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第2次ガンダム鹵獲作戦

その日、ティエリアは一人ヴァーチェに乗り込み、地上での単独ミッションに赴いていた。
他のマイスターは、整備待ち及びトレミーへのエネルギー供給で、プトレマイオスで待機中だった。
目標は人革連領のとあるテロ組織拠点の制圧。
例え一人きりの任務であっても、いつも通り、スメラギの指示に従い
迅速的確にミッションをこなし、早くも帰途についた。
GN粒子を散布しながら、人革領を横断していく。
今回の地上任務は、これで終わりではない。
明日にもユニオン領に移動、他のマイスターたちと合流後、軍事基地への攻撃が
予定されていたため、例の小島の秘密基地にて休息を取る手筈だった。

ようやく人革領の郊外、広々とした草原の広がる無人地帯に入り、ひとまず安全空域に
達したかとティエリアが安心したその時、レーダーに異変が告げられた。
前方から急速に近づいてくる、未確認飛行体─。人革のMAかMSなのは間違いなかった。
何の迷いもないかの様に、ヴァーチェ目がけ一目散に向かってくる。
「く…」ティエリアが予想外の事態に、即座に善後策を検討し始める。
明らかに、相手に存在をつかまれている…。
おそらくGN粒子の散布により、通信遮断エリアが出来てしまった事に異変を感じた、
人革のパイロットが偵察に来た…。
あるいは、早くもテロ拠点への攻撃を知った軍部が、ヴァーチェの退路を予見し、先回りしていたか。

トレミーから通信が入った。
「敵MS前方より接近中。ヴァーチェ、迎撃してください。」
クリスの声がやや切迫した感じで聞えた。
どちらにしても、レーダーに映る機影は一機のみだ。何の問題もなく、瞬殺してくれる…。
ティエリアがGNバズーカを手に取り、早くも準備をはじめる。
やがて、視界の隅に敵MSが見えた。高機動型とも、当然宇宙型とも違う、新型機だ。
ティエリアが空中で静止し、バズーカを構える。 
向こうも視認したらしく、様子を伺うように距離を取ったまま停止し、2機のMSが空中で睨みあった。
この距離でもバズーカなら問題なく殲滅できる。
ティエリアが相手の離脱パターンをも予測して、発射しようとしたその瞬間、
「後方より敵機接近中…!?そんな…。左右からも…!」
クリスの慌てた声がして、再びレーダーに新たな機影が映し出された。
「……!!」今度は、一機ではない。
ヴァーチェの後方から一機、左右からそれぞれ一機、猛スピードで近づいてくる。

「しまった…!!あれはおとりだったのか!!」
ティエリアが唇を噛み、前方のMSを駆逐しようと目をやったが、レーダーに目をやっていた間隙を縫い、
すでに元いた位置からかなり距離を詰められてしまっていた。
「く…!!」もはやトレミーの指示を待つ余裕はない。
急速に早くなった心臓の音を忌々しく感じながら、唇を噛んでバズーカを再び構え、
目標を捕捉しようと努めるが、相手は素早い動きで不規則に大きく左右上下に飛び回り、決してロックオンを許さない。
それは明らかに、ヴァーチェの砲撃パターンを研究した動作だった。
そうこうしているうちに、後方と左右から計3機の人革MSが距離を詰めてくる。
ティエリアに焦りの色が濃くなった。
「こうなったら…!!」
即座にバズーカをしまい、急加速して前方のMSに近寄る。
「GNキャノン、射出準備…。」
キャノンが前方を向き、敵MSを射程圏内に捉えた。
相手MSがロックされたのに気付き、慌てて進路を変更する。
「遅い!!目標を殲滅する─!」
ティエリアが発射ボタンに指をかけた、その時。
ドゴーーーーン!!!大きな発射音が鳴り響いて、後方のMSが砲撃してきた。
「……!!GNフィールド!!」
展開したシールドがヴァーチェを守り、相手の弾を弾き落とした。
一瞬、前方のMSへのキャノンの発射が遅れた。
その隙を見て前方のMSが急加速し、射撃武器を構え向かってくる。
さらに、後方と左右から急接近してくるMS3機が、それぞれ遠方から砲撃をはじめた。

