アットウィキロゴ

悩める兄貴


ロックオン・ストラトスには悩みがあった。
あれは昨夜のミッションでの出来事だ。
とある中東の人物を主賓としたパーティーで暗殺計画があるというのでCBの介入が決まり
彼はマイスター仲間と現地へ赴いていた。
主賓の宗教に配慮したとかで残念ながら男女に分けられてしまっていた会場で
慣れないタキシード正装なんぞさせられながらも無事テロリスト共を鎮圧。
射撃の特訓をさせていた刹那の出来もまあまあで、結果は上々の、筈だった。
が、しかし、だ。
(そこまでタマ蹴りすることはないだろーが!!)
いかに相手がテロリストであっても、あの光景に男の本能がそう叫んでしまうのは止められない。
ミッションから一晩明けてもまだありありと目に浮かぶ
黒い裾を大胆に割り開く、孔雀色のハイヒールに続く絵に描いたような脚線美。
それが雄の急所を強打すること一度、更に白目を剥いて崩れ落ちかける所に
止めの二度目とおまけの鳩尾打ち。
いくらウェートで劣る身には接近戦は分が悪いとは言え、バーチェのバズーカ同様、
手加減一切無しのあの様子では、被害者は十中八九再起不能だろう。
思わず室内の動ける男達は敵味方を問わず、一歩退いたくらいだ。
しかも事後の「テロリストに情けは無用だと思いますが、ロックオン・ストラトス」に加えての
「彼のような男の子孫繁栄は不要としか思えません。そもそも地上は無駄に交配可能な男だらけだ。」
にはつい手が出たのも仕方ないではないか!
感情的にはそう思いつつ、良識あるロックオンは頭を抱える。

何故なら事はそれだけではないのだ。

まずは、すかさず殴り返してきた仲間の胸倉を掴んで締め上げてしまったこと。
そして、あれやこれやの言い合いの内につい口をついてしまった
「どうせ化けるなら、もうちょっと凹凸くらい奮発してみたらどうなんだ」
という己の暴言とむぎゅといってしまった左手。
そう、昨晩の自分の失態をトータルとしてロックオンは今非常に後悔していた。
(まさか自前だったとは・・・)
知らなかったとは言え、あれは完全にセクハラ、というより痴漢行為だった。
そもそも身近な人物の性別にも気付かなかったとは、
女性鑑定にそこそこの自信を持っていた男としてはそれだけでも汚点になる。
そこへ持ってきて、問題の人物とはこれからも仲間としてミッションを遂行していかなければならないのだ。
おまけに自分は自他共に認めるチームのまとめ役。
正直寝覚めはこれまでのどんな二日酔いより悪かった。
(相手はヴェーダオタクの男女でミッションの鬼だ。冷静に、これまで通りに行けばいい。)
(ああ、だが女性には優しく、優しくあるべきだぞ。ニール!胸を掴んだり、殴るなんてもっての他だ。)
どんなに己にカツをいれようとも、人間感情的に、否、己の生命活動維持のためには無理なこともある。
なにせ相手はあの手加減というものを一切知らないトゲ男改め女、ティエリア・アーデだ。
「貴様、マイスターでなければ排除するところだぞ。」
胸を掴んだまま硬直したロックオンに向けられた地を這うような声と、怒りに燃え盛る瞳。
視野の端、その両手では血の滴るセラミックナイフが震えていた。
タイミングは興奮冷めやらぬテロリストとの肉弾戦の直後、切りかかられなかったのが不思議な位だ。
現に彼女を宥めようとしたアレルヤは、焦りのあまりか「べ、別に凹凸は今のままでも充分・・・」という
見当違いの介入で腹への強烈な一発を食らって夜食まで辞退している。
今後どれだけ自分の堪忍袋と胃袋と命は持つのだろうか。
更に、威勢良くやってしまった一発目。
生まれて初めて女性を殴ったという事態でもあり、
ロックオンは部屋にこもったまま頭を抱え、腹の底からの溜息をついた。
最終更新:2008年03月11日 01:02