずみずしいそれは、
ウサギ林檎というやつだ。
子供扱いするなと嫌味を言おうとしたティエリアは、その甘酸っぱい芳香に
毒気を抜かれてしまう。
「ん」
食べろという風に、刹那は頷いた。
はしっこをかしりと囓ると、想像したとおりの味が広がる。ティエリアの
表情が和らいだ。
「た、単に水分が欲しかっただけだからな」
顔が赤いのは、熱のせいだけじゃないだろう。
「おいおい。自分が剥いたような顔で手柄をとるな」
「水分が欲しいならやっぱりすりおろしたほうが……」
室内は、すぐにまた騒がしくなった。パジャマを着替えたほうがいいだの。
氷まくらを替えようだの。食べたい物はあるかだの。
「うるさい。帰れ、ガンダムマイスター全員が倒れたらどうする」
ティエリアは、申し出の全部を却下して毛布に潜り込んだ。本当は、
氷まくらくらいは取り替えて欲しかったが。
そのままティエリアは、眠り込んでしまった。
次に目が覚めたときには、パジャマと氷枕どころかシーツまで取り替えて
あった。男三人がかりならなんてことないことだろうが、気付かなかった
自分がティエリアは情けなかった。不安要素と不適性と問題外に世話に
なるとは。
そうっと、毛布の中から外をのぞく。そこにはやっぱりまだ三人がいた。
顔をつきあわせ、ぼそぼそ声で話している。
「バカ、刹那。病人にカロリーバーなんてくわせてどうする」
「栄養がある」
「おかゆとおじやってどう違うのかな……」
ああ、バカが三人もいる。と、ティエリアは思った。
それでも、今はその存在感が心地よかった。野郎三人の低い声が、
ティエリアを再び眠りに誘う。
今度の眠りは、とても心地よかった。
最終更新:2008年01月03日 02:34