「く…!」絶え間ない砲撃で、回避行動にも移れない。
(どこを撃つ…!?)前後左右のどのMSを撃てば最も効率的か…。
やはり前方のMSを撃墜し、当初の進路を取り、人革連領から離脱するのが
最善策と判断し、キャノンの照準を合わせる。
しかし前方のMSが不規則に飛行しながら、ロックさせない。
一方自分は、動けないでいるヴァーチェを苦もなくロックし、容赦ない射撃に移った。
雨あられのように降り注ぐライフル射撃に、シールドが押し込まれ、モニターが歪み、
4方向からの絶え間ない砲撃で視界が遮られる。
苦し紛れにキャノンを発射したが、敵MSに回避されむなしく空を切っただけだった。
段々と4機が近寄るにつれて砲撃が激しくなり、シールドを展開していてもなお、
ヴァーチェの機体が左右から押し込まれて揺れ始めた。

「ティエリア…!ティエリア…!!離脱を…」
スメラギの完全に動揺した声が響くが、4機のMSが瞬時に連携して距離を詰め、
ヴァーチェの退路を断った。
「くそ…!」ティエリアがもう一度キャノンを発射しようとしたが、
後方のMSがキャノンを掴み、作動を封じ込めてしまった。
「──GNバズーカ!!」
バズーカを構えようとしたが、右方のMSがそれを叩き落とした。
「こうなったら…ビームサーベル!!」
脚部に向かうヴァーチェの腕を左方のMSが体ごと巻きつくようにして、捕捉した。

(またか…!!)ティエリアの脳裏にこの前のナドレ露出の悪夢が蘇った。
攻撃を全て封じられ、離脱さえかなわない…。
こうなったら、再びナドレを起動して、敵部隊を殲滅する…!
ティエリアの目が金色に光る…。
その時、不意に通信が入った。
「ガンダムのパイロットに告ぐ。私は人革連軍中佐、セルゲイ・スミルノフである。」
「…!!」
「我々の目的は撃墜ではなく、ガンダムの鹵獲である。直ちに無駄な抵抗をやめ、
我々の命令に従うよう要請する。我々は貴殿の身の安全を保証する。」
ティエリアが屈辱に震えた。
最初からガンダムの鹵獲のため、介入行為の隙を伺っていたのか─!?
相手の目論見にまんまとはまってしまった…!!
「ふざけるな!!誰がそのような命令に従うか…!」
セルゲイのMSに激しい拒絶の声が届き、ヴァーチェが抵抗するように、
抑え込む4機のMSを跳ね飛ばそうと力を込めた。
しかしヴァーチェの推進力を持ってしても、四肢をそれぞれ捕捉されピクリとも動かない。
「──!?」素早く視線を走らせ、敵機を確認する。
前方のMSはティエレン高機動型にフォルムはやや似ているが、
色はオリーブグリーンではなくもっと深い緑。
後3機はまるでヴァーチェを思わせる分厚い装甲に覆われた、重量型であった。
全機未だその機能は判明しないが、今までの戦闘で目にしていたティエレンとはまるで違う。
(新型か…!?)前回の人革との対峙での、タオツーとの戦闘が思い起こされた。
人革が兵器開発にどれだけの資源と人員を投入しているかは既知の事で、
その上アレルヤの例で分かるように、非人道的な研究さえ行っている組織だ。
この前の鹵獲作戦での失敗を考慮した上で、一体どれだけの改良を加えて
本作戦に望んだかは計り知れなかった。

一度ならずニ度までも…。
はらわたが煮えくりかえるほどの怒りがこみあげたが、こうなったら仕方ない。
(ナドレを…!)そう思った瞬間、再び通信が入った。

「この前のように装甲をパージする気か?こちらとしては一向に構わんと言っておこう。
我々が興味を持つのは、むしろその素体の方だ。手間が省ける。
我々としても、前回の戦闘で改善策を練り、そのデカブツのみならず素体に対抗できる
MSを改良してきたのだと忠告しておく。」
(く…!脅しか…?それともやつら、本当に何か対策でも練っているというのか…?
しかし…今はまだナドレの能力を全て晒すわけにはいかない…。)
混乱するティエリアを追い込むように、セルゲイが予断を許さないかのような厳しさで
言った。
「諦めろ。もう一度言う。抵抗をやめ投降すれば、命の保証は私の名において確約する。」
(うう…。ヴェーダ…。どうしたら…どうしたらいい…。)
もう一度敵機の推進力を探るように、力を込めたが、やはり微動だにしない。
重量型の3機が、今までのティエレンよりはるかに高出力のパワーを持っているのは
明らかだった。

