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ティエリア+マイスター+コーラサワー
@お見合い


 ティエリアの見合い話を持ってきたのは、スメラギだった。
 CBに融資しているパトロンの一人がティエリアをみかけ、
せめて会うだけでもと熱望したそうだ。
「では断ることを前提で、相手の自尊心を満足させ金を引き出せば
いいんですね」
 意外なことに、ティエリアは乗り気だった。振り袖を着込み、
形の良い唇にはルージュまでひいている。髪をアップにしているので
あらわなうなじが色っぽく、スメラギはなんだか嫉妬してしまった。
「そんなの嫌だって言うかと思っていろいろ考えてきたのに。CBのため?」
「そうです。やるからには徹底的にやります」
 ティエリアがそういうからには、相手が破産するほど貢がせるだろう。
 見合い相手を不憫に思いながらも、スメラギにはこのミッションを成功
させねばならない理由があった。そのために、他の三人をトレミーに
呼び戻してあるのだ。
「他の子たちには話してないわよね?」
「どうしてあいつらに知らせる必要があるんですか」
「知らせてないならいいのよ。ええ」
 それでもスメラギは背後を確認する。あの三人は、ティエリアに
関する情報をどこで仕入れてくるかわからない。用心を重ねて
無駄と言うことはなかった。
 さすが経済特区・日本。外交用に残された数百年前の和風な町並みは、
ティエリアたちを嘆息させるほど見事だった。
「着いたわよ」
 一件の料亭の前に車が止められる。
 やれやれと息をつきながら、ティエリアは眼鏡をはずした。
 ミッションが、はじまったのだ。


 板張りの廊下をずうっと歩いて一番奥が、その料亭の自慢の部屋だった。
「先方さまはすでにお着きですよ」
 女将がにこにこ笑って二人を案内する。襖を開けると、座っていた相手が
腰を浮かせた。向こうに介添人はいない。一人だった。
「お待ちしていました!」
 てっきり脂ぎった親父かと思っていたティエリアは、意表を突かれた。
そこにいた男はまだ若く、とてもCBに融資できるような金持ちには
見えなかったからだ。
「(知り合いの息子さんに、ってことだったのよ)」
 スメラギが、こっそりティエリアに耳打ちする。だったら先にそう言えという
文句を飲み込み、ティエリアは思考を開始する。少々、作戦の軌道修正が
必要だった。
「お待たせしてごめんなさい。こちらがティエリア・アーデ。ティエリア、
こちらがええと……」
「パトリック・コーラサワーです!AEU所属でスペシャルなパイロットを
しています!」
 AEUの軍人だなんて聞いてないわよとあせるスメラギをよそに、ティエリアの
瞳の奥がきらめいた。テーブルに置かれたコーラサワーの手をとる。
「あなたの(組織の)ことがもっと知りたい」
 薔薇の香りでも漂いそうな笑顔の裏に気付いたスメラギは背筋に悪寒を
走らせたが、かわいそうな獲物はたんにみとれるだけ。
 そこに。
「「「その見合いまったー!」」」
 縁側の障子が勢いよく開かれた。
 誰あろう。ガンダムマイスターの三人だった。
「あ、あなたたち、いったいどこから情報を。っていうかト……ええと、
電池がなくなっちゃうでしょ!」
 この到達の早さは、ガンダムで大気圏突入をしたとしか思えない。
「そんなこと些細なことだ!」
 CBの運命を握るほどの極秘事項を、ロックオンは些細なことと言い切った
のである。こんな状況でなければ男らしかった。
「くっ!いったい何者だおまえたち!?」
「ただの変態どもです。気にせず(AEUの機密事項の)話を続けましょう」
 冷静に言うティエリアとコーラサワーの手を引き離し、アレルヤは
コーラサワーを睨み付けた。
「ティエリアは僕の……許嫁だ。勝手に触れられては、困る」
 アレルヤの眼光には凄みがあり、コーラサワーは我知らずあとずさりしそうになった。
「い、いいなづけ…………?」
「そう。そしてオレがティエリアの恋人。将来を誓い合った仲」
「ふ、ふたまた!?」
「全部妄想です。さあ、若い二人は庭で将来の(AEUの新型MSの)ことについて
語り合いましょう」
「ちょっ、ティエリア。それわたしの台詞……」
 なんだかもう大騒ぎだった。
「おい、刹那も何か言ってやれ。さっき教えただろ」
 突入して以来、ずっと沈黙を守りつつティエリアの振り袖を握っていた刹那へ、
ロックオンは声をかけた。刹那はこっくりと頷く。
 そして、ティエリアへと。
「子供ができたので責任とって認知してほしい」
「違う違う。それはもっとあと!」
「……そもそも言われる方だと思うよ」
 三人は頭を突き合わせてなんやかやと言い合っているし、ティエリアは
その隙に呆然とするコーラサワーをはがいじめにして庭に連れ出そうとしているし、
スメラギにはもう対処の仕様がなかった。
 そこに、場違いな電子音が響いた。
「はい」
 ティエリアは、胸元から小さな通信機を取り出すと応答した。内容までは、
他の五人には聞こえない。
「……ああ、そうか、やっぱり。……わかった。ありがとう」
 スイッチを切る。
 みんなの注目の中、ティエリアは眼鏡をかけ直した。
「茶番は終了した。帰るぞ」
「か、帰るって?ティエリアさ……」
 コーラサワーの手を引き離しながら、ティエリアはふっと笑った。
「君は、オレの相手として不適性だ。パトリック・コーラサワー」
 おしぼりをとって、コーラサワーと繋いでいた手を拭う。
 コーラサワーが我に返る頃には、彼は室内に取り残され ひとりぼっちだった。
「いいんだ……おれにはガンダムがいる」
 片思いは、彼の得意技だった。


