アットウィキロゴ

訪問初日 不思議系編


→「うん。いいよ」

言ってしまってから、両手で口元を塞ぐ。

(やだ! 断るつもりだったのに思わず正反対の事を……!)

私の気持ちとは裏腹に、無常にも部屋の扉がゆっくりと開いていく。
易々と他人を入れるつもりなんてなかったのに、口走ってしまった自分が憎い。

「よかったわ。さ、結城くんもどうぞ入って」
「……どうも」

入ってきたのは、ちょっと不機嫌そうな顔をした麦わら帽子の男子だった。
顔はとても今時のかっこかわいい感じで、女子からの人気も密かに高かった。
ただやっていることが少し…いや、かなり不思議で、私は自然と距離を置いていた。

(困ったな……)

私は無言でその男子を迎える。
こういう時、どうやって話しだせばいいのか分からない。

「じゃあお母さんはお茶の用意をしてくるわね。ごゆっくり」
「ありがとうございます」

私が抵抗なく誰かを部屋に入れたのにホッとしたらしく、お母さんは部屋を出て行った。
その間も、目の前の男子は麦わら帽子をかぶったままだ。
緊張して正座をする私の前に、同じように正座をしている。
……凄く、ジロジロ見られてて怖い。
何か卑下されないだろうかとビクビクしていると、前から澄んだテノールの声が聞こえた。

「俺は結城巴。……よろしく」
「あ、はい、よろしく……」
「じゃあちょっとそこどいて」
「え?」
「いいから」

自己紹介も早々に、突然手で追い払われてしまった。
も、もしかして私変な臭いとかしたのかな…!?
こういうちょっとしたことでさえ気にしてしまう自分が嫌になる。
私は言われたとおり少し後ろに下がって、体育座りで結城くんを見た。

「よし」

そう言って麦わら帽子を脱ぐと、中からタロットカードらしき箱が出てきた。
どうせなら学校のバッグに入れたらいいのに……謎な人だ……

「それは?」
「タロットカード」
「うん……見て分かるけど………」
「何か面白いもの持ってこようと思って…」
「そうなんだ……わざわざありがとう」
「じゃなくて、別に、ただ俺が…そう、"俺が"持っていたいから持ってただけだからな!」
「は、はい!」

私に持ってきてくれたような感じの言い方だったけれど……
もしかしてこれがあのツンデレっていうやつだったりして…!

(さっきの態度も、実はちょっとツンが入ってたのかな?)


悶々と考えながら見ていると、結城くんは慣れた手つきでタロットのカードを並べ始める。
そして綺麗なシンメトリーの形にカードを置いて、その中の1枚をめくった。
カードにはちょっと不気味な男の人が足をロープで縛られている。
『XII The Hanged Man』って書いてあるけど……ダメだ、全然意味が分からない。

「ふーん、これか」
「それってどういう意味なの?」
「吊られた男。一応聞くけど、専門的なこと言っても分かんないよな?」
「うん……タロットも初めて見たし」
「忍耐とか試練とか。まぁつまり頑張れってこと」
「へぇ……」

こんな奇妙なカードにそんな意味があるのだろうか?
知識はないから彼の言葉を鵜呑みにするしかないんだけれど。

「タロットって面白いんだね」
「だよな。占いはこれが一番好きなんだ」

ただ何の気なしに言った言葉に、結城くんは口角をあげて同意した。
学校でも、さっき入ってきた時も、とても不機嫌そうな人だと思ったけど、
実はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
こんな私のためにわざわざ家にまで来てくれたし。

「あの、……ありがと」
「なんだよ……」

ちょっとだけ勇気を出してお礼を言うと、結城くんは照れたようにムスッとしてしまった。
その様子がおかしくて少し笑うと、ブツブツ言いながらタロットを片づけ始めた。
なんとなく心の距離が近づいた気がして、とても嬉しくなった。
……でも、タロットをまた麦わら帽子に入れたのは、これから先も理解できそうにない。

「お前さ、なんでそんなに前髪伸ばしっぱなしなの?」
「え?……なんでって……」

麦わら帽子をかぶり直そうとする手を止めて、急にこっちを向いて聞いてきた。
何でって聞かれても………もちろん理由は1つしかない。
―――自分の顔に自信がないから。
でもこんなことを言うのはさすがに恥ずかしいから、黙っておくことにした。

「前見えないと思うんだけど」
「いや、うん……いいの、別に」
「ちょっと待って」

そういうと、手に持っていた麦わら帽子を私にボスッとかぶせた。
突然の衝撃で首が変な音を立てたけど、そんなことより頭の上に乗ってるタロットの方が気になる。
押さえられた手に逆らって首を上げようとすると、今度は前髪をぐいぐいと帽子に入れられ始めた。

(うわ、やだ!顔モロ出しして目なんて合わせられない…!)

そんな私の気持ちなんて知らずに、視界はどんどんクリアになっていく。
男子特有の大きな手がすぐ目の前に見えた。

「あ、」
「ちょ、ま、見ないで…っ」

無理矢理帽子をとって前髪を元通りに手櫛で直す。
何か言おうとしてたみたいだけれど、それどころじゃない。
私は恥ずかしさと情けなさで、泣きそうになった。

「なんでそんなにやなんだよ」
「だって……ぶ、ブサイクだし………」
「別に目が1個とか鼻がないとかいうわけじゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……」

さすが結城くんといったところか……
こんな意味不明な慰め方はされたことがないけれど、少し気持ちが落ち着くことができた。

「せっかくいい髪の毛なんだから手入れすればいいのに」
「いい髪の毛なんかじゃないよ……毛質悪いし」
「黒髪なだけいいだろ」
「結城くんの髪の毛の方がうらやましいけどな……」

チラと結城くんの方を見ると、「そうか?」と言いながら髪の毛をつまんでいた。
そういえば、今日初めて帽子外したところを見たなぁ。
窓から入る光にあたって、銀髪がキラキラして見えた。

「いや、黒髪のほうがいいと思う。色素薄いと大変だからさ」
「そうなの?」
「日に焼けたりするとすぐ痛む……」
「知らなかった…だから帽子を?」
「それは別」
「別なんだ……」

じゃあ何のために帽子をかぶっているのだろうか……
凄く謎すぎて聞きたいことだらけなんだけれど、もうつっこむのはやめて受け入れることにした。

「今度髪の毛の美容液持ってきてやるから使えよ」
「え…っ、いいよ!……悪いし」
「髪の毛のキューティクルのためだからお前は気にしなくていいんだよ!」
「わ、分かりました…!」

つい背筋を伸ばして答えると、満足したように頷いていた。
結局は私のためになると思うんだけどなぁ……

結城くんが麦わら帽子をかぶり直して帰り支度をし始めたので、
一応玄関までは行こうかと思って立つと、「前髪用」と言ってハサミを渡されてしまった。

(なんで美容師用のハサミなんて常備してるんだろう……)

そんな私の疑問なんて気にせず、結城くんは階段をスタスタ降りて帰ってしまった。
彼は、思っていたよりいい人だったけれど、それ以上に思っていたより謎だった。



終わりです。
なんだかよくわからなくなってしまった。すまん。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月08日 03:09