その時天からの助けのように、ピッと音がしてトレミーから暗号通信が届いた。
「ティエリア、向こうの交渉に乗ったふりをして、出来るだけ時間を引き延ばして。」
「……!」
「たった今、整備の終わったキュリオスを発進させたわ。
大気圏突入後、そのエリア到着までに全速でも約15分。
あと3分でデュナメスの整備が、不備はあるけど完了するから…!
デュナメスなら遠距離からでも充分狙撃可能だから…!15分、耐えて。必ず助けるから!」
「ナドレは…!?向こうはナドレを狙ってる…!!」
焦って暗号を送る。
「ガンダムの機体確保と機密保持、そしてパイロットの身の安全が最優先事項よ。
基地に連行される事態だけは回避しないといけない。
これ以上無理だと思ったら、あなたの判断でナドレを使っても構わない。
ただしいずれにしても、キュリオスとデュナメスの援護を受けて、
敵部隊の完全な殲滅を命令します。ナドレだけじゃないわ。
これ以上ガンダムの秘密を暴露するわけには行かない…!分かるわね…!?」

ティエリアが胆を据え決意した。
「了解。命令に従います。ここからは敵司令官との交渉のため通信を切断します。」
通信を切り、これでトレミーへはレーダー上での情報しか届かなくなった。
(落ち着け…。落ち着け…。後15分。15分で救援が来る。
それまで奴らをこのエリアに引き止めるんだ…!)
ティエリアが精一杯の交渉術を思い起こしながら、セルゲイと通信を開始した。
「そちらの提案は理解した。しかし、その確証はないだろう。
人革の組織力は知っている。いかに勇名轟くセルゲイ・スミルノフ中佐の言と言えども、
わたしの身の安全が確保されるとは到底思えない。こちらとしては確実な保証が欲しい。」

ここはひとまず下手に出て、相手に絶対的な優位を認識させる。
その上で交渉の余地を確保し、今の圧倒的不利な立場を徐々に逆転させる。
完全な命令調の現段階から、相手がわずかでも考慮をはじめたらそれでいい。
言葉のやり取りだけでも15分は充分経過する…。

しかし、思う通りには行かなかった。
セルゲイが全てを見透かしたかの様に、油断のない冷たい声で応えた。
「ガンダムのパイロット。我々は君と交渉をするつもりはない。
貴殿方が他にも3機のガンダムを有している事は知っている。
おそらく既に救援を求めたのだろう?我々も同じく本部に増援を依頼した。
抵抗をやめ素直に付き従えば無駄な戦闘は避けられるという物だ。
貴殿を握っている限り、とてもそちらの味方が満足な攻撃を出来るとは思えんがね…。」

「…!!」読まれている…!
このエリアは人革軍基地からはかなり離れている。
もし本当に救援を依頼したのだとしても、やはり10分以上はかかるだろう。
自分なら何の迷いもなくヴァーチェごと敵を殲滅するだろうが、
ちょうど鉢合わせしたアレルヤとロックオンは、的確な攻撃を仕掛けられるだろうか…。
その答えは否だった。
今までの共有した時間の中で、彼らの未熟さは嫌と言うほど知り尽くしていた。
下手をしたら自分を楯に取られて3機もろとも鹵獲されてしまうかもしれない。
自分で何とかするしかない…!!
「残念だが…。その提案は請けかねる…!」
はっきりと拒絶して、ティエリアが奮い立ち、再びヴァーチェの出力を上げる。
(GN粒子散布を抑制。全てのエネルギーをヴァーチェの推進力に移行する。)
エネルギーがヴァーチェの四肢に充満し、最大限のパワーでセルゲイ達を引き離しにかかった。
ぐぐぐ…。徐々にヴァーチェの抑え込まれていた四肢が空中で広がり、
敵MSが圧倒的な推進力に押し込まれる。
機体全体を震わす振動に加え、ぎぎぎと嫌な亀裂音がセルゲイの
搭乗する重量型ティエレンを軋ませた。

