風邪っぴきティエリア(女体化)
「さて、問題は誰がするかだが」
巷を騒がせるガンダムのパイロットたちが三人、頭を突き合わせている。
異様に緊張した空気の中、ロックオンが口を開いた。
「ティエリアを着替えさせるのは、オレが適任だと思う」
「そうかな。ハロもなしにロックオンがこんな繊細なこと、無理だと思うよ」
「俺が……」
「はいはい、ガンダムガンダム。で、引くつもりはないんだな。アレルヤ」
「もちろんだよ。ロックオン」
男二人が火花を散らせる中、刹那は仲間はずれだった。子供だからという
理由だったが、刹那には何故そんな理由なのかもわからない。二人も、
どうして自分がこんなにがエキサイトしているのかわからなかった。
ただ、ティエリアに関することで、他の二人より引くつもりはなかったのだ。
「三人で、すればいいと思う」
刹那のあっさりした意見は、二人の紛争に介入するにはじゅうぶんだった。
と、いうわけで。役割分担。
身体の大きいロックオンは、いちばん手のかかる上半身。
アレルヤは、簡単そうに見えてズボンを通すのが難しい下半身。
刹那は、タオルで身体を拭くというある意味いちばん重要なところ。
ティエリア紛争に、みせかけの平和が訪れていた。
「よっ……と」
ぐったりするティエリアの上半身を起こし、ロックオンは後ろに回り込む。
自分の胸に寄りかからせると、腕をティエリアの前方に回した。
「起きると面倒だから、手早くな」
こくこく、二人が頷く。
ぷちぷちと、ロックオンがティエリアのパジャマのボタンをはずしていく。
細い肩があらわになった。
「もっと腰を上げさせて」
「はいはいっと……だいぶ濡れてるな、ティエリア」
自分の胸にあたるティエリアの背中が汗ばんでいるのを感じながら、
ロックオンはボタンを手際よくはずしていった。
「え?」
「あ」
アレルヤと刹那の、すっとんきょーな声が聞こえる。
彼らの視線は一カ所に注がれている。ロックオンはその視線の先である自分の
手元へ、目をやった。
第一印象は、思ったよりないな、だった。
男ではありえないなだらかな胸のライン。そのふくらみの先の突起は、
急に外気に晒されて綻ぼうとしていた。
「一時撤収!」
パジャマの前を閉じ、ロックオンは叫んだ。
ティエリアをそのままベッドに戻し、三人は再び彼らだけの世界会議を開催した。
「女の子だったんだね……」
「オレ、この前連れション誘っちまったぞ……。断られたけど」
頭を抱える男二人に、刹那は疑問を問いかける。
「何か問題が?」
「あーあ……これだから子供は。大問題だ」
刹那にとっては、ティエリアが女だろうが着替えというミッションを全うするのみだ。
何を二人がこんなに悩んでいるかがわからない。
「でも、頼める相手もいないよね」
トレミー内ならともかく、地上でこんなことを頼める知り合いはひとりもいなかった。
ならば、あきらめるしかないのだが、汗をじっとり吸って重いパジャマに気付いて
しまった三人には、そんなことできない。
「よし」
ロックオンは、二人の肩を引き寄せた。
「オレに考えがある」
そろそろと、ベッドに近づく。
指の先にティエリアの柔らかな髪が触れ、アレルヤは彼女の居場所にたどり着いた。
他の二人も位置についたようだ、緊張の空気が走る。
「いいか?ティエリアが目を覚まさないうちになんとしてもすませるんだ。それから
変なところは触らないように」
「変なところとは具体的に?」
「ええと……ええい、うるさいぞ刹那。とにかく男と違う場所は絶対触れないこと」
胸の汗くらい、ティエリアの貞操を守るためなら目をつぶって見逃そうと、
ロックオンは思った。
実際、目をつぶっていたわけではないが、彼らの視界は真っ暗闇だった。
各々タオルやら布地で目隠しをしているのだ。ティエリアの身体を見ないように
着替えさせる、苦肉の策だった。端からみたら通報されそうな光景なのは、
誰もあえてつっこまない。
みんな無言だった。息づかいのが荒いのは誰だとロックオンは眉をひそめたが、
それは自分もだった。
パジャマのボタンはもう開けていたので、ロックオンは上着を脱がして新しいのを
着せるだけだ。じっとり汗ばんだパジャマは肌に貼り付いて、脱がせにくい。少し乱暴に、
ロックオンはティエリアの腕からパジャマを引っこ抜いた。
「…………っ」
「何かあった?」
「いや、なんでも」
手に何か柔らかいものが当たったなんて、ロックオンは言えない。位置的にそれは胸のあたり
だろうなんてことは、二人には絶対に言えない。
「……うわっ」
「な、なんだなんだ?どうした?」
「いや、なんでもないよ」
手早くすまそうとパジャマのズボンを一気に下ろしたら、どうも一緒に下着まで脱げてしまった
ようだなんて、アレルヤは他の二人には絶対に言えない。
「足が柔らかくて、びっくりしたんだ」
「へえ、柔らかいのか……」
ごくりと、ロックオンは我知らず生唾を飲み込む。
どれだけ柔らかいんだろうと、真っ暗な脳内で妄想が膨らんだとき。
「ぁ……ん」
とろけるようなティエリアの声が、二人を凍らせた。