「ちょっ……ティエリア。終了ってどういうこと?」
 追いついた四人が、ティエリアを呼び止める。
 ティエリアは、髪留めをはずすとめんどくさそうに頭を振った。そうすると、
服装以外はいつものティエリアになった。
「フェルトに調べてもらっていた。CBの今月の支出帳簿……スメラギさん、
使途不明金がありますね」
 えっ?とみんなの視線を浴びるスメラギは、えへへとばつが悪そうに笑う。
「掘り出し物のお酒がいっぱいあったのよね。つい予算で買っちゃった」
「素直に白状するのはいいことですが、そういうのは自分の給料で買ってください」
「だってー。貯金ないもん」
 拗ねた声は聞く者が聞けばあっさり許してしまうほど可愛らしいが、
ティエリアに通用するはずがない。
「情報は王留美にすでに伝わっています。のちほど処分が決まるでしょう。
たぶん、むこう三ヶ月ただ働き、かと」
「ええー!?どうやって生きていけばいいのよ?」
「禁酒してください。トレミーにいるかぎり生活に不自由はないでしょう?」
 使い込みの穴埋めに利用されそうになったティエリアは、少しの容赦も
加える気はないようだ。
「じゃあ、見合いは?」
 断ることを前提としていたと知らないマイスター三人には、ティエリアたちの
話が見えない。
 ティエリアは、彼らに向き合った。
「君たちも、来月の給料50%カット」
「えっ?オレ達、スメラギさんのことには関係な……」
 うんうんと、他の二人も頷く。休暇がなく使う暇もない給料だったが、
減らされるのは納得がいかない。
「見合いをつぶされた慰謝料だ。この振袖、相手に貢がせるつもりだったから高くてね」
 元々断るつもりだったくせに、ティエリアはそれを黙っていた。袖を口元にあてながら、
ティエリアは彼らを上目遣いに見上げる。
 コーラサワーも撃沈したあの微笑みを、ティエリアは惜しげもなく披露した。
「男として、責任をとってくれるだろう?」
 ティエリアがその気になったら、相手は破産するほど貢ぐだろう。
 スメラギは、その予測が真実だと思い知った。こうまで骨抜きになった彼らを、
目の前で見てしまえば。
 ティエリアは、そんな三人を鼻で笑うときびすを返す。
 振り袖を翻しながら立ち去るその姿は、誰よりも男前だった。
最終更新:2008年01月03日 03:39