「く…。これほどの馬力だとは想像以上…!」
セルゲイ達の乗っている重量型3機は、その形の示すとおり、ヴァーチェにヒントを得て
改良されたものだった。
機動性の不備を最大限度外視して造られたこの重量型には、さらに従来の2倍に至る
最大出力を擁するエンジンに耐えるため、可動域さえも度外視して高圧の最重量装甲が施されている。
ヴァーチェ程とはいかないが、現時点の人革で望まれる、最大のパワーを誇るMSであった。
にも関わらず、全てのエネルギーをパワーに替えたヴァーチェに簡単に機体を浮かされていった。

セルゲイがいよいよ危機を感じ、部下に指示を出す。
「デカブツの出力は本部の予測を遥かに超えている。さすがにこれが最大出力だろうが…。
それでもこれ以上の捕捉行動は危険と判断し、作戦をBプランに変更する。
増援が来るまで約10分。現空域でBプランに移行。
デカブツの出力を数値データに変換して本部に転送。
及び装甲を外し、素体のデータをダウンロード後、中枢に侵入し制御システムの稼動を一時遮断。
増援部隊の到着を待ち、安全に鹵獲。基地へと移送する。」
「りょ…了解!!」
部下たちの声が怯えを含んで聞えてきて、セルゲイが口元を憤怒に歪めた。
(ガンダム…!一体後どのくらいの能力を有しているのか測りしれん…。全く忌々しい!)

4機の新型ティエレンが即座にBプランに移行して、行動を開始した。
タイミングを見計らって最大出力にし、ヴァーチェを抑え付けながら地上に降りていく。
「く…!」上から4機のMSにのしかかられるようにパワーを押し付けられて、
さすがのヴァーチェも抵抗むなしく地上に叩きつけられてしまった。

ずどおおんん!!砂煙を上げて、草原にヴァーチェがめり込む。
その瞬間、激しい振動がコックピットに伝わり、ティエリアの体と脳みそを激しく揺らした。
「うう…」脳が揺れ意識が一瞬混濁する。
「デカブツの四肢を捕捉!重量型3機で可動域を抑制!
改良型は直ちにデータ採取の準備にかかれ!!」
セルゲイの指示が飛び、「了解!!」部下が素早く行動に移った。
ヴァーチェの四肢にロープが巻かれ、草原の地中深く杭が打ち込まれ、四肢が大地に固定された。
その上で重量型ティエレンが、それぞれ肩、腰、両足を押さえ込む。
もう一機の柔軟なフォルムの改良型MSがその脇でデータ採取の準備をはじめた。
膨大な量であろう、ヴァーチェ及びナドレのデータ量に備えるため、
自身の記憶媒体の容量を最大限にチャージし、フォーマットする。

「…しまった…!!」
意識をなんとか取り戻したティエリアだったが、徹底的に動きを封じられて、
今度こそ身動き一つ出来ない状況に陥った。
「あ…ああ…。」
混乱して冷や汗を垂らしながらコントロールパネルの操作ボタンを押すが、
完全に捕縛されてキャノンすら撃てず、どうにもならない。
「ヴェ…ヴェーダ……ああ…も…ナド…レ…を…」
動揺を隠し切れず、声がか細く震える。ナドレを…!!

そう思った瞬間、ガアアアンンン!!!
足で肩を抑えたまま、セルゲイが両手を力いっぱい握り締め、ティエリアの乗り込むコックピットに振り下ろした。
「ぐあああ……ッ!」激しい衝撃で身が浮き上がり、体中の骨が軋んだ。
再び目の前に火花が散り、意識が飛びそうになるのを必死で我慢する。
今、気を失ったら完全に鹵獲されてしまう。
恐怖を押し殺して何とか意識を引き寄せた。

「ガンダムパイロット…!今から我々はお前の装甲を剥ぎ取り、
内部の中枢データを抽出する。最後のチャンスを与える。無駄な抵抗を辞め、投降しろ…!」
セルゲイの最後通告に、
「い…いやだ…!そんな…そんな事…!!」
まるで子供のような口調で、その上震える言葉で、拒絶するしかなかった。