「ん…………っ、あ、ぁん」
「せ、刹那、君はどこを拭いてるんだ!?」
「うなじ」
「なんてマニアックなんだよ、おまえは」
起こしてはいけないので、ぼそぼそ声でアレルヤとロックオンがつっこむ。
「んぅ……だめ……」
「今度は脇腹」
いちいち実況中継しなくてもいいと怒りたかったが、二人は黙って耳を傾ける。
目隠しをしていて良かったと、ロックオンはつくづく思った。反応しているのを
他の二人に気付かれなくてすんだからだ。まあ、アレルヤもそう思っていたが。
「あ」
刹那の声に、二人は敏感に反応した。
「今度はどうした?」
「ティエリアのこんなところにホクロが」
へえ、ティエリアの染み一つない白い肌にもホクロがあるのか。こんなところって
どこだろう。
二人は一瞬同じことを考え、そして同じ疑問にたどり着いた。
「刹那、おまえ目隠しとれてるだろ!」
「結び目が緩かった。不可抗力」
彼らには見えないが、刹那の顔は無表情だ。嘘はこれっぽっちもないのだろう。
「こら、刹那!」
ロックオンは、手探りで刹那の方に手を伸ばした。刹那は簡単にひょいっと避けて、
突き出した手はアレルヤの頭に当たる。するり、とはずみでアレルヤの目隠しがシーツに落ちた。
「ハレルヤ……ピンクだよ」
どこがだ?まさか今更カーディガンの話ではあるまい。
ロックオンは、自分に寄りかかっている少女の重みをあらためて感じた。柔らかい。
髪は花の香りがする。ティエリアを見たい。が、自分だけが己の意志で見るなんて、
後ろめたかった。
「見た方が手早くて効率的」
刹那はそう言って、簡単にロックオンの目隠しをほどいた。
「な、なんてことを……刹那っ!」
怒ったふりして、ロックオンの声はうれしそうだ。
はらりはらりと、目隠しがわりの布が落ちる。
それは空中で、ティエリアの胸の先をかすめた。
「はぁ……ん」
その喘ぎは、ロックオンの理性を打ち砕くのにじゅうぶんだった。
そして、ティエリアの覚醒を誘うのにも、じゅうぶんだった。
ティエリアの瞼が開かれる。目の前の男の顔を見て、まだいたのかという表情になった。そして、
自分の姿に気付く。
「あ……」
ベッドの上で、一糸まとわぬ自分の身体。目の前には男。しかもあたりには何かを縛るのに最適な、
細い布地が落ちている。
「や……」
「待て、落ち着け。ティエリア。殴ってもいいから、とにかくガンダムでの武力解決はやめてくれ」
ヴァーチェのバズーカに撃たれたら、灰も残らない。
ティエリアの見開いた目が潤んだ。
「う……ぇぇぇ。ぇぇん」
手で顔を覆って泣き出す。ティエリアにしては意外な反応だが、しかし女の子なのだとロックオンは
あらためて感じた。
「まいったな……。な、ごめん。とりあえず話を聞いてくれ。何もしちゃいないから……な、ティエリア?」
いつもの兄貴っぷりはどこへやら。おろおろするさまはガンダムマイスターの一人とは思えない。
残りの二人は一瞬で観葉植物の影に隠れて、難を逃れていた。
「泣いてる……」
「うん、泣いてるね……」
良心の呵責が、三人を襲った。しかし同時に、そんなティエリアをかわいいとも思ってしまった。
「なあ、泣きやんでくれよ。ティエリア。ティエリア。なんでもするから」
肩に伸ばしてきたロックオンの手を、ティエリアは猫のようにはじいた。しかし、少し落ち着いたようだ。
「じゃあ……氷まくら」
「ああ、用意してやる」
「おなかへった」
「ああ、ああ。おかゆでもなんでも作ってやる」
「あと、あと……」
小さく呟こうとするティエリアの口元へ、ロックオンは耳をやった。
「あそこにいるバカ二人を連れて帰れ」
いつものティエリアの声だった。
「いや……あの、ティエリア」
泣いたのと熱で目元が赤いが、表情も口調もすでにいつもどおりだ。
「オレが、裸を見られたくらいで動揺すると思うのか?君は女に理想を持ちすぎだ、
ロックオン」
冷たくティエリアは言い放つ。
「ひどい……」
「ひどいのは病人の女を裸に剥いてなにやらしようとしていた方だと思うが?」
正論なので、ロックオンは何も言い返さなかった。
そのかわり、毛布を彼女の身体に巻いてやる。立ち上がる前に、その頭を撫でた。
「ごめんな」
いつのまにか、その後ろに刹那とアレルヤも来ていた。
「ごめん、ティエリア……」
アレルヤは、優しくティエリアの頭を撫でる。
「……ごめん」
刹那は、壊れ物を扱うようにティエリアの頭に触れた。
「だから、本当に裸を見られたことに動揺なんてしていないというのに」
ティエリアの言葉を、誰も信じていなかった。そんなこと、ティエリアの瞳を見ればわかった。
「じゃあ、僕は氷まくらの用意をするよ」
「オレはおかゆだな。米あったかねえ」
「俺は、見てる」
刹那の首根っこをロックオンとアレルヤがひっつかんで行く。
取り残されて、ティエリアはぽすんとベッドに転がった。見られたのは、ほんとにたいして
気にしてはいない。ただ。
「胸……見られた」
唯一のコンプレックスを知られたのが悲しくて、ティエリアはもぞもぞ毛布に潜り込んだ。
最終更新:2008年01月03日 02:44