206 :パッパラパーな金持ち:2009/08/31(月) 11:45:29 ID:Hm1LYpgD
パッパラパーな金持ちです
王子を書こうと思ったけど、変化球で殿さまにしてみました
ネタキャラだと思ってちょっと悪乗りが過ぎたかも、反省
→「うん。いいよ」
言ってしまってから、両手で口元を塞ぐ。
(やだ! 断るつもりだったのに思わず正反対の事を……!)
私の気持ちとは裏腹に、無常にも部屋の扉がゆっくりと開いていく。
易々と他人を入れるつもりなんてなかったのに、口走ってしまった自分が憎い。
「よかったわ。さ、お友達もどうぞ」
「うむ、ご苦労」
入ってきたのは、木刀を携えたヘンテコな制服の男の子だった。
一応うちの制服だけど、時代劇の殿様みたいな裃風にアレンジが施されている。
また長い髪を一つに結ったサラサラのポニーテールが、時代錯誤に拍車をかけていた。
(確かこの男の子……)
まだ学校にきちんと登校していた頃。
教室で喧嘩を始めた同級生を、木刀で両成敗していた人だ。
「…………」
私は無言でその男子を迎える。
こういう人と、どんな話をしていいのかわからない。
「お、お茶の用意をしてくるわね。どうぞ、ごゆっくり」
そう言い残して、お母さんはいそいそと部屋を出て行く。
残されたのは当然私達二人だけだ。
目の前の男子はいろんな意味で浮世離れしているけれど、もちろん言えるはずは無い。
「余は第二十九代当主、徳平綱久であるぞ。もちろん知っておろう?」
「……うん、知ってる」
「しかし、えらく狭い家だな。まさかあの女中、余を犬小屋に通したのではないか?」
「女中じゃなくてお母さんだよ。それに、犬小屋って……」
「こうなっては仕方が無い。早よう、お主の自慢の犬を見せてみよ」
「………だからね、犬小屋じゃなくて」
「お主の飼い犬は猟犬か? それとも座敷犬か?」
「……だ、だから犬は居なくて」
「さてはもったいぶっておるな。ちなみに余の犬はそれはそれは可愛くてな……」
このままじゃ、徳平君の飼い犬自慢が始まってしまいそうだ。
私は勇気を振り絞り、大声で呼びかける。
「あ、あのね!」
「ん? 何だ、申してみよ」
「うちはペット飼ってないんだ。それにここ、私の部屋だから!」
「な、なんと! 今、お主の部屋だと申したか!?」
「う、うん……」
「ふぅむ。余の城にあるカワヤより狭いし、何よりこの獣臭。これをどう説明するつもりだ!?」
(獣臭……)
狭いのは仕方が無いとしても、獣臭とはどういう事だろう。
私は自分の体をくねらせ、あちこち匂いを嗅いでみる。
なんとなく匂う気もするけど、自分ではよく分らない。
ただ、数日間お風呂に入っていない事を今更ながらに思い出していた。
「この匂い、もしかしたら私かもしれない……」
私は消え入りそうになりながら、告白する。
徳平君はそんな私の顔をみて、目をパチパチさせていた。
「お主、よく見ると奇妙な顔をしておるな」
徳平君は突然、子供のように目を輝かせ始めた。
「あ、あの……」
「このようにひょうきんな顔は滅多におらんぞ」
「うぅ………」
「ははっ、見れば見るほど面白い顔をしておる。近くでよう見せてみよ」
そういうと、男の子の顔がぐんと近づいてくる。
切れ長の目と長い睫。
丹精なその顔に、体が金縛りのように動かない。
(えっ、ええっ!?)
目の前まで近づいた徳平君は、突然顔を歪ませて鼻を押さえだした。
「ぐはっ!」
「な、何……?」
「く、臭っ! なんという獣臭!」
そして、私をドンと突き飛ばしながら盛大にむせ始めた。
「きゃ!」
「ごほっ、ごほっ!」
「だ、大丈夫!?」
「ごほっ、ごほ、……この獣臭はお主のものであったか! 不覚……ごほっ」
「だから臭いの原因は私かもって……」
「……ごほっ、ごほっ、は、早くそれを言え!…ぐふっ」
(もしかして、徳平君って……)
基本的に人の話を聞かないらしい。
さっきから、会話のキャッチボールが成立していない気がする。
まだ苦しそうにむせ続ける徳平君に、私はおろおろと近づく。
「ねえ、ほ、本当に大丈夫?」
「ち、近寄るな!!」
「……っ!」
「いいか、そこから一歩も動くなよ!」
男の子は涙目になりながら、『パンパン』と手を叩く。
すると顔に黒い布を被った黒子が二人、どこからともなく現れた。
「いいかお前達。この獣女を今すぐどうにかしろ!」
男子の言葉に、黒子たちが素早くうなずく。
そして懐からファブリースを一本ずつ取り出した。
「な、何! やだ!」
謎の黒子たちは私目がけて、勢いよくスプレーを吹きかけてきた。
ラベルに除菌プラスと書いてあるのが地味に悔しい。
「止めて! 冷たい! 冷たいから!」
私がどれだけ訴えても、黒子たちは噴射を止めない。
まるで発見されると殺される運命にある、害虫にでもなった気分だ。
「だ、だめ! 本当に止めてよ!」
私の抵抗も空しく、黒子たちはボトルを一本丸々空にさせた。
そして、素早い動作で男の子の後ろに控える。
計二本分のファブリースを浴びたせいで、私はずぶ濡れだ。
濡れネズミになった私を見て、徳平君はやれやれとため息を吐いた。
「全く、散々な目に会ったぞ」
「それは私の台詞だよ……」
「ではお前たち、帰るとするか」
「えっ! ちょ、ちょっと待って!」
黒子と共に何事もなく帰ろうとする徳平君を、私は必死に呼び止める。
「何だ? まだ余に用があるのか?」
「当たり前だよ。だって徳平君、私を説得に来たんじゃないの?」
「はて。そうであったか?」
「………ひ、酷い」
すると徳平君の耳元に、黒子の一人がつつっと近づいた。
首をかしげたままの徳平君に、一言何かを呟く。
その耳打ちを聞き終えた徳平君は、納得したように手をポンと叩いた。
「思い出したぞ。学校へ赴かぬお主の説得であったな」
「そうだよ!」
「しかし気分が乗らぬ」
「は??」
「興が削がれて気分が乗らんのだ。だからもう帰ることにする」
「そ、そんな……」
へなへなと膝から力が抜けていく。
崩れ落ちる私を見て、男の子は一瞬考え込んで口を開く。
「日を改めるだけだ。また来てやるから安心せい」
「安心って、そういう問題じゃ……」
「それまで、首を伸ばして待っておれ」
「じゃあ、首を長くして待ってるよ……」
「うむ、いい心がけだ。ではさらばだ、獣女!」
徳平君は爽やかな笑顔を振りまきながら部屋を出て行く。
ぽつんと残された私は、しみじみ思う。
(はぁ……疲れた)
私は重い足取りで階段を降り、すぐにお風呂場へ向かった。
以上です
お目汚し失礼しました
最終更新:2009年09月08日 01:03