「……。Bプラン続行。装甲をパージする。」
「了解!!」
部下が足でヴァーチェを抑え込んだまま、いよいよその分厚い装甲を剥ぎ取り始めた。
3機がかりで協力してパーツを強引に剥ぎ取っていく。
キャノンが引きちぎられ、安全圏に放り投げられた。
ガキインガキインと、耳を劈くような金属音が草原の風に混じって響き、
次々と剥ぎ取られた装甲が辺りに投げ飛ばされていった。

「や…やめ…やめろ…!!いや…いやだあああッ!!」
ティエリアが今となってはナドレの起動さえ出来ずに、策を失くして、大声で泣き叫ぶ。
それにあわせてヴァーチェが激しく首を振ったが、3機のティエレン重量型の凶行が収まる事はなかった。
遂に頭以外の全ての重装甲が剥がされ、ナドレの美しい機体が砂埃の中で太陽光を反射し、幻想的に煌いた。
「ううう…」ティエリアの涙声がセルゲイの耳に届く。
「ガンダムパイロット…随分精神薄弱だな…。まあいい。続行するぞ。」
歯牙にもかけない様子で、セルゲイが命令を出した。
「了解。ヘッド部分剥がします。」
「…うあ……よせ…!!」
3機のMSが一斉にヴァーチェの顔面装甲に手を伸ばし、めりめりと音をさせながら
凶暴なまでの力で剥ぎ取っていく。
中の赤いコードが限界まで張りついて最後の抵抗を試みたが、遂に剥ぎ取られてしまった。
コードを髪の毛のように垂らしながら、ナドレの顔面がセルゲイの前に晒された。
「……っ」もう言葉も出てこない。ティエリアは何も考えられず、ヘルメットのまま、
ぽろぽろと涙を流すのみだった。

「パージ完了。素体確認。改良型、即刻データ採取に入れ。」
「了解。」
改良型がナドレに近寄り、ほとんど馬乗りのようになってナドレを跨いだ。
コックピットの真ん前に、改良型の深緑の機体が迫った。
「中枢の集積回路を検索します。」
改良型がセンサーのような赤い光を出して、ナドレの頭から足先までを用心深く探る。
ガンダムとトレミーをつなぐ、コネクション仕様のホールを発見し、赤い光を当てて注意深く観察する。
「連結部と思われる箇所が幾つかありますが…。これは…。
おそらくエネルギー補填目的、データ採取はここからでは不可能かと。」
「…。そうか。もっとも、中枢にやすやすと外部から進入できるとは思えん。
味方の増援まであと5分…。しかし、この前の徹は踏まん。
新たなガンダムが現れる前に素体の作動を完全に停止させるぞ。」
セルゲイが前回の失敗を教訓に、新たな指示を出した。

「ガンダムのコックピット付近に絶縁体を装着、パイロットの安全を確保。
外部から高圧電流を流せ。
ついでに最も効率的な箇所を検索し、内部に侵入、多少破損しても構わん。
内部にも微電流を放射し、システムを遮断しろ。」
すぐに改良型が熱伝導を開始した。
高圧電流が放電され、ナドレの全身に流れる神経路を麻痺させていく。
ナドレの関節が無意識に痙攣した。
コックピット内が危険色の赤に点滅する。ティエリアが混乱して視線を宙に漂わせた。
レバーを操作するが、電流が完全に機体全体に流れ、もはや命令の伝達さえ不可能だった。

「では中枢機関の検索に入ります。もっとも装甲の薄い場所を検索後、一部破壊し
ファイバー根を挿入、データダウンロード及びシステムの一時停止工作を仕掛けます。」
改良型が再び赤いレーザースキャンでナドレをくまなく調べていく。
「ここ…ですね。中佐。この場所ならガンダムの破損を最小限に抑えれる上、
中枢回路までも最短距離かと思われます。」
改良型がナドレの下半身側に回り込み、なんとその股をレーザーで指し示した。
赤い光がナドレの股間に当たり、てらてらと卑猥に光った。
「ふむ…。いいだろう。作戦続行。」
「了解!」
改良型がナドレの股を強引に押し開いていく。
「ううう…」電流を受けながら軋む機体に、ティエリアが悔しさを滲ませた。

