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俺×ティエリア


 えらく苛ついた様子で、俺の部屋にティエリアが飛び込んできたのは、ある退屈な休日の
午後だった。
 テレビを見ていても特に面白くもない。することもないから夕食まで寝てるか、しかし寝過ご
して食いはぐれたら嫌だしなあ、等と考えていると、ノック音と共に、「入るぞ」の一言でつか
つかと部屋に入ってきて、ソファに座る俺の膝の間に腰を下ろしたのだ。
 唐突にもほどがある。
「返事くらい待ったらどうだ」
「人を入れたくないなら鍵をかけるべきだろう」
「おまえ何しに来たの?」
 目の前の小さな頭が振りかえる。ティエリアは見下げたと言わんばかりの冷たい目を向け
た。これだけ近くで見ると、美貌も相まってえらい迫力である。
「頭の巡りが悪いと早死にする。気を付けた方がいい。俺の手にあるものが見えないか」
「戦略表だろ。でももう終わった奴じゃん」
「刹那・F・セイエイが、またイレギュラーな行動をした。ミッションに生じた正確な影響を確認する」
「それは結局うまくいったんだろ? ミス・スメラギは問題にするほどの影響はなかったって
結論してなかったか」
 ティエリアは険しい目で眉を寄せた。
「その結論に俺は納得していない。無駄話はいい。もう黙っていろ」
「おいおい」
 首を元に戻すと、ティエリアは手の中の紙束に目を落とした。
 肝心の、なぜ今この部屋に来て俺を座椅子にしているかの説明がないのだが、この態度
からするにこの体勢について反論や文句を受け付ける気はないらしい。どうやったら、こん
な傍若無人な奴が出来上がるか、実に素性が気になる所である。
 ……おそらく、他のマイスターのティエリアに劣らぬマイペースぶりや、計画の進行を妨げ
る諸々等、こいつにもストレスがあるのだろう。多少のわがままを聞くにやぶさかではなかっ
た。ティエリアなりの甘え方なのかと思えばかわいくもある。

 ただ、しばらくすると俺も退屈してきた。まあ、これだけ好きにされてるんだからこっちも好
きにしていいだろう。
 まずは、髪に触ってみた。反応はない。耳を隠しているサイドに垂らした髪を指で梳き、か
き上げる。無反応。そのまま持ち上げて耳の裏を剥き出しにすると、そこに口を寄せてペロ
リと舐め上げた。
「なッ!?」
 さすがに飛び上がる。耳を押さえてティエリアはキッとにらみつけてきた。
「おまえ……!」
 本当に迫力美人だな、おまえは。そして実に絶望的な美声をしているよ。残念でならない。
「悪かったよ、ちょっとした出来心だ。邪魔する気はない」
 両手を上げて謝ると、ふん、と鼻を鳴らしてティエリアは前を向いた。まったく、かわいいん
だが、かわいくない。
 しかし、こちらとしても折角ティエリアを抱え込んでいるのに何もしないではつまらない。
 また書類に集中し始めた頃を見計らい、今度は、中指で背中を腰のあたりから首筋まで
つつつーとなぞり上げた。
「ッ!!」
 もしティエリアが猫だったら、全身の毛を逆立て、耳と尻尾をピンッと立てて怒りを示すの
が見られただろう。ギッとにらみつける目の鋭さが迫力を増している。これは怒らせたかな。
出て行っちゃうかな?
 振り返ったティエリアは低い声で言った。
「邪魔をするなら出ていけ」
 そっちかよ!
「ティエリア。ここ俺の部屋」
 ティエリアは機嫌を損ねた顔をした。ふい、と前を向く。
「ならいい。出ていく」
 おっと。別に追い出すつもりはないんだが。顔を背ける間際に見せた表情が普段と違う感
じに硬くなったので、慌てて腰に回していた腕に力を込めて、立ち上がるのを押さえた。
 なんか嫌なことがあってここに来たんだろうに、ここ出ていってどこ行くんだよお前。
「悪かったよ。邪魔しないからここにいな」
「いい。出てく」
「拗ねるなって」
「拗ねる? この俺が?」
 ティエリアの声音に冷笑が混じる。どうやら調子を取り戻してきたらしい。
「気でも違ったか」
「拗ねてないなら、ここにいればいいじゃないか。そうだろ?」
 言い聞かせるように耳元でいうと、ティエリアは考えるような間を寄越した。
「……そうだな」
 つぶやいてティエリアがまた腰を落ち着けるのにほっと息をつく。ホントにめんどくさい奴である。
「まぁ、多少は我慢しろよ。俺の部屋なんだし」
 ティエリアは、少しかちんと来た様子で、じろりと目を後ろにやったが、俺の言葉に理を認
めたか、結局うなずいた。

 それから、ティエリアは一気に集中モードに入った。髪をいじったり、耳たぶをくすぐっても
何も言わない。ブラウスのボタンを外そうとしたら、さすがにうるさげに払われたが怒らない。
 試しに、喉を指先でかくように撫でると、俺がやりやすくなる方向に少し首を傾けた。これ
は気に入ったらしい。
 目は変わらず書類の上に集中している様子であるが、多少なりとも反応が得られたのが
面白くて、くすぐるように何度も撫でてやると、かすかに目を細めた。
 ますます興が乗って、顎先まで撫でたついでに、唇を親指の腹で擦る。
 ぱくりとくわえられた。
 ちょっとビックリする。
 ティエリアの様子を窺うと、やはり視線は紙の上を走っており、顔つきは真剣そのもので、
こちらには全く気を払っていない。
 なんだなんだと思っていたら、今度はくわえられた箇所を舐められる。思わず口から離しそ
うになると、歯を立てて引き止められた。そのまま、軽く吸われる。
(おいおい。本当に無意識か?)
 そこからやりたい放題である。がじがじと噛まれたり、ふやけそうなほど吸われたり。爪と
指の間を丁寧に舐められたときは、不覚にも腰のあたりが重くなった。
 否が応にもフェラチオを思い出すが、これが局部なら俺は死んでいる。一度ならず、考え
につまったか、ひときわ険しい顔をした瞬間には、思いきり噛まれたからである。
 しまいには、何か考えながら嫌なことを思い出したらしく、険悪な表情をしながら犬歯でギリ
ギリと噛みしめられ、さすがに俺もギブアップした。
「ティエリア、そろそろやめにしないか」
 ギリギリが止まらない。マジ痛い!
「おい、ティエリア!」
 ハッと、ティエリアは我に返ったようで、歯から力が抜ける。自分がくわえてたものに気付い
て、変な顔をした。本当に無意識だったらしい。
 とびきりの美貌の間抜け面はわりと傑作だった。思わず吹き出す俺と、歯形だらけでふや
けた俺の親指を見比べて、ティエリアの白い顔が見る見るうちに赤くなる。
 死ぬほどからかってやりたかったが、今日の俺はストレス解消に役立ってやるつもりだっ
たので、そこはこらえた。代わりに、顎を捕まえて唇に軽くキスをする。
「夕食に行こう。腹が減った。それは後にしろよ」
「あ……ああ」
 思考の淵から戻ったばかりのティエリアは寝起きに近い。鈍い反応がおかしくて、一言付
け加えずにはいられなかった。
「たらふく食えよ。俺の指を喰われちゃ困るからな」
「……誰が喰うか」
 耳まで赤くしてぼそりつぶやくティエリアは、めんどくさい奴なのは確かだったが、めちゃく
ちゃ可愛いのも確かだった。
最終更新:2008年01月03日 04:52