改良型がナドレの股間を開ききり、激しく回転するドリルを構える。
そのままナドレの中心にドリルの切っ先を押し当てた。
「やめ…やめろ…!」ティエリアが点滅するコックピット内で、怯えて叫ぶ。
しかし、ずんっという衝撃がナドレを一瞬押し上げ、ガガガという重い金属音が
ドリルの振動に混じって響き渡った。
ドリルが黒煙を上げながら焦げ臭い臭気を発散させ、ずぶずぶと機体内に侵入していく。
「ああああ!!!」
ティエリアがナドレと一体になったかのような、断末魔のような激しい悲鳴をあげた。
「諦めろ。」セルゲイが容赦なく抑え込みながら、冷たく言った。
ドリルが中を激しく抉りながら侵入し、ナドレの腰近くまでを破損しながら進み、
ようやく止まった。

「挿入経路確保。ファイバースコープを挿入し内部を検索します。」
黒煙の中、ドリルがようやく抜かれる。
改良型がナドレの下半身を跨いだまま両足で立ち、ティエリアのモニターから丸見えになった。
「──!!」ティエリアが自分の目を疑った。
改良型が自分の腰部のパーツを外し、人間の股間に当たる場所から、
真っ黒な太いコードのようなものを出したのだ。
黒光りするそれは、まるでうなぎのようにぬるぬると蠢いている。
空中に立ち上がったそれが、自分で意思を持った生き物であるかのように鎌首をもたげ、
ナドレの股間に探るように向かっていく。
「や…やめ…」ティエリアが恐怖に顔を引きつらせた。
改良型が身をかがめ、ナドレの開いた股の間に体を埋めていく。
「ああうううう…!!」
極太コードが、ぎりぎりと破損部をこじ開けながら入ってくるのが分かる。

ファイバースコープが作動し、中の映像をセルゲイ達に映した。
光を当てても、機械部品の映像が続き、薄暗いままだ。
やがて、集積回路らしきチップ群が見えた。
「ICチップ発見!ここからデータダウンロード試みます!」
改良型のパイロットが興奮して言い、早速コードの先端のスコープを
形の合いそうな連結プラグに差し替えた。
ナドレの中枢にプラグが連結される。
びくんと極太コードにナドレの電流が流れ、コードがのたうちながら改良型に伝導した。
「中枢に連結成功。データ、落とします!」
「ああっ!!」
ティエリアがプラグを介して、ナドレの中心に接触されたのをはっきりと感じた。
そのまま全てのデータを吸い込むように、信号が送られる。
「阻止する…!!無駄だ…!」ティエリアが金色に目を光らせ、中枢のバリアを強化した。
「ぐ…!」改良型が、プラグごと跳ね返されそうな圧力を受ける。
「邪魔するか…!?これならどうだ…!」改良型から電流が放出され、中枢を襲った。
「くううう…ッ!」
微電流とはいえ、中心に届いたそれは容赦なく稲光のような痺れを撒き散らせながら、
中枢のシステムを麻痺させた。
電気的な信号がティエリアの体をも駆け回り、ナドレと同じく関節が機械的に跳ね上がった。
刺激を受け、生理的な熱い涙が再び零れ落ちる。

「ふう…ふう…。ガンダムめ…!手間をかけさせおって…。」
とりあえず攻防戦に勝利した改良型が、大きく息を吐いた。
そのまま中に繋がり、データを強引に落としにかかる。
「中佐。ダウンロードは可能ですが、完全に暗号化されています。
本部でかなりの時間を要しないと…」
「構わん。続行しろ。」「了解。」
ダウンロードと共に、システムの麻痺を続行させるため、微電流が流れっぱなしになる。
規則的にナドレもろともティエリアの体がびくんびくんと痙攣した。

大量のデータがコードを伝って、改良型のメモリーチップに蓄積されていく。
その度に中心を貫くコードが尺取虫のように大きくのたうち、ナドレの機体を揺らした。
「うああああ……」
ティエリアが激しい振動と、中を蹂躙される感触に耐え切れず、泣きながら叫び続ける。
(ヴェーダ…ヴェーダ…!)
機体ごと突き上げられ、ティエリアの体がシート内で激しく上下した。
ナドレの赤いコードが人間の髪の毛のように繊細に揺れ動いた。
相変わらず危険色の点滅が続き、警報が鳴り響く。
ティエリアの脳裏にヴェーダ、そしてクルーの顔がよぎったが激しい衝撃で掻き消えてしまった。
「全ての情報のダウンロード、可能と判断!さらに大容量で落とします!」
改良型がさらに受信容量をアップし、激しく中を突き上げながらデータを落としにかかる。
「あうッ!!」
ティエリアが天井にぶち当たりそうなほど体ごと揺さぶられ、たまらずシートを掴んだ。

ふっ、とコードの動きが完全に止まり、ティエリアがようやく体の緊張を和らげた。
「データダウンロード終了。」
敵パイロットの安心した声が聞える。
「うう…」ティエリアが全てを悟り、敗北感にさいなまれ身を震わせて涙を流し続けた。
「よくやった。あと10秒で増援到着。本部に帰艦しデータの解析に回す。」
これでようやく亡くなった味方の霊に報告が出来る…。
セルゲイが任務の成功に胸をなでおろした。
すぐに、30機の大編隊を組んで、MS部隊とMA部隊が上空に現れた。
「セルゲイ中佐。任務完了お見事です。ではガンダム移送を補助します。
後方部隊、デカブツの装備及び装甲を回収。」
「了解。」

各機が素早く散らばった。
ナドレの周囲に20機ほどのMSが群がり、武器を構えながら周囲を取り囲んだ。
地中の杭が抜かれ、重量型3機にあわせさらに2機のMSがナドレを拘束し、
静かに空に浮かび、移送を開始する。
地上ではヴァーチェのパーツを回収し尽くしたMS隊が、それぞれ重い装甲やら
武器を抱えながら、セルゲイに付き従った。

「うう……」
周囲を武装したMS群に囲まれ、四方八方からライフルまで押し当てられている。
撤退への有効な打開策など、今に至ってはまるで思いつかなかった。
ふと思い出してトレミーとの通信を試みたが、回線が遮断されたらしく、雑音しか届かない。
編隊がナドレをがっしりと捕縛したまま、空を静かに進んでいく。
涙で視界のぼやける中、ティエリアが放心状態で空を見上げた。

ヒュン─!一瞬、眩しい光が目に入り、網膜を混乱させた。
驚くべき速さで、その飛行体が空を切り裂くように急接近してくる。
音速よりも更に早い速度で加速し、かなり遅れて飛行音が無人の草原に響き渡った。
「キュリオス!!」ティエリアが無意識に叫んだ。

「中佐!敵機接近中…!」
敵MSが気付いた時、すでにキュリオスが背後に迫り、マシンガンを激しく連射しながら、
ツバメを思わせる鋭角な角度でMS群の真ん中を切り裂いていく。
「ぐあああ!!」敵編隊があっけなく崩れた。
ナドレに構えていた武器をキュリオスに向け撃墜を試みる。
しかし、かまいたちのような圧倒的なスピードは、決してロックを許さず、
ティエレン達が慌てて撃ったライフルは、その機体をかする事さえ出来ない。
近距離で撃ちまくった結果、外れた弾が乱れ飛び、逆に仲間のティエレンを何機も撃墜していった。
「く…!砲撃停止!!直ちに編隊を組みなおし、羽付きを迎撃しろ…!」
セルゲイが、混迷を極める部隊に必死で命令を出す。
「りょうか…!!ぐああああ!!!」

ズドーン!!閃光が走り、答えた副官のティエレンが、一瞬で爆発し消滅した。
続いてはるかかなた雲の向こうから、何発もの鮮やかな閃光が敵機に襲い掛かる。
雲間が切れ、ライフルを構えたまま突進してくるデュナメスの機体が太陽に照らされ
きらきらと輝いた。
「デュナメス…!」ティエリアが心底安心して嬉し涙を滲ませた。
ロックオンがナドレを掴むMSを狙い打つ。
「うわあああ!!」
完璧な弾道で、ナドレには一発も当たる事無く3機のMSが撃墜された。
「く…!仕方ない。素体を解放!!ガンダムを迎撃…いや…!!」
セルゲイが怒りに打ち震えてキュリオスとデュナメスを睨んだ。
「撤退…撤退を最優先事項とする…!ただちに空域を離脱…!
本部に連絡し更なる増援要請と軍基地の武装強化を連絡!」
セルゲイ達がナドレを解放し、ライフルを撃ちガンダムを威嚇しながら、
撤退に向けて編隊を組みなおす。
ようやく自由の身となったティエリアが、すぐにナドレの状態を確かめた。
放電はすでに解除され、通常モード。攻撃は充分可能だった。

(あいつだけは、逃がさない…!!)
早くも撤退モードで全速で離脱していく敵群の中の一機を素早く捉え、
一気に急加速して後方に迫る。
「くあ…ッ!!」
データを詰め込んだ、改良型のパイロットが、迫るナドレに危険を察知し、
全力で飛び去ろうとスピードを上げた。
「ビームサーベル!!」
その後ろ姿をあっけなく追尾し、ナドレがサーベルを振りかざして迫る。
「ちゅ…!中佐…!うああああ!!!」
助けを求める間もなく、ナドレの振り下ろしたサーベルが袈裟斬りで、
見事に改良型を真っ二つにした。
ドゴオンン!!激しい爆発音と、閃光。
振り返ったセルゲイの目に、爆風の中、まるで天使のようにたたずむ
美しいナドレの機影が不気味なほどの威圧感をたたえて、視界に入った。
その後ろから、素早い加速のキュリオス。そして、デュナメスの絶え間ない砲撃。

「撤退!撤退だ!!!」
逃げながらも、後ろからの攻撃で、どんどん味方が撃たれていく。
30機もあったMS・MAが、既に10数機にまで撃墜されていた。
「装甲は諦めろ!逃げるぞ…!!」
残ったMSがヴァーチェの装甲を仕方なく手放し、全機全速で撤退していった。

その後ろで、ティエリアが落ちていくキャノンを受け止めた。
「目標を消滅させる!!」
遠ざかるMS群に狙いを定め、陵辱のお返しをするように、キャノンを発射する。
空中遠くでMSが10機近く爆発し、炎と共に黒煙を上げた。
ティエリア達が一番討たなければいけない司令官・セルゲイが、
後ろの部下が盾となったおかげでまたしても命を拾い、辛くも逃げ去っていった。
「ティエリア…。」戦闘が終わり、アレルヤが声を掛けてきた。
「………。」何も言う事は出来なかった。
「ふいい─っ!!命拾いしたな、ティエリア。大丈夫か?」
ロックオンが大きく息を吐いて、それでも優しく、空中に佇むティエリアに近寄り声をかける。
この前、スメラギを責めた時、ロックオンに注意された事を思い出す。
<ナドレを晒したのはお前にも責任がある─>
今回、同じ様に敵の作戦にはまり、鹵獲されかかってしまった。
メモリーチップごと駆逐したものの、一旦はデータまで取られ、
その上ナドレを破損してしまった。
今回の失態は八つ当たりさえ出来ない、全て自分の責任だ。
ティエリアが身も凍るような悔悟の念に、思考をストップさせ体をこわばらせる。

察したロックオンとアレルヤが、ぽんっと肩を叩いて勇気付ける。
「気にするな。もういい加減、各軍も俺たちへの対策を立ててきてるから仕方ないさ。
今後は今以上に気をつけて行動しなきゃいけねえ。」
「うん。今回はたまたま君が狙われただけの事だよ。むしろ、君じゃなかったら
どうなってたか分からない。」
「………。」二人の気遣いにも、体を強張らせたまま何も答える事が出来ない。
「今後は、最低でも2機一組での行動をミス・スメラギに提案しよう。」
「うん。そうだね。明日の介入予定は白紙になったから、とりあえず、
パーツを回収してトレミーに戻ろう。反省はそれからでも十分だよ、ティエリア。」
早速パーツ回収に向かう二人の姿に、氷を溶かすように情動が不意に湧き起こり、
思わず熱いものがこみ上げてきた。
決してばれないように静かに涙を流しながら、パーツを回収し、
3機励ましあうように横並びになって、宇宙に戻っていった。

最終更新:2008年03月11日 01:00